22話
曇りない青空から燦々と輝く太陽からの日差しによって、夏に近づき始め、立っているだけで汗が浮かぶ程の今日この頃。
しかし今、俯いている俺の汗は暑さによるものではなく冷や汗が浮かび出て、鼻先を伝って落ちていく。
現在体育の授業中。
グラウンドに1-B組全員が見学者が出ることなく体操服に着替え、体育祭に向けてリレーの練習を行っている最中である。今は各々が前後の走者でバトンパスをスムーズに行うための練習中であり、第一走者の俺と第二走者の高垣でそれを行っていた。男女では身体能力が違うため、一、ニ回目の練習では俺の落とした速度と高垣が走り出すタイミングがズレて中々上手くいかずであったのだが、三回目からタイミングが合うようになった。そうして、五回目の練習後。
「……」
「いや、ホントすいません何でもしますから」
腕を組んで此方に絶対零度の如く視線を送る高垣と、上体を九十度に曲げ謝罪を繰り返す俺。
調子に乗ってしまった俺は速度を落とすタイミングを間違えて、それに気付いた高垣とお互いこのままではぶつかると思い、そこで両者共に身体を反らそうとしたのがマズかった。
避けた先が同じ方向になってしまい、ぎりぎり速度を落とせた俺と高垣の身体が軽くぶつかってしまうといったアクシデントが起こった。高垣に怪我をさせてはいけないと両手で高垣の腕を掴んで、そのまま俺の勢いだけを横に反らそうと腕を伸ばした。結果無事なことに転倒といったものはせずお互い怪我もなかったのだが。
ただ、俺の頬には季節外れの紅葉が出来た、それだけ。破廉恥な事は…アリマセン。
一部始終を見ていた者、派手な音が鳴り練習中であった者達の視線を一瞬感じたが、察したのだろう、その感覚はすぐに逸らされ皆練習に戻って行った。くっ殺してくれ!
「先生も次の走者と練習って言ったからもう行くわ」
「行ってらっしゃいませ」
「アンタ、案外余裕があるんでしょ?」
「滅相もございません」
次の走者である男子の元へと歩いていった高垣。その背を見送り、次に練習待ちの為に俺達を見ていたであろう男子を見る。その顔は、高垣を見て青褪めていた。
―――済まない。宮本君。俺が不甲斐ないばかりに……。
第一走者目の俺は高垣以外との練習は必要ないため、その場を離れその様子を見守ることする。
休憩中のクラスメイト達の輪へ行くと、案の定女子達は俺から距離を取る。当然のことなのだが、今高校一年生なのにこの先、平穏に学園生活を過ごせるのか不安になってきた。
「どうだった?」
意味を理解しているためか周りに聞こえないよう小声でそう聞いてきた同じタイミングで休憩中の蔵元。黙れ、と文句を言うために俺は口を開いた。
「柔らかかった……ぞ……」
思考とは全く別の邪な気持ちが口に出てしまった。
―――その瞬間に悪寒が走る。
原因は解る。ここからは距離があるはずの、バトンを持って走り出そうとしている高垣からだ。前方で待機する宮本君は『ふぇっ』と小さい悲鳴を上げている。
―――何度も済まない。宮本君……。
ふと別方向から視線を感じ、そちらを見るとそこには居たのは、別の場所でバトンパスの練習をしている佑と朱音であった。
バトンを持って頬を膨らませ此方を睨んでいる朱音と、それを見て呆れている佑。
此方を見ろ、という事だろうか?そんなこと伝えなくてもお前達の練習姿は網膜に焼き付かせて貰うのというのに。
☆☆☆☆☆☆
「おーいヒロくん!こっち来てー!!」
しばらくして、様になってきた二人の様子をヒリヒリとした頬の痛みに耐えながら見ていた俺に、朱音が手を振り俺を招き始めた。
一体何なのだろうか?と思いながらも朱音の元へと急いで向かう。
「はい!白線に移動して!」
「え、そこで何しろと?」
「中学の時にアンカーやったでしょ?あの時たすくんと息ぴったりだったからもう一度見てみたいなって!あと参考にするから!!」
「あれ、綺麗に渡せて気持ちよかったからもう一度やってみたいかも」
「佑までそんな事言うのかい」
聞けば中学最後の運動大会で行った、俺と佑のバトンパスが見たいとの事だった。一年前の事だし上手くいくかはわからないが構わない。けど今は練習中だし他の連中の迷惑にならないだろうか?
