表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度と聖女は致しません  作者: 天冨 七緒
勝利の女神編
48/57

48

 数日後。

 ルーメルティーニア国に到着。

 大量の荷物が運び出されるのを私は彼らの邪魔にならない位置で眺めていた。

 

「ロッティ、先にテントへ向かう。俺達と一緒に確認に行こう」


「はい」


 街を抜け、会場に向かう。 

 多くの参加者が到着し、すでにお祭りのような雰囲気。

 武具などの売り込みや食べ物屋、賭け場もある。

 馬上槍試合用の会場も既に設営され、見物用の二階建ての建物もある。

 初めて見る光景に目を奪われる。

 会場を見慣れているヴィル達はよそ見することなくテントを目指す。

 私は好奇心を抑え、彼等と逸れないよう付いて行く。


「ロッティ、ここが俺達のテントだ。んで、ロッティは個人用というか、俺の装備を置くテントになるが問題ないか? 俺達と一緒でも構わないんだが、抵抗あるだろう? 隣だから何かあればすぐに駆け付けられる」


「あの……私……本当にこっちのテントを使わせてもらって良いの?」


 荷物用とはいえ、テントを一人で使用とは贅沢に思える。


「そこに関しては問題ない。それより、ロッティには協力してほしいことがあるんだ」


「協力ですか? 私に出来ることであれば構いませんが……一体何を?」


「このような大会では女性の付き添いが必要になる時がある」


「大会に女性?」


 パーティーでもないのに、大会で女性が必要という話は聞いたことが無い。


「女性からサッシュを貰い、支持されていると思わせたい」


「支援者がいると周囲に認識されたいっていうことですか?」


「まぁ、そんなところだ。試合が進むにつれて、警戒しなければならないことが増えていく。過去には勝利する為に女性を利用し薬を盛るなどの事件もあった。なので、俺には親しくしている女性がいると周囲に思わせたい」


「そういうことですね。私が抑止力になればいいけど……」


「ロッティであれば、誰も俺に女性を送ろうとは考えないだろう」


 それはどういう意味なのだろうか?

 私を選ぶようなヴィルは女性の好みが特殊で、綺麗な女性では見向きもしないという事?


「そう……なの?」


「それだけでなく、試合の結果次第なんだが……まだ頼みがあるかもしれない、とだけ覚えていてほしい」


「分かりました」


 これだけお世話になっているんだ、そのくらいなんてことない。

 私に出来ることであれば何でもする。


「俺は参加の手続きをしてくる」


 ヴィルは試合出場の手続きに向かう。

 エディは荷運び、ターナムは試合で使用する甲冑の手入れなどをしている。

 私はというと、試合で使用する重要なものを壊すわけにはいかず、一人荷物用のテントの隅で待機している。

 船内で働いたわけではないが、長旅したのも船旅も初めてのことで疲れてしまい気が付いたら眠っていた。


「ん? んふぅ?」


「ロッティ起きたか?」


「ヴィル?」


「荷物の整理も終え、これから皆で食事に向かおうと思う。行けるか?」


「はい。あっ、もしかして待たせてしまいましたか?」


 皆を待たせてしまったのだろうか?

 それならば、申し訳ない。


「いや、丁度呼びに来たところだから気にすることは無い」


 二人で皆が待つ食堂を目指す。

 辺りは既に薄暗く、テントの合間を縫うよう歩いて行く。

 

「おっ、あそこだ」


 到着した場所には既にターナム達が食事を始めていた。

 ヴィルは私が起きるのを待っていてくれていたのかもしれない。

 

「おっ、来たか。先に始めてるぞ」


 私達を見つけたターナムが手を振る。


「おぉ」


 円卓で二席が空いている。

 ヴィルと私の場所だと分かる。

 三人は既に食べ始めているのを見るに、やはり私はヴィルを待たせてしまっていた。


「メニューだ」


 急いで私も頼まなければとメニュー表を見るのだが、聞いたことのないメニューに困惑。


「ロッティは嫌いな物はあるか?」


「いえ、とくには……」


「なら、お勧めがある」


 何も分からない私にヴィルの提案は有り難く、彼が勧めてくれたものを頼んだ。

 運ばれた食事は初めて見るもので、恐る恐る一口頂く。 


「んんっ。美味しい」


「だろ? この店はどれも美味い。この肉料理は特に美味くて、ここを訪れると必ず頼む」


 そう言って同じものをヴィルも美味しそうに食べる。

 同じなのに、ヴィルが食べている物の方が美味しそうに見えてしまう。


「あらぁ、ヴィルじゃなぁい。やっぱり来たのねぇ。私、あなたに会いたかったのよぉ」


 現れた女性は、ヴィルの肩をなぞりながら距離を詰めていく。

 言葉にさえ女性の色っぽさが溢れている。


「……あぁ、シルビアか久しぶりだな」


「なんだか素っ気ないじゃない。ねぇ、今大会で優勝したら私を勝利の女神にしてくれない?」


「申し訳ない。俺の勝利の女神は決めているんだ」


 女性との会話の途中でヴィルから視線を向けられる。

 今まで女性に意識されなかった私だが、ようやく認識され鋭い視線を向けられた。


「貴方はヴィルの何?」


「私は……」


 何と聞かれると難しい。

 私はヴィルの……なんでしょう?


「彼女は俺の『勝利の女神』だ」


 答えられない私にヴィルが代わりに答える。

 代わりに答えてくれたのは嬉しいが、勝利の女神とは何のことだろう?


「へぇ、ならヴィルが負けたらあなたの責任ね」


 ヴィルが負けたら私の責任……


「俺が負けたら俺の実力不足だ。彼女のせいじゃない。それに俺は負けるつもりはない」


「……試合がどうなるか楽しみにしているわ。彼女に不満があったらいつでも言って。私があなたの『勝利の女神』になってあげるわ」


 シルビアという女性はヴィルを誘うような視線を送り去って行く。

 女性から見てもとても魅力的な人。

 私より、彼女の方が素敵なのにヴィルは私でいいのだろうか?

 それに『勝利の女神』……それにはどんな意味があるのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
女性が勝利の女神を気にさせないように男側が振る舞い勝ち抜くことを期待されるやつ。(できるできないは別として。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