52話(8/23修正)
修正しました。
夏休み期間中はアルバイトをする。
そう決意した理由としては労働の経験と今後あるだろう遊びに使う金の備え以外にも理由がある。
此方が本題ではあるが『自分に時間を作らないこと』。
高校生にもなれば以前より行動範囲が広くなるし、恐らくだが佑と朱音はこの夏休み期間中はことあるごとに俺にも誘いを寄越すだろう。
今まではお盆休みや家庭の用事といった予定以外の誘いには嬉しい気持ちを抑え二人で行くようにと断ったりした時もあったのだが、何時の間にか二人には親を通して俺が暇ということを把握されてしまっており、その場しのぎや誤魔化しも即座に両断され結果あれやこれやと連れ回されてしまった。
こうなれば出来る限りサポートに回ってやると意気込んだは良いものの。
中学二年生時の海では、現地で合流した同級生と共には大はしゃぎしサポートの事なぞ頭からすっぽ抜け。
ある夏祭りでは、親の粋な計らいか浴衣を着て回る事になった佑と朱音を見た時は頃合いを見つけフェードアウトすると決意したが二人のどちらかが俺の側からなかなか離れることをせず断念、そのまま偶然会った同級生も加え数十名で屋台やら射的やら周り打ち上げ花火も一緒に見上げたり。
三年生の時は高校受験もあり出掛ける頻度こそ減ったもののあいも変わらず。
他にもまぁ、色々あったのだが。
大した成果は……得られませんでしたっ!!
ならば今年こそは、アルバイトという名目でやむを得ない事情を作り上手く誘いを回避して中学生時代では出来なかった、恋人に発展しやすいこの期間中を二人で仲睦まじく過ごしてもらうのだ。
二学期が始まり二人の距離が何処まで縮んだか確認するのが作戦実行前なのに今から楽しみで仕方がない。オラワクワクすっぞ!
「どうよ!俺のパーフェクトプラン!素晴らしい作戦とは思わんかね?」
「へぇ」
「何で聞いてきたお前が興味無さげなんよ」
高垣には今回立てた『アルバイトで忙しいっす大作戦』の全貌を伝えるべく在校時間内か何時もの放課後、時間が作れなければ夜にでも連絡しようと考えていたのだが、昼間に連絡があったのかそれぞれ部活仲間に呼ばれ席を外した佑と朱音が居ないタイミングで高垣の方から放課後に時間を作れと直接言葉ではなくスマートフォンを操作する素振りを見せながらアプリメッセージを飛ばしてきたのである。二人にはバレたくないという事情を知っている高垣なりの配慮だな。気遣いが出来る女子である。
まあ中途半端に話も終わってたし何故距離を取ろうとするのか気になっていたに違いない。
「それで、ホントに時間を作らないようにするだけが目的なの?それなら誘われる前に一人で遊びに出掛けるとか他の友達と予定を作れば良いだけじゃない」
高垣の疑問も最もだ。けれどその話にはある欠点が存在する。
「ああそれな。簡単な事だよ。その場合何故かあいつらとのエンカウント率が馬鹿高くなる」
「エンカウント率」
「ほら、前にお前と映画見に行った時とか結果あいつらに見つかったじゃん。あんな感じになるんよ」
「そうね。でもそれってあの子達が元々遊びに行く予定があって、そこに私達も行っただけなのだからすれ違うだけで雰囲気とかアンタに対する既視感で必然的に見つかるものじゃないかしら」
「違うんだ高垣。そういった意味じゃ無いんだよ」
「要領を得ないわね。何が言いたいの?」
確かにその日は軽く変装じみた事をして最終的には二人に見つかったが、俺が言いたいのはそういった意味ではない。
詳しく伝える為に、この高校に入る前の思い出を一つ語ろう。
「中学時代。俺があの二人以外の別グループでバッティングセンターに遊びに行っていた日のことだった」
「えぇ」
中学三年のとある休日。
受験シーズンに入り勉強尽くしという環境の中でストレス発散がてらバッティングセンターに行こうと誘われた時があった。
勉強もしながら佑と朱音の距離が中々縮まらないな〜と日々悩んでいた時期と重なり参加メンバーに二人が絡まないと知ってその誘いには二つ返事で着いていった筈だった。
「一通り遊んでな、次はボウリングしようと言われてボウリング場に行ってプレイしてたんだ。そしたら―――」
「そしたら?」
―――イェアストライク!おい雑魚共、俺みたいに才能見せろよなー!!ハッハッハ……
―――ヒロナイスー。
―――ひろくんやっほー!ナイスストライクー!
