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10.アラン ― 執着

モロー公爵家から『オデットと甥のリュカとの婚約が正式に決まったので、王太子との婚約は改めて辞退したい』という文書が届けられた。


もちろん、もっとオブラートに包んだような丁重な表現だったが。


国王である父上は多少気分を害したようだが、婚約を無理強いする訳にはいかないと俺を説得しようとした。


だが、俺に引く気はない。


婚約しただけでまだ結婚した訳じゃない、と主張した。


幸い俺とオデットの年齢は近い。同じ年に魔法学院に入学するはずだ。


在学中に絶対に彼女の気持ちを変えてみせるから、他の令嬢との婚約を考えるつもりはない、と両親に訴える。


毎日学院で顔を合わせていれば、彼女の気持ちを俺に向けさせる機会もあるかもしれない。


生涯を共にする女性を選ぶのだ。俺は必死だった。


父上と母上は顔を見合わせて溜息をついたが、最終的には俺の願いを聞いてくれた。


俺はオデット以外の令嬢と婚約するつもりはない。



その後、俺は魔法学院を訪れた。


憎いライバルの顔を見るためだ。


学院長は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で学院内を案内してくれた。


「リュカ・モローという学生はご存知ですか?」


と学院長に聞いてみた。


学院長はすぐにパッと顔を輝かせて話し出した。


「勿論ですとも。当学院始まって以来の逸材ですよ。学識教養、魔法、剣術に至るまで文句のつけようもありません。将来国を背負って立つ人材だと思います」


ふん、面白くない、という不機嫌な気持ちが顔に出たのだろう。


「殿下・・・。彼が何か問題でも・・・?」


と恐る恐る訊ねる。一瞬、奴の悪口を言ってやろうかと思った。


いや、王太子としての権力を笠に着るような奴はオデットの心を掴むことは出来ないだろう。


「いいえ。モロー公爵に優秀な甥が居るという噂を聞いたので、興味があったんですよ」


と笑顔で応えた。


学院長がほっとしたように


「リュカ・モローにお会いになりますか?彼は次期生徒会長なので、生徒会室にいると思います」


と言われて、その言葉に甘えることにした。



俺はそのリュカ・モローと正面から対峙した時、正直『負けた・・』と思った。


顔が良い。背が高い。ガタイがいい。鍛えているのが分かる。蒼色の瞳は怜悧で聡明な人柄を反映しているようだ。茶色の長髪を無造作に束ねている姿も色気があると女から見たら魅力的に映るだろう。くそぅ。


リュカの肩にも届かない自分の身長がもどかしくて、悔しかった。


俺は学院長に学院生活や勉強のことについて聞きたいから、しばらく二人で話をさせてもらえないかと頼んだ。


学院長は「もちろんです。しばらくしたらお迎えにあがりますね」と部屋を退出した。


リュカは俺に丁寧な物腰で挨拶をした。挨拶の作法も堂に入ったもんだ。畜生。


「オデットと婚約したそうだな?」


俺は単刀直入に切り出した。


リュカは一瞬ビクッとしたがすぐに気を取り直した。


穏やかだがきっぱりとした口調で


「はい。有難いことに公爵に認めて頂けました。オデットを幸せにするつもりです」


と俺の目を見据えて言いやがった。


こいつは俺の気持ちを察していると確信した。


お互いをライバル認定した俺達はバチバチと視線を戦わせた。


「俺はまだ子供だが、いずれ背も伸びる。オデットと同じ学年で魔法学院に進学する。学院に居る間に彼女の気持ちを変えてみせる」


と言い切ると一瞬リュカの顔が強張る。してやったぜ、と思った刹那、奴はニヤリと笑いやがった。


「オデットは簡単に気持ちを変える令嬢ではありません。お手並み拝見ですね」


と落ち着いて返す。


くぅぅぅぅぅ、ムカつく!


俺は平然を装い、


「そうだな。吠え面かかせてやるよ」


と言ってやった。


リュカは手を差し出して、


「宣戦布告して下さるとは有難いですね」


と言うので、俺はその手を取りギューッと力を込めて握手してやった。


倍の強さで握り返されて痛みに顔を顰めそうになるが、笑顔で痩せ我慢をした。


今は敵わないが、いつかお前を負かしてやる、と固い決意を胸に秘めて。




その後、リュカ・モローは生徒会長としてリーダーシップを発揮し、全ての試験で首席だっただけでなく、あらゆる剣術や魔法のトーナメントに優勝して、魔法学院を卒業することになると聞いた。


魔法学院開校以来、最高の成績だという。


くそぅぅぅぅ!


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