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21話

 先が不安に感じる応援団についての説明も終わり、今はグラウンド前の古ぼけたベンチに座って頭を抱えている。

 数十分前までは朱音と二人で今後の話をしていたが、部活終わりの佑と合流し三人で帰る所を俺は用事があるからと先に帰ってもらった。二人して怪し気に俺を見てきたが少しして諦めて、挨拶をして帰っていった。


 あの日二人で帰路についた日以降、急に俺との接し方を変えてきた朱音に、それに対して嫉妬といった感情を全く湧かせない佑。むしろ、今日みたいに微笑ましそうに俺達のやり取りを見ている所を思い出す。


 ―――うーむ。何かがおかしい。


 それは分かるのに、その何かが解らない。

 二人はお互いを想っている。だから俺は、二人が結ばれる様にやれることをしているのだ。これは、正しい事の筈だ。 


「そんな所で項垂れて、何をしてるの?」


 ふと声が聞こえて、下がっていた頭を上げる。そこには、既に帰っていると思っていた高垣が鞄を持って俺を見下ろしていた。その見下ろす姿に、俺は女王の風格を幻視した。あれ、そう見えてしまう俺は変態か?


「高垣じゃん。帰ってなかったの?」


「用事があって遅くまで学校に残ってたのよ」


「ふーん」


 そこで会話が途切れて、沈黙が訪れる。俺は何かを話そうと思えないため、高垣から何かしらの言葉を待っていたのだが、当の本人はジロジロと俺を見るばかり。一体どうしたんだ?


「悩んでいるのね」


「え?」


 そんな顔に出ている程なのだろうか。思わず手で顔を触っていると高垣は俺の隣に置いてある鞄を奥に退かし、間に座り始めスカートの上に鞄を乗せて腰を落ち着かせた。俺の鞄……。いやいやそんなことより。


「高垣さん。何故お隣に座ってきたのでしょうか?」


「気にしないで」


「え〜?気になっちゃぃや、なんでもない」


 隣に座り始めた理由を聞いただけなのに、ひと睨みされ何も言えなくなった。相変わらず高垣の考えがわからないぞ……。


「それで、何に悩んでいるの?」


 高垣は普段と変わらない表情でそう聞いてきた。

 これは、高垣は俺を心配してくれているのだろうか。普段の高垣なら俺が何かをすればまず呆れた顔をしながら聞いてくるものなのに。

 いや、もしや朝の一件の事か?皆にはフジコサンと伝えたというのに何処でバレたのだ。そしてあの時、高垣は笑顔と共にその時は『覚えておきなさい』と俺に伝えてきた。ここから解る事は……。

 俺は両手を顔の前で組んで身構えた。


「どうか、命だけはお助け下さい。俺には使命があるんです」


「あんたは私の事何だと思ってんの?」


 ☆☆☆☆☆☆


「朱音と浅見君の事が解らないって事?」


「そうそう。特にここ最近とかな……。なぁ高垣」


「何よ」


「二人は、お似合いだよな」


 結局、俺の冗談を間に受けて少し睨みから射殺す様な目付きになり始めた高垣に今の悩みを白状する事となった。

 これを聞いて高垣からまともな意見が出るかは解らないが、一人で考えるよりはよっぽどマシかもしれない。

 口元に手を添えて何やら考えていた高垣は言うことの整理が着いたのか、口を開き始めた。


「そうね。朱音と浅見君はお似合いかもね」


「だろう?まぁそんなこと分かりきっていると思うが」


「なら、このまま行動し続ければいいじゃない」


「?」


「あの二人が付き合う。それが貴方なりに正しいと思う事なら、上手く立ち回ってみせなさいって事」


 予想とは反対に、応援するような返事が来て驚いた。


 正しいと思う事なら……か。

 そうだ。俺はそう思って今まで動いてきた。ここ最近の予想外な展開が多くて少しネガティブ寄りに思考が陥っていただけかもしれない。


 そう思うと、ちょっと元気が沸いてきた。何も朱音と一緒に応援団員になったからと言って、二人の関係が変わることはない。そう考えると俺の悩みはちっぽけなもののように思えてきた。


 よし行ける!むしろ朱音と二人で佑に鼓舞を贈ろうじゃないか!そう思うと若干やる気の無かった応援団の練習もやりきってみせようという気持ちになれる!


