46話
★以下の文が消えていたので追記しております。
「アンタの誕生日はいつなの?」
「俺は、七月二十日。高垣は?」
「私は一月十一日よ」
「ほーん。……トリプルワンデイ」
「変な覚え方しないで。あんたこそ暑苦しい性格にお似合いの月ね」
「まぁまぁ。ということは二十歳は高垣の誕生日待ちになりそうだな。……頼むぜ」
「そのぐらい余裕よ。元々吸おうと思ってないんだし」
機嫌の戻ったらしい高垣の横で、今だお互いに知らなかった誕生日について教え合う。それから二十歳になったら楽しみだと話をしながら様々な店の前を通り過ぎる。各店舗の前で飾る大人気商品と書かれた服やアンティーク等のセール品など目にくれず只々モール内を歩く。
今日の目的は達成したので取り敢えず高垣に着いていってるのだが、ここからは何かする予定でもあるのだろうか。
「これからどっか行くのか?」
「特に予定は無いわ。ゲーセンなら前に行ったし……何処か行ってみたい場所はある?」
尋ねてみれば高垣もここから先はノープランのようだった。ここで時刻はまだ昼が過ぎた頃で、昼食も観賞中に簡単だが済ませている。
何をしようか、そう考えていると蔵元と宮本君へのお土産を買ってないことに気付いた。一応買おうとしている物は決めているがこの際だから高垣にも意見を貰いながら選んでみるのも良いかもしれない。
「本屋行こうぜ。たしか下の階だったよな」
「えぇ分かったわ。何を買うの?」
「哲と海音に参考書を、と思ってな」
「てつ?かいと?……誰かしら?」
「あー蔵元と宮本君だよ。昨日遊んで名前で呼ぼうってなってな」
「……ふ〜ん」
「哲には……野球関係もしくはモテる恋愛系雑誌、海音には漢になる秘訣!みたいなやつ買おっかな〜って。出来るだけ持ってたりして被りが無いように高垣にも意見貰いたいな」
「私にどう意見しろと……?」
「つべこべ言わず行くぞ!ついて参れ高垣氏」
「はいはい」
新たに目的地が定まり下の階にある大型書店へ向かう為に高垣を先頭にエスカレーターを降りる。
ついて参れと言いながら高垣を前に置いている訳だが、今日一緒に歩いて気付いた事がある。それは、今の高垣は男性客にチラチラよく見られるということ。もしかしたら後ろから痴漢などされかねない。
脚なんか大胆に露出している訳だしな。俺も男。吸い寄せられるように視線が行ってしまうのを何度我慢した事か。前回高垣から女性は視線に敏感と注意された事を学べて良かった。
やだ俺ってば出来る男!
「ねぇ新藤君」
「何じゃらほい」
「あれ」
今に降りる途中で何かに気付いた高垣から顎をくいっとある方向を見るよう言われた為に視線を追ってみる。
目的の階、服関係の店舗前で数人の若い男女が談笑しながら歩いている。買い物をしたのか袋を持つ者、手ぶらな者が半々。
その集団を見て、高垣が何故それを教えてくれたのかは理解した。
「佑……デートでの荷物持ちは彼氏の特権。よく出来ました」
「何馬鹿な事教えてるの」
集団で一際輝くように見える二人。俺が今言った通り朱音のであろう買い物袋を代わりに持ってあげてる佑と、代わりに男性用である、佑の鞄を肩に掛ける朱音。
これぞ俺の見たいと思っていた光景。二人だけじゃないのが残念なのだが交友関係を築き上げているお陰と思うことにする。
「……あれ?これこのまま降りたらヤバくね」
今俺達はエスカレーターを降りる途中。そしてその集団は今に此方へ歩を進めている途中。このままでは鉢合わせてしまう可能性が大いにある。それに気付いた俺は焦ってしまうが前に居る高垣は動揺の素振りを見せなかった。
「堂々としなさい」
「いや、このままだったら絶対にバレるぞ。二人の俺に対するセンサー半端ないって」
「それを逆手に取るのよ」
「逆手に?どういう事だ高垣」
「つまり……」
前を向く高垣は俺に横顔を見せ、口元で朝に見たジェスチャーを行って口を開く。
「普段言われないようなヘンテコな渾名で呼び合う」
「なるほどたーちゃん」
「それやめなさい。そこは下の名前で作りなさいよ馬鹿じゃないの?」
「……しーちゃん?」
「よろしい。よ……よっぴー」
「……ふっ、よっぴーね。うんぬふっ」
「キモい笑いすんな」
高垣の口からよっぴぃなぞ本当にヘンテコな名前で呼ばれる日が来るとは。思わず笑いを堪え吹き出さないよう耐えていたのだが、高垣には漏れた声が聞こえていたらしく肘で腹を突いてきた。
こんな提案をするなんて、先程の堂々した佇まいは虚仮威しで俺と同じく内心焦っているのだろう。
さて、高垣の提案通り、この場を切り抜けられるだろうか。
☆☆☆☆☆☆
エマージェンシーエマージェンシー。
件の集団は上の階が目的地らしく只今真横ですれ違う最中である。向こうの楽しそうな会話が此方にも聞こえるほどの距離でありながら、じ〜っとした視線を感じている。
