小さな鍵
そんなに仲良さげにしたわけでもないんだけどな。やっぱり魔族って人が楽しそうだったり仲良さそうだったりするとイラついたりするのかしら。
不思議に思いつつも、自称魔王に追い返されるまま与えられた部屋へ戻る。不機嫌ながらも戻り際に華やかで可愛らしいお菓子をもたせてくれるあたり、脈絡なく優しかったりするから始末が悪い。
うっかり一瞬「いい人……はっ、違う違う」ってなっちゃうから真面目に困るんだよね。いっそのこと悪者丸だしでいてくれたらいいのに。
「わっ!?」
心の中で愚痴りながら部屋のドアを開けたら、いきなり白いものが飛びかかってきた。
「ピッ!ピッチュチュチュッピイッ!」
「わ、あ、な、なんだ、チューリかぁ。驚かさないでよ」
「ピ〜チュッピッピピピッピピュウ!」
あたしの周りを忙しなく飛び回っては、凄い勢いで何か囀ってるんだけど。
「ごめんね、何言ってるかわかんないよ」
「ピチュ〜……」
うわ、なんか明らかにがっかりされた!
そっか、そうだよね。チューリはあたしの言ってること理解してくれてるみたいだし、前のご主人様である自称魔王はチューリと会話までしてたもんね。なんか申し訳ない。
ちょっと拗ねたような様子で止まり木にとまって毛づくろいを始めるチューリ。お詫びに自称魔王から貰ったお菓子からベリーをとって餌箱に入れてあげたら、やっと機嫌をなおしてくれた。
う〜ん、以心伝心とまではいかなくても、もう少しチューリの言いたいことも理解出来るようにならないとなあ。いつまでも自称魔王に通訳して貰うわけにもいかないんだし。
「ピチュッ♪」
「ん?なあに?」
ベリーの威力ですっかりご機嫌になってくれたチューリが、またパタパタと翼をはためかせてやってきた。何か言いたげにあたしの頭の周りを2〜3周くるくるっと周ってから窓際まで行ったかと思うと、何かをつつくようにしてからまた戻ってくる。
戻ってきたチューリはなぜかあたしの前で滞空して……あれ?
「チューリ、なあに?何を咥えてるの?」
手を差し出すと、あたしの手のひらに小さな鍵が落とされた。ああそうか、チューリはこれをあたしに渡したかったんだ。
「可愛い……」
意匠を凝らされた、可愛らしい鍵。いったい何の鍵なんだろう。
「チューリ、どこからこれ、持って来たの?」
「ピチュチュチュチュチュ♪」
……うん、なんか自慢げなのだけは分かった。
しかしもちろん詳細なんか分かる筈もない。ただ、この城に帰ってくる途中まではあたしもしっかりチューリと意識を同化してたわけだ し、きっとあたしが自称魔王の部屋へ行ってからか、リッツ達と話してる時だろう。とすると、多分この魔王城の中か、周辺で拾ったに違いない。
この鍵がなんの鍵なのか、何かの役に立つのかは皆目見当がつかないけど、胸を反らして自慢げなチューリがあんまり可愛いから、とりあえずベリーを追加してあげた。
なんだろうなあ、この鍵。
思いついて、鍵に意識を集中してみる。書物から魔気とかが感じられたんだから、鍵からも感じられるかも知れないもんね。
………。
………。
………あれ?これって……。
親しんだ覚えのある気が、微かに感じられる。暖かくて優しい……これ、ファリエル様の聖気だ。
「チューリ、これ、ファリエル様のなんだね」
「ピッチュウ♪」
多分だけど肯定されてる気がする。しかし何の鍵なんだろう、部屋の鍵にしては小さいし。
あたしは小さな鍵を髪留めの中に縫いこんで置く事にした。
あたしがファリエル様の部屋を見つけた事を自称魔王に言ってない以上、今すぐにファリエル様の部屋を大手を振って探索できるわけじゃない。慎重に機会を窺いながら密かに行う方がいいだろう。その時まで、この鍵は無くさないように、ファルや自称魔王に見つからないようにした方がいいような気がした。
ベリーを食べてお腹いっぱいになったのか、止まり木でウトウトしているチューリを見ながら、あたしは漸く、部屋に帰ったらやろうと思っていたことに取り掛かる。
それは、リッツに渡してきたお守りとシンクロする事だった。
とにかく、曲がりなりにもお守りは渡せたわけだし。
集中して、自分の髪の毛からの気配を探っていく。しかしそれは、あたしが思っていたよりもずっとずっと手がかかる作業だった。
なんせ、気配が遠い。っていうか感じられない。
これまでの練習で簡単に気配が見つけられて、かつどこまでも気配が辿れたのは、チューリにしても髪の毛にしても、目に見えるほど近くで存在感が簡単に確認出来たからなんだろう。
そして、いったん繋いだ気配を辿るのが簡単だっただけだったんだって、思い知らされた。あたしはあのお守りをリッツに渡す時に、意識をつないだままにしておくべきだっったんだ。
あの時は自称魔王にバレちゃうのが嫌だったから、いったん解除しちゃってたんだよね。
ああ、失敗だった。
とはいえ、あのお守りに入っている髪の毛は何度も意識を繋いだ事があるわけだから、絶対に他の気配よりも探しやすい筈。そう簡単に諦めてなるものか。
あたしは、リッツがいると思しき南の方角を、ただひたすら探り続けた。




