第295話 一人だけの執務室*
ミャロはすることもなく、執務室の椅子に座っていた。
官僚たちは、王城島と魔女の森を囲む大魔女区画で管理されることになった。アイリーンは、ギュダンヴィエルの屋敷を宿舎として提供するために出ている。
ギュダンヴィエルの一族は、その基盤が王城の官職にはなかったので、官僚として役職に就いている者はほとんどいない。
身内びいきと思われるので、新たに採用もしていない。一歳年上の従姉にあたる人物が一人、区画整理の役職に就いているくらいだった。その点は気楽だが、屋敷を他人に荒らされないかは心配だった。まあ、そこはアイリーンが上手くやるだろう。
ミャロは外出を許されていない。
執務室の横には仮眠室が併設されているので、いくらかの不便に目を瞑れば、ここに軟禁されることに不自由はなかった。いっそ寝てしまうという選択肢もあったのだが、どうも目が冴えてしまっていて、ミャロは深夜になってからも窓から外を見ていた。
窓の外には、統治者の代わった首都が、いつもと変わらずそこにある。人々の内心の動揺とは裏腹に、景色は普段とあまり変わらなかった。警らを強化しているのか、道沿いが普段より明るい気がするくらいだ。
リャオ・ルベが訪れたのは、日付が変わった頃だった。申し訳程度のノックがあり、無視をしていると、勝手に入ってきて応接用のソファに座った。
なんて態度だ。呆れる。
「お疲れなら、ルベ家の別邸に戻っては?」
ホウ家同様、ルベ家ももちろん王都に別邸を持っている。
疲れ切っている様子だが、疲れているなら家で寝ればいい。
「騒がしくて眠れん」
「そうですか」
どうでもよかった。
「それで――お父上を殺した連中に与して、国家を裏切った気分はどうです?」
そう切り出すと、リャオは傷ついたような顔をして、ミャロの顔を見た。
私にだけは分かってもらえるとでも思っていたのだろうか。おめでたい。
「――まあ、そう見られるのも仕方がないか」
「そう見るしかないですよ。一体全体、なにを考えてこんな馬鹿なことをしでかしたんです?」
「ルベ家を守るためだ」
リャオの解答は、ミャロにとって予想外のものだった。
「守るため……? 我々がルベ家を取り潰すと?」
どんな被害妄想だ。
ルベ家は魔女が起こした動乱で唯一、ホウ家に協力した功労者だ。こちらとしても無下に扱うわけにはいかないし、十分によい待遇をしている。
ルベ家領には、山奥の不便な場所にではあるが、鉄鉱石の露天掘り鉱山がある。そこには右肩上がりに上昇する鉄の需要を補うために最新の技術を次々と投入しているし、インフラも整備し生産を拡大している。先日初めてアスファルト舗装という技術が投入されたのも、その鉱山から港への直通道路だ。収入は、ここ四年で三倍くらいにはなっているはずだ。
「国の中のすべてがユーリの手で変えられてゆくなかで、ルベ家が独立国のような体裁を保てると思っていたのか?」
「思いますよ。現に、我々はルベ家をどうにかする計画なんて一つも立てていませんでした」
これは本当にそうだった。まったく、完全なる被害妄想だ。
「そうか? ユーリは次から次へと新しい法令を打ち出して、庶民に対して教育を受けられる道筋を与えようとしている。そして騎士たちは土地を奪われ、爵位はそのままに金で雇用される存在へと変わりつつある。そのうち、秀でた庶民が庶民を統治する制度にするつもりなんだろう」
「……まあ、それはそうですね。我々は、騎士が人々を統治をする必要はないと考えていますから」
軍という強大な暴力装置を手中に収めた将軍が、土地を支配して建国し、王として君臨する。そして戦功を挙げた部下たちには領地を与える――という一連の流れは、弱肉強食の世界から産声をあげた文明社会の構造としては、当然そうなるであろうという自然なものだ。
しかし、そのモデルは大きな問題を抱えている。
暴力装置である騎士に求められる能力は、戦争に勝つ能力だ。しかし、統治者に求められる能力は、民を治める能力なのだ。
その二つは全く異なる才能であって、優れた暴力装置である騎士が、優れた統治者であるとは限らない。
しかし、旧態依然とした将家の社会では、当然のように騎士にそれが求められてきた。つまり槍を持って戦い、軍を率いられる武人であり、かつ民を裁ける法律家であり、同時に領地経営もできる経営者であることが求められるわけで、そんな超人のような人間は世の中そう多くはない。
