猟師さんとの別れ
「うおっ!? なんだよクソガキ、人様ん家に入る時にはノックしろって言っただろうが!」
扉に向こうには、熊みたいな人がいた。この前チラッと見たときは自称魔王:ヴェルティ様に思いっきりビビりまくっている感じだったから、なんとなく大きく見えなかったけど、こうしてみるととても体格のいいオジサマだ。
立派なヒゲに丸太みたいに太い腕。弓よりアックスが似合いそうだけど、なんなら素手で少々の魔物なら仕留められそう。
猟師さんは左手でニルスのあちこち跳ねた赤毛をぐいっと押さえ込んだ上で、右手でニルスの小ぶりな鼻をピンッと弾いた。
「〜〜〜〜〜〜っ!!!」
「どうぞって言われてから入るのよ? ってママから習わなかったのか?」
鼻を押さえて痛がるニルスの頭をぐりぐりかき混ぜ、猟師さんは豪快に笑う。二人を呆れたみたいに眺めていたエルンストは一つ溜息をつくと折り目正しく頭を下げた。
「すみません、うちの落ち着きのないのが失礼しました」
まるで保護者みたいね。
そんなエルンストをぶーたれた顔で見ていたニルスは「だってよぉ、一刻も早くリッツを紹介したいじゃん」と、小声でぶつくさ言っている。
あたしはちょっと笑ってしまった。
「お、なんだ? クソガキどもの仲間かぁ?」
リッツを見て大らかに笑った猟師さんは、フ、と眉根を寄せる。そしてそのままリッツを穴が開く程見つめて明らかに怪訝な顔をした。
「そーだよ、俺たちの仲間のリッツっていうんだ。王都が魔物に襲われた時に大活躍してさ、今や『勇者さま』なんて呼ばれてるんだぜ」
なぜかニルスが得意げにそう言って、胸を張るのが面白い。だけど猟師さんはますます眉根を寄せて「勇者……?」と明らかに一歩後ろに退いた。
「確かにべらぼうに強いが、その割には……気配が……あの、魔王に似ている気がするが」
険しい顔で呟く猟師さんを、水晶玉ごしに見ながら、ヴェルティ様が感嘆の声をあげる。
「ほう、勇者の魔の気に気付くとは。伊達に日ごろから魔物と対峙しているわけではないということか」
「ヒトにも、それなりの資質を持つ者がいるものですね」
ファルまで感心しているなんて、こっちがびっくりなんだけど。
ヴェルティ様達は呑気というか楽しそうに談笑しているけれど、猟師さんの言葉に、リッツは目に見えて顔色が悪くなった。
もしかしてリッツは、自分の中に芽生える凶暴さや暗い感情が、『魔』を内包しているのだと気づき始めているんだろうか。
不安気に揺れるリッツの瞳を見るだけで、あたしまで不安になってしまう。
「まーな! リッツは勇者だぜ? 魔王に匹敵するくらい強いんだ、そりゃあ常人とは気配も違うさ」
ニルスの明るい声に、猟師さんの眉間の皺も、リッツの表情もふっと和らいだ。それを見て、あたしもほうっと息をつく。知らず、息を詰めて見守っていたみたいだ。
ニルスのこういうとこってほんと感心する。
重くなった場を明るくするのって、そういえばいつもニルスだった気がする。あまり気にした事なかったけど、こうやっていつも助けてもらっていたんだなあ。
「おっちゃん。リッツが迎えに来たからさ、俺達行くよ」
「行くって……おいおい、まさか本気で魔王を倒そうってのか」
あきれたみたいに言われるのは、ある意味仕方がない。
「ああ、仲間が攫われたんだ。絶対に助けたい」
「そうか、あんま無茶すんじゃねえぞ。魔王っつったら魔族の王なんだろ? 俺たちゃ魔族なんざほとんど見たこともねえが、魔物とは比べもんにならねえ強さだっていうぞ」
猟師さんは、神妙な顔で言葉を繋ぐ。
「この前お前らに武器もってきたヤツ……あれが本当に魔王だっつうんなら、悪いこたあ言わねえ尻尾撒いて逃げ帰った方が身のためだ。勇者だっつうアンタでも、おそらく小指で弾かれるだろうよ」
「力の差はわかっているつもりです。何度か相対していますが、相手は本気なんか出してもいないのに一太刀浴びせる事もできない」
「それでも行くのかい」
苦い顔を隠そうともしない猟師さんの問いに、リッツもニルス達も無言で深く頷いた。
「そんじゃあ餞別だ、これ持ってけ」
小屋の隅をごそごそと物色していた猟師さんから手渡されたのは、銀色の毛並みが美しい毛皮と、堅そうな黒い革。なんの魔物のものなのか、どちらもマントが2~3枚は作れそうな、巨大な革だった。
「この村からさらに北に北に行ったところに、小せえルトって村がある。その村から西の岩山ん中に氷湖って湖があってな。そのほとりに腕利きの鍛冶屋が隠れ住んでる。俺の倍くらい生きてそうなジジイだが腕は確かだ。ジジイに、お前らに合う防具でも作って貰え」
ぶっきらぼうにそれだけ言って、猟師さんはフイ、と背を向ける。大きな背中が、なんだか寂しそうに見えた。
「おっちゃん、この革なんかすげえって俺でもわかるぜ、サンキューな!」
ニルスがドシン、と大きな背中に飛びついた。「絶対魔王に勝って、戻ってくるから! 土産話、楽しみにしててくれよ」感情表現がストレートなニルスの横で、エルンストは猟師さんに折り目正しくお礼を言う。
「貴重なものをありがとうございます。これまで教えてくださったこと、絶対に忘れません」
背中を向けたまま、猟師さんの太い腕がエルンストの頭に降りてくる。乱暴に頭を撫でて、猟師さんはポツリと「死ぬなよ」と呟いた。
この小説の発売から10日が経ちました。
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ちなみに今後は10日に1度程度の更新ペースになります。
また10日後に٩( 'ω' )و




