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●REC!

ようやく仲間が増える話。

 耳元で聞こえたはずの声の主を探してキョロキョロしてみるが、こちらを見ている者はいない。


『おーい、マスター? 聞こえてますかー? 聞こえてたら手を挙げてー、おーきな声でお返事――』


 その声は耳からというより頭に直接響いた。もしやとモノクルを外すと聞こえない。またモノクルを付け直してみる。


『――さいってばー! あ、外すなんてひどいじゃないですかぁ、もーっ!』


 オレは何かヤバいことに巻き込まれてるんだろうか?


『マスターが今巻き込まれている事態は《初期設定》ですよー』


 オレの疑問に答えた!? 《初期設定》って何言ってるの?


『じゃあ言語設定を変更しますか?』


 そういうことじゃねぇよ! やっぱ考えたことに答えてるよ!

 なんか自棄な気分でエールを飲み干した。お代わりも頼む。


 お前は何者だ、モノクルよ……あ、モノクルだよな? あれ、女? モノクルってなんだっけ(混乱)?


『いちおー自己紹介しますねー。えーと、怪盗シリーズ・統合インターフェイス・モノクルは他の盗賊シリーズとリンクすることで操作系および保守管理を一元化します。

 また、後の世の人類が怪盗シリーズの記憶を失った場合、これを補完します。

 当機には他にも様々な機能があり、3600時間のチュートリアルにより使用方法を補完します。以上でーす、わかりましたー? わかりましたよねっ』


 何その製品紹介。

 3600時間のチュートリアルってぶっ通しでも150日かかるじゃねぇか!

 とりあえず使い方は教えてくれるってことだよな? 状況見て都度都度教えてくれ……いや、下さい、モノクルお姉さん。


『モノクルお姉さんってナンデスカ……名前で呼ぶなら以前の所有者のように“アミ”って呼んでくださいよ。じゃあヘルプ機能を常駐して臨機応変にいってみましょー』


 神代語で“相棒”か。オレはタイチだ。よろしくな、アミ。


『あ、常駐してるとマスターの思念に思わず反応しちゃんで、女の子とナニするときは当機を外して柔らかい布で拭いてから、ケースに保管してくださいねー』


 オフにしようかな、それ?



                   ***



 二杯目のエールを飲み干して帰ろうかという時。


「こちらのお兄さんに同じものを。お隣、いいわよね?」


 いつの間にか隣に客がいた。息が掛かるほどの距離で気付かないとは、この女の子がすごいのかオレが気を抜きすぎなのか。


 ぱっと見はすごくいい女。ショートパンツに腹出しスタイルのお陰で、出るとこは出て引き締まっているのがわかる。同い年くらいか、年上ということはない。

 油断ならないのは、そんな格好で夜に出掛けて、男に声さえ掛けてること。冒険者だとすれば盗賊、それとも裏稼業か? それにしては肌がきれいで触りた……けしからん。同じ理由で娼婦にも見えない。


「あはっ、驚かせたかしら。お揃いのもの着けてるから、つい、ね?」


 言われてみると緑色の眼にオレと同じデザインのモノクルをかけている。同じ聖遺物だろうか。

 快活な笑顔に、裏の人間なら隠しきれない退廃はない。冒険者だろう。


『うっほぅ、セクシーなお姉さんですね、マスター。通信子機を認識しました。リンクしますか?』


 アミが言うものは女の子のモノクルを指すのだろう。通信はともかく子機ってなんだ? わからないことはとりあえず保留だ。アミ待機、ステイ!


「……そんなに見つめられると、さすがに恥ずかしい……わ?」


 女の子の二つに束ねた金髪が揺れて、我に返った。

 気まずそうにもじもじされると悪いことをしているような気がして……興奮するな!

 それはともかくちょっと探りを入れよう。聖遺物を狙って近付いてきた線もある。


「コホン。ああ、悪いね。それも聖遺物なんだろ?」

「そうよ、《怪盗シリーズ・通信子機》ね。なんの効果があるのかわからないけど、気に入ってるの」


 おや、アミとは違うものなのか。じゃあしゃべり出すこともないのかな?


