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Angel In Online  作者: 一狼
現実の章 Offline
82/84

75.ホンモノと新たな伝説

「遅れちゃって、ごめーん。『Angel Out』の正義担当、ジャスティただいま到着しました!」


 元気いっぱいのポニーテールの女の子が俺――大神大河達の座っているテーブルにやってきた。

 と言うか、いつの間に『Angel Out』に正義担当なんて出来たんだ?


「おう、ジャスティ。やっと来たか。ずいぶん遅いから心配したんだぞ?」


「あー、うん。散々道に迷って結局親戚の人に送ってもらって来ちゃった」


 ヴァイの心配にジャスティはテヘペロと言いながら空いている席に座る。

 遅れてきたジャスティに改めて俺達は自己紹介をした。


「うーん、AI-On(アイオン)内では散々会っていたのに、こうして見ると初めて見る顔ばかりで何か新鮮だね!」


「あはは、そうだね。まぁ、一番の驚きはフェンリルなんだけどね」


 一同を見渡すジャスティは天夜の言葉に反応して俺を見る。


「ボクの所まで噂は届いてますよ。AI-On(アイオン)最強プレイヤーの舞姫が男だった!ってね」


「ま、そのせいでたちの悪い偽物が出てきたんだけどな」


「で、今はその偽物退治の作戦を練っているところ」


「偽物退治ですか!? 流石フェンリルさん! はい! 是非ボクも参加したいです!」


 俺と鈴の言葉にジャスティがすかさず反応する。

 そんなジャスティに俺達はその偽物についての情報を教えておく。


「うわ~、流石にこれはシャレにならないよ。

 ボク、オフ会に来る時友達に偽物に注意しろって言われてたけど、そういう事だったんだね」


「で、偽物退治をするのはいいけど、どういう方法を取ろうかって話し合っているんだけど・・・」


「手っ取り早いのが囮作戦なんだよな」


 ヴァイが俺の言葉を引き継いで囮作戦の事をジャスティに説明する。


「あ、ハイ! ボク囮やりたい! こんなことするのは女性の敵! 懲らしめなきゃ」


「却下」


 ジャスティはやる気満々で名乗りを上げるが、俺は速攻で却下する。


「ええ~!? なんで!?」


「あのな、仮にも相手は女性を食い物にする奴なんだぞ? そんなところにバックアップがあるとはいえ女性1人を送り込めるかっての」


「でも、ボク空手の有段者だよ? そんなナンパな男なら後れを取らないよ」


「それでも却下。

 偽物は1人で行動してるわけじゃないし、いくら空手の有段者とは言え不意打ちでスタンガンとか催涙スプレーとか使われたら対応できないだろ」


「う・・・」


 俺の説得にジャスティは言葉に詰まる。


「それじゃあどうするの?」


「それで今揉めてるんだよなぁ」


 そう言いながらヴァイはどうしたもんかと腕を組む。


 偽物は複数の人数で行動している。

 偽物を名乗っている奴だけを捕まえても意味が無いし、奴らが女性を囲っているアジトを見つけなければならない。

 もしかしたら今もそこで何人かの女性たちが暴行を受けているかもしれないのだ。

 そこで取られる手段がアジトに案内してもらいつつ偽物達を一か所に集める囮作戦が一番有効なんだが、さっき俺が説明した通りこの囮役は危険が伴う。

 そんなところへ女性を1人送り込むなど以ての外だ。


「何も難しく考えることは無いさ。

 偽物に本物をぶつけるのは昔からのお約束だろ?」


 俺達が悩んでいるところにクリスがさも当然とばかりに言葉を発する。


「本物って・・・俺か? だけど俺じゃ囮にすらならないぞ?」


「要は奴らのアジトに案内させればいいんだ。何も女性である必要は無い。

 女性に見えさえすればいいんだよ」


 クリスの言葉に一同が考え込む。

 あ、なんかやな予感・・・


「そうか! 女装か!」


 ヴァイが嬉々として膝を叩く。

 なんか面白がっているように見えるが気のせいだよな?


「フェンリルさんを女装させるんですね!」


 リムが何か目をキラキラ輝かせているのも気のせいだよね?

 その年で既に腐女子とか言わないよね?