近くに居た生徒達に視線を送ると皆して見てみたい、といった表情をしていた。どうやらやってしまっても構わないようだ。
「んじゃ、やらせて貰おうかね」
「久しぶりだし少し距離開けてから来るね」
「おう。よろしくな」
離れ際にお互いの拳をぶつけ合ってから位置に付く。懐かしい雰囲気に少し緊張が走ってくる。
俺と佑の準備が済み、その中央で朱音は合図を取るために右手を上げた。
「よ〜い、ドンッ!!」
「ッ!!」
「うぉ、めっちゃ速くなってんじゃん」
朱音の合図によって動き始めた佑は次第に全力疾走しているかのような加速をし始めた。それを見て俺は驚くと同時に疑問に思った。これ練習だぞ?体力持つのか?
距離が縮みそろそろ頃合いだと前を向いて、左腕を後ろに、手を大きく開く。そしてゆっくり走り始め、佑の足音を聞きながら次第に速く、バトンパスの直前に俺も全力一歩手前のタイミングを図る。
「ヒロ!!」
「来い!」
佑の掛け声と共に掌にバシッと鈍い痛みが走る。それと共に直ぐにそれを落とさないよう握り締め上半身を少し傾け全力疾走の形に入る。
そのまま少し走り、息が切れ始めた所で走るのをやめて速度を落とし始めた。
物凄く懐かしい感覚を味わえた。素晴らしい舞台にしたいと佑に熱い言葉を言いまくり一緒に練習を頑張っていた当時を思い出した。本音は隠してな。
本当は逆の立場で活躍したかったのだが、何故かコレが妙にしっくり来るのだ。不思議なものである。
「お〜二人ともちょ~格好良かったよ!」
「懐かしいね」
「煽てたって何も出ませんことよ朱音さん。佑もお疲れ」
開始前と同じ様に拳をぶつけ合い、俺も佑も自然と笑顔が溢れた。
「「「わぁ……」」」
佑のレアな笑顔を見れたであろう女子達はうっとりとした表情をしていた。男子はぐぎぎ、と歯軋りをしながら俺達を見ている。お、女子の視線を盗られて悔しいの悔しいのう(笑)。だが佑のそれは先約がもうあるんだ。安心しなされよ。
「じゃぁ次は三人でやってみよ!」
「三人で?どういう事?」
「ヒロくんが最初で、次が私、最後にアンカー役のたすくんで流すの!今の見てやる気が出てきたよ!」
「めっちゃ燃えてんじゃん。俺はいいけど、流石にこれ以上は周りも迷惑じゃないか?てか俺である理由が無いけど」
「ヒロくんも女子に対しての練習になるよ!」
それは先程の高垣の一件の事を言っているのだろうか。そう考えると確かに、一理ある。
しかし朱音からのお願いに了承したいのはやまやまなのだが、流石にこれ以上は……、と思い周りを見てみるも、『やってみれば?』と苦笑いされるのみ。いいのかな?
ということで、俺を起点に朱音、佑の順で距離を取る。バトンを手にポスポスと肩を叩いていると各自準備が整った。合図はいつの間にか居た前田さんが仕切るらしい。
「それじゃ準備はいいね!よーい、ドンッ!」
前田さんの合図によって俺は走り出す。今思えば中学時代では俺がこうして朱音にバトンを送るのは初めだ。上手く行くか不安になったが、先程の高垣にしたような事が無いようにしよう。朱音にラッキースケベみたいなことは万死に値する故な。
ある程度近づいた俺を見て前を向く朱音は腕をこちらへ差し出しながら少しずつ走り出す。朱音の初動と合うよう速度を調整して、ここだと思うタイミングでバトンを渡した。
「行け朱音!!」
「任せて!」
最高のタイミングで渡せたことにほっとする。そうして佑の元へ走り出した朱音の背を見続ける。
それを見ていると、一走目ではなくこの順走でも良かったな、とちょっと後悔した。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。
ただラッキースケベがあったのとちょっとした嫉妬のようなの話




