ご褒美を貰いました。
あんたに言われなくても、とことん足掻いてやるわよ!
だって、こんなにリッツに 不安を感じた事なんてない。
これまで、いつか離れるとしてもそれはリッツがあたしを必要としなくなるからだと思ってた。それはきっと近い将来で、例えばさっきクワイトさんに言われたみたいに、あたしが……リッツの邪魔になる時だと思ってた。
もしもその時がきて、例えリッツと離れたとしても、リッツが幸せならばそれでいい。
だって、リッツはあたしの大好きな人だけど、子供の時から生死の境を共にしてきた戦友であり、家族のいないあたしにとっては唯一の家族とも言える存在だから。
正直リッツがいない人生なんて想像もできないけど、リッツがあたしを必要としなくなるなら、その時はちゃんと身を引かなくちゃいけないってそう考えてたけど。
でも、それは絶対に今じゃない。
この自称魔王の言葉を信じるならば、このまま放置したら最悪リッツは壊れてしまうかも知れない。あたしが傍にいるだけでもし状況が緩和されるなら、あたしはリッツの傍にいるべきだ。
せめて、魔王を倒してリッツが魔の気に触れずに済むようになるまでは。
「……リッツ達とこのお城……どれくらい、離れてるの……?」
泣きながらで情けないけど、少しでも情報が欲しい。完全に面白がっているこの自称魔王ならば、情報をくれる気がした。
「ほう、それを私に聞くか」
案の定ニヤニヤしてる。本当かどうかも分からない答えでも、何もないよりはマシだ。
「そうよなあ、あやつの足で迷わず戦わずで急ぎ歩いて半年ほどはかかるであろうな。その間あやつがヒトの意思を保っていられると良いがな」
気が遠くなる。
そんなの、あたしがこっちから歩いて運よく出会えたとしたって相当かかるじゃない。
正攻法じゃダメだ。
考えろ。考えろ、あたし。
闇雲に動いたってきっとリッツには辿り着けない。なにか、ショートカットできる方法を考えるんだ。そう、何も手段がないわけじゃない。だってあの自称魔王は、一瞬でその距離、あたしを運んだ筈なんだから。
自称魔王を見てみれば、とても楽しそうにあたしを眺めていた。多分彼が口にした通り、あたしが悩み、もがく様も彼にとっては娯楽なのだろう。全くもって胸糞悪い。
でも、それがあたしの唯一の交渉材料であることも、間違いないと思うから。
涙をグッと拭いて、あたしは自称魔王をしっかりと見据える。もう、声は震えなかった。
「ねぇあたし、とことん足掻くわ。あんただってそれが見たいんでしょう」
「ああ見たいな。ヒトは無力だが、滑稽なほど諦めが悪い。だがそれがいい、お前も勇者も簡単には絶望してくれるなよ」
ホント、むかつく。
「諦めないわよ、絶対に。リッツだってそう簡単には折れないわ。だってあたしの自慢の幼馴染なんだから」
「それは楽しみな事だ」
「ええ、存分に楽しんで頂戴。そのかわりと言っちゃなんだけど、ひとつヒントをくれないかしら」
初めて、自称魔王が少しだけだけど、目を見開いた。ずっと余裕綽々だったヤツをちょっと驚かせることができたと思うと胸がすく思いだ。
自称魔王は僅かな間の後に、目を細めて優美に微笑んだ。
「……良かろう、私を相手に交渉してくる度胸に免じ、これを授けてやっても良い。ひとつだけ、余興を見せてくれればな」
自称魔王の手にあるのは、何かはわからない古い鍵。
「この城の書庫の鍵だ。足掻くと決めたのならば、自らの手で活路を開くがよい」
書庫。いつ襲ってくるかも分からない魔族から、嘘かホントか分からない情報を収集するよりずっとマシだ。喉から手が出るほど欲しい。
「……余興って?」
「ああ。娘、お前は今、気配を消しているだろう。お前の体に満ち満ちた聖の気を間近で見たい」
聖の気?そんなモン見てなんになるって言うんだろう。
「ヴェルティ様!」
「ファルにはちょっとキツいかも知れぬな。少し離れておれ」
「しかし」
「いいだろう?濃い聖の気など、この地では見ることすら叶わぬ」
二人はなんだかよく分からないやり取りをしてるけど、あたしは取り敢えず一番気になる点を聞いてみた。
「あの、出来るのは出来るんだけど、そんな事したらあたし、あなたを襲いに来た不審者だと思われない?」
ホントに魔王なのかは未だ分からないけど、自称魔王がこの魔物がわんさかいる城の主である事はさすがに疑念の余地がない。そんな城の、主の部屋で聖の気なんか超放出したら、警報が鳴ったり護衛がカッ飛んできたりしないだろうか。あたしにとっては命に関わる切実な問題だ。
でも、それは一笑にふされた。
なんでも、あたしは客人として既に伝達されているらしい。
それにしてはぶち込まれた部屋は凄まじい埃でしたけど。
安心したところで、あたしは漸く気配操作を解除した。次いで、自分の中の聖の気を増幅させていく。自称魔王の目にはっきりと映るように、体から光が漏れ出すまで増幅させてふと見れば、なぜか自称魔王は複雑な表情であたしを見ていた。
嬉しそうな。
幸せそうな。
でも、なぜか悲しそうな。
どれくらい、そうしていたのか。
自称魔王が、ゆっくりと微笑んだ。
「もう良い。娘、今日は楽しませてもらった。約束通りこれをくれてやろう」
あたしの手に、古びた鍵が渡される。
これが、あたしの大切な武器になるのかも知れない。
あたしは、受け取った鍵をしっかりと握りしめた。
その時だ。
急に部屋の外が騒がしくなった。
叫ぶような声まで聞こえてくる。
え⁉︎ まさか。
あたし客人だって言ったよね⁉︎




