王族の責任Ⅶ
「やだ。ローラおねえちゃんがいい」
「ローラだって、読みたい本があるんだ。邪魔をするんじゃない」
確かに、本は三冊持ってきましたけども……
「ローラおねえちゃんと勉強するの」
「勉強は昨日存分にしただろう。十分じゃないか」
そうでした。
いつもより一時間ほど長くなりましたが……それもリッキー様の意欲の表れ。私も嬉しくてつい時間を延長してしまいました。
その分、レイ様とのお茶会が遅れてしまったのですよね。
そのせいかわかりませんけれど、スキンシップがいつもよりも長かったような。なかなか離してくださいませんでしたから。
「もっと、勉強したいの」
「根を詰めるのはよくないぞ」
レイ様。
学習意欲を削ぐようなことをおっしゃらなくても……
小さい頃の吸収力は物凄いものがあると思うので、もちろん、詰め込みすぎはどうかとは思いますが、うまく好奇心につなげていけば、より良い学問習得に繋がります。
レイ様は色々と心配しての発言だとは思いますが。
「あの……」
二人のにらみ合い、もとい、押し問答が続く中、思い切って声をかけました。
このままでは終わりそうもありませんもの。エイブもどう対応したらいいのか、困り果てているようですし。
ベテランの侍従であれば、経験を基にもうまく納めてくれるのでしょうけれど、まだ若いですものね。
「レイ様の心配もわかりますが」
口を挟んだ途端、二人の視線が私に集中しました。
「ローラおねえちゃん。こっちに座って」
先に言葉を発したリッキー様は、期待に満ちた表情でソファをポンポンと叩きます。隣に座ってということなのでしょう。本を読んでもらう気満々ですね。
「レイ様、私は構いませんよ」
自分の本はまた読む機会はあるでしょうし、可愛らしい天使にお願いされたら断ることはできませんもの。
「しょうがない。今日だけだぞ」
くしゃくしゃと髪を掻きながら、根負けしたのか先に折れたのはレイ様でした。子供には勝てませんものね。
でも、今日だけって……少々、大人げない気もしますが。
「やったー!」
自分の言い分が通って嬉しかったのか、歓声を上げてリッキー様が万歳をしました。
「こら、静かに」
すかさず、人差し指を口に添えてレイ様の注意が飛びます。
今の時間は、私たちの他に誰もいないとは言え、図書室ですものね。ここは使用人たちも利用可能だそうなので、他の利用者がいることもあり得ますから。
「あっ」
リッキー様は慌てて口を両手で押さえました。かわいい仕草に笑みを誘われます。
私はリッキー様の隣に座りました。
レイ様はL字型のソファの空いているところへと腰を下ろしました。レイ様の姿が斜めに見える格好です。
マロンは窓越しの日の当たる場所が気に入ったのか、レースのカーテンに隠れているようです。丸くなったシルエットがかわいい。
リッキー様から本を受け取り、ページを開きました。それから耳に届くくらいの小さな声で、読み始めました。
しばらく、私たちの様子を眺めていたレイ様も読書に専念することに決めたようで、本のページをめくる音が聞こえてきます。それにしても、重厚な装丁で分厚い本だわ。何を読んでいらっしゃるのかしら?
「ローラおねえちゃん。続きを読んで」
「ごめんなさい」
興味はちらりと目に映ったレイ様の本へと行ってしまい、話が途切れてしまいました。
リッキー様は続きが気になるようで、目をキラキラさせながら待っています。私は気を取り直して本を読み始めました。
一冊、読み終えると
「もっと、持ってくるね」
ぴょんとソファから降りると、先ほどの書架の方へと足早に駆けて行きました。その後ろ姿をエイブが追いかけます。
「はあ……。一冊じゃすまないのか」
顔を上げたレイ様が呆れたように大きくため息をつきました。