その結果、統治で良好な成績を残せる賢い人間が、戦場で碌な働きをできず無駄死にしたり、勇猛さだけが取り柄の騎士が、大きなポテンシャルを持った土地を活かせず腐らせていたりした。
そもそも、適材適所の点で大きな問題を抱えたモデルなのだ。
そして、もっと大きな問題は、戦争が終わって永い平和が訪れた時に起こる。
国家が平和になると、どうしても武に秀でた騎士は冷遇され、賢く統治に良好な成績を残せる人々ばかりが重用されることになる。
つまり、武官であったはずの騎士が、いつのまにか文官になってしまうのだ。
その傾向が長く続くと、戦争を担っていたはずの階層が、いつのまにか社会から消えているという不可思議な現象が起こる。
ノザ家がまさにそのモデルケースのような例だ。名ばかりに騎士を標榜していたが、実際に戦争をしたこともなければ、その能力もない。平和な間はそれでなんの問題もないし、むしろ良好な統治成績を残せるが、ひとたび戦乱が起きると極めて脆弱で、あっという間に滅びてしまう。
新しい国を、そんな国にするわけにはいかない。
だから、ユーリは騎士から土地を取り上げようとしている。統治と軍事を分けなければ、高い統治能力と高い軍事能力は、長期間維持できないからだ。
ただ、それを公に政府指針として発表してしまうと騎士たちの不満が高まってしまうので、現在は隠然とした指針として少しずつ制度を整備している。
「ユーリは、この国をまったく別の姿に変貌させるつもりだ。優れた者は世襲の騎士ではなく、庶民の中から見出されるようになる。志を持った庶民は大学にいき、そこで教育され政府や会社で重用される。俺たちのような世襲で家格を相続した騎士は、政府に給料で雇われる存在に成り下がるだろう」
「……たしかにそうなるかもしれませんが、それが不満ならルベ家は独立独歩でやっていけばいいじゃないですか」
今のところ、ルベ家に対しては法令の強制力はない。あまり強く支配下に置くのも窮屈だろうということで、今リャオが言ったように、国内で独立国のような運営を許されている。
しかし、キエンは自主的にこちらが採用していた法令をルベ家領でも追って採用していた。歩調を合わせていたわけだ。
「新しい国の中で、古式ゆかしい将家として威勢を保っていけと? 親父もそう考えていたが、できるわけがない。周囲全体が、より良い生活と身を立てる機会を与える地域になれば、優秀な領民は皆出ていってしまう。それに加えて、ホウ社は次々と生活を便利にする商品を出している。領内にそれが入ってくれば、領民は買わざるを得ない。人も金も、出ていくばかりになる」
「その代わりに鉄鉱石を売る。それが領地経営でしょう」
「シャンティラ大皇国の最大の鉄鉱石の鉱床は、シャンティニオンの北あたりにあったな。既に採掘を始めているだろ」
そこまで遠くを見ていたのか。
ミャロは内心で、少し驚いた。
「……それはそうですが。あれはシャンティニオン近辺の産業に使う分を掘っているだけで、こちらに運んでくるには輸送コストが高すぎます。重工業の中心はホウ家領ですし、近場にある鉄鉱山の需要はなくなりませんよ」
「シャンティラ大皇国だけじゃない。もしユーリがカソリカ派を滅ぼせば、国交は正常化する。今でさえ、鉄鉱石は港で船積みされてスオミに運ばれ、海岸沿いの高炉で鉄になっている。どうせ船に積むなら、距離による輸送コストの違いなど微々たるものだ。もし鉄鉱石の輸出がなくなったら……」
リャオは暗澹とした顔をして、俯いていた。
「……そうなれば、ルベ家領はどうなる? 周囲からポツンと孤立した、時代遅れの地域になってしまう。領内に貧乏人が溢れれば、不満も噴出するだろう。それを弾圧すれば、ユーリはそれを名目に嘴を突っ込んでくるはずだ」
それはそうなるかもしれない、とミャロは思った。
領民からの苦情が殺到し、ルベ家はそれを弾圧して、民にむごい仕打ちをしている。そんなことになれば、強硬手段を取らざるを得なくなる。
「俺はそうなるのを、座して見ているつもりはなかった。行動を起こすには、千載一遇……いや、最初で最後の機会だったんだ」
「今回の叛逆は、仕方なかった、と言いたいんですか?」
「……そうだ」
ミャロは疲れた頭で、しばらく考えた。本当に仕方がなかったのだろうか?