「ねぇたすくん。あれって朝の……」
「うん見たね……」
こういう時、人は敏感になってしまうのかこれまた朝と同じ様に俺の耳は二人の声を拾ってしまう。聞き取れなければこのまま俺もスルーしていただろうが、聞こえてしまえば一気に緊張し心臓が一層速く脈をうち始めた。耳を済ませれば外に聞こえる程に動いている。
このまま見続けられればバレてしまうと思ったため早速、顔を見られないよう反対側へ向けさもあの店行こうぜというノリで実行に移す事にした。
「ねぇしーちゃんあの店―――」
「ねっとり言うの止めなさいキモいわ」
「俺が悪いのかこれ」
高々数秒の出来事でありながら、手に汗握る今の状況に刻一刻と距離が離れるのを待つ。
俺の実行は虚しく高垣に裏切られるという形で終わったが、長くも短いエスカレーターを降りる事ができ、こうして待ちに待ったフローリングへ足を着くことが出来た。
「どっと疲れたな高垣」
「えぇそうね。さっさと離れるわよ」
「そうだな。取り敢えず離れたら空いてるベンチで飲み物でも飲もう。俺の奢りだ」
「そうね。そうしましょうか」
バレる事なく、その場を乗り切る事が出来た俺達は揃って肩を落とし安堵する。
一先ず休憩するためにその場を少し足早に、離れにあるベンチの元へ向かうことにした。
☆☆☆☆☆☆
「何が飲みたい?」
「ん……お茶でいいわ」
「りょ」
高垣をベンチに座らせ、飲み物の希望を聞き入れた俺は近くに設置されている自販機へ向かう。
お茶とカフェオレを買って、それを両手に高垣の元へ戻ろうとした所で、俺のスマホに小さい着信のメロディが鳴った。
誰から?と思い他の客に迷惑が掛からないよう通路端に寄ってから自分用のカフェオレを脇に挟んでスボンのポッケに入れてあるスマホを確認する。
見ると、朱音からのメッセージが一件。そこに表示されるは―――
『ヒロくん!ヒロくん!』
只々俺の名前が書かれた文のみ。何か伝えたい事があるのか、もしくは先程の件で俺に似た人でも見つけたーとか、そんな所だろうか。
そう思っている所で続けて今度は佑からメッセージが飛んできた。
『ビンゴ』
「ビンゴ?……まさか」
俺は思わず、無意識にと言っていいほどの感覚で上を見上げてしまった。そこで俺はメッセージが来てからすぐ確認するという行為が過ちであったのだと遅れて気付いた。
上の階には、景観を良くするためのガラス張りの落下防止柵の上から俺を見下ろす佑と朱音の姿。二人は揃って此方を向いて遠くからでも見える程に笑顔のような表情を浮かべていた。その奥に隠す思いは測りしれない。
しかも朱音はスマホを手にとってまるで俺に見せびらかすようにそれを左右に降っており、佑は手を銃の形にして俺に狙いを定めていた。
『ヒロくんのお間抜けさん』
呆然としているであろう俺のスマホへ最後に、朱音からそんなメッセージが届いた。
……ヘルプミー!ヘルプミー!!高垣さーん!
★★★★★★
自販機向かった新藤君の背中を見送った後、一人になった事で今日を振り返る。
思わず笑みが溢れてしまい、急いでそれを手で隠し誰にも見られてないか視線だけで周囲を確認する。視線が合う人は居なかったので手を戻して姿勢を戻して新藤君が来るのを待つ。
「……遅いわね」
それにしても、自販機で飲み物を買うだけなのに来るのが遅い。何かあったのだろうか。もしかしたら先程の入れ違いの時に朱音と浅見君にでも見つかって問い詰められているとか。
私は普段とは少し離れたら格好をしているから大丈夫として、見れば分かる新藤君ならそうなっても仕方ないのかも知れない。
そうなれば何かしらの合図が欲しい所だが、どうなのだろうか。
「うわ〜ここ入ってみてもいい〜?」
「うん、いいよ。何があるんだろうね」
座っている今の場所から見える店頭に並べられた品物を眺めている私に、懐かしい声と会話が聞こえた。
それは、私が知る二人であり、なるべく会いたく無い二人。
ほんわかと伸びた声を出す一人と、何処かぎこちない態度を取るもう一人。
嘗ての私の―――。
「あれ、詩織ちゃ〜ん?久しぶり〜!」
「え、し、詩織?」
声が聞こえて来たタイミングで急いで顔が見られないように反対側を見ていたのに、近くの店まで歩いて来た二人に見つかり声を掛けられる。
相変わらずな反応だと思う反面、何故このタイミングでとも思う。先程とはまた違った面倒事が降り掛かってきた。
一難去ってまた一難とはこの事だろうか。
「……はぁ、久しぶりね」
早く戻って来てくれないかしら。新藤君。
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お願い、死なないで新藤君!あんたが今ここで倒れたら、高垣さんとの約束はどうなっちゃうのーーー