「ありがとな高垣!元気出たぜ!」


「近くで叫ばないで。耳障りだわ」


「急に辛辣になるじゃん」


 そう言って耳を塞ぎしかめっ面を作る高垣。いや、確かに近くで叫んだ俺が悪かったよな。うん。でももうちょっと言葉を選んでくれたら俺は嬉しいな。


「それじゃ、もう帰ろうか」


「そうね。もう下校時間もとっくに過ぎてるし」


「やっべ!先生に見つかったら怒られるじゃん!!何で先に言わないの!?」


 俺達は勢いよく立ち上がりまだ開いている校門の前へと移動する。運が良かった事にまだ見回りの先生は来ていないようだ。

 既に外は暗く、これまで付き合ってくれた高垣を一人で帰すのも申し訳無いので見送りを提案しようとしたのだが。


「迎えが来てるからここまでね」


「え、いつ連絡したの?」


「アンタが悩んでいるのを見かけた時に遅くなりそうだと思ったから」


「さいで。準備がよろしいこったな」


 学校付近の車道で、白の軽自動車がハザードランプを点滅させながら停車しており、高垣はそれに指を指している。恐らく親が待ってくれていたのだろう。

 道理で下校時間が過ぎてても焦らない訳だ。まぁ、女の子一人で暗い道を帰るよりはこの方がよっぽど助かる。


「挨拶した方がいいかな?」


「しなくていいわ」


 こんな時間まで高垣を拘束してしまった事に罪悪感を覚えた為、一言高垣の親に謝罪をと思ったがきっぱりと断られた。高垣がそう言うなら、今は従おう。何処かで謝罪が出来れば良いのだが。


「そんじゃ、また明日。今日はありがとう」


「えぇ、さようなら」


 挨拶を済ませ高垣が車に乗り込むまで見送る。そうして発進し始めたのを確認し、踵を返す。というか高垣はこんな時間まで用事があって残っていたと言っていたが何をしていたのだろうか?


 歩き始めた俺の進行方向へ、一台の車がゆっくりと通り過ぎる際に『彼氏君ありがとね〜』と言った声が小さく聞こえた。何事かと気になってちらっと見てみたのだが、見ると高垣が乗り込んだ車であった。

 後部座席の方で人影が何か慌ただしい動きを見せており、ぼんやりとだが二人乗っているような気がする。親は運転席に居るだろうし、兄妹か知り合いも居たのだろうか?


「今の声、もしかしてあのママさん?」


 そして前に携帯越しに聞こえたおっとりした声。それに少し似ていたと思い出す。

 くそ、どんな人なのか一目拝んでみたかった!


 ★★★★★★


 ヒロに帰りを断られた俺達は、二人で帰路についている。朱音は機嫌が良いのか足取り軽くまるでステップを踏んでいるかのよう。


「機嫌がいいね。良いことあった?」


「応援団の事でね〜。ヒロくんと中学時代に使ってた学ラン交換するんだ!それで一緒に頑張るのが楽しみだな〜って」


「ヒロの女装姿か……。ふっ爆笑ものかもな」


「お、たすくんも想像した?私もさっき想像して笑いそうになったんだよね〜」


 思わずその姿を想像して、笑みが溢れる。

 そして、今日最後に見せたヒロの顔を思い出した。苦虫を噛み潰した様な、そんな表情。


 ここ最近、というよりは中学中盤くらいからか。ヒロが何かを考え、何かをやろうとしているのは察している。それは朱音も同じだろう。

 いつも前を歩いて俺達を引っ張ってくれた存在が、何故か今や後ろで俺達を見守るかのような存在になろうとしている。それが、酷く胸が苦しい。


 出来る事ならば、後ろでは無く横について三人で笑い合っていたいと願うのは我儘だろうか。


「たすくん、どうしたの?」


 先程まで鼻唄を歌うほど上機嫌だった朱音は、今や不安そうな顔をして俺を見ている。表情に出てしまっただろうか。ふと、ヒロから『普段は表情変わらなさすぎ!クール通り越して常に能面のようだぜ☆もっと表情筋鍛えろよ』なんて褒めてくれたのを思い出す。

 朱音は昔から人の機微には敏感だから、俺が不安そうな顔をしている事に気付いたのだろう。


「いや、何でもないよ。ほら早く帰ろう」


「……うん」


 俺の表情を見てから少し沈みだした朱音。先程とは大違いだ。失敗したな、と思う。


 そこからは、お互い会話もせず歩き出す。そうしてやはり思い出すのは先程のヒロの事。次に朱音の事。ヒロにも宣言したという事は聞いている。向こうが気付くまで頑張ってみると。だから心の底から頑張ってと応援している。


 けれども、俺は今のこの関係が―――。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。


くっ......今更名前の大幅変更するとか出来ねぇっす(汗)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お迎えが、セバスチャンの運転する ファントムとか黒のLS600とかセンチュリーじゃない…だと…
[気になる点] >歩き始めた俺の進行方向へ、軽車が通り過ぎる。  軽車ってなんですか?
[良い点]  なにやら複雑ゥ!  女性陣ははっきりしてそうですが。  男の子はね、悩み惑うイキモノなんですよ。
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