29話
〈それではこれより、白組応援団による応援団演説が始まります〉
部活対抗リレー、赤組応援団演説も終わり放送委員のアナウンスによって遂に白組応援団の出番が来た。
打ち合わせで佑の活躍を見れなかったのは心残りだが、今は目の前の事に集中する。
小刻みに響く太鼓の音に合わせ男子組から入場し、女子組は待機する。そして学生側のテントを前方に団長が先頭、他が後ろで円の形を作り最後尾の俺が一番後方の位置に着いたと同時に太鼓の音は鳴り止む。数瞬の沈黙ののち、激しく太鼓が鳴り出した。
第一段階、男子組のみの短い演舞。
音に合わせ拳法の構えを取り足を大きく踏み込みながら右手を突きだす。そして次の音で前方から順に右脚を大きく蹴り上げる。着地と同時に内側を向き片膝を着きながら伏せ、汗が滴り落ち地面を少し湿すのを見ながら次の合図を待つ。
「これよりー!白組によるー!応援団演舞を開始するー!!」
「「「押忍!!」」」
団長の掛け声に合わせ力強く返事を返し、合図の音が一拍。すぐさま直立し仁王立ちを行う。団長が円の中央へ来た瞬間に、次々と激しく鳴る音に合わせ団長だけが激しく演舞を舞い始める。
そして団長が正拳突きを向けた方角で立つ団員達から順に、それ以外は仁王立ちで待機し、向けられ次第団長と同じ動きを繰り返す。
東西南北でそれぞれ違う演舞をお見舞いした所で、一旦静止する。
「一時解散!!」
「「「押忍!!」」」
第二段階。さぁここからだ。今までになく緊張して冷や汗が吹きでる。
団長の合図により円で固まっていた男子組は列を崩すこと無くカーテンが付けられたテント内へと全力疾走で走り、女子組と交代するようにすれ違いながら中へ入り込む。途中で一瞬にんまりと笑った朱音と目が合いそれが余計に緊張を誘う。見るものからすれば何をしてるんだ、と言われてるだろうがむしろ本番はここからだと言えるだろう。
外で始まった女子組の音頭を背景に、テント内に置いてある各自が鞄から女子に借りた黒のセーラー服を手に取り急いで着替える。この早着替えを見せない為のカーテンなのだ。見えたらヤバいしな。
「ぶふ、お前すね毛剃っとけよ」
「うるせえ馬鹿。お前なんかサイズギリギリじゃねぇか」
先輩方が小声でそう話し始める。なんせ、皆が皆初めて見る女装姿なのだ。その光景に皆して思わず笑ってしまっていた。
「おい新藤。お前が先頭だぞ」
「了解っす。てか何で俺なんすかねぇ」
「ジャンケンで負けるからだ。ほら、皆も早く。太鼓の音からしてもうすぐ俺達の出番だ」
それぞれが白色のボンボンを両手に持ち、俺を先頭に一列に並び合図が来るまで待機する。
下にズボンを履いているとはいえスカートに慣れるはずも無く、ソワソワしてしまう。
〈男子、集結!!〉
遠く離れたこの場まで団長の声が聞こえ、次に力強く太鼓の音が一泊。
「出ます!皆お覚悟を!」
「………やべ、今になって足が震えてきた」
後方に一声掛け飛び出そうとした俺の後ろで、先輩が小声でそう呟いた。
―――ちょ!先輩!今から俺出ていくところなのにそんな事言わんでくださいよ!?
