28話
予想通りトイレから戻ってきた俺に、朱音と高垣からは何もされなかった。何も無い、というのがむしろ恐怖心を煽り先程の俺の行動に後悔した。何やってんだ少し前の俺ぇ!
そして、午前中に出るクラスメイトを応援しながら時間も経ち、ある程度プログラムも進んで今は昼休憩時間。
動きに動いた学生はお腹が空き始めた頃合いで殆どの者が観に来てくれている家族や他校の友人の下へ談笑しに行ったり、昼食を取るために教室へと席を離れていった。
そして俺は鞄を置いていた教室へ一旦取りに戻って、昼食後に出る種目があるために鞄ごと持ってテント内にまた戻り、朝に母さんが作ってくれた久しぶりの弁当を堪能している。
受け取る際の男子高校生として恥ずかしい気持ちは隠した。思春期だから仕方が無い。誰だってこうなる。
今俺の周りに座る人が誰も居ないし、もはやこれはボッチ飯と呼べるだろう。目立たなければいいのだが。
グラウンドの喧騒をBGM代わりに一人で黙々と弁当を食べているのだが、視界に映る他人の、特に家族との和気藹々とした雰囲気というものが妙に気になってしまい視線を漂わせてしまう。
―――親父も母さんも、今日も仕事が忙しいんだよなぁ………。
今日も忙しそうにする社畜の二人を想造してはっ、となり急いで弁当を平らげる。
あまりジロジロ見るのも不謹慎なのでスマホでも弄ろうかと思ったが、もう少しすれば佑が出る部活対抗リレーと応援団がある。
少しの間仮眠でも取ろうかと思い、隣の佑の椅子を勝手に借りてくっつけ、二つの椅子の上で鞄を枕替わりに寝そべった。
「………暑くて寝れねぇ」
日陰の中に居るものの汗をかく上にこの後の事で緊張しているのかスムーズに寝れない。
取り敢えず起き上がり何も考えずボケっとしとこうか、と思ったところで声を掛けられた。
「ヒロくんそこで何してるの?」
「朱音か。飯食って寝ようとしたんだけど無理だった」
「今の状況で寝れる方がどうかと思うけど」
校内の自販機で買ったであろうスポーツドリンク二本を両手に呆れた表情を作った朱音はテント内へと足を踏み入れきた。
そのまま俺に近付いて、隣の佑の使う椅子へと腰を落とす。
「いやいやいや、家族の所に戻りなさいよ。お前を待ってるだろうに」
「もう少ししたら休憩時間も終わるしいいのいいの。後は鞄取りに行くだけだしね」
「まぁ、朱音がそれでいいなら良いけど。佑は?お前んちの隣でまだ飯食ってるの?」
「たすくんは案の定お肉食べすぎでダウンしてる途中だよ」
「あぁ、いつものやつか。もうすぐ始まるリレーに間に合うのかよ」
小、中時代から運動会で昼飯時は必ずといって言いほど食べ過ぎでダウンする佑を思い出し変わらないことに呆れてしまった。それで少し時間が経てばけろっとしているのだからあいつの身体には不思議に思うものである。思春期なのにそんな子供みたいな姿親にさらして恥ずかしくないの?
