26話
前方が俺、左右後方に沖田と新井、騎手が佑で最後尾で騎手の腰を支える宮本君。これが俺達の騎馬戦でのメンバーだ。しかも佑のおまけで付いた俺以外のメンバーは全員運動部。沖田と新井はサッカー部に所属し体格や身長もそれなりで、言葉遣いが大人しめな宮本君は意外なことに剣道部に入っており身長も佑と一緒でそれなりに高く、騎手を支えやすい。そして俺が一番小さく、沖田と新井は似たような身長のため今の組み方が一番安定性があるのだ。
そしてうちのもう一つのグループは蔵元を騎手とした野球部メンバーで固まっている。見るからに体格の良い選手ばかりである。三年生の白組には我らが応援団団長兼騎馬戦大将の猪田先輩もいる。とても心強い味方だ。
不安があるとすれば今までの合同練習ではどこのグループも本気を出していないため、本当の実力はどうなのかは未知数。
だが、今はどうだ。どこのグループも勝つという思いでやる気に満ち溢れている。
やはり体育祭、練習と本番では雰囲気もまるで変わっており言葉に表すなら戦場だ。
どうなることやら。そのプレッシャーに俺は思わず身震いをする。
各グループが騎馬戦の形を取り、グラウンドの中心で赤組、白組が向き合いながら一列に並ぶ。後はスターターピストルの発泡音で壮絶な戦いが幕を開ける。
今か今かと汗を垂らしながら待っていると、アナウンスの説明が終わり合図係が耳を塞ぎ、そして乾いた音が木霊した。
「おおおおおお!一年は絶対に白組のイケメンの首を取れー!!赤組優勢を死守する!!」
「「「おおおおお!!」」」
我先にと赤組大将からの指示で暴れだした赤組一年騎馬戦組。
いきなりの展開に俺達は動揺する。集団戦だから反則では無いのだが多勢に無勢だぞ貴様ら!!
取り敢えずは正面に立っていた騎馬戦組と取っ掛かる。だがもう間もなく残りの一年生はこちらに来るだろう。くっどうする!!
「白組広がれ!!」
「っ!?……赤組左右後方注意!」
突如佑が大声を張り上げ白組一年組に指示をする。その意味を俺は瞬時に理解したが、赤組側も意味を把握したらしく俺達と距離を縮めながら周り警戒をする。
そうして今は俺達と赤組の一組を中心として、一塊になりつつあった赤組が半円形に集まり、一旦広がった白組がそれをじわじわと囲みにいく状況が出来上がった。見るからに追い上げ漁である。
瞬時にこの展開にもって行けるとは、恐れ入ったぜ佑。だが俺達はピンチに変わりない。さぁここからどう指示を出す!
そして激突している間にいつの間にか取っていたのか、佑は手に赤色の鉢巻を持っており、取られた赤組は邪魔にならないよう急いでこの場を離れていった。
「別に、このまま勝ってしまってもいいんでしょ?」
ヒュー!格好いいぜ佑!!ここでそんな言葉が言えるとは、お前もテンションが上がってるんだな!!でも不穏になったぜ。
「この騎馬戦、勝てる!!気合入れるぞお前ら!」
「「おう!」」
「後ろのサポートは任せて浅見君!!」
「俺達も居るからな!忘れるなよ!」
俺の発破に皆は気合が入った。少し遠く蔵元達も鉢巻を奪う機会を探っている。勝てる、と思えば勝てるんだ!よし!来い!
あと佑、今はツッコめないけど先程の台詞、それを人は負けフラグっていうんだよ……。
★★★★★★
たった今始まった男子騎馬戦は、開幕から少し変な展開になっている。二、三年生は勢い良く当たりに行って鉢巻を奪わんと躍起になっているのだが、問題は一年生組。
白組大将の一言から始まり次の浅見君の一言に赤組、白組共に練習とは違う動きを見せ始め、さながら頭脳戦の様な形で静かな闘いとなっている。
「なんか目立つね。たすくんとヒロくんのグループ」
「謀らずも、という事ね」
「え?何か作戦があったの?」
「いや、何でもないわ。ほら、浅見君が鉢巻取ったわよ」
「お、はやーい!イケーたすくーん!!」
早速鉢巻を片手に取り新藤君に何かを言っている浅見君に、朱音は声を大にして応援する。周りの女子達も恐らく浅見君のその姿を見てか凄いだの格好いいだのと囁いている。
新藤君はリレーで勝負するとあの時言っていたが、今の状況に興奮し急拵えで作戦を練ったのだろう……が、そもそも騎馬戦に一位とか無いし感化された二人もそれは知っていたはず。
その場の雰囲気に充てられたといったところなのか。
それが周りに聞かれてなければ良かったものを。だから敵の目に一斉に付かれる。やはりあいつは馬鹿である。
そして注目の騎馬戦だが、浅見君が一組の鉢巻を取ったあたりから状況が変わり始めた。赤組が一斉に浅見君達の元へ鉢巻を取りに動き始めた。
『来い!うぶでぇっ!?』と先頭に居る新藤君が体当たりを喰らい情けない声を上げている。あれは痛そうだ。
