第13話 エピローグ
side アレクサンダー
アンジェリーナは本当に優しい。
「アレクサンダー様、お願いがあります。アルフォンズに……私の両親を会わせてあげたいのです。良好な関係ではありませんでしたけれど、もし生きているのなら祖父母にあたりますから」
「もちろん、いいとも。だが……期待はしないでほしい。あのマールバラ王国の激しい暴動のあとでは、オルグレーン公爵夫妻もおそらく――」
私はすぐに密偵に命じ、夫妻の消息を探らせた。ほどなくして届いた報告は、王都の広場で物乞いをしている者たちの中に「それらしい夫婦がいる」というものだった。
「食事をさせて話を聞きましたが、彼らはかつて高貴な身分であったと自慢話を繰り返すばかりでした。礼も言わず、女のほうは『私たちと食事を共にできるなど名誉なことなのよ。感謝なさい』と……。ただ、オルグレーン公爵家の紋章入りの指輪や首飾りはひとつも所持していませんでした。おそらく生活のために手放したか、奪われたのでしょう」
「そうか。では彼らがオルグレーン公爵夫妻である証拠は、どこにもないわけだな。ならば、アンジェリーナとは他人だ」
実際には、証拠があったとしても会わせる気などなかった。アンジェリーナを虐げてきた人物を助ける義理などないし、助けたとしても彼らが感謝するとは思えない。むしろ、再びアンジェリーナを傷つけるだけだろう。
だから私はアンジェリーナに告げた。オルグレーン公爵夫妻はすでに亡くなった、と。アンジェリーナは優しい。もしオルグレーン公爵夫妻が生きていると知れば手を差し伸べるだろう。再び傷つけられたとしても、きっと彼らを切り捨てることなどできない。
しかし、私はアンジェリーナを傷つける者は、誰であろうとも許さない。人の本質は変わらない。オルグレーン公爵夫妻の性格も変わることはないのだ。だからこそ私は冷酷な決断を下す。
心から愛する妻と息子を守るために。
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おまけ (俯瞰視点)
マット・カミンスキーは、マールバラ王国でシオドリック王太子に仕えていた側近である。だが、彼もまたあの暴動に巻き込まれ、命を落とした。
一方イアンは、重い罰を受けることはなかった。しかし彼は自らの意思で、ハリスンや戦争で命を落とした者たちのために祈りを捧げる道を選んだ。俗世を離れて修道院に入り、以来、亡くなった者たちの弔いと祈りを日々欠かすことなく続けている。
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作品中に「オレンジの果汁で書く手紙」が出てきましたが、実際には果汁は乾いても薄っすら残ってしまうので、火であぶらなくても見えてしまうそうです。←読者さんコメントより
そこで、この世界に登場する果実は現実のオレンジとは別物、「オレンジン」という果物で、火であぶらないと決して読めないという設定に変えました。
異世界仕様だと受け止めていただけると嬉しいです(^^)
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