「なるほど。仮に襲われたとしてもそれなら身の危険性を心配することはありませんね」


 いや、るるぶるさん。女装している姿で襲われている時点でヤバいですから。


「幸いここには女性陣が多くいるから女装は比較的簡単に出来るだろうさ」


「いや、待て待て待て! だったら俺じゃなくても他の奴にすればいいじゃないか!」


 そう言いながら他の男性メンバーを見るが・・・

 ヴァイは論外。

 ヴァイが女装すればオカマにしか見えないだろう。

 クリスと疾風も少し難しいか。

 2人とも背が高いので偽物にナンパされるような女装には少々難がありそうだ。

 おまけにクリスは眼鏡を掛けているので幾分和らいで見えるが、鋭い目つきで相手を威嚇しているようにも見える。女装には到底向かなそうだ。

 となれば、残りは俺と天夜と言う事になる・・・んだな。


「この中で女装に適した人物となるとフェンリルと天夜しかいないわけだ。

 で、さっきも言ったが、偽物には本物をぶつけると相場は決まっている」


 クリスの言葉に俺は項垂れる。


 マジか・・・VRならいざ知らず、まさか現実世界(リアル)でも女装をする羽目になるとは・・・


「服とか髪とかどうすんだ? 後で用意して作戦は後日ってことにするのか?」


 今から用意するとなると時間が掛かりそうな気がするんだが。

 只でさえ女性の準備は色々と時間が掛かるだろう。ましてそれが女装ともなれば一段と手間がかかるはずだ。


「いえ、作戦は今日にでも行った方がいいでしょう。

 マスターの正体がバレて直ぐに偽物の噂が出て、ネットに脅迫用の映像が流出しているくらいです。

 偽物は時間を掛けて女性をナンパするのではなく、直ぐ手を出していると予想されます。

 もしかしたら偽物は短期間で悪事を進めている可能性もあります。

 ・・・それに今もなお囚われている女性を少しでも早く解放してあげたいですし」


 あー、そっか。偽物達も長く騙し通せるとは思っていないかもしれないな。

 だとすれば行動は早めに起こした方がいいのか。


「あ、服とかだったらそこら辺のお店から買えばいいよ。お金ならあたしが出すから

 何だったらエステとか行って全身のお手入れもしちゃう?」


 舞子がさも当然と言った風に提案してくる。


「って、服一式用意するんだぞ? そんなポンと出せるような金額じゃないだろ」


「あー、フェンリル。お金の事なら心配いらないぞ。何せこいつ四ツ葉財閥の御令嬢だからな」


「「「「「「「「「 え゛!? 」」」」」」」」」


 マイコガヨツバザイバツノゴレイジョウ!?


 天夜の仰天発言に俺達は言葉を失う。


「マジですか? この(・・)舞子がお金持ちのお嬢様!?」


「気持ちは分かるが、マジだ。俺もつい昨日聞いたばかりだけどな」


 信じらんねぇー。

 お金持ちなのに何故お馬鹿なんだ。いや、お金持ちだから甘やかしてこうなったのか?


「え・えっと、取り敢えずお金の問題は解決したんだから早いとこ準備しましょう」


 ヴィオの言葉に俺は我に返る。

 そうだ。どう足掻いても結局女装する羽目になるんだよな。

 寧ろ舞子というパワーが入る分、無駄にお金の掛かった女装になるのか。


「それじゃあお兄様、早速準備しましょうか。みんなもお兄様を着飾るのにお手伝いをお願いね」


 舞子が俺の手を取ってファミレスの外へと促す。

 他の女性メンバーも俺を女装させるためにあれこれと意見を出し合っていた。


「マスター。私はもう少し偽物についての情報を集めてみますね」


「あー、じゃあ俺も署の方にちょっと何か情報が来てないか聞いてみるわ」


 るるぶるさんとヴァイはそれぞれ独自の情報網を使い偽物について調べておくことになった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そして2時間後。キッチリしっかり見事に女性に仕上げられた俺がそこに居た。

