べレスフォード邸での過ごし方
昨夜は眠りも浅く、夜中に何度も目を覚ました。
お酒を飲んだらよく眠れるという話を聞くが、必ずしもそうではないことが分かった。
枕が変わったから、というような理由ではないことぐらい自覚はある。そのようなことで眠れないような繊細な神経は持ち合わせていない――いや、ある意味窓辺に佇む女性は気になるが。
ただ、目が覚めると再び眠気が襲ってくることはなく、闇と静寂に包まれ、自然とジュリアたちの協力のことに思いを巡らせてしまう。やはり慣れない場所で、ある程度の緊張をして神経が高ぶっているのかもしれない。
夜明け頃に少しだけウトウトとしたが、結局、いつも通りの時間には目が覚め、身支度を整えることにした。
仕事柄、徹夜には慣れているので睡眠不足が辛いという感覚はない。それでも年齢のせいなのか、肌の色が冴えない。
鏡の中を覗いて唸っていると、ノックの音と共にお仕着せを着た二人の女性が入ってきた。
「おはようございます。よくお休みになれましたか?」
すでに起きているユーフェミアに笑顔を向ける。丁寧ではあるが、親しみやすい雰囲気をまとった二人はてきぱきと動きはじめる。
どうやら身の周りの準備を手伝ってくれるつもりで来たらしい。寝台の上に広げてあるドレスを見て、コルセットや下着を準備すると、鏡の前に立っているユーフェミアを広い場所に移動させる。
「あの、自分で出来ますから」
「そういう訳には参りませんわ。ジュリア様に言いつけられておりますし、是非とも着飾るのを手伝わせて下さい!」
なぜだか力説され、半ば強制的にガウンや寝間着をはぎ取られる。
あまりの寒さに、身震いする。
まだ、暖炉に火も入れてない状態で、吐く息も多少、白い。
突如襲った寒さに、内心悲鳴を上げる。粟立つ肌に下着を着せられ、コルセットを手早く締められる。
「ああ、やっぱり。もっと締められますわ」
彼女たちの発言に、ギョッとする。
「え、ちょっと待っ――」
制止の声も待たずに、両側から締めあげられ息をのんだ。
確かに、いつも自分でやっているからどうしても甘くなるのは分かっていたが、人に締められるとこうも苦しいとは。
「まだいけますけど、あまり締めると今度はドレスの方が余ってしまうのでこれぐらいにしておきましょうね」
ユーフェミアはその救いのある台詞に、力いっぱい頷いた。
こんな調子で、二日目の朝は始まった。




