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31. オデット ― 未練

第一の試練が終わった後、私は休養も兼ねてフランソワと一緒に公爵邸に戻っていた。


事件に巻き込まれた私を心配した学院長から特別に一週間学院を休むことを許可されたのだ。


フランソワもちゃっかり休みの許可を取っていた。


お父さまとお母さまは私の誘拐事件のことを聞き、激しく動揺していた。


試練のことは聞いていたが絶対に安全な環境で行われると思っていたと、泣きながら私を抱きしめてくれた。


無事で良かったと頭を撫でるお父さまの目の下には真っ黒いクマが出来ていて、過酷な勤務状況を物語っている。


「仕事で大変な時に心配かけちゃってごめんね」

「そんなこと気にしなくていいのよ!」


お母さまにきつく抱きしめられた。


フランソワも多少ぎこちないが笑顔を浮かべてくれる。


「お前が無事で安心した。森の中で姿を見失った時は血の気が引いた」


私も無事に家族と再会することが出来て嬉しかった。


***


私は襲われた時に助けてくれたのはリュカだと確信していた。


ずっとリュカと一緒に居たんだ。彼の動きを間違えるはずないし、あの瞳は間違いなくリュカだった。


そして、彼の瞳はまだ私を想ってくれているのが伝わって来た、と思う。


私はどうしてもリュカに会って、彼の気持ちを確かめたかった。


でも、お父さまにそのことを話すとお父さまは頭を抱えた。


「オデット・・・。私はお前の望みは何でも叶えてやりたいと思う。でも、それだけは無理なんだ。リュカは夫人に心配かけたくないから、オデットとの面会は一切受け付けないと明言している」


・・・リュカ。奥さんに心配かけたくないからって・・そうか。やっぱり奥さんに優しいんだな。胸がズキリと痛んだ。


でも、その人は私を襲った人たちを雇ったんだよ。リュカはそれを知って助けに来てくれたんだろうか?


「オデットが出席する夜会なども全て事前に通達するよう指示が出ているんだ。その・・鉢合わせしないように、オデットが出席するならリュカは出席しないそうだ」


そんなに私を避けたいの・・・?じゃあ、どうして私を助けてくれたの?単なる同情なの?


私の心が悲鳴を上げる。


「・・・でも、一度くらい会っても・・。二人きりじゃなくてもいい。公の場で少し会うくらいもダメなの?」


お父さまが悲しそうに首を横に振る。


「それも、ダメだそうだ。私もリュカには会えていない。モロー公爵家とは一切の縁を切るとリュカは決めたらしい」


「て、手紙は書いてもいい?」


「それもダメだ。一切の連絡を禁じられているんだ」


お父さまは私を抱きしめて、辛そうに話を続けた。


「リュカは妻が何より大切な人だと言っていたそうだ。妻が少しでも不安に感じないようにモロー家とは一切の関係を断ちたいと言ったそうだよ。だから、手紙も何もかも拒絶すると」


・・・リュカらしい。本当に奥さんを大事にしてるんだ。華やかなイザベルの美貌を思い浮かべる。私を襲うような恐ろしい人だけど、きっとリュカにとっては大切な人なんだ。


胸が痛くて心が苦しかった・・・・。


それでもどうしてもリュカに会いたい。その気持ちをどうしても止められない。


どうして私を助けてくれたの?どうして優しい眼差しで私を見たの。私は単純だから、まだ私を想ってくれているんじゃないかって勘違いしちゃうよ。


リュカの住むガルニエ伯爵邸を探して、直接訪ねて行こうと密かに計画していると、フランソワが近づいてきた。


フランソワはとても言いにくそうに尋ねた。


「オデット・・・。お前、リュカのところに行くつもりなんだろう?」


私は嘘が下手だ。


首を横に振ったのに、あっという間に嘘だとバレてしまった。


「あのさ・・・俺がこんな風に口出す資格はないと分かってるんだけど、お前はリュカに会ってどうしたいの?」


フランソワの質問に私は口籠る。


「・・・あの・・・リュカの気持ちを知りたいの」


「知ってどうするの?」


「・・・・分からないけど。どうしても会いたいの」


フランソワは呆れたように大きく息をふぅ――っと吐き出した。


「じゃあ、リュカが仮に今もお前が好きだって言ったとしよう。それで、どうするの?」


「・・どうするって・・」


「リュカには立派な奥方がいて、お前にはアランっていう婚約者がいる。お前達にはどこにも行きつく道がないんだよ」


「そりゃそうだけど・・私は別にそのリュカとどうこうなろうとか・・・」


「思っていないんだったら、そっとしておけよ。お前が会いに来たって聞いたら、リュカの奥さんだって気分が悪いだろう。夫婦喧嘩になるかもしれない。お前は他人様の家庭に波風立てたいの?二人の仲を邪魔したいの?」


「・・そ、そんなつもりない・・・でも・・・」


私は何も反論できる要素がないことに気が付いた。


リュカがそれだけ奥さんを大事にしているんだったら、それを尊重しなくちゃいけない。例え、その奥さんが私を襲撃した首謀者だったとしても・・。


私への愛情が残っていると思ったのは私の願望が見せた勘違いで、彼は単に同情して助けに来たに過ぎないのかも・・・。


頭を冷やさないと。


私はリュカに会いに行くのを諦めて、フランソワに御礼を言った。


フランソワは正しい。危うく愚かな行為を取るところだった。


リュカはもう別な人の旦那さんなんだ、と必死に自分に言い聞かせた。


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