小マゼラン雲から、大マゼラン雲へ 搭乗員は、あいも変わらず。
銀河系からの距離を勘違いしてました。
実際には、大マゼラン雲のほうが銀河系に近いんですね。
大マゼラン雲が平均距離で16万光年くらい、小マゼラン雲は平均距離20万光年でした。
だから、主人公たちは、少し銀河系へ戻る形になります。
まあ、たかだか数万光年ですけど。
小マゼラン雲を後にして、俺達フロンティアクルーは、一路、大マゼラン雲へと向かっている。
この旅路、今までの跳躍よりも慎重にならざるを得ない。
なぜなら、いわゆる「マゼラニックストリーム」と言われる星間物質の濃い空間を跳ぶからである。
あまりに跳躍航法で超長距離を跳ぶと、計算上よりも到着地点がズレる可能性が高くなるため、たまに実空間(アインシュタイン空間とも言うね)に出るが、その時に見るマゼラニックストリーム内の景観は見応えがある。
近くの空間には何も無いように見えるが、少し離れた空間の異様さは、特筆すべきものだ。
こりゃ、銀河間を跳ぶ宇宙船だけに許された景観だね。
でもって、景観を見るのに飽きた俺達クルーが、何やってるのかというと、何もやってない。
実空間に、たまに出ると、フロンティアは搭載艇を繰り出して、いつものごとく星間物質やデブリなどをかき集め、通常業務の船体拡張だ。
プロフェッサーは、このところ宇宙地図に興味が移ったらしく、小マゼラン雲で貰ったスターマップのデータ整理に余念がない。
地球で作られていた大小マゼラン雲のマップについては、大まかに過ぎて使い物にならないのだそうで、最新マップにデータ書き換え作業中である。
でもって、後の俺達3名のロボットじゃない生命体3人組は、というと。
地球の映像・音声文化(ぶっちゃけ、特撮やアニメ作品の事だよ)の視聴と解説に、かかりきりになってる状態。
俺が太陽系ひとりぼっちの宇宙ヨットで旅してるときに持ってたビブリオファイル(特選映像満載の、特撮やアニメ(20世紀から21世紀にかけて作成された2D版だけどね)の作品データ満載チップです)データに、俺以外の女性(不定形生命体なんだが、まあ、通常は女性形態とってるから女性とみなそう。精神生命体の有機端末に関しては、こいつは最初から女性形で作られてたから問題はないが)が食いついてしまった。
「まったく、どこに興味を惹かれたのやら」
俺がつぶやくと、
「ご主人様、これは立派な教育資料ですわよ。それも、ここまでロールプレイを様々なシチュエーションで描いた作品は珍しいです。地球人の文化レベルは、ここまで進んでいるのですね〜」
「おいおい、エッタ。これは、あくまで娯楽作品。まあ、適性年齢が15歳以上だった頃の大昔の作品だぞ。こんなもので文化レベルがどーのこーの言われてもだな」
「いいえ、キャプテン。私も、この美麗なる映像とストーリーには、高い文化の香りを感じます。キャプテンは、灯台下暗しで、この作品の良さが理解でき無いんだと思います」
「いや、あのな、ライム。そいつは魔法少女物のアニメでも、かなり先鋭的な作品だぞ?こいつを理解するなら魔法少女アニメよりも美少女ゲームやエロゲ……ゲフンゲフン!特殊なゲームを経験しなきゃ歴史的な経緯が分からんぞ」
などと、ワイワイキャーキャー言って、アニメや特撮の作品データを次々と閲覧していたのだった。
「そんな、静止画を錯覚故に動画として見るような物が大昔には溢れていたのですか、地球や太陽系には」
「いや、フロンティア。これが作られた年代は今から数100年前の話で、その頃は太陽系に人類が広がるなんて夢のまた夢だったんだよ。第3惑星、地球の小さな島国、日本という局所で作成された物語なのさ」
「へー、マスターの星って急激に発展したんですね。あまりに急激に発展しすぎた星間文明は急激に滅ぶのが常識だったのですが、その点でも地球や太陽系文明は特殊だったのかも知れませんね」
「ああ、そうかもな。地球という一つの星から太陽系に広がるのは月から火星に至るまでは長かったが、それからが早かったと言われているよ。まあ、そうしないと地球上の地域国家の支配権争いが、もう少しで互いの絶滅になりそうな雰囲気もあって。でも、それが圧力となって宇宙開拓が進んだとも言えるがな」
「ふーむ。地球って危ない時期があったんですね、そう考えると」
「そうだな。まかり間違えてたら、お前と会うどころか俺が宇宙ヨットなんかで旅することもなく、地球は死の星となっていたかもな」
俺は、その可能性のほうが高かったと言うネットニュースを昔、見たことがあって、ここまで同族嫌悪の傾向が強かった地球人類が、なぜに宇宙進出しただけで、ここまで地球統一出来るくらいに結束できたのか、その時には全く理解できなかった。
今なら理解できるが。
多分、ご先祖の遺伝子に刻まれていた根本命令が発動したんだろう。
「狭い地球にかじりついて、お互いに殺しあってどうする?!宇宙は、もっと厳しいぞ!その殺しあうエネルギーを、宇宙開拓に向けろ!」
とね。
ご先祖(先史文明)には、いくら感謝しても、しきれんよ、こりゃ。