『肯定ですマスター。通信子機は同一筐体を用いて量産された単一機能製品ですね。当機はもちろん一点物ですっ』


 誇らしげだな……だがアミの方が高価なら、それは言わない方がいいな。


「おぅ、オレもオレも! オレはタイチ、盗賊だ」

「わたしはリーゼ、同じく盗賊よ。あなたのことは知ってるわ、有名だもの――有名だった、の方がいいかしら?」


 王都に勇者パーティーより優秀なパーティーなどいくつもあるが、有名どころといえば一番だろう。お陰でオレも顔が売れている方だ。


「あー、今朝ギルドにいた?」

「そういうこと。盗賊をパーティーから外すなんて馬鹿げてるわ。勇者たちは――死ぬわね」


 断言するリーゼの瞳がギラリと光ったような気がして、ぞくっとした。いや、そういう性癖はないよ?

 リーゼが頬杖をつくと胸の谷間が変形した。リーゼ渓谷……転落したい。


「盗賊抜きなら、せめて遺跡の壁を壊せるくらいの火力がないと無理ね」

「無茶言うぜ、そりゃ崩れた箇所もあるから壊せないものじゃないんだろうけど」


 魔力渦巻く遺跡の構造物はやたらと強靱だ。鍵をこじ開けられないのも同じ理由。

そう言うとリーゼは大きく頷いた。たったそれだけの動きで、おっぱいが、揺れた……!


『録画したい時は●RECと叫んでくださいねー』


「●REC!」

「急にどうしたのよ……?」

「んんっ。わりぃ、なんでもない」

「……遺跡に道をつけられるのは盗賊だけよ。知ってるかしら? この世界の遺跡はすべて盗賊神が作ったって言い伝えがあるの。だから遺跡は盗賊に攻略されたがっているのよ」

「教会でも聞かない話だな。神は盗賊のために遺跡を作ったってのか? でもさ、オレたちだけで魔物の相手はキツいだろ」

「戦わなければいいじゃない。ボスだって倒さなくても、宝箱抱えてセーフゾーンに戻ればいいんだし」

「天才かよ……! ひょっとしてリーゼもソロ攻略者?」

「そうよ、このモノクルはその時の獲物。ということはタイチも?」


 オレは《盗賊の塔》であったことを加護《怪盗》も含めてリーゼに話した。

 意気投合したから信用したわけじゃない。なんせそれだけ腕利きの盗賊なのに、オレはリーゼの顔も名前も知らなかった。むしろ怪しい。怪しけしからんおっぱいだ!


『マスター、思考の結論が毎回おっぱいなんですけど……じゃあどうして話したんです?』


 そりゃ何か情報持ってないかと期待したからだよ。怪しくても敵とは限らないぜ?


 そして腹を抱えて大笑いしているリーゼさんがこちらです。

 笑うと胸が揺れる、だと……!? ●REC!


「面白いわねぇ、わたしも《壁抜け》が使えたらやってみたいわ! あなた、気に入ったわ。ねぇ、この後わたしと……」


 おほぉうっ、絡みつくような視線が、エロいっ。これが目力か……! 

 さらに身体を密着させて、太ももに手を這わせるるるっ……オ、オレもお返しした方がいいかな? もらいっぱなしってのは良くないよね?


 欲望に身を任せた瞬間、オレの身体は宙を泳ぎリーゼに向かっていた。驚いたのはオレが服を着ていないことだ。首回りからすり抜けたとしか思えない現象だった。


『あー《怪盗》の《早脱ぎ》を習得したんですねー、マスター』


 それは好都合、目指せリーゼ山脈――!


 ――顔面に蹴りをもらって床に撃沈した。あとパンツは履いてた。


「あはっ、もう酔っぱらったの?」

「わりぃ、ちょっと暑くてな」

「……ならいいわ。そんなことより、ラーメンの仇。とりたくない?」


 あー、できれば足どけてくんないかな……。


次回はお宝の下見の話。

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