37. オデット ― 第三の試練
ミシェルがアラン達に常に囲まれるようになって、周囲の彼女に対する視線が変わった。
羨望の眼差しが多いのは当然だが、ミシェルに対して好意的な意見が増えている。
ミシェルの態度が落ち着いて、穏やかな笑顔で愛想を振りまくようになったこともあり、周囲の生徒からの人気は急上昇しているようだ。
以前は奇矯な行動を取るミシェルに対して辛辣な雰囲気があったのが無くなり、ダミアン先生を始め教師陣も彼女に友好的な態度を取るようになった。
逆に私に対しての風当たりは強くなり、再び陰口を叩かれたり、授業でも先生方に理由なく批判されたりすることが多くなった。
良く分からないけど、これも預言書の筋書きなのかもしれない。
私は出来るだけアラン達を視界に入れないようにしている。ある程度覚悟はしていたけど、やっぱり辛い。
ソフィー、マリー、ナタリーは以前と変わらない態度で仲良くしてくれて、私はとても救われている。
それに最近はエレーヌが頻繁に私に会いに来てくれる。
世間話をしに来る感じだけど、私のことを気にかけてくれているんだな、ということが分かって嬉しい。
私の周りは敵だけじゃないと自分に言い聞かせて毎日を過ごしている内に、第三の試練がやってきた。
第三の試練の説明を始めた学院長は、ミシェルの虜になっているのが明らかだった。
ずっとミシェルに見惚れている。
それに対してクリスチャン達が苛立ちを隠せずにいるという何とも不思議な光景だった。
アランが手を挙げて立ち上がった。
「すみません。早く第三の試練について話を進めて頂けますか?」
学院長がハッと我に返り咳払いをしながら説明を開始した。
第三の試練のために私とミシェルにはそれぞれオルゴールのような小さな箱が渡された。
鍵がかかっていて箱の蓋は開けられないようになっている。
試練の内容はこうだ。
1.まずその箱を開ける鍵を探す。
2.箱の中にある暗号を解く。
3.暗号には神龍の卵の在処が記されているので、神龍の卵を持ち帰ったものが勝者。
神龍の卵って誰が持ってたの?とか様々な疑問はあるが、そういう試練なんだからただ受け入れるしかない。
第三の試練開始の笛が鳴り、私が立ち上がると学院長が箱の鍵らしきものをミシェルに渡しているのが目に入った。
クリスチャンたちも彼女のために喜んでいる。
なんだそれ?!そんな不公平ありなの?
面白くない気持ちも正直あるが、まあいいや。気にするまい。
自分の部屋の方が考え事をしやすいので、取りあえず寮に戻ることにした。
最近はアランと一緒でないせいか襲撃の頻度も増えたが、それでも普通の状態ならば私の敵ではない。
武器は常に持ち歩いているし。
その日も帰り道にちゃちゃっと襲撃者を片付けて、急いで部屋に戻った。
机に座り箱を眺めながら考え込む。
これは利己的な悪用になるのだろうか・・・?
ダミアン先生の言葉を思い出す。
私は魔法陣を使って扉を開けることが出来る。つまり鍵を開けることが出来る。
なのでこの箱くらい鍵が無くてもすぐに開けられるのだ。
しばらく考えた後、直接鍵を学院長から貰っているミシェルに比べたら、きっと許容範囲だと自分を納得させた。
小さく魔法を唱えながら魔法陣を描くと箱の周りを円形の魔法陣が囲い、ポン!と勢いよく箱のふたが開いた。
中に四つ折りされた紙が入っていた。
開いてみると、
mtm dgs qdcmt wna dgs mh
と書いてある。
うーむ。分からないな。
取りあえずアルファベットを書いてみる。
abcdefghijklmnopqrstuvwxyz
最初のmtmに注目してみる。アルファベットのmとtに丸をつけようとして、間違ってmではなくて右隣のnに〇をつけてしまった。
あ、しまった・・。消しゴムで消しながら、ふとtの右隣はuだな、と思った。
nun
って修道女って意味だよね。
私は神龍の卵と言ったらすぐに修道女を連想する。
『神龍の贈り物』の中で修道女は箱の中に卵を隠して、その上に座って卵を守ったんだよね。
気のせいかな。
試しに他のアルファベットも全部右隣のものにして書き換えてみる。
nun eht rednu xob eht ni
むむぅ。分からないな・・・。
試しに鏡で見てみるとか?
なんかそんなトリックを使った物語があったなぁ、なんて思いつきで鏡に映してみると・・・。
え・・・。読める?
in とtheが見えた。 ・・・ということは、アルファベットを逆にすればいいのかな?
アルファベットの順番を逆にしてみる。
in the box under the nun
修道女の下の箱の中?
私が咄嗟に連想したのは『神龍の贈り物』に登場する修道女が卵を守るために箱に座っている場面。
そして、それに近い場面を現実のどこかで見たような気がする。
いつ?
どこで?
記憶の細い糸を辿り、はっと突然思い出した。
私は慌てて立ち上がると部屋を出て走りだした。