そもそも、リャオの理屈は、自分がなんの努力もしないことを前提にしている。ユーリが頑張るなら、それを上回るほどの工夫をして、ルベ家領の経営を上向かせていけばいいだけのことだ。
しかし、天才を前にして、落ちぶれたくないなら天才と競い、更に上回ればいいだけだ、というのは、多くの凡人や秀才に対して公平な仕打ちではないだろう。
ユーリほどの働きを、リャオに求めるのは、それはそれで正しいことなのだろうか?
……いや、違う。
「それは、自分を騙すための言い訳ですね」
「なんだと?」
「独立領の未来が暗澹としているなら、我々の発した法令を全て受け容れて、歩調を合わせるという方法もあったはずです。制度の差がなければ、領民はルベ領を出て、シビャクの大学に行き、地元に帰って起業することもできる。そうすれば、少なくとも不利にはならない」
天才と競う必要などない。ただ、真似をして追従すればよかったのだ。
実際、キエンはそうしたし、それでなんの問題も起こっていなかった。
領内の税率を低くするなどの優遇措置を取れば、人も会社も呼び込むことができる。そうすれば、逆に有利な環境にすることさえ難しくはない。
なにも、独自の制度を採用する独立国としてやっていく必要などなかったのだ。
……どのみち、こんな風に行動を起こしてしまった後になっては、後の祭りというか、全てが手遅れなわけだけれど。
「リャオさんが、それに気づかなかったわけはありません。結局のところ、ユーリくんに恭順して、我々の軍門に下るのが我慢できなかったんでしょう?」
「………」
自覚していたのか、していなかったのか、リャオからの反論はなかった。
「リャオさんがご実家を大切に思っているのは知っています。でも、ルベ家の係累を破滅させる賭けをしてまで、やらなければならないことだったんですか?」
リャオには、様々な選択肢があった。どうしても嫌なら、封土を女王に返してもよかった。そうしたら、こちらは慇懃にねぎらって様々な恩賞を与え、リャオは地元の名士として、この先何代にも渡って何不自由なく生活できる待遇が用意されたはずだ。
だが、リャオはルベ家全体を巻き込んで反乱を起こした。
「……ハッ」
リャオは乾いた笑いを一つ漏らした。
「奴と俺の生まれは同じだ。武を誉れとする将家の息子で、学院では後輩だった。そんな男に、惚れた女を取られて、挙げ句軍門に下り、奴の娘に槍を捧げて、奴の個人的な復讐のために部下たちの命を散らせというのか? そんな奴は、リャオ・ルベじゃない。いや、男とすら言えない」
やっと本音を話した。とミャロは思った。
「……はぁ、馬鹿ですねぇ」
本当に馬鹿だと思う。
だが、人間は、他者との比較の中で幸福を感じる生き物だ。
救国の英雄であるユーリと、自分とを比較する人間は少ない。しかし、同じ将家の跡取りとして生まれ、しかも五歳も年上だったリャオにとっては、比較対象はユーリだったのだろう。ユーリを凌いだ存在にならなければ、自分が惨めな敗残者のように思えて仕方なかったのかもしれない。
「せっかく地位もお金もあって、誰もが憧れるような立場にいたのに。すべてを台無しにするなんて」
「男の一世一代の勝負ってのは、そういうものだ」
「まあ、そうかもしれませんね。勝ち目が万が一にでもあるのなら」
どう考えても、戦場から取って返してきたユーリを撃退できるとは思えない。
