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17話

 此方を見て目を見開いて固まっている朱音。ふわふわした白のニットセーターに大胆にも太腿を露出させている茶色のハーフパンツ。そして黒の厚底ブーツによっていつもより身長を高く見せており、桜色の頭の上には小さいベルトの着いた黒のキャップが乗っていた。


 そんな朱音に反してこちらへ手を振る佑は白シャツの上に黒のセーターを着ており袖を捲くっていることにより細くとも少し筋肉質な腕が見え、手首には腕時計を着けている。黒のデニムパンツによりすらっとした脚の長さが伺える。


 並んで此方へ歩き始めた二人を見て俺の脳は震えた。

 あぁこれが、推しがてぇてぇんじゃ〜という感情か。


「よっすー二人とも」


「こんにちは」


「やっぱり高垣さんなんだ。一瞬見違えたよ。ヒロは……なんか震えてない?」


「気の所為でしょ」


「おい、何で高垣が答えるんだ」


 こちらに駆け寄って来た朱音と足早に歩いてくる佑。佑は高垣の変わり様に多少驚いていたが、朱音に関しては俺達の挨拶を無視して高垣をまじまじと見ている。無視というよりは聞こえていないのだろう。


 ほわ〜、大人〜とか言いながら少し恥ずかしそうに突っ立ったままの高垣を中心に回り始めた。朱音にとっても今の高垣は衝撃的なものだったのだろう。

 少し見て満足したのか朱音は佑の横へと戻り、何かに気付いたかの様にはっとした顔をした。


「こんにちは!ふ、二人はデートしてたの!?」


 そしてガバッと勢いよく前のめりにそう聞いてくる朱音。ふむ、デートか。どうなのか高垣に聞いてみよう。


「デートなのか?」


「さぁ?」


 聞いた俺も、聞かれた高垣もお互い揃って首を傾げた。俺達の心はシンクロしている様だ。


「ちょーっと失礼するね」


「ちょ、朱音」


 突然佑の腕を掴み少し離れたところへ連れて行く朱音。佑の耳元へ手を添えて何やらコソコソ話をしているみたいだが、何かあったのだろうか。

 じっと二人を見ていると肩に何かしらの感触があったので振り向くと高垣が指で突いていたようだ。


「どうした?」


「この際だし一緒にクレーンゲームとかする?」


「いや、二人はデートしてたかもだろ。邪魔はせんよ」


「そうでもないと思うけどね」


 高垣が二人の元へ視線を送ったので俺も見ると話は終わっていたのか丁度此方へ歩きす所だった。もしかして、偶然俺達と会ってしまったからデートプランの変更とか?


「おまたせ〜!良かったら今から私達も混ざっていいかな?」


「迷惑じゃなければいいけど」


「私は構わないわ」


 何やら一緒に遊ぶという流れになっている。いや待て、佑と朱音はこれから一緒に色んな所に周るんじゃないのか?俺達が入ってしまえばそれはデートではなくただの遊びになってしまうぞ!いいのか二人とも!


「俺は迷惑だとは思わんが、二人はデートの途中だったんじゃないか?」


「え?デート?」


「え?」


「「え?」」


 え?デートしてたんじゃないの??え、これは一体何が起きているんだ!?


「何してるんだか。ほら、さっさとゲーセン行くわよ」


「ゲーセン久しぶりだ。腕がなる」


「浅見君意外と乗り気なのね」


 困惑している俺達を見て高垣は溜息を吐いてから、佑は腕を回しながらゲーセンの中へと入っていった。

 俺達も目を合わせ、頷いてから二人の後を追った。


 ☆☆☆☆☆☆


 四人でクレーンゲームコーナに入る。

 至るところにある商品は今人気らしい色んなぬいぐるみやアニメキャラのフィギュア、ゲーム内マスコットキャラの載った貯金箱など様々だ。

 そして今、犬のぬいぐるみシリーズとでも言うのか、横にずらりと様々なデザインで並んでいる所に来た。

 何を取ってみようか、といった所で朱音はある犬のぬいぐるみの入ったボックスをじっと見つめていた。


「朱音、あれ欲しいのか?」


「え?うん。可愛いなぁ〜って思って」


「ほーん?」


 気になって犬のぬいぐるみの顔を見てみる。可愛いらしい丸っこい耳だが頭部の毛並みは何故かボサボサにデザインされ、つぶらな目の下にはどす黒い隈の様な模様に涎と思わしき装飾を口元から出している。俺の親父が仕事帰りで家で寛いでいる時に似ている。おっさん犬というものか?

 いや、そもそも可愛いのかこれ。


「いや可愛いのかこれ」


「うん。ヒロくんに似てるよね」


「うん。確かにヒロに似てる」


「俺そんな顔してんの!?」


「フフッ」


 少しね〜、と朱音は舌を少し出しながら、佑は何故か神妙な顔をしながら頷き同意し、高垣に至っては笑っていやがる。

 俺の心臓は未だ嘗てない程に脈動していた。緊張等では無く羞恥に似たものであり、こんな間抜け面な熊と俺に似ているところがあるのかと。帰ってから鏡を見なければ。


 だが、俺の心臓はどうだっていい。ここは佑にぬいぐるみを取らせ朱音にプレゼントする方向にもっていこう。

 景品を嬉しそうに持つ朱音とそれを微笑ましそうに見る佑のビジョンが脳裏を過ぎる!