しかし今年から部活動を始めたことによって出る種目が増えたのに大丈夫なのだろうか。まぁ佑だし大丈夫か。だって佑だし。
「ヒロくんの両親は?」
「仕事だってさ。まぁ昔からこんな感じだったしな。今更今更」
「そういえば学校行事とかではあんまり見かけないもんね。運動会とか授業参観とかでも」
「よく見ていらっしゃる。いやぁお恥ずかしい」
朱音も記憶に残っているのだろう。確かに家の両親は不幸な事にこういった行事の時に限って仕事が入り観に来る事は滅多にない。
俺が小さい時は二人が来れないと分かった時は二人して謝ってきてくれたのだが、それが逆に申し訳無いと感じてしまい見栄を張って問題無いと言った事も覚えている。
実際忙しそうに家を出る二人を何度も見ているため、当時の俺はこういった事で気を遣って欲しくなかったという思いもあったのかもしれないが。
過去を振り返っている俺を、朱音はじっと見ており、そして口を開いた。
「だってそういう時のヒロくんって寂しいって顔をするから」
「………は?」
朱音からの予想だにしなかった言葉に、俺は固まってしまった。
「気付いてなかったんだ。昔はね、少しだけど今みたいな時はそんな雰囲気を漂わせたりしてたから気になってたんだけど、少し前に分るようになったんだ」
「………まじかよ」
俺は無意識に寂しいと思っていたという事なのか。
朱音は昔からと言っていたが一体いつ頃からなのか。言われて見れば先程も周囲の家族の団欒を気にしてしまっていた自分も居た。そして自分でも気付いてなかった感情は昔から朱音にはバレていたらしいことから、恐らく佑にもバレているかもしれない。
やだ、めっちゃ恥ずかしいやつじゃんこれ!二人の前でしょぼーんとしてたの俺!?
「私が、その寂しさを埋めてあげよっか?」
顔を手で覆い悶々としていた俺に、またしても朱音の言葉に俺は固まってしまう。
手を離してその言葉の意味を聞こうとして顔を見ると、朱音は前に見た時と同じ、悪戯が成功したようなニヤニヤとした顔をしていた。
―――あぁ成程。これは、先程のデコピンの報復ということか。
だけど前と一緒で心臓に悪過ぎやしませんか朱音さん。そこいらの男子校生なら迷わず是非!と本気にさせてしまいかねないぞ。
「生意気だぞ朱音!前も!今も!もっと俺の心臓を労りなさい!」
「いへへへへっ!!」
激情に駆られた俺は未だにニヤニヤしていた朱音のその両頬をむにゅっと引っ張る。目をギュッと瞑り為すがままにされていた朱音は何かに気付いて俺の手をはたき落とし席を立つ。
「ほら、準備の放送が鳴ったよ。鞄取りに行ってくる!」
「え、いつの間に?」
「私のほっぺを堪能してるから聞き逃したんでしょ!」
「俺がまるで変態かのように言うのは止めてくれませんかね!?」
両頬を手で抑え舌をべ〜、と出してから朱音は家族が居るところに向かっていった。そして視線を感じ周囲を見れば、移動し始めていた周りの同級生達から好奇の視線を受けていた事に気付いた。
―――おのれ朱音。ここまでが悪戯のうちとは。
羞恥により顔が真っ赤になるのを自覚しながら、いそいそと鞄を取って目的の場所に駆け走る。
☆☆☆☆☆☆
今は佑の出る部活対抗リレーが始まっている最中、応援団員は更衣室で学ランに着替えたのち、待機所で整列して最後の打ち合わせを行っていた。
今いる場所近くには特別にカーテンを付けて中が見えないようにしている小さめのテントがある。風通しが悪くなり中の熱気は凄まじいものになりそうだが、致し方無い事。この中でしか出来ないことがあるからだ。
事情を知らない人達には何のために用意されたものなのか不明だと思われている事だろう。
そして今、男子組は女子に貸してある学ランとは別の、全員が友達から借りて用意した男用の学ランで身を包んでいる。俺も佑に借りる際は自分のやつがあるのに何で?といった顔をされたがお楽しみ、と言ってその場をやり過ごしたものだ。きっと皆もそうやり過ごした事だろう。極秘故にな。
「よし、皆着替えたな。それでは最後の確認に入る―――」
これから周囲のド肝を抜く白組応援団演舞が始まる。緊張するが、自分の役目を全うしよう。(遠い目)
「頑張ってねヒロくん。楽しみにしてる」
「………うっす」
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、評価、感想、誤字報告ありがとうございます。
今更ですがプログラムの順番とかは適当です。




