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24話

 窓ガラスへ打ち付ける雨の音を聞きながら、夕方にしては薄暗い街並みを見続ける。車の中では朱音と朱音のママさん、(みのり)さんとで高校の話で盛り上がっており、時折俺にも話を振ってくるので適当に相槌をうつ。


「そういえば言ってなかったっけ?私の中学の時の制服をヒロくんが着るんだよ」


「んぶっ!おい朱音!それだけだと変な勘違いされるだろうが!?」


「あら〜、それは楽しみね」


「応援団の話ですからね!稔さん誤解しないでくださいよ!」


「わかってますわかってます」


 まるで俺が変態と思われるような発言をした朱音の話に、稔さんは朱音より落ち着きのある綺麗な顔をほころばせている。俺の誤解を解く言葉に本当に理解しているのかうんうんと小さく頷いているが、何せ朱音の親である。突拍子もない事を仕出かすのは何も朱音だけでは無い、ということなのだ。


「あ、そうだ」


 何かを閃いたらしい稔さん。あぁ早速だが物凄く嫌な予感がする。

 この感覚は小学生の頃、公園で三人で遊んでいた時のことだ。水飲み場で水を飲もうとしてつい蛇口を捻り過ぎ、勢い良く飛び出た水が噴水になって俺はびしょ濡れになった。そしてその姿を買い物帰りの稔さんに見つかり、風邪を引いてはいけないと家へ連行された時のことを思い出す。


 そう、今の状況と似ているのだ。


「このまま(うち)でシャワー浴びて体を温めましょうか」


「?……はっそれだ!フフーン。ヒロくん覚悟しな〜」


 やはり予感の通りの言葉を紡ぐ稔さんと、今の状況に何かを思い出し、次いで閃いたのか俺の腕を掴み絶対に離すまいとする朱音。湿気のせいか、掴まれた所はしっとりした感触が残る。


「一生のお願いです。堪忍してください。ほら、昔から俺あんまり我儘言わない子だったでしょ?だからどうか!それにもう高校生ですから!倫理的にやばいって!」


「懐かしいね。水浸しになった後のヒロくんに私の服を……」


「ねぇ聞いて!!お願いだから!」


 思い出に耽る朱音を激しく揺さぶるが、全く聞く耳を持たない。

 朱音の閃きなど疾うに理解している。こいつ、家で俺にセーラー服を着せるつもりだ。嫌だ!親友の親の前で女装なんてしたくない!だがいずれ見られる姿なのだが、別に今じゃなくていいでしょ!誰か、誰か助けて!?


 助けを乞うために外を見れば、そこには待ち望んでいた自分の帰るべき家があった。ありがとう稔さん!!これからはおばさんと言わず稔ママンと呼びます!!多分!


「ふふ、冗談よ。はい、ここで良いね?」


「えーっ!何で停まっちゃうの!面白そうだったのに!!」


「朱音、お前はもうちょっと大人になれお願いだから。送ってくれてありがとうございます。とても助かりました!それじゃ!」


「あ!ちょっと!逃げられた!」


 手が湿っていたお陰か、するりと腕を抜く事ができ、未だに雨は強い為に出来るだけドアが濡れないよう傘を差さず素早く脱出する。窓ガラス越しにぶーたれる朱音が見えるが、それを気にせず俺は手を振り別れの挨拶を済まして愛しの我が家に駆け込んだ。


「助かった〜!一時はどうなるかと思ったわ!」


「帰ってきていきなりどうしたのアンタ。しかもびしょ濡れになって」


「稔さんに送ってもらったんだけど途中で朱音に家に連れ込まれそうになった」


「あら、あらあら〜」


「おい、今すぐその顔をやめろぃやめてください」


 口に手を添えて何やらニヤニヤと仕出した母さんに思わず強い当たり方をしたのだが、それが癇に障ったのか睨んできた為に急いで訂正する。情けないとは言わない。我が家では母さんがトップなのだ。


「少ししたら春辺さんに感謝を伝えておくから。ほら、お風呂沸かしてるから入ってきなさい」


「あざまーす」


 大きめのタオルを投げ渡されたのであまり雫が滴らないようある程度拭ってから玄関を上がる。

 頭を乱雑に拭きながら歩いていると、母さんは急にこんな事を聞いてきた。


「そういえば高校の体育祭、何曜日にあるの?」


「ん?再来週の土曜日だけど……?どうしたん一体」


「ふーん。いや、何でもないわ。早く入ってきなさい」


「お、おう。そうするわ」


 まさか……、小学校六年生以降、仕事で見に来れなかった両親は今回に限って来るとでも言うのか?いや、この間はここ暫くは休日出勤だと親父と共に揃って愚痴を溢していたから今回も来ないはずだ。


 何やら不穏な雰囲気を感じながら、まぁ気のせいだろうと思うことにして、取り敢えずは言われた通り湯船に浸かるとしよう。


「あら、春辺さんから電話……」


 ☆☆☆☆☆☆


 梅雨に入ってから天気が崩れやすく、一時期は延期になるかと思いきや、体育祭のある週は晴れ間が続くようになったため、午後の授業の時間を使って全校生徒で会場作りに勤しんでいる。