 白のシャツに赤のネクタイ、同様に赤のミニのプリーツスカート、黒のニーハイソックスに赤のブーツ。

 そして長い黒髪のカツラをヘアバンドやヘアピンで無理やりポニーテールしてうなじを晒している。

 しかも念の入ったことにパットを大量に入れた巨乳仕様のブラジャーに、パンツまで女性用のものを履かされてしまっていた。

 因みにフルチューンまでとはいかないが、全身エステで肌のお手入れ(無駄毛の処理等)をされてしまっている。


「ううう・・・もうお婿に行けない・・・」


 意気消沈している俺を余所に周りのメンバーは大いに盛り上がっていた。


「おおお~、見事に化けたものだ。これならどっからどう見ても女に見えるな」


「ヤバい。男だと分かっているけど惚れそうだ」


「と言うか、この服装だとAI-On(アイオン)の時のフェンリルの衣装っぽいな」


「ああ、萌えスキルで変化してたコスプレ巫女だな」


「Yes! AI-On(アイオン)の時のフェンリルちゃんを目指してみました!」


 男性メンバーの評価にヴィオは得意げにビシッっと親指を立てる。


「フェル、ほら、声、声。裏声でもいいからなるべく高い声を出して」


「ううう・・・ベルの裏切り者・・・」


 最初は仕方なしに女装を手伝ってた鈴だが、次第にみんなと同様エスカレートしていき、終いには嬉々としてあれこれ手を出していた。


「それではマスター。作戦を確認しますね。

 マスターはこれから偽物がナンパされていると思われるエリアに出向いて道に迷ったふりをして偽物にアジトまで連れ去られる手筈でお願いします」


 道を聞くときは、今の女装をしている俺はジャスティと同じ背格好なので、ジャスティのふりをして偶然フェンリルに会ったように見せかけるようにするとの事。

 るるぶるさん曰く、偽物はフェンリルの名前を使うため俺達の周辺を調べている可能性があるとか。

 ジャスティなら地方の出身と言う事で偽物もそこまで警戒はしていないだろうと言う事だ。


「だけど本物の知り合いが現れたら偽物は警戒しないかな?」


「それは大丈夫でしょう。

 寧ろ偽物だとバレる前にマスターをアジトに連れ込み暴行して弱みを握るはずです」


 ふむ、奴らは自分たちの悪事が表に出るのが一番困るはずだ。

 なので、自分たちが偽物とバレて事が大きくならないように、るるぶるさんの言う通り本物との繋がりのある女装した俺を口封じしようと連れ去るだろう。


 と言うか、ここまでくれば偽物本物関係なく奴らのやってることは犯罪行為なんだよな。

 しかも、奴らは大胆にもネットで強姦(レイプ)映像を流している。

 確かに被害者にとっては脅迫材料になるが、逆に偽物達の犯罪行為の証拠にもなっているのだ。

 奴らはそのことに気が付いていないんだろうか? ・・・気が付いていないんだろうな。


 まぁ、気が付いていないんなら好都合だ。

 キッチリ証拠は押さえ、奴らの犯罪行為を潰してやる。

 只でさえフェンリルの名前を使った犯罪だ。到底許せるものじゃない。


「それじゃあ、作戦に入るわよ。

 クリス、疾風、天夜はわたしのバックアップ。

 るるぶるさんはわたしに仕込んだ盗聴器で状況を判断して3人に指示をお願い。

 女性メンバーは救出したあとの女性達のサポートを。

 ヴァイは事件の後始末の警察への対応をよろしく」


「「「「「「「「「「「「「 了解!!」」」」」」」」」」」」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 俺――笛木律人はジャスティとかいうポニテ女を連れて俺達のパーティー会場へと足を運んでいる。

 時折ゲームの時の話をしてくるが何とか上手く誤魔化してその場を凌ぐ。

 いささか不審がられているだろうが、パーティー会場に着きさえすればどうってことない。


 この女の話しているゲームと言うのは世間を賑わせたVR監禁事件のゲームの事だ。

 確かAngel In Onlineとか言ったっけな。VRと言う技術を使いゲームの中に入ると言う画期的なものらしいが、俺に言わせればただのゲームに過ぎない。あんなのに夢中になる奴の気がしれないな。


 まぁ、そのお蔭で上手く女を引っかけることが出来ているんだ。ゲーム様様だな。


「・・・ねぇ、さっきから人気の居ないところに向かっているような気がするけど・・・」


 ちっ、流石に気付き始めてきたか。


「ああ、そう言えば言い忘れてたけど、オフ会はファミレスじゃなくて倉庫でやることになったんだ。

 倉庫を貸し切ったから好きなだけ騒いでも大丈夫なようにね。

 料理も出来合いのものだけどたくさん用意しているから、食べ物の事は心配ないよ。

 簡単な調理器具もあるしね」


「わぁ! そうなんだ! それは楽しみだね! ボクおなかペコペコだったんだ」


 ポニテ女はさっきまでの不安だった顔を一変させ、無邪気にこの後食べる料理の事で夢中だった。


 ・・・こいつ馬鹿じゃねぇの?

