変わり種の魔族
それから四~五日がたった頃だろうか。
ヴェルティ様の部屋に呼ばれたあたしは、見慣れない魔族と顔を合わせていた。
「初めまして、ミリアちゃん」
語尾にハートマークがつきそうな声が、目の前の男性から放たれる。
そう、どう見ても男性だ。
いや、綺麗なのはすごく綺麗だよ? 腰まで届きそうなサラサラの銀髪も、優し気なアメジストの瞳も、とても麗しい。見上げるように背は高いけれど、全体にたおやかで儚げな印象の人だ。
「女の姿で来いと言ったであろう」
「あら、だって初めて会うのよ? 一番素敵な姿で会いたいじゃない」
唇に指を当て、困ったように身をくねらせる姿も、姿形が整っているせいか妙に似合っている。美形って得だな。
ただ、ヴェルティ様とファルは、大変お気に召さないご様子だ。ヴェルティ様は額に手を当てたまま天を仰いでいるし、ファルに至っては射殺すような目で睨んでいる。
「ヴェルティ様、やはりこの者を任につけるのは賛成出来かねます」
「うむ、そうだな」
渋い顔でそう言いあう二人に、アンダルトンさんは頬を膨らませて反論する。
「んもー、いやぁね。大丈夫、しっかりやるわ」
「信じられん」
「ファリエルとだって仲良しだったの知ってるじゃない、きっとミリアちゃんとだって仲良くなれるわ」
「だから不安なんだろうが」
珍しい、ファルが漫才してるみたいに見える。
っていうか、アンダルトンさんもファリエル様を知ってるんだ。色々お話が聞けそうで、なんだかすごく楽しみなんだけど。
「あの、あたしアンダルトンさんとお話してみたい」
そう言ってみたら、ファルは信じられない物を見たような顔をしたけれど、アンダルトンさんには飛び跳ねるみたいに喜ばれた。
「ほらぁ、こう言ってるじゃない! 人間って素直だから好きよ、誰かさんと違って」
「くっ……勝ち誇る程の事でもないだろう」
「さ、行った行った。後は任せてちょうだい、きっとこの子が快適に暮らせるようにして見せるわよ」
ファル達を追い払うように、シッシッと手を振るアンダルトンさん。ファルはともかくヴェルティ様をそんなぞんざいに扱ってもいいのだろうか。
「いや、やっぱり貴様には任せられん。ヴェルティ様、我が」
「何言ってるのよ。何? この部屋。まるで牢獄じゃないの」
「な、何が悪いのだ。暮らせるだけの要件は満たしているだろう」
うわぁ、初めてファルが狼狽えたところみたかも。もしかしてファルって普通にアンダルトンさんが苦手だったりするんだろうか。
「ああもう、これだから気の利かない男って嫌だわ。この部屋、鏡すらないじゃない。女の子が快適に暮らせるとは微塵も思えないわ」
「む……必要ないだろう」
「必需品よ! 女と鏡はワンセット、はい復唱」
「しないからな」
すごい、完全にファルが押されてる。圧倒されているファルが物珍しくて、つい二人をじっと見ていたら、振り返ったアンダルトンさんと目が合った。
バチン、とウインクされてたじろいだけれど、意訳するなら多分「この場は任せて」だろう。ここまでのやりとりを見ても、任せる以外の選択肢が思い浮かばない。
よろしくお願いします。
「とにかく、ミリアちゃんはヴェルティ様の大切な客人だって聞いたんだけど、とてもそんな扱いには見えないわ。ねぇミリアちゃん、鏡欲しいわよね?」
「は、はい」
「お花とかあると嬉しい?」
「嬉しいです」
「せめて部屋にティーセットくらいは欲しいんじゃない?」
「あると、ありがたいです」
ただあたしは捕虜のようなものだから、そこまでは望めないと言うか。内心そう思ったけれど、アンダルトンさんのしたり顔を見たら、何も言えなかった。
「ほら、ごらんなさい!」
「く……!」
ファルに呪い殺す勢いで睨まれる。ごめんなさい、でも本心なんです……。
「おやめなさい、怯えているじゃないの」
「うむ、ミリアを睨んでも仕方あるまい」
驚いたことに、ヴェルティ様がさっとあたしの前に出て、ファルの視線から庇ってくれた。あたしの中でちょっと好感度が上がったんだけど。
「まぁ、ヴェルティ様はちょっとは紳士の心得が分かったようね」
「ふん、人間ごときの心得など知る必要もないだろう。ヴェルティ様もこやつに毒される必要はありません」
ヴェルティ様の背中に阻まれて見えないけれど、ファルの声は不機嫌全開だ。さぞや苦々しい顔をしている事だろう。
「まぁ、そうかしら」
ずっとにこやかだったアンダルトンさんの目が、僅かに挑戦的な光を放っている。ファルを見つめる瞳は真剣そのものだった。
「貴方はいつもそう言うけど、永遠に意見が対立するところよね。ヴェルティ様は半分は人間よ? その心も理解してあげて欲しいの」
「別に、そこは否定していない」
「してるわ。ヴェルティ様にとって、人間のマナーを理解することも、人間を愛でる事も普通のことよ? 貴方はもう少しその部分を大事にすべきだわ」
「しているだろう」
「いいえ、してない。魔族の事だけ教え込んで人間への関心を削ごうとしてるじゃない」
「なんだと……!」
ファルの激高した声色が響いた途端、真っ黒な魔気が膨れ上がる。ファルの魔気だと気づいて、あたしは背筋が寒くなった。
こんなに魔気が強いだなんて。
相当強くなったリッツでも、傷がつけられるかすら怪しい。
ヴェルティ様はこれよりも強いと言うの?




