EX7.魔法少女ソードダンサー 最終話 魔法少女よ永遠に・・・
「わらわに逆らう愚か者どもめ。これで終いじゃ」
漆黒のマントをなびかせ、悠然と佇む魔王アイが5人の魔法少女たちを一瞥する。
アルティメット巫女フォームで立っているソードダンサー以外の魔法少女は全て地に伏せていた。
意思のみの存在である悪世栖の総統がアイに憑りつき、魔王アイとして降臨した彼女に魔法少女は為すすべもなく倒されていた。
「スタート! 貴方これでいいの!? アイちゃんは貴方の娘なんでしょ!?」
ラブチェイサーが苦悶の表情を見せながらスタートに訴えかける。
悪世栖の26の幹部のスタートの娘であり、何のとりえもないはずなのに同じ26の幹部に据えられていたアイは、総統を取りつかせるための器でしかなかったのだ。
「私は・・・悪世栖の26の幹部です。私が仕えるのは総統――魔王様のみ。それ以上でもそれ以下でもありません」
竜をかたどった仮面の下でスタートは苦悶の表情を隠しながら言葉を紡ぐ。
「ビースト・・・お願い、戻ってきて。例えルーナちゃんが助かっても今の貴方の姿を見たらルーナちゃんが悲しむわ」
ビューティープリーストの言葉に、ゾディアックの後ろに控えていたビーストが顔を伏せる。
「すまない。例えどんな非難を浴びようとも俺はルーナを助けると決めたんだ」
ビーストは不治の病に侵された妹のルーナを救うためにゾディアックに協力していた。
ゾディアックの部下である愛怨・アクエリアスの生み出す命の泉によりルーナの命は繋ぎとめられていたからだ。
「魔王様。それでは魔法少女たちに止めを」
魔王アイの傍に控えていたゾディアックが魔法少女たちへの止めを促す。
「ゾディ君・・・」
ソードダンサーが悲しげな顔でゾディアックを見つめる。
魔王が降臨した今だと分かるが、ゾディアックはその幼い心の隙を突かれ僅かながら魔王の意思が刷り込まれていたのだ。
ソードダンサーは魔王アイを倒すことによってゾディアックを解放しようとしたが、魔王を倒すことは何の罪もないアイちゃんを倒すことに他ならない。
その躊躇いの隙を突かれて魔法少女たちは今地に伏せていたのだ。
「ふむ、ミラージュ、クレセント、インビジブル、魔法少女たちに止めを刺せ」
魔王アイの言葉に従い3人の26の幹部たちは魔法少女たちに向かって歩みを進める。
今この場に居るのは魔王アイとスタートを除けば、悪世栖の26の幹部のうち最強と言われている7大幹部のミラージュ、ゴールド、インビジブル、クレセント、ラウンド、ラヴァーズ、ゾディアックの7人だ。
この7大幹部の策略により、魔王アイは降臨し魔法少女を劣勢に追い込んでいた。
「さぁて、悪あがきはここまでだ。止めを刺させてもらうぜ」
「恨むのなら力のない己を恨むことだな」
「ぐふふ、なぁに、何も心配いらないよ。全てが終わるころには痛みも快感に変わっているさ」
爬虫類の姿のインビジブル。美丈夫のクレセント。無駄に素肌を晒している巨漢のミラージュ。
3人の7大幹部が止めを刺そうと各自の武器を振り上げる。
ソードダンサーは仲間を護るために剣を握りしめ、ラブチェイサーたちは何とか立ち上がろうと己を奮い立たせる。
その瞬間、3人の7大幹部と魔法少女の間に薔薇の鞭が撃ち込まれた。
「ローズウィップ!」
咄嗟に下がった3人の7大幹部の前に新たに赤色と銀色の2人の魔法少女が立ち塞がった。
「魔法少女ローズマリー! 貴方の醜い行い薔薇の鞭で正して差し上げます!」
「ん! 魔法少女ムーンブレイド! 貴方の心に信念の刃貫かさせてもらいます!」
「ばかなっ!? お前たちは死んだはずじゃ!?」
新たな魔法少女たちの出現にゾディアックは驚愕の表情を見せた。
以前、ローズマリーとムーンブレイドはソードダンサー達を庇って異次元の穴へ落されていたのだ。
「仲間がピンチの時には例え地の底からでも駆けつけますわ!」
「ん、あたし達の絆は地獄の閻魔様でも斬ることは出来ない」
魔王アイは2人の魔法少女を不快に思いながらも、2人の、いや7人の放つ魔法少女の雰囲気に警戒を露わにする。