 幾ら状況が状況とは言え、普通こんな場所で飲み会なんてやらねぇぞ。

 まぁ、馬鹿な女の方が俺達にとっては好都合だからいいがな。


「ああ、着いた。ここだよ。さぁ入って」


 俺は今では誰も使っていない倉庫の扉を開けてポニテ女を中に入れる。

 ここは幾つもの倉庫が立ち並ぶ区域で、中には潰れた会社の倉庫がそのまま放置されているのもある。

 俺達はその使われていない倉庫を利用しているのだ。


「えっと・・・お邪魔しまーす」


 ポニテ女が中に入ったのを確認して後ろから突き飛ばす。


「きゃっ!?」


 ポニテ女は地面に転がり、俺はそのまま倉庫の扉を閉めて鍵を掛けて誰も出入りできないようにする。


「ちょ、フェンリルさん、急に何なの? ボク何かしたの?」


「・・・お前さ、少しは怪しがれよ。一度も会ったことのない他人、人気のない倉庫、もうそれだけで怪しさ爆発だろうよ。

 ま、そんな女を食い物にしている俺が言うのもなんだけどな」


 そう言いながら呆然としているポニテ女の腕を取って倉庫の奥の方へと引っ張っていく。


「うぉーい、獲物1匹連れてきたぞ」


「おせーよ。こいつら早く別の女寄越せって煩いったら」


「お、丁度いいところに来たじゃねぇか。この女も飽きてきたところだったんだよ」


「おほ、結構可愛いじゃなぇか。さぁて、どんな風に料理してあげようか」


 倉庫の奥で行われていた光景にジャスティは息を呑んで身を強張らせていた。

 3人の女が裸にひん剥かれ俺の仲間達に犯されている。

 女たちは泣きながら犯されている奴もいれば、絶望したように犯されても反応しない奴や、怒りを撒き散らしながらやられている奴もいる。


「なに・・・これ・・・」


「見たまんまだよ。つーか、これからお前もこの仲間入りだ」


「あんた、フェンリルさんじゃない・・・!?」


「今頃気が付いたのかよ。おめでたい奴だな。言っておくが逆らわない方が身のためだぜ。

 なんせこれからあんたのAVの撮影会を行うから、そのAVがネットに流されないようにしないとな。

 そこのバカな女が逆らってネットに流出しちゃってかわいそーな事になっちゃったんだよねー。ま、お情けとして名前と顔だけは隠すようしたけど、次に逆らうとどうなっちゃうか・・・」


 俺は「だから逆らうなよ」ってポニテ女の耳元で囁く。


「ここに居る6人で、ボクを犯すの・・・? もしかしてこれ以上増えたりする・・・?」


「こんなおいしい事他の奴らに教えるかよ。なぁに、ここに居る6人でもお前を美味しくいただくのには十分さ」


 手の空いていた一弥がなれなれしくポニテ女の肩に腕を回す。

 一弥の言った通りこれ以上人数が増えると女を調達するのも一苦労だからな。


「最初の女は普通にナンパして捕まえたんだが、その後がなかなか捕まらなくてね。

 そこで一計を案じて今巷で噂のフェンリルって奴の名前を使うことにしたのさ。

 そうしたら簡単に2人もの女が騙されちゃって。そしてあんたがその騙された3人目って訳」


 饒舌に喋る一弥にてっきり怯えているばかりだと思ってポニテ女の顔を見ると、そこには怯えどころか不敵に笑っているポニテ女が居た。


「そう、それだけ聞ければ十分よ」


 そう言った瞬間、ポニテ女は肩に腕を回していた一弥の鳩尾に肘打ちを食らわせた。


「ごふっ!!」


 そしてそのまま崩れ落ちる一弥に向かって回し蹴りを叩き込む。

 不意打ちで肘打ちと回し蹴りを受けた一弥はそのまま床に転がった。


 突然の出来事に俺達は一瞬呆気にとられていたが、ポニテ女が俺達に逆らったことに気が付いて一気に怒りゲージがMaxになった。


「てめぇっ! 俺達に逆らって只で済むと思っているのか!

