11話
ページを捲る音、シャーペンを走らせる音、カーテンを揺らす風の音、静かな図書室の中で誰もが喋らずに黙々と作業する。
そんな中、俺は周りとは少し違うことをしていた。
目の前でノートに何かを書き込み、次いで教科書を見て満足気に頷く親友達をただただ眺め続けていた。
教える立場で誘われた俺ではあるが、俺の浅はかな考えで図書室を提案してしまったが為に、役割を果たしていない。
だがこれはこれでむしろいい状況なのでは無いか、と前向きに考えていた。
そう、お似合い二人が揃って勉強に勤しむ。これは、青春の1ページなり得ると。脳内フォルダに永久保存物だ。
過去の俺グッジョブ!と声を出して叫びたい気持ちではあるが悲しいかな、ここではその望みは叶えられない。だからただただ眺め続ける。
そういえば中学時代はこういった場所で勉強等とする事は無かったと、思い返した。読書時間?のような授業があったような覚えがあるにはあるが席も離れ離れで読書するだけに終わったし。
そんな事を思い出しながら、勉強する気も起きない俺は二人が何かしらコンタクトを取ってくるまで待機する。
しばらくして佑の方から、何かを書いた紙の一部を此方に差し出してきた。
『暇そうだね』
暇ではありませんよ佑君。先生(仮)は今もこの光景を脳内に蓄積させているのです。
だが心の声が聞こえる筈もないので紙の余白に返事を書いて返す。
『だって何か教えるにしてもここで喋らん方がいいでしょ。後で答えとか解き方とか教えるからそのまま続けて』
『了解しましたヒロ先生』
『素直で大変宜しい。帰りに肉まん奢っちゃうぞ☆』
『(*´ω`*)アリガト』
「―――ぶふっ」
思いもしない顔文字返事に思わず息を漏らしてしまった。まずい。笑いを堪えすぎて腹がねじ切れそうだ。
口元を抑え必死に声を押し殺していると、今度は朱音の方から紙を差し出された。
『\(*´ω`*)/ヒロ先生〜』
「……」
「あれ...あれ〜?」
スン、と笑いが引いた俺。二番煎じで笑うほど俺のツボは浅くないのだ。見誤ったな。
そんな俺を見た朱音は小声で首を傾げながら困惑していた。というか、貴女教えを請うて来た立場でしょう。勉強に集中しなさい。
『巫山戯た貴女には帰りに肉まん奢りません』
『太るから要らなーい』
(こ、こいつぅっ!)
ニヤついている朱莉は、恐らく俺と佑のやり取りを見てからかいたかっただけなのだろう。そんなこと言うやつには佑への肉まんのついでに、朱莉の好きなショートケーキをプレゼントしてやろう。ふはは、体重計で絶叫する姿が目に浮かぶわ。
ちょっと先の楽しみを想像しながら、二人の観察を続行した。
☆☆☆☆☆☆
今は三人で帰宅中。
結局あの後に何か変化があった訳ではなく、二人して集中しながら勉強を続行していた。
誰かしらが近くの席に座るといった事も、話しかけられる事も無かった。
二人を見ていた俺は、ある事を思いついていた。勿論サポートの件である。
名付けて、『周りの生徒に憧れられる関係作戦』
今日の図書室の雰囲気、本を読む振りをして二人を遠巻きに観察する生徒達がいたのをみて思い付いたものだ。時折周囲を見渡した俺と目が合う生徒が多数いたのが何よりの証拠。
それに恐らく、というより絶対と言えるだろうが『あの二人...どんな関係なんだろう。あ、変なのと目が合っちゃった。やべっ』といった眼差しだった。
目が合うまでに、その視線の中では俺が空気のように透明に見えていたのだろうか、それとも佑と朱音の存在感が強過ぎて俺の存在感が薄れていたのか。後者なのを期待するばかりである。
どんな問題が出るんだろう、といった会話をしながら、視線の先でコンビニを見つけた。
「佑、約束通り肉まん奢ってやるよ」
「ぶい」
無表情でVサインを作る佑。今日は中々個性的な表現するね。ネットで見つけたのを使ってみたかったとかそういった所だろうか。
「私は肉まん要らないからね」
「あぁ、朱音も頑張ってたからショートケーキ奢るよ」
「本当に!?うわ〜どれ選ぼっかな〜」
無表情の佑とは正反対に嬉々としてコンビニへ入る朱音。そして計画通り、といった顔を浮かべてしまう俺。
余談として、朱音は一番高いショートケーキを選んでいやがった。
☆☆☆☆☆☆
風呂上がり、スマホを確認すると着信が一件と大量のメッセージ。最後に見えた一言には……
『覚えておけ』
普段の朱音とはかけ離れた淡々とした言葉。何かしらあったのだろう。心当たりは当然あるが、俺は悪くない。
『しっかりと運動を行いましょう(笑)』
直後に怒りスタンプの連撃。それを見て鼻で笑ってしまった。
そもそも、一日で気にする程に太る訳でもないでしょうに。
※思い付きと勢いで書いているため、今後話の内容、矛盾点等を少し訂正する場合もありますが、流れは変えないようにします。申し訳ありません。
ブックマーク、評価、いいね、感想、誤字報告ありがとうございます。