―――ハッファッッ!!?
「佑と朱音二人がその場に来た」
目玉と心臓が飛び出る程にビックリしたね。
その日初めてのストライクを俺が決め、後ろで見ていた友人達へ煽りながらハイタッチしようと振り向いたらボウラーズベンチに何時の間にか二人が座ってて拍手しながら俺に挨拶してきたんだもんな。
「えぇ……」
「それぞれ別グループで来てたみたいだったんだが、一巡した後に俺、佑、朱音の三人は固定されてな。まぁ目茶苦茶盛り上がったんだが」
「盛り上がったのね」
後で聞けばその日は佑と朱音も別々のグループで遊びに出掛けてきたとのことだった。
俺の時と同じ様に友人にボウリングしようという流れになり来てみれば店前で佑と朱音の各グループがばったり鉢合わせ。そして受付を済ませいざ指定されたレーンへと移動してみればあら不思議、そこには俺が居るではないか。
そうして偶然にもクラスの誰もが認める仲良し三人組の合流である。
こんな事が過去に一度ならず二度……でも無く何度かあったのだ。
最早そうなる定めなのかと天を疑った。
「偶然だとか運命だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を何度も味わってるんだぜ」
「いやそれクラス団体で嵌められたってことじゃ……」
エピソードを語れば、高垣は疑惑の色を滲ませた顔で小さくそう呟いた。
いやいや、あんな気のいい奴らが裏で画策するようなことは無い……無い、筈だ。無いよね?
「他には、俺一人で漫画を買いに行った時には立ち寄った近くのコンビニで買い物中の二人とばったり遭遇もあったな」
「スマホにGPSアプリでも仕込んだ?」
まるで俺がストーカーでもしているのでは、と言いたげに不審者を見る目付きになる高垣。
「おい何だその目は?なんで疑惑の先が俺なんだ?俺もやってないしあいつらもそんな怖い事しねぇよ絶対!」
「ふーん。まあそれなら無闇矢鱈に出掛けでもしたら見つかって余程の事情が無い限り連れて行かれるわね。エンカウント率高いらしいから」
「ああ。ていうか高垣も経験してんじゃん!」
「え?」
こいつ、もしや忘れてるのか?