こんなのは束の間の勝利だ。暴虐のあとには、確実な死が待っている。
「あるさ」
「反乱には、大義という要素が重要です。それが兵を集め、士気を上げる。リャオさんのやり方では、上手くいきません」
「ユーリのやり方に不満を持っている層は、お前が思っているより厚いぞ」
呆れた。諜報と戦略を統括している宰相にそれを言うとは。
「そもそも、シャンティラ大皇国の旧土を取り戻したのに、教皇領まで戦争を続けていく必要がどこにある?」
「まだティレルメ地域北方の旧土は取り戻していませんし、そのやり方ではカソリカ派の教義は変わりません。後の世に禍根を残すことになります」
「旧土については、割譲する約束になっている。俺のやり方でも手に入れられる。カソリカ派の教義は残るだろうが、攻めてきたら戦争して追い返せばいいだけのことだ。むしろそれが世の常だし、将来の戦争の予防まで今やる必要はない」
やはり理解していなかったか……と、ミャロは思った。
ユーリは超長期的に物事を考えようとする為政者だ。
十五歳の頃から新大陸を探すために莫大な投資をしていたことからも、それは明らかだ。ホウ社として他に幾らでも資金を投じるべき事業があったのに、ユーリは湯水のように金を投じて、冒険のための船を買い、航海技術も新たに開発した。
だが、当時のホウ社でさえそうだったように、その行動は理解されづらい。将来のために、今なんの儲けにもならない事業に金を投じる、あるいは戦争をして血を流せという要求は、明日の生活にしか興味がないような人々には納得させるのが難しい。
ユーリは救国の英雄なので全体は従っているが、リャオの言う通り、内心で反対している層はそこそこいるだろう。
「ユーリの改革で職を失った連中や、旧騎士を集めれば、相当の数が集まるはずだ」
植物紙の普及で羊皮紙の生産量が落ちたように、確かに職を失った人々はいるだろう。旧騎士も、結集すればそこそこの数がいる。
しかし、そんな連中は、今のシヤルタ王国軍にとっては烏合の衆に過ぎない。
「そんな有象無象を数だけ揃えて、引き返してきたユーリくんに勝てると? あまりに楽観的ですね」
「ユーリは帰ってこないのさ。帰ってくるにしても、軍は残らない。一からの作り直しになる」
ああ、そういう策略か。
「だから危険を冒してまで本土の奥深くまで引き込んだわけですか。まあ――ユーリくんに通じるとは思えませんが」
「さあ? どうだろうな」
そう言ったリャオの顔を見ると、なにやらそこそこ自信があるようだった。
リャオが乗った、恐らくガートルート・エヴァンスが練った奸計は、どうやらよほどのものらしい。
「ユーリくんは、逆境になればなるほど頭の回転が早くなる人です。そうなった時の彼は、ボクが恐ろしさを感じるほどに鋭い。彼がおとなしく罠にかかって破滅するなんて、ボクには想像もできませんね」
「軍が残ったとしても、俺が戦って勝つ」
「そうですか」
勝手に妄想していればいい。
「……お前も、いいかげんユーリを追いかけるのはやめろ」
「はい?」
いきなり、何を言い出すんだろうか。
「俺と結婚して、国を支えてくれ」
―――は?
久々にポカンとした。
ルベ家が反旗を翻したという知らせを受け取った時も衝撃は受けたが、唖然としたわけではなかった。
結婚しろ?