「ソードダンサー! 今よ! この剣を掲げて!」
ローズマリーの声に従い、ソードダンサーは受け取った剣を天に掲げる。
ソードダンサーの掲げた剣から7色の光が辺りを照らす。
そして7色の光を受けて魔法少女たちが新たな力を得る。
「魔法少女ラブチェイサー・アルティメット天使モード!」
「魔法少女クイーンプリンセス・アルティメット女王モード!」
「魔法少女オンリーランサー・アルティメット騎士モード!」
「魔法少女ビューティープリースト・アルティメット法王モード!」
「魔法少女ローズマリー・アルティメット戦乙女モード!」
「ん! 魔法少女ムーンブレイド・アルティメット剣聖モード!」
「さぁ! 一気に踊り斬るわよ!」
ソードダンサーの掛け声とともに魔法少女たちは7大幹部へと立ち向かう。
ゾディアックの護衛に入ろうとしたビーストの前に1人の少女を連れたウインドが現れた。
「な・・・! ルーナ、何でここに・・・!」
「兄さん、もうやめて! あたしならもう大丈夫だよ」
ルーナはビーストに抱き着いて悪事を止めようとする。
「ルーナ・・・お前、体は大丈夫なのかよ」
「それなら心配はいらない。月女神様から頂いた月の涙を飲ませた。
彼女の体はもう病には犯されてはいないさ」
「な! 本当か!? そうか・・・良かった・・・」
「馬鹿な馬鹿なっ! 月女神は封印されていたはず!」
ここにきて優秀な護衛を失ったゾディアックが体を震わせながら後ずさりしていた。
「それは彼女たちの揺るぎない心の魔法が月女神様の封印を解いたのさ」
ウインドはそう言いながら7大幹部を次々屠る魔法少女を見る。
「さぁて、ルーナの心配が無くなれば俺はお前に付く必要は無いな。悪いが決着するまで大人しくしてもらうぜ」
ビーストは素早くゾディアックを組み伏せて大人しくさせる。
「後は彼女たちの頑張り次第だな」
ラブチェイサーが天使の矢を放ちクレセントを貫く。
クイーンプリンセスが鞭を振るいインビジブルを薙ぎ払う。
オンリーランサーが槍を突きラウンドを穿つ。
ビューティプリーストが杖を掲げ浄化の光がラヴァーズを焼き尽くす。
ローズマリーが薔薇の鞭を振り回しゴールドを縛り上げる。
ムーンブレイドが剣を閃かせミラージュを両断する。
そしてソードダンサーは二刀を以って魔王アイと対峙していた。
「アイちゃん、いいえ、魔王。もう終わりよ。アイちゃんから離れなさい!」
「何を世迷言を。わらわの力があれば貴様らなど塵芥に等しいのじゃ。
7大幹部なぞわらわをこの世に呼び出すための装置でしかないと言う事を教えてやろうぞ!」
魔王アイが右手に剣を持ち、左手に杖を掲げて剣と魔法の連続攻撃でソードダンサーを圧倒する。
だがソードダンサーは決して諦めてはいなかった。
「スタート! 貴方は悪世栖の26の幹部である前に、1人の父親でしょ!
貴方が本当にアイちゃんを愛しているならここでその愛を見せなさい!」
ソードダンサーのその言葉にスタートはハッと顔を上げ、意を決意して魔王へと抱きつく。
「くっ! スタート! 何をしておる!? わらわの邪魔をするではない!」
「アイ、もういいんだ。お父さんが間違っていたよ。お前を犠牲にしてまで世界なんて欲しくは無い」
その言葉に魔王の体は一瞬硬直した。
「くぅ! わらわに逆らうな! この体はもうわらわのものなのじゃ!」
「おとう・・さん・・あた・し・・も・・おとうさ・・ん、だい・・すき・・」
魔王の口から2人の言葉が同時に発せられた。
スタートの語りかけがアイの意識を呼び戻し魔王に抗い始めたのだ。
「ソードダンサー! 今よ!」
7大幹部を倒したローズマリーたちが魔王アイを取り囲み、光の魔法陣で魔王アイを包み込む。
「「「「「「「愛で包み込む光の抱擁! 慈愛光陣エンジェル・ハート・エンブレス!」」」」」」」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁ!?」
魔法陣の光を受けてアイから黒い靄が溢れだしアイと魔王は切り離される。
「これで・・・止めよ!!