「お前と初めて遊びに出掛けた日も二人とばったり遭遇しただろ」
「……そうね、確かにアンタの言う通りだわ」
半信半疑から身を持って知っていたことに気付きようやく実感出来たのだろう。
一先ず話の流れには納得はしてくれたようで、高垣はコクリと小さく頷く。
「でもあの子達には事前に予定を聞けばいいじゃない。そこから計算して出掛けないようにとかして、色々と他の選択肢もあるでしょう」
「それもやった」
「どうなったの?」
「聞いた次の日に『ヒロくんも一緒に行こうね!その日暇でしょ?』、『あ、ヒロのお母さんには朱音が事前に聞いてるってさ。何処か回りたいところある?』それを聞かされ俺の退路は即座に断たれた。因みにそれ以降予定は聞かないようにしてる。絶対に巻き込まれるからな」
「はん、簡単に外堀り埋められるなんてとんだ雑魚ね」
「雑魚くてごめんね。いやでも何故母さんもほいほい情報流しちゃうかな。断れない俺も俺だけど」
うちの母と朱音は気さくに会話が出来るほど仲が宜しい。それ自体はとても良いことだと思うが何でもかんでも教えてあげるのは如何なものか。
抗議すれどひと睨みされて黙殺されるだけで終わるから意味がないし(経験談)
過去に俺の知らない所で佑と朱音の二人だけでデートする機会は何度もあった。けれど約束などせずとも偶々出掛けた俺との異常なエンカウント率によって意思関係無く終いには三人一緒になってしまうパターンが非常に多い。俺は今年の夏からこれを完全に防ぎたいのだ。
いやまあ、心を鬼にしてはっきりと断れない俺も悪いかもしれないが。
「今までにそんな事が度々あったから、今年からはアルバイトをして暇を潰すのですよ」
「そう。頑張って」
興味が失せたように冷たい反応をしてから、通知でも届いたのだろうか薄青色一色の折り畳みカバーが付いたスマートフォンを手に取り何かの確認を行っている。
「心が籠もってない御返事どうも。まあでも、これも今後を考えたら一部に過ぎなんだけどな」
そう伝えてみれば、検索か返信でもしていたのか忙しなく動かしていた指をピタリと止め、再び興味が湧いたように視線を向けてきた。
「一部?それは何なの?」
「フッ聞い「御託はいいからはよ」……はい」
小、中学では何かと三人で居ることが多かった俺達。
この先俺が上手く事を運べて二人が幼馴染みから恋人関係へと昇華して、歳を重ねて進学または就職して社会人になれば。
今のようにぬるま湯のような時間は必然的に減っていく。そして俺の居場所も自ずと無くなっていく筈だ。
けれど自惚れじゃなければ。
優しい二人は時間を見つけては、今と変わらず俺と接する機会を作ってしまうだろうと何処か確信している俺が居る。
例え自分達が交際していたとしても、俺との仲は昔から何も変わらないと、そう言いきって。
前に高垣には伝えたかもしれないが俺は、それではいけないと思っている。二人には二人の人生を歩んで欲しいし恋人関係になったからには、俺なんぞの為に時間を作って欲しくない。
それでも、それをやんわりと伝えてとしても離れ離れになることに悲しそうに表情を歪める二人が脳裏に浮かんでしまう。
俺は絶対にそんな表情をさせたくない。それは俺も含めて。
「今後を思ったらさ、お互いの為にも今から少しずつ、距離を置いて離れる寂しさを軽くしていかなきゃなって思ってな」
「……」
何も言わず聞きに徹し、無言で催促する高垣を見て続ける。
「だから、今からその時間を積み重ねて行かなきゃってのもある。今回立てたものはこの『超長期作戦』の一部だ」
「―――それは……。いえ何でも無いわ」
高垣は一瞬だけ動揺し俺の目を覗き込んできたが、すぐに瞼を伏せて言いかけた何かを飲み干し表情を取り繕う。
俺の言葉に何か感じるものがあったのだろうか。
何時ものようにアドバイスの一つくれるのだろうかと待つ俺と何を考えているのか解らない高垣。
互いに言葉を発すること無く、少しの時間が経ち―――
「……ふっ」
「!?」
突如、鼻で笑われた。
「新藤君」
「は、はい」
急な反応に戸惑う俺を余所に腕を組み、値踏みをするかのような目つきで見遣る高垣に名前を呼ばれ思わず敬語で返す。
