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44. オデット ― 戦いの後

魔王が吐いた炎を避けられない、と身を縮めた瞬間、誰かが私に覆いかぶさって、瞬時に私の周囲に結界を張った。


・・・ジルベールだ。


でも、ジルベール自身の結界は間に合わなかったみたいで、彼はまともに炎の爆弾を喰らってしまった。


ジルベールが身を挺して私を助けてくれたんだ。


「ジルベール!ジルベール!」


必死に彼に縋りつく。どうしよう、涙が止まらない。


するとジルベールが薄目を開けた。


「・・・・と、とび・・ら・・・ふう・・いん・・・を」


真っ青な顔で必死に告げる。


そうだ。優先順位を間違えちゃいけない。


そっとジルベールを寝かせると、私は立ち上がって再び魔法陣を描き始めた。


まだ魔王の咆哮が聞こえる。先生は大丈夫なの?


色々な衝撃で頭が混乱しているが、神経を魔法陣に集中させる。


涙は邪魔だ!


先生は『私のことは心配いらない』と言っていた。


絶対に先生は大丈夫。元の世界に戻れるはず。


・・・それは私にとっては永遠の別れになる訳だけど。


余計なことを考えるなと自分に言い聞かせて魔法陣を完成させた。


神龍が再び口から強烈な光を発すると魔法陣の術式の一つ一つが輝きを放つ。


一際強い光が発せられ、空に巨大な光の柱が立った。


光の柱が徐々に消えると、完全に魔法陣が閉じて魔王が内部に封じられた。


・・・・・・終わった。


私はすぐにジルベールを振り返った。


彼は背中に酷い火傷を負っていた。私は必死に治癒魔法を使って火傷を治していく。


神龍も力を貸してくれているようで神龍からの光もジルベールに降り注ぐ。


おかげで火傷の痕はほとんど消えた。


それなのに意識を取り戻さない。


心臓も動いているし脈もあるのに・・・とまた涙が止まらなくなった。


「ジルベール!ジルベール!」と肩を揺する。


「娘よ」


不意に野太い声がして、神龍に話しかけられていることに気が付いた。


涙に濡れた顔を上げると神龍は静かに言った。


「良くやった。その男はいずれ目を覚ますだろう」

「あ、ありがとうございます。今すぐ目を覚まさせることは出来ないのですか?」


神龍は暫時沈黙した後、私に告げた。


「神子のことが余程気がかりだったのであろう。彼の意識だけ神子についていった。今は異世界に居る」


・・・・え!?どういうこと?


「戻りたくなったら戻れるように我が印をつけた。だから、心配はいらない。いずれ目を覚ます」

「・・・ありがとうございます。ということは本人が戻りたくなるまでは、このままだと・・?」

「・・・まあそうなるな」

「・・・そうですか」


私は考え込んだ後、神龍に尋ねた。


「命の危険はないということですね?あとサットン先生・・神子姫も無事に元の世界に戻れたのでしょうか?」


神龍はゆっくりと頷いた。


「二人とも大丈夫だ。魔王の封印に功績のある者を騙すようなことはせぬ」


私は安堵の溜息をつく。


神龍に御礼を言い、深く頭を下げる。


「礼を言うのは我の方だ。また会うこともあるだろう。我が子を宜しく頼む」


そう言うと神龍は颯爽と空に飛び立っていった。


私はジルベールを抱えて、ドアから元の修道院に戻ることにした。


ここにいて誰かが来たら、色々と説明が大変だし。


ジルベールをおんぶしてドアをくぐり、修道院に戻って来た。


このドアはなんだろう?・・・まるでヤンが作ったドアみたいな、と考えると禍々しい思い出が甦る。


ジルベールをソファにそっと寝かせると、涙が溢れてきた。


・・・れ、あれ?なんか・・・涙が・・・止まらない・・・。


念のためジルベールをお医者さんに連れて行った方がいいよね?


でも、何て説明したらいいんだろう?


魔王の炎から私を庇って怪我をしました?


意識は神子と一緒に異世界にいます?


いやいや、そんなこと言えないでしょ、と考えていたら、涙が後から後から溢れてくる。


先生は居なくなった。本当にこの世界から消えちゃったんだ。


このドアは何でここにあるんだろう?


聖女の試練はどうなるんだろう?ある意味私が強引に聖女になっちゃった感じ?


頭が混乱して、様々な思いが錯綜して、どうしようもなかった。


すると私の周りをぷかぷか浮いていた神龍の赤子が、口をぱくぱく動かして私の頬を尻尾で撫でてくれている。


・・・慰めてくれてるのかな?優しいね。


赤子には実体がないようで触ることはできないけど、思いやりが嬉しかった。


袖で涙を拭いて立ち上がった時、自分の耳に何かついているのに気が付いた。


あ、そうだ。先生が別れ際にくれたイヤーカフ。


リュカに直接話しかけられるって言ってた。


ホントかな?


試しにイヤーカフに魔力を流し「リュカ、リュカ?」と呼びかけてみる。


何の応答もない。


彼が聞いているかも分からないけど、想いが溢れてきて私は言葉を止められなかった。


「・・リュカ、あのね。今サットン先生と二人で魔王を封じ込めたの。信じられないでしょ?私も信じられない。サットン先生は神龍の神子だったんだよ。すごく強くてね。魔王相手に一歩も引かず戦ってた。でも、もう元の世界に帰っちゃったから、私達は二度と先生に会えないの。ジルベールが私を庇って大怪我しちゃってね。怪我は治癒魔法で治したけど、意識が戻らないの。神龍は大丈夫だって言ったけど、やっぱりお医者さんに行った方がいいよね・・どうしよう?」


思うままに独り言を呟いていたら、また涙が溢れてきた。


しばらく待ったけど、何の返答も無い。


立ち上がる気力もなくて床に座り込む。涙が止まらない。


なんで私こんなに泣き虫なんだろう・・・と放心状態だったが、しばらくして修道院のドアを叩く音が聞こえた。


「オデット様!エレーヌです。大丈夫ですか?」


私は慌てて立ち上がり、走って行ってドアを開けた。


急に立ち上がったせいか酷い眩暈がする。


エレーヌは煤だらけの汚れた格好の私を見て、言葉を失った。


私は泣きながらエレーヌの首に抱きついて「ジルベールが・・」と言った後、かろうじて保っていた意識を失った。

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