44話
「そういえば昨日は何してたの?」
「昨日って……そうか。俺のスマホを介して二人と連絡取ってたんだったな。ゲーム三昧だったよ」
「どんな?」
「格ゲーとかパズルとか」
不安だらけのセット直しを何とか直してもらい、放映時間までゆったりとした時間を過ごしている中、高垣は思い出したかのような口調で話を振ってくる。
そこで二人と高垣は俺のスマホで会話をしていたことを思い出す。今の今まで忘れていたがどんな会話を繰り広げていたのか気になっていたんだった。帰ったら確認してみよう。
しかし何したかと言われると普通に三人でゲームをしまくっていた事ぐらい。そう言ってみれば何で遊んでいたのか聞かれたので最後の恋愛ゲームだけは省いて答える。
女子の前でこれしてましたーと言えばどんな目で見られるか想像に難くない。そういえば俺はあの時高垣を攻略したぜーと馬鹿な事を言っていたな。今思うとめっちゃ恥ずかしい事を言ったものだ。
「どれが一番楽しかったの?」
「あーそれならお前を攻りゃ……」
「……」
「……」
早速失敗した。そのゲームの事を考えていたからかうっかり口が滑ってしまった。
さて、戯言をほざいた俺へ高垣は早く理由を言いなさいと言わんばかりに眉尻を歪め目を細めて睨んでくる。
「……高垣さんを攻略したぜ」
「キモ」
「……チョロかったぜ☆」
「キモ」
「……恋愛ゲームを三人で遊んでましたクール系の子を高垣と見做して攻略しましたキモいですよね俺が悪かったですはい」
視線に耐えきれず適当な言い訳も思い付かずでおどけるように素直に白状したのだが俺の心に矢をぶっ刺すような単語のみが返ってくる。
「さて、そろそろ出ようかしら」
「勘定は俺がしますので」
「あら、もしかしてゲームみたいに私を攻略しようとしてるのかしら?」
「……なぁ」
「……何よ」
「言ってて恥ずかしくないのか?」
「忘れなさい。私が馬鹿だったわ」
俺としては唯単に謝罪を込めて勘定すると言ったのだが、何を思ったのか高垣はゲームのようになどと俺をからかってきた。思わず黙ってしまった俺だったが素直な疑問を口にし、指摘された高垣は多分浮かれていたのだろう、そっぽを向いてそう答える。
そんな高垣の姿を尻目に勘定を済ませ俺達は店外へ出る。
「何で私がこんなに乱されるのよ……絶対おかしいわ」
外に出ても今だ悔しそうにして小さくそう呟く高垣を見て、俺はある言葉を思いついたので慰みがてら注意も込めて口を開く。
「考えてから言葉にするようになー」
「……っアンタそれブーメランって気付いてんの?」
「オフコース」
ある時自分が送った言葉だと気付いたのだろう高垣は、やはり悔しそうな顔のままそう言い返してくるが、俺だってこう思うのだ。
先程口が滑った時なんてある意味考えてから言葉にしたようなものじゃん、と。物は言いようとも言える。
まぁ言葉の意味合いは全く違うのだがな!