 そんなにAVに出たければ凌辱AVで出演させてやるよ!」


 寛二は犯していた女をどかし、近くにあった鉄パイプを持ってポニテ女に振りかぶった。


 おいおい、フルチンで凄んでも間抜けにしか見えないぞ。


 馬鹿なポニテ女が叩きのめされると何の疑いをも持たなかった俺はそんな軽い気持ちで見ていたが、次に目にした光景に驚愕した。


 ジャキッ! ジャキッ!


 ポニテ女はバックから取り出した伸縮式の特殊警棒を両手に持って、特殊警棒を十字にして寛二の鉄パイプを受けたと思ったらそのまま横にステップして鉄パイプを受け流し、バランスを崩した寛二に左右の特殊警棒を顔面に叩き込んだ。


「ぐおっ!?」


 そしてオマケとばかりに追撃の二連撃が寛二の脇腹へ突き刺さり、寛二はそのまま気を失って地面に転がる。


「お前・・・自衛にしたって普通特殊警棒なんて2つも持ち歩かないぞ。

 さては初めから俺達が目的だったのか」


「あら、今頃気が付いたの?

 あんたのフェンリルとしての受け答えは第三者から見てもチグハグなのに、わたしが平然としているのはおかしいと思わなかったの?」


 言われてみれば明らかに誤魔化しきれてない受け答えがあったのに、俺はそれを馬鹿な女だと都合のいい解釈をして一蹴して違和感を見逃していた。


 くそっ! そろそろ警察とかが動くんじゃないかと思っていたがこんなに早く動くとは。

 しかも囮捜査とは段階を踏む警察にしては早すぎるじゃないか!


「本当ならフェンリルの名を騙る人物のお仕置きが目的だったんだけど、流石にここまでの事をやらかしているんじゃお仕置きどころじゃないからね。

 大人しくお縄に付いた方が身のためだと思うよ」


 俺はポニテ女の言葉に疑問を覚えた。


「なに・・・? お前、警察じゃないのか・・・?」


「残念だけど警察じゃないわね。けど、いずれはバレていたと思うから同じことだと思うけど?」


 はははっ! 何だまだ警察にはバレていないのかよ。だったらまだやりようはあるさ。


「ちっ、ビビらせやがって。寛二の奴はただ単に油断してたってだけか。

 おい、女。余計な手間を掛けさせたお礼はキッチリしてもらうからな」


「ヒィヒィよがらせてやるから覚悟しな」


 三郎太が寛二と同じように鉄パイプを持ってポニテ女に構える。

 勘四郎も同じように木刀を持ってポニテ女を取り囲む。


「おい、待てよ。そのクソアマは俺が引導を渡してやるよ」


 そこへ最初に無様に転がされた一弥が怒りの形相でポニテ女を睨みつける。


「引導を渡してやるのはこっちのセリフよ」


 あろうことかポニテ女は左右の特殊警棒を携え俺達へ向かってきた。


 幾ら特殊警棒を持っているとはいえ、男3人に囲まれていながら立ち向かうなんて無謀もいいとこだ。

 精々無駄な抵抗をして一弥たちの怒りを買って無様に犯されてしまいな。


 なんて暢気に構えてたこともありました。

 一体俺は今日、何度油断すれば気が済むんだろうか。


 今俺の目の前には一弥たちの攻撃を華麗なる足捌きで躱しながら、左右の特殊警棒を巧みに操り次々に叩きのめしている姿があった。

 その姿はさながらマンガとかに出てくるソードダンスのようにも見えた。


 そこで俺はあることを思い出した。

 フェンリルの噂を使うに当たり少し調べたのだが、そのフェンリルはVR監禁事件の舞台となったゲームでは踊るように左右の刀を操りトッププレイヤーに上り詰めたと。

 そして付いた二つ名が―――


剣の舞姫(ソードダンサー)フェンリル・・・まさか、本物・・・?」


「ご明察。わたしが本物のフェンリルよ。

 フェンリルの名前はあんたみたいな屑が使っていいほど軽いものじゃないのよ。

 女性を食い物にしたことと言い、偽物を騙ったことと言い、塀の中で悔い改めることね」


 大の男3人が女1人に倒されたことに呆然としていた俺にそう言いながらポニテ女――フェンリルに左右の特殊警棒を叩き込まれ俺の意識は闇の中へと沈んでいった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「ふぅ」