よくよく表情を見ると、どこか楽しそうに見えるのは目の錯覚だろうか。
「しんみりした顔になってる所悪いけれど、今のアンタに出来る訳無いでしょうが。馬鹿じゃない?」
「んだとこらぁ!!」
訂正、アドバイスどころか喧嘩を売ってきた。
「何を根拠にそんな事を言うんですかこの野郎!?」
「私は女よ。野郎じゃないわ」
「こら!揚げ足取らない!」
思いもしなかった否定の言葉に動揺し、腰を浮かして高垣の両肩に手を置き問い詰めるように前後に揺さぶる。
細い首があちらこちらに揺さぶられたことにより整えられた艶のある赤茶色の髪が強風に煽られたように荒ぶれるが、高垣はそれを気にすることも、数秒経っても終ぞ表情を崩すことも無かった。
その様子に何だか一人相撲をしているように感じ、俺は高垣の両肩から力んだままの手を離した。
「落ち着いたかしら」
「お前の三半規管どうなってんだ!」
「酔わそうとすんな」
「あでぶっ!!」
結構力任せに揺さぶった筈なのだが、瞳を一切揺らすこともなく何事も無かったかのようにけろんとした高垣に驚く。言い方が不味かったのか額に縦一文字のチョップを食らった。
まあ、澄ました表情とは反対に髪には幾つもの枝毛や所々絡まってしまっており、なんとも言えない姿になっているけど。
「さて、時間もある程度過ぎたし今日はもう帰ろうかしら。アンタの作戦の概要もある程度知れたし。特に私から伝えることは無いわ。せいぜいが頑張れとしかね」
「え」
額を抑える俺を無視して教室の時計が指す時間を確認したのか、帰り支度を始める高垣を見て俺は焦りが募り始めた。
「ウ、ウンソウダネ。キョウハアリガトウネ」
「……何よその反応」
引き留めても無駄に終わると理解し、片言になった俺に高垣は怪訝な顔で見てきた。
どうしよう。言えば絶対に血の海に沈まされるけどもしかしたら帰ってからも気付かず何も起きないかもしれない。
「な、何でも無い!あ、いつも俺が使ってる自販機に美味しそうなジュース追加されたんだ!奢ってやんよ!」
「いえいいわ。いつも使ってるってあの古いベンチ近くの自販機でしょ?帰りに寄って見てみるから」
もしバレたときの為、せめてもの慈悲を貰えるようと新商品のジュースを奢ることを勧めたが、高垣はあまり興味が無さそうに鞄を肩に掛けた。
「あ、あー分かった」
「だから何よその反応は?もしかしてまだ作戦会議続けたかった?」
「いえ」
「……?まあいいわ。それじゃあまた明日。明後日には期末テストがあるから作戦の練り直しもいいけど勉強を疎かにしないように」
「お前は俺の母親かよ。復習するところはしてるから大丈夫だ」
「アンタみたいなのが子供だったら、手が掛かりそうで苦労しそうね」
「そんな事無い。俺は家では良い子ちゃんだぞ」
「良い子は自分でそう言わない」
ふっと鼻で笑いながら、高垣は教室を出ていった。
それから約十分後のこと。
何時もの集合場所へ移動する気になれなかった俺はそのまま教室で一人ぼうっとオレンジ色に染まりかけた空を眺めていると、スマートフォンに新着メッセージが届いた。
期末テストが近い影響で佑か朱音のどっちかが部活が早く終わったとかの連絡かと思い手に取るが、差出人の名前とメッセージ内容を見て珍しさのあまり驚く。
猪田先輩
『久しぶりだな。急で悪いが今から通話、もしくは学校に残っているなら直接会話出来るか?』
体育祭の応援団練習にて、一時連絡を取るために連絡先を交換していた猪田先輩からだった。
呼ばれる理由が分からず、何故急にと思いながらもメッセージに既読を付けて、是非の返信を送る。
俺の返信にも直ぐ様既読が付き、今から玄関前の広場スペースにて集合という事になった。何が何やら。そう思いながら教室を後にした。
そうして廊下を歩いている途中で、先程の事を思い出す。
俺のせいで髪が乱れに乱れてた件、高垣の事だからどう足掻いてもバレるよなぁ。絶対に帰りでチラチラ見られるだろうし。どっかの鏡とかスマートフォンの暗転画面とかで。
ああ、明日の俺に幸あれ(投げ遣り)
※話の流れを修正しました。
何度もすいません。




