名も無き星からの船 その一
ようやく再始動します!
僕は、この小さな世界で生まれた。
今はまだ、若い僕は何の仕事もしていないけど、数年後には、いくつかの選択肢を計算機より与えられ、自分で選んだ1つの仕事に就くことになるだろう。
この世界、教師の言葉や教科書によると「世代宇宙船」というらしいが、この世界は小さく、そして大きい物なのだそうだ。
小さいというのは、もともと、この「世代宇宙船」が造られた世界(惑星という名前らしい)に比べると圧倒的に小さいから、と教科書にも書かれている。
大きいものというのは、この「世代宇宙船」が、宇宙船としては、途轍もない大きさだから、なんだそうだ。
教科書(教師たちは、世代宇宙船のマニュアル、と呼んでいる)には、その大きさが具体的に書かれている。
全長500km、縦横は80kmで、先頭に宇宙船の操縦室がある。
船尾には、とても大きくて固い遮蔽板があり、一日に一回、船尾の放出口より推進爆薬が放出され、その爆発の反作用により、世代宇宙船は進んでいく。
先頭と船尾の間には居住区という物が設けられ、半球形の、お椀を被せたような大きなドーム型の構造物(直径50kmで左右に互い違いに取り付けられている。総数10)が宇宙船の骨格から伸びる骨のような構造物により支持されている。
僕が生まれ、育ち、死んでいくだろう居住区6は、その名の通り、先頭から1,2,と数えて6番目のドーム。
それぞれのドームからは、他のドームは見えないようになっていると教科書にも書かれている。
ドームの原型である宇宙コロニーは屋根も透明だったそうだけど、宇宙船では浴びる放射線が危険視されて透明じゃないドームになったんだと。
居住区は、宇宙船本体としか接続されていないため、他のドームや操縦区や船尾(駆動管理部)へ行くためには、必ず接合部を通るしか無い。
この構造は、たとえ反乱がおきたとしても船長らの安全を守るために、改造などは許されていないそうだ。
僕が教科書や教師に学ぶ年齢になって最初に起きた疑問は、
「何のために、この巨大宇宙船を造って宇宙を旅してるの?」
って事だった。
その答えは、子供心にも酷い話だと思った。
教師の話を、そのまま書き記そう。
「私達の故郷の星は、それはそれは豊かな星でした。その星では40億年以上にも渡って生命が発生し、進化し、ついには惑星を飛び出す種族にまで到達しました。私達の先祖になる、その種族たちは、豊かな資源と高度な技術を使い、自分たちの星だけではなく、星の衛星から、お隣の惑星へと手を伸ばし、自分たちが住める星の領域を増やしていきました。そこまでは順調でした。先祖たちは、より速く、より長く飛べる宇宙船を造り上げると、星系の末端まで届こうかと、手を伸ばし始めました」
「そこに悪魔の手が忍び寄って来ました。突然に何の前触れもなく星系の母たる太陽が不安定になったのです。冷えていくのなら、まだ対応のしようはありましたが、そうではなく突然に太陽の熱量が上がり、その直径も膨れ上がってきたのです。先祖たちは懸命に生き延びようと考え、あがき、ついにたどり着いた答えが、この世代宇宙船でした。その時代の最先端技術を用い、まず、第一号となる、この宇宙船が造られました。そして、燃料として、もう戦争の道具として使用されなくなって久しい原子分裂や原子融合を利用した爆弾が利用されることとなりましたので、放射線防護のために大きな遮蔽板が取り付けられる事となったのです」
「はい、それで第一号宇宙船に乗り込める人員の抽選が始まりました。その頃には、まだ太陽の不安定化は顕著ではなかったため、知力や体力、精神力に優れた者達や、その家族が優先的に当選し、余った席には、一般抽選で一万倍の当選率を勝ち取った人たちと、その家族が乗り込めることとなりました。第一号宇宙船が発進した後、建造中の第二号や第三号、第四号宇宙船も順調に建造されて発進するはずでしたが、この宇宙船が星系を出る頃には電波状況が悪化して、故郷の星とは連絡がつかなくなっていました。ですから、後の人たちがどうなったか?後に続くはずの宇宙船団は、どうなったのか?は、全く分からないのですよ。でも、光学系の観測班によれば、太陽の不安定さが増して、膨張した太陽は星系の第一惑星の軌道を超しているとのこと。第四惑星軌道にある故郷の星は、現在は、どうなっていることやら……」
以上、教師たちの回答だった。
後に続く船団が発進しているのなら良いが、もし太陽の熱量が大きくなり過ぎていた場合、第二号宇宙船以降は建造されず、ご先祖達の「残され組」の人たちも、どうしているのやら……
ご先祖達の叡智を集めて造り上げた、この第一号宇宙船(大きさと、運用方法から「世代宇宙船」と呼ばれるようになった)も完璧というわけじゃない。
世代宇宙船が進宙してから、もう3世代目を迎えている(僕らが3世代目)ので、あちこちが古くなっているのだそうで宇宙船本体管理・修理班の仕事になった場合には、一日中あっちこっちを走り回る事になるのだそうだ。
宇宙船の仕事と言っても、多種多様。宇宙船の管理・修理にも様々な種類(計算機班、エンジン班(爆薬管理だろうと揶揄されてる)、水廻り班(通常の水回りから水耕栽培の水管理、有害放射線からの防護用の水膜管理もあるため大変な班)に、本体の管理・修理)があるんだから、他の仕事も同様。
種類も人数も限られて、頂点とも言われる職業が「運行管理部管理班」で、この世代宇宙船の船長含む先頭部に勤務する人たちだ。
外部との通信接触、故郷の状況把握も兼ねてるそうなんだけど、新しい情報や、他の宇宙船と交信や接触したなんて聞いたこともないから、やっぱり僕達は、宇宙でひとりぼっちの孤独な旅人なんだろうか。
ちなみに僕のお父さんはエンジン管理班。
1日1発の推進爆薬管理をしてる。
お父さんの言うことにゃ、まだまだ推進用の水爆やプルトニウム爆弾は、倉庫にゴマンとあるとのこと。
最初の発進と加速時には1時間に1発づつ爆発させてたらしいんだけど、今は1日1発の間隔で良いんだそうだ。
お母さんは計算機の管理・修理班。この頃、ちょっと沈んだ顔をしてる。
僕が心配して、
「どうしたの?」
って聞いたら、
「何でもないわ、宇宙船の運行管理と制御計算に、異常なし!」
って言ってた。疲れてたのかな?
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、今はリタイヤしてるけど、昔は運行管理部管理班の切れ者夫婦って言われてたらしい。
で、今でも現在の船長たちから相談を受けたりする。
今も僕達は、目標の星へ向かって進んでいるのだそうだ。
到着するのは、僕達の子供の子供の、そのまた子供……
と、ずぅっと世代が積み重なる将来になるんだそうだけど、それまで何事もなくすめば良いなと思う。
今日も、僕は、どこかに居ると言われる「神様」に祈る。
宇宙が、ずぅっと平和で、故郷の星も無事でありますように……と。
すいません、フロンティアや主人公は、登場しませんでした。
なんか、この視点が新鮮で、もう少し続けたいなーと思ってしまいまして。




