最前線にて その4 問題は解決しちゃいました
お久しぶりです。
苦痛に思えるほどの肩こりも、春の到来と共に軽くなりまして。
本格的に執筆再開です。
”我々、この小銀河の生命体全てが歓喜に打ち震えている……この喜びが理解できるだろうか?全ての勢力の民よ!今、現在よりのエネルギー欠乏は、もう心配すらしなくて良いのだ!異銀河よりの巨大なる来訪者が、我らの全ての問題を解決してくれたのである!もう一度言う。これより、全ての戦い、全ての争い、エネルギー問題における全ての問題は、永久に解決されたと思ってよろしい!”
小銀河の中を、光速、あるいは超光速で、あらゆるメディアの情報として、終戦に至ったことを報じる爆発的な歓喜の放送が放たれる。
それは、今から小銀河標準時で、30日前の、ある小競り合いから起きた。
二大勢力が、その地域にあるエネルギー資源を巡って小規模な争いになった時、その異銀河からの来訪者は、突然に現れたのだという。
それは巨大な浮遊隕石の形をとっていた。
その巨大隕石は、出現すると共に、両勢力の最前線へとコースを取り、悠然たる速度で両勢力の出鼻を抑える形で前線を横切っていったと、一兵士の証言がある。
妙な巨大隕石ということで、一時停戦となり、巨大隕石は捕獲され、詳しく調べられることとなる。
しかし、当初、すぐに詳細な解析が行われて、すぐにエネルギー資源となるであろうと思われた巨大隕石は、その思惑を裏切り、表面だけは削れるものの、その内部は全く調査不能と言う、とんでもない事になっていった。
レーザーだろうがX線だろうが、その他の探索ビームにしても、全く透過できない貫通不能の物体と判断した両勢力は、もうひとつの第三勢力も引き入れての巨大隕石解析プロジェクトを立ち上げることとなってしまった。
ちなみに、この時点で、三勢力が解析プロジェクトが終了するまでは停戦となることが決定された。
この「巨大隕石解析プロジェクト」だが、ありていに言って、この小銀河の全ての知識と知恵、技術が注ぎ込まれたと言っても過言では無かった。
しかし、巨大隕石は、その全てのものを跳ね返し、その内部を見せることはなかった。
どうにもこうにも手が出ない状況で、こりゃ本格的に腰を落ち着けての解析作業になりそうだと、無期停戦を発表した途端!
巨大隕石の中から、思いもかけぬ超強力なテレパシーが発せられる。
我ら小銀河に生きる者達、これほどの強力なテレパシーは後にも先にも経験したことのない強さだったため、巨大隕石の付近に居た者達は瞬間的にパニック症状に陥り、現場は大混乱。
になるはずが、その数十秒後に穏やかなテレパシー波が発せられた事により瞬時に収まっていったと、その時をリアルタイムで伝えていたメディアの管理官は伝えている。
「まるで、悪ガキを叱った父親が、その後で穏やかに諭すような声が聞こえた」
このような表現もあるが、あながち間違ってはいないだろう。
それまで戦争に明け暮れていた悪ガキのような生命体とは、我々のことだったからだ。
興味深いことに、テレパシーは、この二回だけで、後は全て通常の放送波における会話にて行われている。
我々がテレパシーの扱いに長けていないことが一瞬にして理解されたようである。
さて、この通常会話で語られた事であるが、
* 戦争とは、最も惨めな手段であり、最も愚かな方法である。
* 原因となっているエネルギー枯渇に対しては、充分に救える手段やアイデアがあるので心配しなくて良い。
* お隣の「銀河系」では、もう既に様々な種族や生命体が、互いに助けあいながら成長していく道筋が出来上がっている。もしよければ、その方法すらも教えよう。
とんでもない提案である。
予想もしてない事件とは、このことであろう。
何処の誰が、ふらりと現れた巨大隕石が、戦争をやめなさい、その原因を解決してあげましょう、もし望むなら、それ以上の事も教えましょう。
などと、神の如き提案をしてくるなどと思うだろうか?
夢?
幻?
それとも、戦争が長引いて、我々全てが妄想に浸ってしまったのか?
いいや、これは現実である。
その証拠に、戦争を止めるための方法、エネルギー問題を解決するための方法、そして、この小銀河に「貿易」や「宇宙救助隊」という概念や組織を立ち上げる方法などが、事細かく語られていったのである。
巨大隕石からの放送は、何も暗号化されていないものだったため、惑星上は言うまでもなく、付近の星系でも充分に聞けるものであった。
おまけに超高速通信波まで使用して、いつの間にか設定されていた(こちらが解析されていた)民間周波数に乗せて全ての会話が周囲100光年に渡ってプロテクト無しにリアルタイムで放送されてしまっていた。
(我々は後から気付いたが、もう遅かった。秘密も何もありはしなかった。本来なら軍の最高機密に当たるような事柄すらも巨大隕石は全て放送した)
三勢力の高官は青くなったが、逆に勢力のトップ3名は気楽なものだったと伝える。
「ようやく戦争が終わると考えると、我々3名、気が抜けてしまったよ」
冗談か本気かは別として、これは本音だろうと思われる。まさに、
「デウス・エクス・マキナ」(機械じかけの神)
が降臨され、全ての状況がひっくり返ってしまったのだから。
で、現在。
巨大隕石は、そのままの位置にあり、多くの者達が異銀河の知恵や知識、遥かに進んだ技術を少しでも知りたいと願い、巨大隕石を取り囲むようにしている。
私はメディアの一記者であるが、この光景は、何か神に近いものに参詣する信者のように見える。
中に、どんな生命体が乗っているのか、それとも、この巨大隕石そのものが生命体なのか、興味は尽きないが、それは時間が経てば分かるだろう。
今、別の場所では、エネルギー問題を解決するための様々な提案があったため、実証できることから始めていくようで。
現在は太陽エネルギーを高効率で電力変換するための装置と機材の実験が、この星系で行われようとしているところだ。
別の場所では、小さすぎて太陽になれなかった巨大ガス惑星の恒星化実験も始まっているとのこと。
ほかにも、様々な実験や計画が、あちこちで動き始めている。
我々の小銀河も、近い将来には、銀河系とは言わないまでも、すぐ近くの大マゼラン雲まで行けるような宇宙船は開発したいものである。
小マゼラン雲共同通信リポーター、記す




