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番外編 ウィリアムの物語 その8



「ジル。僕と付き合って欲しい。僕が本気だということを分かって欲しいんだ。それで僕のことが好きになれなかったら、諦めるから・・・」


僕の本気が伝わったのだろう。ジルの顔付きも真剣になった。顔は相変わらず赤いままだけど。


「・・・あの・・・こんな私で良ければ・・・よろしくお願いします」


と消え入りそうな声で告げるジルを見て、愛おしさに胸が熱くなった。


可愛くて悶え死にそうだ・・・。絶対に幸せにする!


こんな時は抱きしめていいんだろうかと逡巡していたら、ジルがスッと僕から離れた。


え!?なんだ?何か怒らせた?


と不安を覚えていたら、ジルは何か覚悟を決めたような顔つきで


「それでは私、お花を摘んできます!」


と叫ぶと脱兎の如く駆け出した。


ジルの体に巻き付いたスズのストールがキラキラと光を反射する。


僕はジルの後ろ姿を呆然と見送るだけだったが、彼女の言葉の意味を考えて思わず顔が赤くなった。まさかと思ったけど・・・。


「花を摘みに行く」っていうのは、ええと、確かトイレの隠語だった。僕にもそれくらいの知識はある。


彼女が心配だけど、まさか後をついて行く訳にはいかない。


僕はその場でジルが戻るのを待ち続けた。


しかし、10分経っても20分経っても彼女は戻ってこない。


僕は不安になって、ジルが走り去った方角に向かって駆け出した。


しかし、ジルは見つからない。


大声で彼女の名前を呼んでも何の返事もない・・・。


不安が全身を襲う。


ジルはどこに行ってしまったんだ!?


「ジル!!!ジル!!!どこだ!?」


と叫びながら走り回っていると、後ろから馬の蹄の音が聞こえた。


振り向くとスズとフランソワが馬に相乗りして駆けてくる。


血相を変えたスズが


「ジルはどこ!?あの子、無茶はしないって約束したのに!」


と私の胸倉に掴みかかって来た。


「ジルが見つからないんだ!スズ、何か知ってるのか?!」


噛みつくように叫ぶとスズも負けじと


「今は説明するヒマないから!ちょっと静かにしてて!!」


と怒鳴り返す。


そして、スズはふぅーっと深く息を吸うと何かを手繰り寄せるように指を動かした。


スズの指先から微かな光が発せられて、それが茂みの奥の方へ続いている。


スズが


「こっちよ」


とズンズン歩いていくのを、フランソワが馬を引きながら心配そうに付き添う。


僕も慌ててスズの傍に駆け寄った。


スズが集中しているようなので、邪魔をしないようにそっと彼女の真剣な横顔を伺う。


彼女は指から発せられる光を辿って歩き続けた。その光は一本の木の枝に続いていた。


注意して見るとその木の枝には細い糸が結びつけられていた。


細い糸は白く発光しながら、森の奥にずっと続いていく。


「これはジルに渡したスカーフの糸よ。私の魔法が掛けられているわ。絶対に切れない糸だからジルが持っている限り、彼女に続いているはず。ジルには糸の端を木の枝に結び付けておくように伝えておいたの」


「・・ということは、この糸を辿ればジルのところに行けるということだな!?」


僕の言葉にスズが頷いた。


「スズ、フランソワ。馬を借りる!」


そう叫ぶと僕は彼らが連れていた馬に飛び乗った。


糸の発する微かな光を確認しながら、森の奥に向かって馬を走らせる。


しばらく走るとその糸が小さな山小屋の中に繋がっているのが見えた。


『あそこだ!!』


僕は馬のスピードを上げた。


山小屋の傍まで行くと、僕は馬を飛び降りて勢いよく山小屋の扉を蹴り開けた。


息を切らして中に入ると、ビックリした顔のジルが立っていて、その傍らには三人の男が蹲っていた。全員が股間を押さえて震えながら呻き声を上げている。


「ジル!!!」


「う、ウィリアム様!?」


僕は思いっきりジルを抱きしめた。ジルの背中に腕を回すと、胸に彼女の体温と鼓動を感じる。彼女の体は震えていた。


彼女の頭を撫でながら


「無事?大丈夫?怪我してない?」


と尋ねると


「だ、大丈夫です・・・。あ、あの・・その・・・ち、近いです。近すぎて・・・緊張する・・・」


と僕の胸を押しやろうとする。


それに抗って更に強く抱きしめると、彼女は諦めたように抵抗を止めて、僕の胸に体重を預けてきた。


彼女の重みを感じて益々愛おしさが募る。ああぁ、本当に無事で良かった・・・。


「無事で良かった・・・。でも、怖かったよね。本当に大丈夫?」


「あの、オデット様から護身術は基本中の基本だと。淑女の護身術を叩きこんで頂きました。私は武器で戦うのはまだ早いので、一番効率的に悪漢を倒す秘訣を教えて頂いたのです。とにかく最も痛覚を刺激するように蹴り上げる体術の訓練を繰り返し指導して頂きました」


誇らしげに語るジルの顔は上気して、やはり堪らなく可愛い。しかし、語る言葉は恐ろしい。


床に蹲り全く動けそうにない男達の姿を見て、『彼女は怒らせないようにしよう』と固く心に誓った。


その後、父さん、ジェラール、ドミニクが現れて、男達を捕縛して屋敷に連れて行くのを手伝ってくれた。


彼らも事前に何か知っていたようだ。


僕だけに何も知らされていなかったという事実がショックだったし、腹も煮える。


ムッとした顔の僕を見て、ジルがそっと僕の袖を引っ張った。


「あの・・・ちゃんと説明するから・・・心配かけてごめんね」


と申し訳なさそうに言うジルを怒れる訳ないじゃないか!!!(可愛いし!!!)


僕は仕方なく


「大丈夫だよ」


と優しく彼女の頭をポンポンと叩いた。



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