既に半身が出ている俺は声に出すわけには行かず、心の中でそう思うながら飛び出した。
☆☆☆☆☆☆
先程グラウンドに鳴り響いた太鼓の音とは違い、今は団長が放送係に頼んでおいたCDのBGMが鳴り響く。
走りながら視界に映る人達の顔は一言で表すならば開いた口が塞がらない、そんな感じだった。
だがそんな事はお構いなしに、心を女子にして音楽に合わせ振り付けをしながら同じ学年の後ろに並ぶよう集合する。最後尾で仁王立ちで構えながら俺達を見ていた朱音の横を通り過ぎた瞬間、空気の漏れる音が聴こえたが聴こえない振りをする。
女装男子組が全員女子の後ろに付き、前に居る女子組は片膝を着いて男子組が見えるようにしたあとに男子組はチアガールの振り付けを始める。やはりというべきか笑い声が聞こえるがそれすらもBGMの一部として舞い、暫くしてBGMが次第に小さくなっていきピタリと止まった。
それに合わせ女子組はその場で立ち、全員で団長側へと向きを変え待機する。
最終段階。ここで定番の応援団エール。これが済めば今の種目は終わる。
「白組のー!勝利を願ってー!エールを送ります!!」
団長が大声でそう叫んだのち構えを取り、全員それに合わせ同じ構えを取った。
「フレー!フレー!しーろーぐーみ!!」
「フレ!フレ!白組!フレ!フレ!白組!」
―――終わった。終わったよ佑。
そして再度グラウンドに静けさが訪れ、少しして歓声と拍手が送られる。
最後に団長からの解散の合図を機に踵を返す時に敢えて見ないようにしていた自分のクラスを一瞥する。
クラスの男子共がこちらを指差し爆笑している中、佑も珍しく腹を抱えて俯いているのだがそれより目を引く光景があった。
「あははははは!!新藤君がっ………ふふっお、お腹がっ!痛いっ!ふふっ!」
それは、両手を腹に添えて大笑いをしている高垣だった。
―――高垣めっちゃ爆笑するやん………周りの女子に見られてるぞ。
☆☆☆☆☆☆
「ありがとうお前達。とても楽しい思い出が出来た」
プログラムが終了し、待機場から少し離れた所でそう感謝を言って俺達団員に対して綺麗なお辞儀をする猪田先輩。最初は幸先不安に感じ、どうなることかと思った応援団だったが振り返ってみれば確かに、楽しかったと思う自分がいる。だが男子組は未だに女装姿なんですけど。早くも着替えたい。
「それでは、これを最後に解散!各自頑張れよ!」
「「「押忍!!」」」
最後の最後まで応援団らしく、息を合わせて皆して返事をする。それを受けた猪田先輩と皆で最後に近くに居た先生に頼み今の姿のまま集合写真を取った後、着替えるためにその場を離れ始めた。
「着心地はどう?私の制服」
「いや、ちょっとキツかったぐらいだ。洗濯したら返すよ」
「は〜い。それじゃぁ着替えに行こっか。めちゃくちゃ暑いよ〜」
「黒は熱を吸収するしな。俺ももう汗まみれだよ」
「えー、ばっちいな〜」
「おい」
「冗談だよ冗談。変な臭いはしないから安心してよね!」
「そう言えば俺が安心するとでも思ってるのか?」
学ランの裾を掴んでパタパタとはためかせ暑そうにしている朱音とそんなやり取りをして更衣室に向かおうとした時だった。
パシャリ、と何かを撮影した音が近くから聞こえ、二人してその方向へと顔を向けた。
「あらあら。青春してるね喜浩、朱音ちゃん」
「朱音もそうだけど、ヒロくんも似合ってるね〜。美帆さん後で私にも送ってね」
「分かってますよ稔さん」
携帯のレンズを此方に構え、談笑している俺の母さんと朱音の母さんがそこに居た。
『あ………あ………』とした声しか出ない俺にお構い無しに再度写真を撮り始める母さん。
何故、此処に居る?仕事は?親父も観に来てるのか?
「来ないと思ったんでしょその顔は。ナイショで半休取ったのよ。丁度良いところが見れて良かったわ。まぁ、お父さんは無理だったみたいだけど。ピピっとな」
「いやいやいや待ってくれ。何でよりによって今日来んのよ」
「稔さんから雨の日のお礼言った日に面白いの見れるかも〜って電話あったから」
「稔さん………何故………?」
「ごめんなさいね〜」
手を合わせ申し訳無さそうに此方に謝る稔さん。いや、よく見れば申し訳無さそうでは無く笑いを堪えている顔だ。やってくれたな稔さんんんっ!!
最悪だ。午後にある学級対抗リレーならまだしも、今の女装した姿を見られるなんて。帰ったら親父にもバレないようにしなければ………。出来るか?
「ほ〜ら。ヒロくん、着替えに行くよ!では、また後程〜」
「いってらっしゃい朱音ちゃん。喜浩もほら、しゃんとしなさい」
「汗はちゃんと拭きなさいね〜」
茫然自失となった俺の左手を朱音は強引に繋いで、引き摺られるようにして移動する事になった。
今の俺が思いつく事は一つ。
「くっ、いっそ殺してくれ!」
「はいはい。もうすぐですからねー」
俺のそんな願いは朱音に軽く流され、虚しく空に搔き消えていった。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
面白可笑しく格好良く書くのって難しいですね。