唖然とするしかない。いったいぜんたい、どんなプロポーズだ。
「六年前――ミャロ、お前は俺を袖にしたな。だが、それでユーリはなにを与えてくれた? お前の頭脳を便利使いして、仕事の山を与えただけだ。今までの待遇で、本当に満足だったのか?」
「……なにを言いたいんですか」
そもそも、今までの待遇、つまり宰相になり国を支えるという立場は、自らが望んだものだ。ユーリは既に、望んだ仕事と、およそ考えうる頂点の立場を与えてくれている。
「俺なら、お前に全てを与えてやれる」
「馬鹿なことを言わないでください」
ユーリが与えてくれた信頼と未来。すべてを捨ててリャオと結婚しろというのか?
それこそお笑い草だ。
「馬鹿は無謀な反乱だけにしといてください。なんでボクが、リャオさんと結婚しなきゃいけないんですか」
「馬鹿なのは、お前だろ」
馬鹿よばわりされた。
「どこが馬鹿なんです? 逃げなかったことを言っているなら――」
「ユーリに惚れているなら、なぜあいつの女を逃したんだ?」
「………」
それを言ってくるのか。
「自分の惚れた男を寝取った女どもを、必死になって逃がして、お前自身は残って捕まるなんて馬鹿の極みだろう。お前が何もしなかったら、あの女たちは捕まって殺されていたはずだ。いっそのこと死んでしまえばいいとは思わなかったのか? そうしたら、傷ついたあいつを自分が慰められるのにと」
「……思いません、そんなこと」
思うわけがない。
「いいや、その選択が、お前ほどの女の頭によぎらなかったはずはない。そうしておいて、お前は鷲に乗って逃げれば、ユーリの側にいられるのはお前だけだ。どう考えても、それがお前にとって最善の選択だったはずだ。お前はそれに気づいていた。なのに真逆のことをして、女は逃して自分は捕まっている。殺されたり犯されたりしても、まったくおかしくないのにな。お人好し過ぎるだろ」
「……もう、出て行ってください」
「分かった。しかし、今言ったことをもう一度考えてくれ。俺ならきっと――」
「出て行ってくださいっ!」
ミャロは思わず椅子から立ち上がって、叫びながら黒檀の机を叩いた。衝撃でインク壺が机から落ち、割れる音がした。
「――ああ、分かった」
リャオはそう言い残して、ソファから立ち上がると、背中を見せて部屋を去った。
後ろ手にバタンとドアが閉じられ、執務室には深夜の静寂が訪れた。
ミャロは倒れるように椅子に座ると、両手で顔を覆った。心がかき乱されている。
もちろん、それは考えた。
だが、そのとき、ミャロの脳裏に、キャロルが死んだあとのユーリの顔が浮かんだのだ。
生きたまま心臓を引きちぎられたような悲痛な顔。今まで見たこともない表情。あの時から、ユーリは決して消えない暗い穴を胸に抱えながら生きることになった。ユーリにとって大切な者の死とは、それくらい大きなものなのだ。
もう一度、あの人にあんな思いをさせろというのか?
リリー・アミアンも、シャム・ホウも、内心ではどうでもよかった。死んでも構わなかったし、死なないまでも酷く乱暴されて心が壊れれば、ユーリの愛が離れるのではないかと、一瞬心によぎった。
ユーリが帰ってきて、夜に所在不明になるたび、どこかの臥所で誰かに愛を囁いているのかと想像し、心が抉られた。
その度に、私は仕事で繋がっているのだと、ユーリにとってかけがえのない同志なのだと、自分に言い聞かせて心を慰めた。
だが、くろぐろとした嫉妬は心に澱のように積もっていた。
だけど――あの二人が酷いことになれば、ユーリは悲しむだろう。キャロルが死んだ時のように。
そうなったあと、自分が慰めて恋仲になるという未来も、リャオの言った通り、あったのかもしれない。
でも、それをすれば、ユーリを再びあの絶望に叩き落とすことになる。
愛する人にそんなことができる人間に、人を愛する資格があるだろうか。
自分でも、馬鹿だと思ってる。でも、一体どうすればよかったというのだ。
ミャロはかき乱される心を抑えながら、とめどなく流れる涙と嗚咽に沈んだ。
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