 今はクラスで自分達が使うテントを組み立てており、パイプ椅子を運んだりと皆が忙しなく動き回っている。


 いよいよ明日は体育祭。日頃の種目練習に応援団の練習と慣れない事をしたせいか疲れる日々を送ることになったが、今思えば中々充実した毎日だった。


「とうとう明日か。佑、リレーのアンカーに部活動リレーとか他に出る種目多いけど頑張れよ。騎馬戦は一緒に一位取ろうな」


「部活で鍛えた身体能力を遂に見せるときが来た」


 ある程度設営準備が終え、空いた時間を使って同じ状況にいた佑に話しかけたのだが、急に変な事を言い出し何やらポージングを取り始めた。

 以前着替え中に見せてもらった事があるのだが、前は細い身体をしていた佑だったが部活に入ってからは成果が出ているのか今は細マッチョへと進化している。そして今、見ないうちにさらに鍛えられたのか俺に向けて筋肉ポージングのサイドチェストをして筋肉を魅せようとしている。

 でも今服着てるし、腕と足しか筋肉は見えないのでよく分からなかった。


「ねぇ何かの漫画読んだ?普段そんな事言わないだろお前。力み過ぎたら駄目だぞ」


「何過保護になってるのよアンタは。普段を見てたけど浅見君なら卒なく熟せるでしょ」


 そんな馬鹿をやっている俺達に呆れながら近付いてきた高垣は腕を組んで溜息を付き始めた。


「いや、こういう時って負けフラグって言うじゃん。心配になるだろ」


「アンタこそ漫画の読みすぎよ」


「フラグはフラグと認識してればフラグとは言わんのよ」


「意味分かんない」


 俺のたった今思い付いた屁理屈にバッサリと切り捨てる高垣。まぁ、高垣ならそういう反応になっちゃうよな。しかしこうして高垣の反応がわかる通り、伊達に協力者をしてないぜ。


「皆お疲れ様〜明日は頑張ろう!」


「「「おー!」」」


 話をしている間に準備は終わったのか、朱音は女子グループの前で拳を天に突き上げ奮起を立たせており、男子は男子でワイワイと騒いでいる。皆、明日が楽しみということだろう。

 少し前に朱音とは学ランを交換し終えているが、試着て鏡を見たら自分自身で笑ってしまった。そして応援団の男子達全員準備は万全との事なので当日は阿鼻叫喚だろう。ある意味楽しみである。(遠い目)


「高垣もこっちじゃなくてあっち混ざれば?」


「そうだね。高垣さんも一緒におーって言ってみれば明日何かで一位を取れると思うよ」


「柄じゃないからこっち来たのよ。それと浅見君って凄くアホな事も言うのね。しかも何かって何よ。新たな一面を見たわ」


 そりゃギャップ萌えってやつでしょうよ。普段クールな高垣も体育祭ではあんなにやる気を出すのかっ!みたいな?


 怪訝な表情で無表情に見えてぬぼーっとしている佑を見る高垣。だがやはりお前の目は節穴だな。ゲーセン行ったときに佑がアホな行動する所何度か見ただろうに。


「あ〜身体だり〜。早く帰って寝たいな」


「そういえばアンタ色々頑張ってたわね。身体はちゃんと休ませなさいよ」


「あらやだ高垣さんお優しいね。思わずキュンときてしまいましたわ」


「キュンの割には物凄く心臓部分を抑えるのね」


 高垣の自愛の言葉に思わず胸部を激しく抑えるフリをしてからかって見たが顔色変えず冷静なツッコミ一つのみ。


 そうして会話をしていると、遠くから先生の誰かがメガホンを使って解散の号令を掛け、生徒達は疲れたのか足取り重く校舎へ歩き始めた。


「三人共!明日は頑張ろう!おー!」


「「「……おー」」」


 俺達の近くに走ってきた朱音は俺と佑の間に挟まりそんな事を言い出す。朱音以外の俺達はここで言わなければ朱音が納得してくれないと理解しているからか、適当にそれを返す。

 というかやったね高垣。佑の言うとおりナンバーワンになれるぜお前。何にとは言わないけど。


「んじゃ高垣。アンカーが花を飾れるよう俺の熱い思いをバトンに込めるからしっかり受け取ってくれよな」


「程々にね。他クラスと合同練習したけど足の速い子とか実力隠してるだろうし実際はどうなるかは予想出来ないけど」


 さぁ、始まるぞ体育祭。見たい光景と熱き想いを胸に!


「いざいかんっくしょいっ!!」


「何か締まらないわね」


「びっくりしたぁ!!」


「凄い変なクシャミになったねヒロ」

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、いいね、評価、誤字報告ありがとうございます。


内容が変になってたらすいません。

※浅見が言う鍛えた云々は元ネタとかはありませんので。ありませんよね?

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