銀河のプロムナード 三 太陽系はタイヘンだ!
さて、太陽系へ乗り込んできた地球外生命体達。
彼らの目的は……
もちろん!
地球です。
さて、それからが大騒ぎ!
いくら友好的な地球外生命体だからといえ大群を組んでやって来たのだから。
それも事情が分かっていく度に驚きと騒ぎが大きくなっていく。
彼らの目的は……
そのいち。
「当然、我が星の恩人の故郷だからだよ!我々と機械生命体とのトラブル、いや、下手すると自殺テロに近い攻撃で自分の星もろとも機械生命体を殲滅するつもりだったんだから、そのトラブルを平和的に、かつ、双方ともに利益のあるように解決してくれた彼は我々だけではなく機械生命体にとっても恩人だよ。その人物の故郷の星系や生まれた星を見たいと思うのは当然だろ?」
そのに。
「我々、機械生命体にとり、先史文明の子孫は全て保護対象になった。おまけに、このトラブル解決に動いてくれた恩人の地球人は、どう考えても先史文明の血を濃厚に引き継いだ先祖帰りに近い人間だと思われるため、我々は太陽系と地球を「特別保護星系」に指定するための提案を持ってきたのだ。貴重な先史文明人の遺伝子を残す太陽系人類を我々は全て保護し、安全を与え、そして銀河系へと広がるための指導もしようではないか」
そのさん。
「我々、不定形生命体の種族そのものを救ってくれた大恩人だ。おまけに過去に地球にたどりついた同胞を探すヒントまでくれたのだから、ここに来ないわけがないだろう。我々の同胞を探す許可が欲しいのだ」
そのよん。
「我が球状生命体種族の汚点を解決して、さらに、我々の食糧事情の解決方法まで指摘・指導してくれた太陽系人類に対し、どんなに言葉を尽くしても感謝に足りない。何か種族の不都合があれば相談に乗ろうではないか」
ぽかーん……
空いた口が塞がらないのが、これを聞かされた太陽系人類。
楠見 糺という個人名は、
あっちこっち調べて何も分からん!
と調査部がキレかけた時に当の戦略宇宙軍長官が、ぼそっと助け舟を出したのでようやくわかったのだが、その当人、数年前から全ての仕事を辞めて宇宙ヨットに乗って太陽系の末端に向かって飛んでいることになっている(書類上は)
当然、調査部の全員が長官に向かって行き……
「長官?!個人名まで分かってるんなら、その男は何かの秘密任務にでも与えられたのですか?今の太陽系に冒険したいからって理由で何も仕事をしないなどという、ふざけた人間がいるわけないのは長官もご存知でしょうが?!なんで太陽系内にいるはずの男が銀河系を右往左往しながら、あっちこっちで星間紛争なんてとんでもないトラブルを解決しまくってるんですか?!地球外生命体達の言ってることが真実だとすると、この男、今までに存在したことのない超天才にして超強力なエスパーだって事になりますよ……どうして我々調査部にも名前すら上がってこなかったんですか?!」
この質問に当の長官、少しも慌てること無く、こう言い放ったという……
「それは君たちの能力よりも彼個人の能力が遥かに高かったからに違いあるまい。数年前、出処の分からない、だけど国家機密クラスの人工頭脳のバグが報告されただろ?私は、それも彼、楠見 糺の提案だと思っている。証拠は無いよ、あの男が証拠など残すはずがないなからね」
「し、しかし!あのバグ情報は、とんでもない騒動を巻き起こしたんですぞ!特に軍用人工頭脳の開発陣はパニックでしたな。完全に安定したと思ってたファームウェアに重大なバグがあったという報告が、それも証拠付きで解決方法までご丁寧に付属ファイルで送られてきて……それが送信者不明で、どこの情報組織でも人物が特定できないってお蔵入りになった事案でしたから」
「だからだよ、だから楠見だと私は思ったのさ。彼は職場が三流企業だったせいで正式な報告が上がってくることはなかったが、それでも私のもとには彼のおかげで救われたというプロジェクトの報告が10や20ではきかない数で上がってきた。しかし私も、その頃は目が曇っていたのかね。楠見の個人的な成果だとは思わずチームの成果だと思ってしまった……気がついた時には私の手を離れて彼は銀河の彼方へ旅立ってしまい、太陽系はトラブルの山を抱えることとなってしまったという事だ……笑えるよ、太陽系は、たった一人の男に数年間もトラブル解決を依存してたという事実に」
情報部の切れ者で通っている面々は、その長官の言葉に何も言えなかった……
長官の言葉を事実と認める他ない現状が、それを如実に示している。
楠見 糺が太陽系から消えてから、あらゆる開拓星、開発プロジェクト、ちょっとした都市計画までが何らかの問題を抱えてしまっている……
楠見のいた時点までは正常に進んできたプロジェクトまでが幸運の女神に見放されたように頓挫しかかっているのが現状である。
長官は、ため息とと共に言った。
「はあ……やはり銀河系レベルのトラブルバスターは運命そのものが放っておかないということかね。こんな小さな太陽系くらいじゃ、あの男の活躍の場は狭すぎたってことか……」