「うわぁ。ヒロくんめっちゃ痛そう……」
「まぁ実際騎馬戦ってそんなものでしょ。二、三年生なんか物凄いわよ」
「あ、そっちは全然見てなかったや」
哀れニ、三年生。朱音にとっては眼中になかったらしい。まぁ気にすることでも無いでしょう。
そんな会話をしていると、集まってきた赤組に対して騎手の浅見君は上半身を上手く使い、次々と鉢巻を奪っていく。周りの白組騎馬組も脱落者はいるものの鉢巻を奪って一年生は今や白組が優勢になっている。
「浅見君って中学の時は騎馬戦やったの?なんか上手く避けたりしてるから慣れてるような感じがするわ」
「中学の時は参加しなかったね。たすくんは運動神経良いから練習で身に付いたんじゃないかな?ここの体育祭では無いけど台風の目って種目とか一緒にやってたよ」
「ふーん。それはどうなったの?」
当時を思い返したらしい朱音は、思い出し笑いなのかとても可愛い笑顔を浮かべる。
「開始直後にヒロくんが転けてビリになったよ」
哀れ新藤君。中学時代は情けない姿を朱音の前で晒したらしい。どうせ、こんな筈じゃなかったと言い訳を思ってたことでしょうね。
「でもね、最後の運動会だったのにその時のメンバー皆笑顔だったの。新藤このやろーとか、何すぐにコケてんだよ!とか、ヒロどんまいってあちこち叩かれながらね」
「想像出来るわ。俺は悪くないとか言ってそう」
「言ってたよ。靴紐が解けたらしくてね。なんならそれを言い訳にしたからなおさら叩かれてた。ちゃんとしとけってね〜」
漫才してるみたいだった、と朱音は面白可笑しそうに笑う。
「しかも最後の学年リレーで一位をとってさらに叩かれてたよ。今度は何カッコつけてんだ!てね」
「クラスで勝ったのに新藤君は散々ね。結構叩かれてばかりじゃない」
「愛の鞭ってやつだよ。リレーの時は何故かクラスの熱気が凄かったけど」
そういえば浅見君にアンカーを任せようとした時の事を新藤君は苦い顔で話していたなと思い出す。周りの女子達が何か凄かったと言っていたけれどそれは置いておきましょうか。
昔話に花を咲かせていたら、時間終了によってグラウンドに音が鳴り響いた。見渡すと最初の時より残っている数はだいぶ減って入るが、白組の方が残っている数が多い。新藤君の居るグループは最後まで残ることが出来たらしく浅見君の元には先程より多くの鉢巻が残っている。
一年組が終わったと同時に二、三年生組へ突撃しにいったからか、土台の皆は息を切らしながら疲れ果てているのが見てわかる。
見渡す限り白組が赤組の点数を越したことが予想され、しかも浅見君が赤の鉢巻片手に空に突き上げたからかそれを見た白組会場は歓声が上がり始めた。たぶん新藤君の入れ知恵だろう。色んな意味で目立っている。
「たぶん白組が追い越したね」
「さて、私達は負けないようにしなきゃね」
「よろしくね皆!たくさん鉢巻取っちゃうぞ〜!!」
ムっと力瘤を作る子供っぽい朱音に周りは女子には在るまじき姿に苦笑いしながら小さく頑張ろうねと言ってくる。
男子組が会場から出るために待機所に向かってくる最中、私達を見付けたらしい新藤君は両手の掌をこちらに向けながら歩いてくる。浅見君も朱音の方へと同じようにしている。
「アトハガンバレ。オデヅガレダ」
「お疲れ様。朱音の方は任せなさい」
「朱音、高垣さん達も後は頑張って」
「お任せを〜!たすくんより取っちゃうぞ!」
ヨロシク、と片言の新藤君の掌に私は勢い余ってのハイタッチが決まった。結構強めになったからか新藤君は『イッダィ!!』と手を引っ込める。決めた私もちょっとヒリヒリと痛めてしまい後悔する。今からこの手に朱音を乗せるというのに何たる失態。
朱音も興奮してるからか、新藤君のもう片方の手に勢い良くハイタッチをかました。これで新藤君の両手は少しの間使い物にならないだろう。『アッ!?』と言う声は聞こえなかったことにする。
朱音はそのまま浅見君の掌にも勢いのあるハイタッチをしたせいか浅見君は勿論の事、朱音は両手を服に擦り付けて顔を顰めている。ここには馬鹿しかいないのか。
そんな私達のやり取りを見たからか、1-B女子組は他の男子達に皆軽くハイタッチをして労っている。
そして準備のアナウンスが鳴り渡る。そろそろ出場だ。
後ろではありがとう新藤とかお前のお陰だぜとか聞こえるが、それは何に対しての感謝なのかは考えないようにしときましょう。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
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