「よし、佑。ゴー!」


「任せろ」


 腕を曲げ力瘤を作ったノリのいい佑は朱音の欲しがっているおっさん犬(仮名)の元へと向かう、かと思いきや隣の本命より可愛らしい犬のぬいぐるみの方へと向かい200円を投入した。


 違う。そっちじゃない。

 話を聞いてましたか佑さん。たった今俺に似てるらしい犬の話をしてたのに何でそっち行っちゃうんですかねぇ。


「何でそっち行っちゃうの佑」


「こっちの方が可愛いから」


 あらやだ。今の佑の方がお可愛くてよ?ギャップに思わず心臓がキュン死にしかけましたわ。


「早く取りなさいよ。新藤」


「え、ヒロくんが取ってくれるの?」


「……オゥ」


 恐らく俺の考えを看破しているであろう高垣と上目遣いで聞いてくる朱音。

 作戦は失敗したが、朱音の欲しがる顔に庇護欲を唆られボックスの対面に立ち財布から200円を取る。


 誠に遺憾ながら俺に似ているらしいこの犬公を俺が取るのは抵抗があるものの、朱音の笑顔が見れるのなら躊躇いは無い。


 俺達の戦いは、ここからだっ!


 ☆☆☆☆☆☆


「結局2000円でやっと取れたわね。ご苦労さま」


 結果。戦いに勝って勝負に負けた。後ろにお客が並ばなかったお陰で連投出来た事は幸運だが。

 肩に手を置き慰めてくれる高垣の優しさが心に染みること。


「うぅ……なんかごめんね?でもありがとう!ずっと大事にするよ!」


「はは。良いって事よ」


「俺一発で取ったよ。イエーイ」


「佑はお黙り!!」


 ぬいぐるみを胸に抱き寄せ申し訳無さそうにした後笑顔で感謝を伝えてきた朱音。対して佑はぬいぐるみを脇に挟み無表情でVサインを作って俺を煽ってきた。でも憎めない!

 いつの間にか高垣も何かが入った黒のビニール袋を持っており俺がぬいぐるみに格闘している間に景品を取っていたらしい。


「見せないわよ」


「え〜見せてくれよ。何取ったか気になんじゃん」


「詩織ちゃんは私が今持ってる犬さんと一緒の、小さい方を取ってたよ」


「ちょっ朱音!?」


 お前もこの犬公が可愛いと口にするのか。しかし慌てすぎだぞ高垣。


「へぇお前も物好きだな。こんなのが可愛いと思うのがァァ!」


「黙りなさいっ!」


 恥ずかしかったのか顔を真っ赤に染めた高垣は俺の足を思いっきり踏んづけてきた。てか高垣ヒールじゃん!めっちゃ痛ぇ!


「あはは!最初はどうなるかと思ったけどこういうのも結構楽しいね!」


「あぁ。中々楽しめた」


「ふん。まぁ私も楽しめたわ。ありがとう」


 二人が何か言っているが俺は足の痛みに蹲りうごごご、としか返事が出せない。

 そうしていると『あっ』と何かを見つけたらしい朱音の声が聞こえた。


「プリクラ!皆で撮ろうよ!」


「いいね。記念になるし」


「私は遠慮するわ。恥ずかしい」


「そう言わずに詩織ちゃん!ほらほら!」


「ちょっ朱音!待ちなさい!」


 俺を置いて何やら話が進みこっちこっち、と言う朱音と慌てた様な声を出している高垣。大方、朱音に腕を引かれ連れて行かれているのだろう。


「ほら、立てる?」


「あぁ。ありがとう佑。やっと痛みが引いたわ」


「綺麗にカカト入ってたね」


「それな」


 足の痛みも引いていきそろそろ立てるといった所で俺を待っていたのか、佑は手を差し伸べてくれた。それに甘えて手を取り立つ。


「二人とも早く〜!」


 プリクラの筺体からカーテンを捲り上げ俺達を呼ぶ笑顔の朱音。高垣は見えないが既にスタンバイしているのだろうか。


「ほら、行こうか」


「おう」


 未だ大きく手を振っている朱音の元へ二人で向かった。

※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。


ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。


(悲報)話が全然進んでいない。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  こういう積み重ね回も物語には必要かと思います。  なので決して話が進んでいない訳ではないと思いますのでそんなに気にすることは無いかと。  むしろ主人公の立ち位置が実は脇役どころか主人公ポ…
[一言] 全員(男も含めて)主人公狙いかな。 それとも友情と恋愛感情の区別がまだついてない…は、年齢設定的に無いか。 いずれにしても今後が楽しみです。
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