47
教会は戦争を彷彿とさせることや賭け事の対象となるという観点から馬上槍試合だけに限らず剣や弓など、どの試合にも否定的な立場を示していた。
聖女を出すことを目指している家門は教会の意向に逆らうことはせず、暗黙の了解で見学も控えていた。
そこまで潔癖になる必要はないという考えの者は娯楽として愉しんでいた。
そう言った試合は男性だけでなく令嬢達の間でも密かに人気で、試合終了後のパーティーに勝利した者のパートナーに選ばれることは一種のステータスとされていた。
強者に選ばれる事で、自身はそれだけ価値のある存在だと周囲にアピールできる。
「そうか。馬上槍試合は国王や教会に理解されにくく、国によっては禁止令が出されているからな。ルーメルニーティア国では、騎士の技量の見せ場でもあり娯楽の一種として馬上槍試合は盛んで外国人騎士の参加も認められている」
「ヴィルはそれに参加するんですよね? 危なくないですか?」
勝負なので危ないに決まっている。
だけど、聞かずにはいられない。
「俺は何度が出場している。試合は事故が起こりにくいよう、槍の先には被せものをしている。一試合につき、打ち合いは三回。二回相手に命中させるか、落馬させるかで決まる。勝利した者が勝ち残る。甲冑を装着しているが、当たった衝撃で打撲程度の怪我を負うが死に直結するようなことは……」
「そうなんですね」
「俺は馬上槍試合に参加する為、調整に数日前から滞在する。剣や弓矢の試合も同時開催なので、多くの騎士が集まる。期間は出場者数で変わる。王家主催のものであれば、三千人以上が集まったこともある。今回の大会はそこまで大きくはないが、約二週間から三週間が目安だろう。試合前には選手の為の前夜祭や、選手を労い勝者を祝う後夜祭が開催される」
「……試合期間中、船に滞在は出来ますか?」
「船の滞在も出来るが……一緒に選手が滞在する場に行かないか?」
「私も同行していいんですか? その……試合に集中したいのに、私がいてはお邪魔ではありませんか?」
素人が試合前の選手の緊張感を壊してしまうのではないか?
「そんなことはない。試合は個人と団体戦に分けられ、出場者に用意された場所もある。そこにテントを張るが、近くに宿もあるから気になるようなら宿での滞在でも構わない。ほとんどの船員も久しぶりの陸だから宿で休む。船に見張りの者が数名残るが……俺としては近くで確認できた方が安心できる。ロッティさえ嫌じゃなければ一緒に来て欲しいと思っている。それに選手が滞在する場には女性も多くいる。あの地域は頻繁に試合を開催しているため職人街でもあり、その中には確か女性鍛冶職人や女性武具師もいたと記憶している」
「女性鍛冶職人に武具師ですか?」
どの仕事も大変なのが、ここ数日で分かった。
そんな私だが、鍛冶職人や武具師が仕事の中でも大変な部類であるのは予想出来る。
それを女性が仕事として選んだのには驚きしかない。
「あぁ。目指すのは容易なことではないが、女性が働くことについて話を聞くことは出来ると思うぞ」
ヴィルが私を誘ってくれたのは、今後の私のため……
その気遣いに嬉しくなる。
「ありがとうございます、ヴィル達とご一緒して話を聞いてみたいと思います」
「あぁ」