「…………ふんっ」
「言い返せなくて悔しいのう悔しいのう」
「さっきの言葉、一言一句間違わずあの二人に言ってやろうかしら」
「それは止めて」
☆☆☆☆☆☆
少し歩き、以前高垣と来た大型ショッピングモールに辿り着く。前回はゲーセン目的で来た俺達だったが、今回は映画が目的。エスカレーターを数回使って映画館の中へ。
映画館内では先程のモール内の明るさとは反対に照明が控えめに設置され、独特で落ち着くような匂いが漂う。壁面にずらりと今日の放映表が表示されており俺達が見ようとしている映画は今から約四十分後。周囲も見てみるとチケットを購入したらしい人達は館内上部に設置されている大型スクリーンに流れる映画予告を見たり腹ごなしの為に飲食店のレジへ並びメニューを選んだりと各々が時間潰しをしている。
そして受付の前へ伸びる案内スペースにはずらりと列が出来ている。それを見て時間が掛かりそうだな、と思っていると高垣はバッグから財布を取り出しある物を見せてきた。
「これ、忘れてないでしょうね」
「当たり前だろ。学生に優しいサービスだぞ。使わにゃ損損」
俺の前でひらひらとかざすそれは学生証。俺も忘れることなく持ってきており同じく財布から取り出して見せる。『そう、良かったわ』と一言言ってから最後列へと移動する。
「あ、あれとか面白そう」
「どれの事?」
「あれ、ホラーのやつ」
壁のモニターに記載されているとある映画の表記を見て興味を持った俺と、どれの事かと首を振らす高垣。俺が指を指してあの映画の事だと教えると高垣は嫌そうな顔をした。
「見たいなら一人で見なさい」
「え〜。あ、もしかして……」
「それ以上喋るなら容赦しないわよ」
「ふっ可愛い奴め」
「はっ倒すわよ」
この反応。どうやら高垣はホラーが苦手と見た。見た目では耐性有りまくりに見えるのだが露骨な反応を見るに、お察しものだ。
しかし、ホラー映画、若しくはホラーゲームを見て高垣はどんな反応をするのだろうか。キャーとかはわわと言うんだろうか。
「何想像してるのかは詳しく聞かないけど、全然怖くないから」
「その反応が全てを物語ってるぞ。因みに朱音だったらひゃああ!って言って毛布に包まるぞ」
「……」
「ん?どうした、黙りこくって」
昔、三人で佑の家でホラー映画を観たときを思い出した。
俺が面白そうと言ったのが切っ掛けで、それを皆で観ようということになった日。
ホラーとグロテスクが苦手な朱音は肩から毛布を纏ってから左右に俺と佑を置いて怖さを紛らわすために手を繋いできた。ビックリする度に手をギュッと握ったり、耐えきれないときは被っていた毛布に頭ごと包まり後は音だけでビクビクと反応していた。
懐かしいなぁと思いながら高垣にそう教えていると、高垣は反応せずじっと俺を見る。何か言いたい事があるのだろうか。
「こういう時は……まぁいいわ。頭パーなアンタの事だし」
「急な罵倒に俺ビックリ。何だよ」
「気にしないで」
何かを言い掛け、言い切る前に何故か呆れた目線を寄越す高垣。その反応は何だろうかと聞いてみるが一言そう言って正面を向く。
そんな遣り取りをして、俺達の番となって残った席を選び支払いは無事学生割引に。そして高垣と飲食店のレジに並びながらどの飲み物や軽食を購入するか悩んで、上映まで時間を潰した。
☆☆☆☆☆☆
上映時間が近付いた頃、道中映画を観終わったらしい観客が感想を言い合うのを聞き流しながら、飲み物と軽食の載ったトレイを持って指定された番号のホールの中へ。
運良く取れた後ろの列へと向かい、手ぶらな高垣を先に進め着いた席に一緒に座る。飲み物を渡してトレイを俺と高垣はの間に設置。そして周囲へ迷惑が掛からないようスマホをマナーモードに。こうして準備も整って後は映画が始まるのを待つのみになった。
「そういえば、アンタ寝不足なんじゃない?」
「ん?ん〜まぁ寝不足っちゃぁ寝不足だけど。それが?」
「いや、もしかしたら観てる最中に寝るかもって。無理しないでいいから。今回は私が連れ出した様なものだし」
「何を馬鹿な事を言ってんだ?」
昨日から今日にかけての俺の予定を知っていた高垣は周囲に聞かれない程度で気遣い故かそう尋ねて来たのだが、俺からしたらお金払ってまでそんな事はしない。
それにこうした場で映画を観終わった後にも楽しみがある。
「こういうのは、終わったら一緒に感想言い合うもんだろ。後で教えてくれよ」
「そう、分かったわ」
それっきり会話は終わり、少しして館内の照明が落ちてゆく。
スクリーンに流れる映画の予告やマナーの説明を見ながら時間が過ぎていった。
暫く映画館とか行ってないので覚えてる範囲で。
コロナ情勢で観方は今と違うかもですが確か前はこんな感じだったはず。




