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ボス魔物には遭遇すらしなかった

最終話・第17部分の予約投稿が終わりました。これ以降毎日8時更新で12/20完結予定です。

 面倒な予備動作だったが《壁抜け》に成功した。こればっかりはショートカットできないんだよなぁ……人目が無くてよかったぜ。


 盗賊加護の極み、《壁抜け》――その応用《床抜け》。習得と実行の条件が不可解なせいか、オレは他に使える盗賊を知らない。


 ちなみに習得条件は、「新品の馬車を買って一人で廃城に行き、松明を拾って外に出る→馬車に松明を置いてもう一度廃城に入り2階の落とし穴に落ちる→落ちた先でローソクお化けを3体倒して戻る」だ。不可解すぎだろ、特に松明。


 そこそこ広いセーフゾーンの中は適温で、壁に囲まれ窓も無いのに明るい。見上げると天井全体が発光していた。壁も床も尋常ではない魔力が通っており、異界だと認識させられる。


 てか外界から異界に侵入できる《壁抜け》ってなんなの? とも思うがまずは床の罠を何とかしよう。今ロープで宙吊りだし。

 《罠解除》……は使うまでもねぇな。


 攻略記録に『セーフゾーンでは床のタイルを順番に踏むこと』とある通り、床に敷かれたタイルには様々なシンボルが描かれている。特定の順序でシンボルを踏まないと起動する典型的な罠だ。

 この手の罠は定番の解法がある。オレはポーチから銅貨を取り出すと、


「盗賊は~空を飛び、海を~越えた~♪ 姫が信じて~くれた~から♪ 盗賊は山を~ぬす~み♪ す~べてを見通し、星に~さえ手が届く~♪」


 調子っぱずれで歌いながら銅貨を弾いて床のタイルに打ちつけていった。シンボルの順番は『風・水・山・目・星』だ。盗賊なら誰でも知っているこの唄は、大昔に吟遊詩人が盗賊の加護を歌ったものだという。あと歌う必要はない。

 カチャリと仕掛けが外れ、ボス部屋への扉が解錠された。

 ロープ無しで着地してたら即アウトだったな。えーとこの罠は……

 ……『振り出しに戻る』


「……ここを作った神は性格悪い奴だな!」


 床に脚を降ろして一息吐くと、散らばった銅貨をそそくさと回収する。

 なんかこれ格好悪いなぁ……あれ、《壁抜け》にしろ、盗賊の加護って格好悪いんじゃ(白目)……? 《罠解除》使えばよかったんだなぁ。

 なお、加護は身に着けた技術のショートカットに過ぎない。知識や適した道具がなければ失敗する。

 銅貨を拾っていると、勢いで捲れた山のタイルの下に罠の核を見つけた。罠の核はクルミ大の玉で、《罠設置》はこれがないと使えない。そっとポケットに入れた。


 ちょっと気を良くしたオレはボス部屋の扉を無造作に開け、中へ入る。扉をしっかりと閉め《施錠》すると、鼻歌交じりで広いボス部屋の奥へ真っ直ぐに進んだ。

 塔のてっぺんとくりゃ、籠の中のお姫様でもいないもんかね(願望)。


「さ~てお宝ちゃん、ごた~いめ~ん」


 こればかりは言わずにいられないのが盗賊の性。

 祭壇らしき場所に安置された立派な宝箱の鍵穴を慎重に指でなぞり、ピッキングツールから一本取りだす。


《解錠》


 カチリと鍵が開いた。中身は――

 聖卵ひとつ、古代金貨20枚、宝飾品が少々と……なんだこれ?


 すがめつつ摘まみ上げたのは錆の浮いた鍵だ。財宝には見えない。試しに宝箱の鍵穴に差してみるが合わなかった。ということは、

 セーフゾーン入り口の鍵だなこれ。うん、あるある。


 遺跡を作った神というのがどの神なのか誰も知らないが、相当にお茶目か残酷な神様なのは確かだ、と常々思っている。

 そういえば今朝、親友に「神が導いてくれるから鍵開けは不要」と言われたばかりなのを思い出し、ついでにクビになったことを思い出し、チクリと痛んだ。まだまだ痛覚耐性が足りない。でもさ、


「自分で道を決めるから、遺跡探索(おたからさがし)は面白いんじゃねぇか」


 財宝を入れた袋を小脇に抱え、最寄りの壁から外へ抜けた。荷物がある時の《壁抜け》は殊更情けない格好だったから、本気で改善したい(切実)。


 なお、ボス魔物には遭遇すらしなかった(ニヤリ)。



                   ***



「ぎぃやぁぁぁあっ!?」


 というのはオレの悲鳴。

 ロープで地上へ降りるやいなや服を掴まれ、不健康そうなガリガリのおっさんの顔が眼前にあったら叫んでいいと思う。


「あ、あなたに……」


 不幸がありますようにって言われたら泣くぞ。てか声震えてんぞ、金なら貸さん。


「あ、あなたに……加護が授けられました……」

「お、まじで?」


 久しぶりに聞いたなこれ。《壁抜け》以来だ。

 と、途端に何かが身体に入り込んだ感覚がある。加護が血に刻まれる瞬間だ。

 訓練や経験で実力が付くと加護を授かり、怠けると失う。信仰する神の教会に行って、神官から神託の内容を聞かないとわからないこともある。なので週に一度は教会へ行くのが一般的だ。


「加護は《怪盗》……この加護は盗賊神の寵愛とともに……常にあなたと共にある……でしょう……《盗賊の塔》を最も速く踏破せし盗賊タイチよ……」


 ぷるぷる震えてるのが気になって仕方ないが、どうしてオレの名前知ってんの?

 じゃなくて、10分くらいだとやっぱ最短記録だったんだなぁ、ギルドに報告した方がいいんだろうか。遺跡の正しい名前は《盗賊の塔》みたいだし。

 じゃなくて、《怪盗》って何?


「聞いたことない加護なんだけど?」

「あ、効果は私に聞かれてもさっぱりです。そういう神託があっただけなんで。ただ常に共にある、ということは常に実行されているのでしょう。あなたの全体を魔力がよく循環しているのがわかります」

「あんた普通にしゃべれんのかよっ!?」

「いや失礼。神託を受けると消耗するもので。では本日も神のご加護を」

「お、おう。よい仕事に稼ぎを」


 「神のご加護を」と言われたら「よい仕事に稼ぎを」と返すのがアルセーヌ信徒の挨拶だ。盗賊・商人他もろもろの神らしい。

 オレの名前も神託に入ってたんだろうか。神託の記憶はほどなく消えるらしいから、それもすぐに忘れるだろうけど。

 この世界は不思議なことでいっぱいだ。


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