名も無き星からの船 その九
ようやく少し、ストーリーが進みました。
タイピングは順調すぎるほど順調なのにね。
僕は、いや、僕と長老は落ちていく、僕の心の深海へ、そして、それより深い心の海溝へ、海淵へ……
息苦しくなってきた。
僕の呼吸が乱れると、長老が穏やかに諭してくれる。
「サミーよ、自分の心の奥底へ来たのだから、見たくないという気持ちが生じても不思議じゃない。それが体に影響を及ぼして、今の呼吸の乱れになっているのだよ。さあ、怖がらずに、自分の精神の根源と向き合いなさい」
僕は、長老の言葉通り、何も見えないほどの闇の中を、心を落ち着けて見ようとする。
すると、今まで真っ暗だった視界が急に晴れて、何もかもが見えるようになる。
赤ん坊の頃の僕がいる。
計算機によって相性が最適とされた、ほんの少し前まで僕のお父さんお母さんだった人たちとの顔合わせだ。
僕が無邪気に笑う姿に、仮であったとしても両親は喜んでいた。
幼年時代の僕がいる。
拙いながらも言葉を発し始めた頃の僕。
ああ、そうか、この頃からテレパシーの素質はあったんだな。
父親が僕を見ながらも違うことを考えてると、ぺちぺちと父親の顔を叩いて、自分に向けさせようとしてる。
「僕、仮だったとは言え、両親に愛されてたんですね」
「ああ、それだからこそ、サミー、君のように異能者でも真っ直ぐな心の持ち主に育ったのだよ」
「僕の力は、どうやって理解するんですか?」
「簡単じゃ、力の全てを見たいと思えばいい。ここは、サミー、君の心の中なんだから」
僕は、自分の力の全てを知りたいと願った。
突然、見えるものが変わっていく……
僕の力の全てが、僕の前に示された。
他人には到底、理解し得ないだろう心の全て、精神の全てが自分にとって明らかになる。
そうか、僕の力は、こういうものだったんだ。
そして、こんなにも強いものだったんだ。
「長老様、ようやく理解しました、僕の中にある力、その能力を」
僕は、静かに言った。
何も知らない子供の僕、さようなら。
僕は今、大人になったんだ。
「では、元に戻ろうかの」
長老は、そういうと、僕へのテレパシーを弱めていく。
僕は、テレパシーの強さをコントロールすることも知らなかったんだな、今まで。
だんだんと、無意識領域から意識領域へ、半睡眠状態から覚醒状態へと意識が戻っていく。
元の状態に戻ったところで、僕は長老から手を離す。
「ありがとうございました、長老様。おかげで自分の事を理解できました」
「いやなに、ほとんど君自身の力じゃ。儂はちょいとばかし補助をしただけじゃよ。しかし、サミー、君は今までに儂が経験したことのない強力なテレパスだ。恐らく、故郷の星、ご先祖たちにも君クラスのテレパスはいないだろう。それから、儂に様付は不要じゃよ」
「はい、長老、わかりました。でも、それなら、僕が最初にテレパシー交信した相手、宇宙船フロンティアの船長の方が強力なテレパスですね。僕なんか、多分、足元にも及ばないんじゃないかと思いますよ」
「ほう、サミーほどの強力なテレパスでも敵わないと最初から思わせるほどの力を持った者が居るのか……宇宙は広いよなぁ、はっはっは!」
「今から考えると、僕が無意識に放っていた微弱なテレパシーを、フロンティアの船長のほうが拾ってくれた感じがします。そんな力は、さすがに僕にもありません」
案内人が、横から意見してくる。
「おいおい、俺を除け者にするなよ。ちなみに俺の名は、フィールってんだ。ところで、サミーよりも上位の異星人の異能力者がいるって?さすが、広い宇宙だね。上には上がいるってか」
僕は、遂に名前がわかった彼に言う。
「フィールさん、ご案内、ありがとうございます。ええ、もうすぐ世代宇宙船とランデブーするフロンティアって宇宙船には、僕なんか足元にも及ばないほどのテレパスがいますよ。それと同時に、フロンティアの船長については、僕の印象では、他にも様々な異能力を持っていると思いますけれど」
長老が、それを聞いて驚く。
「なんと!異星人の宇宙船の船長は、世にも稀なマルチ異能力者か!これは、我らも異星人と会わねばなるまい。ふむ、しかし、先頭グループや、他の居住区の統率者たちが、儂らを同席させてくれるかどうか、じゃの」
その疑問は、ね。
「それは簡単に解決できると思うよ。まあ、あと少しの辛抱さ、ここに居るのも」
僕は、気軽に答えた。
そうだ、宇宙船フロンティアの船長が、もし僕の思ってるような人物だとすると、この状況を良しとは思わないはずだからね。
このタイピングの順調さを落とさずに、ストーリーを進める方法……
まあ、無いから苦労してるんですが(苦笑)




