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32話

投稿時の後半部分を改訂しております。

 リレーも後半に入り面白い事にどこのクラスも大きく離されるといった事は無く、今も目まぐるしく順位が変動している。手を抜く様な者は見掛けなかった事からクラス同士の実力は均衡しているといった事だろうか。


 緊迫した今の状況に観客席からも興奮、歓喜、驚嘆といった様々な反応が返ってくる。退屈には程遠く、目も離す暇の無い今のリレーに釘付けのようだった。


 今の展開速度であれば直に佑の番が回ってくる。そして偶然な事に一走者である俺は今並ぶ列の関係上、目の前で佑と朱音のバトン繋ぎが見れる。あの時1走者になった見返りによって二人の走順を強制的に組ませられたのと、こうして期待する光景を目の前で見られる。正解の道へと歩む事が出来た俺の判断は素晴らしいの一言に尽きる。一石二鳥とは正にこの事。


 当初はどうやって二人を最後にしようか画策したものだが、今になって思えば悩んだ甲斐があったというもの。


 練習段階では味わえない、緊張した雰囲気での二人は、はてさて俺にどんなものを魅せてくれるだろうか。今日1番で聞こえる心臓の音が妙に心地良く感じられるほどだ。


「何で清水(しみず)さんを見てニヤニヤしてるの?あ、もしかして……」


「待て宮本君。君は大きな勘違いをしている。取り敢えずはお口にチャックをしてお黙りなさい!」


「く、口調が無茶苦茶だよ」


 ずれ落ちかけた眼鏡の位置を正しながら必死に走る眼鏡女子しみずさんを視界に収めながら考えに耽っていたせいで顔に出てしまっていたのか、隣で俺の顔を覗いた宮本君はぼそぼそと突拍子も無い事を言い出した。その発言は3度の飯より恋を選ぶ高校生にとっては面白いネタになってしまうため注意をし、念の為聞かれてなかったか周囲を確認する。幸運な事に皆リレーに夢中になりこちらへ視線を寄越す人は居なかった。心臓に悪い事この上ない。


 これ以上心臓に負荷をかけたら昇天して仕舞いかねないぞ。


「そういえば……宮本君は先程俺に目にものを見せてやると言ったな」


「言ったけどそれがどうしたの?」


「流石だよ宮本君。自然な流れで俺の心臓にトドメを刺しに来るとは。恐れ入った」


「君の中で一体何があってそんな事になったの!?」


 心外だ!と言いたげな表情を作る宮本君。叩けば叩くほど面白い反応を見せる宮本君は中学時代にはさぞ周りからからかわれた事だろう。その光景が簡単に想像できる。


 まぁそんな事は置いといて、もうすぐ出番である佑に声を掛けようとしたのだが、当の本人は何処か上の空といった雰囲気を出しながら向こう列の方へと視線を向けていた。


「佑、何か考え事でもあったか?」


「ん?ん〜、何というか……」


 俺の言葉にはっとした後、急に何処か言い難いといった表情を作る佑。

 こんな佳境で余計な心配事があるのだろうか。気持ちとしてはそんな事に気を割くより走る事に集中して欲しいのだが。


「朱音の事なんだけど……」


「朱音?あいつがどうかしたのか?何か気付いた事でもあったのか?」


 悩みの種は何故か朱音の事だった。言われて朱音を見ようとしたが、正反対の方を向いているため表情を伺う事が出来なかったが、何故か隣の高垣だけが此方をじっと見ていた。俺、何かやっちゃいました?


