41話(3)
「おら!止めだ喰らえ!!俺のスペシャルスーパーパーフェクトコンボ!」
「何て?まぁいい。いでよガーディアンシールド!」
「あ、爆弾きた。よっと」
「「あーーーー!!」」
蔵元の部屋に荷物を置き、目的のゲームは最後に、ということで今は罰ゲームを賭けて最大四人対戦の格闘ゲームを命一つの設定で三人で対戦中。
蔵元の咆哮と共に操るキャラが俺の操作するキャラへと強襲を繰り広げ始めた為、唯のガードをしてその猛攻から抜け出そうとした所で横から湧いた爆弾アイテムを拾い俺達の方へ投げた宮本君。
場外へと吹き飛ばされ絶叫を上げた俺達と、まだこのゲームに慣れず操作が覚束なかった宮本君は偶然押したのかフィールド上でキャラが挑発を始めた所でゲームセット。
リザルト画面には一位が宮本君、ダメージの蓄積量によって二位に蔵元、三位に俺となった。
「ふふ。僕が王様だ」
「「何也と御命令を。宮本様」」
「何が良いかなぁ〜。あ、そうだ!」
一位勝ちした者から何かしらの罰ゲームを与える内容のため、腕を組みドヤ顔をする宮本君へ俺と蔵元は頭を垂れ指示を仰ぐ。何か思い付いたのか楽しそうな声を出しながら口を開く。
「今日から僕のことは海音って呼んで!」
「「承りました海音様」」
「様は要らないよ!?呼び捨て!はい決定!あ、あと皆でこれから名前で呼ぶ合うように!以上!」
「……何で俺を見ながら言うんだよ宮……海音」
「どっかの誰かさんが頑なに君付けで呼ぶからね〜。いい機会だと思ったんだ」
「新……喜浩お前。まぁ今回はそれで助かったけど」
「五月蝿いぞ哲。やむなき事情があったんだ」
俺は癖で宮本君と呼んでいたのだが、今だ根に持っていたのか宮本君からの罰ゲームの内容は名前で呼び合うという至って簡単な事だった。これが裸で次のゲーム実施とか今までに告白した回数とかエグい内容じゃなかったことに安心した。
まぁ宮本君がそんな事をさせるとは欠片も思わないが。隣の蔵元は解らん。
それにしても海音か。覚えてはいたのだが名前で呼ぶことが無かった為、何だか新鮮な気分だな。そして名前がまるで……、
「前から思ってたけど海音って女の子みたいな漢字だよな。みおとかあまねって呼べる……」
「言わないでよ!かいとだからね!か・い・と!」
「必死だな」
☆☆☆☆☆☆
「さて、一通り盛り上がったな」
「喉乾いたなぁ。ジュース飲む?コーラとかオレンジジュースとか持ってきてもらったやつ冷蔵庫で冷やしてるけど取ってくるぞ」
「僕コーラ!よ、喜浩は何飲むの?」
「オレンジ」
「了解」
あれから約二時間、格闘ゲームの他カーアクション系、落ち物パズルと様々なゲームをして時間を過ごした。既に外は暗くなっており、あまり騒いではいけない時間帯となった為、メインの恋愛ゲームの前に休憩となった。
そして盛り上がった影響で少し汗もかいたことから順に風呂場をお借りして身を綺麗にしていく。そしてさっぱりした所で各々準備も整い、待ちに待った蔵元が据え置き機へディスクを挿入する。
「何でノートとペン持ってるの?」
「気にするな」
「え、えぇ……」
何やらこれからのシチュエーションをメモする為の道具を持つ俺を見て宮本君は引いた顔をしていたがそんなことは気にしない。万人に受け入れがたい事だろうと俺にとってはこれからの為に必需品となるからだ。
『三度目の春で君へ』
「最初から始めるぜ〜」
テレビに映された女の子が幾人か載っているゲームタイトルを選択し、所謂萌え声と呼ばれる声音でタイトルが読み上げられた。
恋愛シミュレーションゲーム『三度目の春で君へ』。
