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18話

 筺体の中に入ると朱音と高垣は既にお金を入れていたらしく画面の前でタッチペンを使って何かの操作をしている最中だった。朱音は女子友達と何度かしたことがあるのか慣れた手付きで写真の種類を選んでおり、隣の高垣はその様子を見て困惑している。恐らく初めての事なのだろう。

 そんな二人を見ながら佑と空いている後ろのスペースへ。


 ゲーセンに行く時は基本俺が佑を誘って二人で遊んでいた為、プリクラを撮るのは初めてだ。聞き慣れないBGMと筺体から女性の声のアナウンス。何処か男子禁制の様な雰囲気を感じて心が落ち着かず、中を見回っていると佑も同じ気持ちなのかどこかソワソワしていた。


「なんか緊張するな」


「うん。プリクラとか初めてだよ。落書きなに描こうかな」


「よし出来た!」


 ガチガチに固まっている俺達を余所に二人はある程度設定を決めたのだろう、撮影コーナへの移動のアナウンスが開始された。


「俺達は何処に移動すればいいんだ?」


「最初は私達が前で、途中皆で入れ替われば良いんじゃない?」


「う……恥ずかしいわ」


「おー緊張してきた」


「面白そうだからカウントダウンが始まってからお題出すね〜」


「「「えっ」」」


 撮り方を知っているのは朱音のみで他3名はルーキー。ここから先の指示は朱音を頼らなければ酷い絵面になるに違いない。

 最初は入り口側から高垣、朱音の順に。朱音の後ろは佑で高垣の後ろが俺。

 ある程度位置取りが決まった所で、次のアナウンスが始まった。


 〈撮影が始まるよ〜〉


「おい朱音。お題は何をすればいいんだ」


 〈3、2……〉


「最初は猫のポーズ!」


「猫ぉ!?」


 いきなりの注文に焦り高垣と佑を見ると既に両手を猫の手に作り待機していた。順応が速すぎる!


 〈1……〉


「あっ……」


 〈はいチーズ!〉


 急いで猫の手を作ったがちゃんと皆と揃えて入れただろうか。だが手順は理解した。後はこの先朱音からどんな指示が飛んでくるのか緊張するだけだ。

 戦慄している間に次へとアナウンサが始まった。


 〈3、2……〉


「次はハグ!詩織ちゃ〜ん」


「きゃっ!?」


 〈1……〉


「俺達は恥ずかしいから肩組んでピースだ!」


「どんと来い」


 〈はいチーズ!〉


 前方でわちゃわちゃとハグ(一方的)をする二人と後方で肩を組み合う俺達。前後で違うポーズなので可笑しな絵面だろうが最終的には落書きでどうとでもなる筈だ。


 〈3……2……〉


「次のお題は何だ朱音」


「ぷ~のポーズ!」


 〈1……〉


「ぷ~だな……ぷ~?」


 〈はいチーズ!〉


 何のポーズか分からなかった俺は取り敢えず空気を吸って頬を膨らませる。パシャっとフラッシュがなった後に皆を見てみると前二人は自分の両手の人差し指で両頬を軽く押し込んでおり、佑は俺と同じく頬をぷっくらさせていた。俺達は以心伝心、ズッ友だよ!


 ☆☆☆☆☆☆


 俺達男衆も前にポジションを移して朱音の突拍子も無い指示を聞いたりして、とうとう最後の7枚目となった。今は俺と朱音が前に、後ろは佑と高垣。

 さぁ最後はどんな要求が飛んでくるんだ。心構えはもう出来ている。


 〈最後の撮影だよ〜〉


「ん。やっと最後ね」


「結構楽しいね。ヒロ」


「あぁ。初めてだけどホント楽しめたわ」


「最後は何しよっかなぁ」


 それぞれ思い思いの事を呟いている。あんなにドタバタした撮影だったが、最後となると何処か寂しさを感じてしまう。


「ヒロくんは中央に来て少し屈んで!」


「お、おう。俺が真ん中でいいの?」


「いいの!」


 朱音にそう言われ真ん中に移動する。三人が俺を囲む形が出来上がってしまった。一体何をするつもりだろうか?


