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公爵家のお茶会にてⅤ

「一通り、挨拶は終わったかしらね」


 いろんな招待客に引き合わされて、やっと一息ついたところ。

 社交界にほとんど出ていない私には、初対面の方々ばかりで緊張しっぱなしでした。婚約破棄されたという噂の令嬢ということで、冷ややかな対応もあるかもと覚悟をしていたのですが。

 皆さんの反応を見る限り、好意的に受け入れてくださったようでほっとしました。


 もっとも社交の場で、不快な感情を露わにする夫人はいらっしゃらないでしょうけど。お母様同伴でもありましたからね。


 近況の話をしながら、自然とサムシューズの話や新規オープンするカフェの宣伝へと持っていくお母様の話術に惚れ惚れしてしまいました。

 一緒にいた方々も興味を示して下さり、話の輪が広がっていく。

 そんな様子を幾度となく目の当たりにして、お母様の新たな一面に驚きつつも、尊敬の念がさらに増してしまいました。社交とはかくありきとお手本を見せてくれたのかもしれません。


「疲れたでしょう? 休憩してきたらいいわ。室内のホールにも軽食や飲み物が用意してあるようだから、体を休めていらっしゃい」


 お母様が優しく声をかけてくれます。


 大人の大勢の方々にお会いして話をするのも初めてなので、ちょっと疲れたかもしれません。


 聞き役が多かったのですが、時には私にも話題がふられましたから、気は抜けませんでした。会話そのものは楽しかったですけれど、反応を窺い探りながらだったので神経を使いました。


 ここは大人の社交場。参加している以上は子供だと甘えてはいけませんものね。


「はい。休憩してきますね。お母様は、どうされるのですか?」


「わたくしは、他の方々にもお会いしてくるわ」


「私はいいのですか?」


「ええ。大丈夫よ。主だった方はあなたに紹介したから、あとはお茶会の雰囲気に慣れるといいわ。それに同じ年頃の令嬢も参加しているようだから、お友達も来ているのではない? ディアナちゃんもいるでしょうから、彼女とゆっくりと寛いでいるといいわ」


 今日のお茶会は、私たちのように母娘で参加している方もいるようです。学園で見知った顔を何人か見かけましたが、ディアナの姿は見当たりませんでした。事前にお互いに参加することを確認していたので、来ているのは確かだと思います。

 けれど、広い庭園に大勢の招待客ですし、挨拶まわりで周囲を見渡し探すほどの余裕はありませんでした。


 ともあれ、私の今日の役目は終わったようなので、ディアナを探してみます。


「それでは、お母様。行ってきます」


「ゆっくりしていらっしゃい。あとで、会いましょうね」


「はい」


 私はディアナを探して辺りに目を向けながら、ゆっくりと歩き出しました。



 何度もきょろきょろと周囲を見渡して、目を凝らすように探してみてもディアナは見つかりませんでした。もしかして室内にいるのかしら?


 外を探すのを諦めて中へと入りました。


 ここもまた広いホールです。ダンスパーティーも余裕で開けそう。

 吹き抜けの天井には、精緻な細工が施された豪奢なシャンデリアが釣り下がり、名のある画家が描いたであろう特大サイズの絵画が壁面を飾っています。


 窓枠をはじめ調度品も黄金をあしらった贅沢な品。

 さすがは筆頭公爵家。黄金は財力の象徴。

 豪華で目を引くのですが、下手すると成金趣味で下品に見えて扱いがとても難しいのですよね。

 黄金をあしらう割合が絶妙なのか、全体の色合いを考えて配置してあるのか、豪華絢爛でありながら気品のあるホールになっています。

 

 思わず見入ってしまいましたが、ホールの奥には軽食とドリンクコーナーがあるようで、まずはそちらに向かいました。

 ディアナを探すのは一息ついてからでもいいのかも。履きなれない高いヒールなので足が疲れてしまいました。

 

 アイスハーブティーをもらいテーブルにつくとやっと人心地。ミントとレモングラスの清涼な味わいが喉を通り抜けていきます。肩の力が抜けてホッとしていると、


「フローラ。探したわよ」


 いつの間にか目の前には、私の探し人、ディアナが立っていました。


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