高校になった男主人公の選択した行動、台詞によって様々な展開を織りなす学園物語。この間蔵元が言っていた様に清楚、ギャル、幼馴染み系とヒロインとなる人物が何人か居るが油断ならない所は好感度システム。いくつもの場面で何かを選べば対象の人物の好感度が上がり、逆に周囲の誰かの好感度は少しずつ下がる。しかしそのシステムのゲージ等が表示されないため下手に友人関係を保とうとすると修羅場などネガティブな展開が起こり得るというものだった。
タイトル通り三度目の春、三年生となって無事ヒロインの誰かと付き合えればクリアとなる。
何やらクリアすると特典として後日譚があるらしいがはて、どのような結末になるだろうか。
『何だかリアル〜でも面白そう』と蔵元と言い合いながら選んだ一品となる。
さて、気になる幼馴染みとのストーリーから見たいものだが皆と意見を交換次第でどんな展開になることやら。
「主人公の名前は何にする?」
「哲が買ったゲームだからテツで良いだろ」
「それで良いんじゃないかな?」
「おい、これでもしストーリーの展開次第でフラレた場面が来たらどうすんだよ」
「笑うに決まってんだろ」
「僕は慰めてあげるよ!」
「何一つ安心出来ねぇな。んじゃここはよっぴーで」
「おい、それはもしかして俺の事じゃ無かろうか」
「お前喜浩。こいつはよっぴー。別人別人」
「なんかダサいなぁ」
勝手に俺の渾名のような名前を書かれそのままスタートしてしまった。くそ、笑うと言わなければ良かった。
だがそんな事は些細な事だ。さぁ、幼馴染みのシチュエーションとやらを俺に魅せてくれ!
☆☆☆☆☆☆
「このギャルっ子とか眼鏡かけた子とか可愛いね」
「どんな性格かはシチュエーション次第で判明するぜ」
「う〜ん悩むなぁ。喜浩はどっち見たい?」
「メインディッシュは決まった。俺は最後に選ばせてもらおう」
次次に自己紹介を兼ねてキャラクターの説明が出てきたが、幼馴染みのヒロインも勿論主人公と同じクラスとなっていた。
宮本君は色んなヒロインを見て可愛いねと言っていたが、自己紹介の時点で名前、容姿、趣味だけを開示する辺り、蔵元が言った通り各々関係を深めなければ判りませんよという作成会社の思惑だろうか。
「最初は体育会系女子から進めよう」
「あ、言い忘れてたけど主人公にゲーム案内兼お助け役兼親友ポジションのやつがいるぜ」
「おお!どんな奴なんだ?」
まさに二人の親友たる俺にぴったりな立場の人物では無かろうか。ということは主人公には佑を、幼馴染みヒロインに朱音で投影して進めてみようじゃないか。
……なんか俺の思考気持ち悪いな。いや、必要な事だと割り切ろう。
「展開次第で……」
「な、何だよ」
「お楽しみ〜」
言い切る前に黙り込んだ蔵元は俺の反応を見てからニヤニヤとした顔でそう言ってきた。
確かに蔵元の言う通りこれはゲームを進めていって立場を理解して進めていくものであるのだが、蔵元のその顔が妙にウザく感じる。
「ウザ。はよ進めるぞ」
「わっはっはー!んじゃ最初はどれを選択するよ?」
―――①よっぴーだ。よろしく。
―――②俺も運動が好きなんだ。
―――③無言で立ち去る。
①はなんか間抜けな文になったが無難に改めて自己紹介、②は好感度がほんの少し上がりそうな共感の言葉、③はどう見ても地雷臭のする失礼な態度の選択。
しかし、ここでどのように好感度が上がるかは不明ときた。もしかしたら①は普通の人と見なされるかもしれない、②は同じ仲間と思いきやただの運動好きと思われるかもしれない、③は失礼かと思いきやクールな人物だと思われるかもしれない。
くっ思考を巡らせるだけで此処まで悩むなんて、なんて奥の深いゲームなんだ。これが恋愛ゲームの真髄なのだろうか。
「難しいな」
「恋愛ゲームの序盤でそんな必死な顔する奴中々居ないと思うぞ」
「汗まで掻いてる……僕も本気で考えてみようかな」
「いや、海音までこんな馬鹿と一緒にならないでくれ」
次で終わる予定ですので少々お付き合い下さいませ。