 〈3……2……〉


 カウントダウンも2秒を切りもう直ぐ撮影が開始されるのに朱音はまだ指示を出さない……いや、画面に写る他二人を見てみるが何かしら朱音から指示をされており慌ててるような雰囲気を感じなかった。なお、その指示は俺の背後で隠れている為何をしているのかは分からない。


 〈1……〉


「皆ヒロくんに突撃!!」


「「りょーかい」」


「ぐぇぇっ!」


 三人していきなり各方面から抱きついてきた。頭、両腕に体重が掛かった事により油断していた俺は変な声が出てしまった。

 その瞬間にパシャリと音が響き撮影が終了してしまったようだ。


「皆さん何してますのん?」


 頭には顎を乗せ自身の顔の横でピースを作る佑。左では朱音はハグの様にして俺に抱きつき、右では高垣が肩でタックルしている様なポーズ。というか密着し過ぎて柔らかい感触がするんですが。


「ほ、ほら。早く落書きするわよ」


「あ〜楽しかった!また四人でやりたいね!」


「ヒロの顔に悪戯してやろ」


 固まる俺を置いてわいわいと三人でカーテンを捲って外に出る。


「何だこれ……」


 ☆☆☆☆☆☆


 しばらく呆然としていた俺は、次の客であろう見知らぬ女子達の声によってはっとなり落書きスペースへ行く。筺体からぬっと出てきた俺にその女子達はびっくりしていた。何かすまんな。


 目的の所へ行くと既に三人は外に出ており、朱音の手には印刷されたプリクラが。


「それじゃぁ店員にハサミ借りてくるよ!」


 俺が来たことを確認した朱音は店員の元へと駆け足で向かっていった。


「はぁ。楽しかったけど疲れたわ」


「ヒロは楽しみにしててね」


「おい佑。俺の顔に何書描きやがった!?」


 何処か嬉しそうな顔をしながら溜息を吐く高垣と、ニヒルな笑みを作っている佑。俺が関与しない間に一体どんな事を描いたのだろうか。


「てか佑は分かるけど朱音と高垣は何であんな事したんだよ。密着し過ぎだろ」


「その場のノリよ」


「いやノリって言っても限度ってもんが」


「ノリよ」


「……うっす」


 何故朱音と高垣が飛び込んできたのかは心意はわからないが、高垣の言うプリクラの場でのノリというやつだろう。あの冷静沈着な高垣をここまでに大胆にさせるとは、プリクラの魔力恐ろしや。そして朱音さんや、飛びつく相手が間違っていますぞ。

 数分して朱音が細かく切ったプリクラを手に俺達の元に戻ってきた。


「はいこれ!好きに使ってね!」


 それぞれ受け取り、まじまじと見る。俺もしっかり写っていただろうかと気になり見てみると、皆は容姿が良いからか少し綺麗になった程度なのに俺だけ滅茶苦茶綺麗な顔をしていた。そして所々には星やらハートマークやら、一部には額に肉と描かれていた。佑の言っていた楽しみとはこの肉の事か。ていうか誰ですこいつ?


「俺だけ顔変わっとるやんけぇ」


「見れば分かるよ〜ヒロくんだって」


 朱音は俺を宥めてくれるが佑と高垣は肩を震わせ俯いていた。取り敢えずそれを見てみぬ振りして最後に撮った物を見てみる。


 そこには驚いた俺と、高垣は苦笑い、佑は珍しくニンマリと笑い、朱音は嬉しそうに。三者三様だが、俺にとってはとても尊いものに見えた。


 ☆☆☆☆☆☆


 辺りが少し暗くなってきている中、徒歩で来た俺も流石に疲れたので、皆と一緒に帰りのバスに乗る。

 途中で目的地に着いた際に此方を振り向き『楽しかったわ』と挨拶してバスを降りた高垣に手を降ってお別れをしてから数分後。

 俺達三人も目的地に着き全員で降りる。しばらく今日の事を話合って歩いていたが、先に俺の家に着いたのでここで名残惜しいがお別れをしなければならない。


「んじゃ、ここでお別れだな」


「今日はありがとね!とっても楽しかった!」


「俺も久しぶりに大笑いしたよ」


「それな。珍しく声を出して笑いやがって」


 次会うのは週明けの月曜日。

 今日は色んな事があった。高垣の変わり様にクレーンゲームでの勝負。最後は初めてのプリクラ。楽し過ぎて、明日が酷く詰まらない一日になりそうだ。


「んじゃ、また月曜日な」


「「バイバイ」」


 手を振り合ってから二人が見えなくなるまで見送る途中。

 目を閉じて今日の事を思い出しながら、両手の親指と人差し指を突き立てカメラの形を作る。

 沈みゆく夕日を背景に、二人が犬のぬいぐるみを抱えて並んで歩く姿を中央に捉え、その光景を目に焼き付かせるように脳内でシャッターを切った。

 そして、最後の朱音の行動を思い起こす。


 ―――今日のはなにかの()()()だよな?朱音。あれは相思相愛である佑にやるのが正しい筈だ。あぁそうだ。あれはただその場のノリってやつだよな。


 自分でも解らない感情が少し疼いた気がした。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。


これはラブコメなのだろうか...

プリクラとかの撮影方法とか実際違うと思いますのでぼちぼち修整するかもです

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― 新着の感想 ―
[一言] >機体の中に入ると 誤字とは違うかなと思うので感想欄に書きますが、筐体か機械で良いのではないでしょうか
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