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だってあなたが望んだことでしょう?  作者: 青空一夏


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第2話 寝る暇もない姉

「シオドリック王太子殿下の婚約者がアンジェリーナ様に代わって、本当に助かりましたわ。マデリーン様のほうはまったくやる気がなく、与えた課題には一つも手をつけず、講義中もあちこちに気を取られ、居眠りまで……本当に手を焼いておりました」




「申し訳ございません……どうお詫びしてよいのやら」




 教育係の言葉が次々と私に降りかかる。今日は王太子妃教育の初日で、私は王宮の一室で講義を受けていた。マデリーンの怠慢さと不真面目さを怒涛のように訴えてくるので、反射的に頭を下げて謝るしかなかった。




 王太子妃教育は、寝る時間さえ惜しまれるほど内容が濃い。学ぶべき教科は数えきれず、課題は山のように出された。黄昏が迫る頃、屋敷へ戻ると早速出された課題に取りかかる。明日の講義までに、すべてを完璧に仕上げなければならないのだ。




 歴史や地理、外交礼法に宮廷でのマナー、ダンスや楽器演奏、さらには書簡作法や宗教儀礼、慈善活動の心得、諸外国の言語――そのすべてが未来の王太子妃に不可欠な教養であり、ひとつとしておろそかにはできない。机の上に積み上げた課題を眺めるだけで息が詰まりそうだった。




 自室にこもり課題を進めていると、のんきな妹がいつものように部屋に入ってきた。彼女は天真爛漫な笑顔で誘う。


「お姉様ったら、お勉強のしすぎですわ。そんなに詰め込みすぎたら体を壊してしまうわよ。さぁ、私と一緒に庭園をお散歩しましょう。ほら、ちょうど空が夕焼けに染まって、とても綺麗なの。それに、美味しいお菓子も用意してあるから、お茶も一緒にいただきましょう?」


「それどころじゃないの。課題を終わらせないと、眠ることもできないのよ。お願いだから出て行ってちょうだい」




 妹は眉をひそめ、抗議の声をあげる。


「ひどい! 私はお姉様のために誘ったのに!」




 そしてまた例によって、両親のもとへ泣きつきに走るのだった。案の定、しばらくしてお母様がやって来て、私におっしゃった。




「姉思いのマデリーンの言うことを聞きなさい。勉強ばかりしていないで一緒に庭園をお散歩して、ガゼボでゆっくりお茶をするといいわ。マデリーンはあなたの健康を心配しているのよ」




 仕方なく、私はマデリーンと夕暮れに染まった庭園を歩いた。ガゼボでお茶を飲み、妹の話相手を務める。マデリーンは、私が王太子妃教育に追われている間、お母様とカフェ巡りを楽しんでいたらしい。流行のスイーツを楽しめるしゃれた店内が素敵だったと言い、今私の前に置かれたお菓子はそこで買ったものだと説明する。




「お姉様にも召し上がってほしくて、お母様に言って買ってもらったのよ。私って優しい妹でしょう?」




 仕立屋で最新のドレスを注文したことや明日行く予定の観劇の話までするけれど、どれも今の私には行けるはずもない場所だ。なのにマデリーンは、無邪気な笑みを浮かべ楽しそうに話している。あの天使のような微笑みで。




(王太子妃教育を受けていて時間がない私に、自分が楽しんできた話を延々として、私が喜ぶと思っているのかしら?)




 こんなことを思う私は、心が狭いのかもしれない。それでも、妹の話を楽しいとは思えなかったし、この時間が不毛で苦痛に感じてしまうのだった。


 


 やっと解放されたのはディナーの後。私はすぐさま机に向かい、課題に没頭した。夜中を過ぎても作業は終わらず、朝の薄明かりが窓から差し込むころ、やっとすべての課題を仕上げ終えた。マデリーンのようにいい加減なことは、絶対にできなかったのだ。





 そんな日々が続くある日、マールバラ王国に大きな事件が起こった。それはバントック帝国との戦争だ。激しい戦闘で多くの騎士たちが命を落とし、国中が悲しみに包まれる。決着がつかぬまま、両国は命の損失を憂慮し、和平条約を結んで戦争を終結させた。




 その条約の中には、私たち姉妹の運命をも左右する、ある条項が含まれていた。それは…… 

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