 朱音を見ることが出来た佑から見て何かが見えていたのだろうか。


「なんか、様子がおかしかったような気がする」


「え、何で?」


「さぁ、俺に聞かれても……何でだろう?」




 結局の所、俺達が朱音の件で悩んだところで答えが見つかる訳でも無かったため一旦保留とし、リレーに意識を向ける。今は蔵元が走っており、少しずつ前を走る男子との距離を縮めている。野球部に所属しているからなのかは不明だが綺麗なフォームで走る姿には一種の羨望を覚えるほど。

 というかこの1年生殆どの人に言えることなのだが、練習中とは全く違う走りを見せる者が多過ぎる。今なお走る蔵元も練習中はもっと緩く走っていたのが記憶に新しいのだが。


 真の実力は隠すもの、という事だろうか。かくいう俺も最初だけは普段とは違い良い走りをしていたのだが。なお結果は見ないものとする。


 一位へと成り上がった状態で次の選手である女子へとバトンを渡した蔵元が両手でグッドサインを作りながら此方へ小走りで近付いてきた。


「俺、最強」


「はいはい。凄い凄い」


「おい新藤、お前反応適当過ぎだろ。もっと褒め称えろよ」


「俺は格好良かったと思うよ」


「お疲れさん」


「良い走りだったね!蔵元君」


「浅見、新井、宮本……お前らは良いやつだよ。それに比べて新藤は……まぁ?負け犬だったし?俺の実力に嫉妬してるんだろうな」


「何だぁてめぇ?」


 良い返事をくれた佑と宮本君にはハイタッチを行い、気のない返事をした俺には肩を組み始めドヤ顔をかましてくる。

 俺の反応に対して憎たらしい顔で返してきた蔵元は後でしばく事を誓う。まぁ素直に褒めない俺が悪いのだろうけど。


 しかし丁度良かった。向こうからやってきた蔵元には聞きたいことがあった。


「なぁ蔵元。朱音の様子で何か変わったことがあったか?」


「春辺さんなら俺の走りを見て見惚れているだろうよ」


「ほざけ。聞いた俺が馬鹿だった。後、朱音ならお前には絶対に靡かん」


 前言撤回。聞かなければ良かったと後悔した。何なら戯言まで一緒に聞こえたものだから余計に。


「もうすぐで終盤なんだから、なんか気になる事があるならこっち来たとき聞きゃ良いじゃん」


「それもそうだな。佑、後で俺が聞いとくよ」


「うん。宜しく」


 蔵元の至極真っ当な提案に大人しく従い、佑にもフォローは任せろ、という意味を込めて声を掛ける。蔵元が言う通りこの学年対抗リレーも終盤に入った。今は走る事に集中してほしい。


 しかし、現状一位か。

 このまま後続と距離を開けて最後、佑の独占状態でも良いのだがこのままでは会場の盛り上がりは良くても俺の心にはしこりが残ってしまう。だがこの場でこの思いを口にしようものなら俺は異常な目で見られる事だろう。


 二人の良いところが見たいから君はちょっと手加減してくれませんか、なんて言えるやつ居るだろうか。居ないだろうな。


「うーむ。何が足りないんだろうか」


 ☆☆☆☆☆☆


 その後も興奮しながら走る選手の実況をしだした蔵元をあしらいつつ、遂に此方の新井が出発した。流石サッカー部だけあって速く、今に飛び出すように走っていった周りのクラスの選手達、恐らくは終盤に足の速い選手で埋められているのにも関わらずぐんぐんと距離を離していく。


 そして遂に、新井から朱音へバトンが渡った。近くに居たクラスメイトからいくつもの頑張れとの声援を受け、朱音は飛び出した。生徒も観客もアンカー前である朱音の姿を確認し、次で勝負が決まる事を予感したのか盛り上がり始める。


 その中で俺は先程、佑から様子がおかしいと言っていた朱音の走りのコンディションを注意しながら見るが特に変わりはないように見える。なんなら気合が入っているのか何時もより少し速いと感じる程だ。


 そのままカーブを過ぎてアンカーである佑との距離も差し掛かった頃、近付いてきた朱音を見ていた俺と、前を向いていた筈の朱音の視線がかち合った、その瞬間。


「あっ」


 その声は走る朱音からだったのか、待機している佑だったのか、それとも俺の近くからだったのか。誰かの気の抜けた声が聞こえたと同時に。



 朱音は体勢を大きく崩し、派手に転倒してしまった。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、評価、いいね、感想ありがとうございます。


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