愛を与える双刃の舞! 剣舞双刃破斬エンジェル・ブレイク・ソードダンス!!!」
「がぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ソードダンサーの双刃を受けて意思のみとなった魔王はこの世から消滅した。
それに伴い、ゾディアックに巣食っていた魔王の意思も消え去った。
「あれ・・・? 僕、何をしていたんだろう・・・」
「ああ、ゾディ君、良かった」
ソードダンサーはゾディアックを抱きしめて助かったことに喜んでいた。
「アイ、すまなかった」
「ううん、あたしお父さんの事信じてたもん」
スタートとアイがお互い抱きしめあい、それをラブチェイサーが嬉しそうに見ていた。
「ウインド、ありがとうね。月女神様の所へ行ってくれて」
ビューティープリーストがウインドにお礼を言う。
月女神の封印が解かれたとはいえ、女神の下へ行くにはそれなりに試練があるのだ。
「なに、大したことじゃないさ」
「そうか、ビューティーがウインドに月女神の所へ遣わしてくれたのか。
すまなかった」
ビーストはビューティープリーストが妹の為に知恵を絞ってくれたことに感謝を覚えた。
「ふふふ、違うでしょ? こういう場合はありがとう、でしょ?」
「そうだな。ありがとう」
「ありがとう。ビューティーお姉ちゃん!」
ビーストに倣い妹のルーナもビューティープリーストにお礼を言う。
「さぁ! 帰りましょう! わたし達の町へ!」
ソードダンサーの呼びかけと共に魔法少女たちとビーストやウインド、ゾディアックとスタート達は手を取り合ってそれぞれの居場所へと帰っていく。
こうして魔法少女たちの活躍により悪世栖の間の手から町が守られ平和が訪れた。
ありがとう、魔法少女! ありがとう、ソードダンサー!!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「って夢を見たんだけどどう思う?
因みにあたしはお姉ちゃんの活躍がかっこよかったなぁ~」
そう言って一生懸命ソードダンサーの活躍を身振り手振り披露するのはアイちゃんだ。
偽物事件も片付き、警察の事情聴取やらの後始末も終わって打ち上げ兼2次会の席で盛り上がってきたところで、アイちゃんからとんでもない発言が飛び出してきたのだ。
「えーと・・・アンドロイドって夢を見るのか・・・?」
「うーん・・・アイちゃんは普通のアンドロイドとはちがうからねぇ・・・」
「そうだな。アイちゃんはほぼ人間と言っていいほどのAIを兼ね備えているんだ。夢も見るだろう」
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?という作品もありますが、それと同様に興味のある夢ですね」
ヴァイ、ヴィオ、クリス、るるぶるさんがアイちゃんの身体構造について議論を始め出した。
「ねぇねぇ! アイちゃん、もっと詳しく聞かせて!」
「アイちゃん面白い夢見るね。ボクももう少し詳しく聞きたいな」
「面白いですわね。それぞれの人物の特徴が上手く捉えているところなんか」
もう片方ではアイちゃんにリムやジャスティ、フリーダが夢について詳しく聞いていた。
で、俺はというと未だに女装のままで2次会に参加させられていて、隣では鈴の冷たい視線に晒されていた。
「ねぇ、何でアイちゃんがあの夢の事をしっているのかなぁ~?」
「あはは、なんでだろうねぇ~」
「ん? AI-Onに居る時、アイちゃんに嬉々として話していたじゃないか」
ちょっ!? 疾風、何火に油を注いでいるんだよっ!?
「へぇ~、嬉々として話していたんだ~?
そんなにソードダンサーが好きなら、明日も学校でその格好していけばいいじゃない?」
「ちょっ!? それは勘弁してよ!」
と言うか、別に俺が夢を見たわけじゃないのになぜ責められなければならないんだ?
なんてことは今の鈴には決して口にはできず、俺はこの2次会で只ひたすら鈴の静かな怒りが収まるように宥めまくっていた。