 5人の男を叩きのめして俺――大神大河は息を吐く。

 残るは後1人。


 ここまで難なく偽物達を屠ってきたように見えるが、その実態はかなり綱渡りだったりする。


 AI-On(アイオン)時代なら簡単にステップを刻み左右の刀を振るう事によってMobを倒して来たが、現実世界(リアル)ではそうもいかない。

 辛うじてステップは再現できるものの、特殊警棒を振るう腕力はAI-On(アイオン)時とは比べ物にならない程鋭さも威力も低くなっている。


 考えてみれば当たり前の事だ。

 AI-On(アイオン)はゲームなのでステータスが超人とも思えるほど格段に上昇する。

 それを現実世界(リアル)のステータスと比べること自体が間違っているのだ。

 AI-On(アイオン)時の身体能力を再現しようと必要以上のリハビリをしたものの、流石に再現には限度がある。

 それでもその理想(アイオン)に近づいた体で何とか偽物達を叩きのめすことが出来た。


 だが、最後の残った1人は少々厄介な感じだった。

 残った男は偽物とは少々感じが違って、連中の強姦(レイプ)の中に入っておらず1人だけ離れた場所に座って見ていただけだった。


「ほぅ、女の身で中々やるじゃないか。

 暇つぶしと思ってこいつらに付き合っていたが、こんなところでやりごたえのある奴に出会うとはな。

 お前のその強さ、剣道で手に入れたものじゃないな」


 6番目の男――仮に六男と呼んでおこう――は転がっていた木刀を拾い、剣道の様に正眼に構える。


 ヤバい、こいつ確実に剣道有段者だ。

 今の俺のゲームかじりの実力でどこまで対抗できる・・・?


「キェェェェェェェェッ!!」


 六男は素早い踏込で俺に向かって上段打ちを放ってくる。

 俺はそれを十字受けで受けてサイドにステップして攻撃を受け流す。

 そしてそのままバランスを崩したところへ追撃しようとしたが、六男は素早く態勢を立て直し横薙ぎの攻撃を仕掛けてきた。


「ドオォォォォッ!!」


 特殊警棒を2本を縦にして受けてバックステップしながら六男の横薙ぎの攻撃の威力を殺す。

 だが息をつく暇もなく、六男は横薙ぎからの2連突き、小手打ち、そして再び上段打ちの怒涛の連続攻撃を放つ。


「キェェェェェェッ!!」


 くそっ、こっちは受けるので精いっぱいだってのに。


 こっちは二刀流で剣の数の上では有利だが、剣の腕は間違いなく六男の方が上だ。

 辛うじて六男より有利に働いているAI-On(アイオン)で鍛えたステップのお蔭で何とか六男の攻撃をうまく躱し続けている。


「ハハッ、やるじゃないか。お前みたいな女がいるとはな。

 それはゲームで鍛えた技術か? かなりの実戦経験があると見えるな」


「・・・まぁね。あの世界はわたし達にとって紛れもない現実だったからね。

 毎日生き残るのに必死だったわよ。そこに転がっている屑みたいに舐めた生き方をしていると直ぐに死んじゃうしね」


「そうか、そう言われるとそのゲームを見逃したことは勿体なかったな。

 堂々と暴力・・・いや、人斬りが出来たのかもしれないのに」


 ああ、こいつ床に転がっている屑どもと毛色が違うと思ったらただのバトルジャンキーじゃなぇか。

 しかもVRMMOをプレイしたら人を襲うPKになるタイプの。

 理由はゲームだから平気で斬れるという。


「・・・そう言う人はPKって呼ばれて結局現実世界と同じように捕まっちゃうわよ?」


「なに、ここでお前を倒してこいつらに差し出せば捕まることは無いさ。

 ああ、そうだ。他にもお前みたいにゲームで強くなった奴がいるんだろう。お前をこいつらに差し出したら他の奴を探しに行くのもいいな!」


 六男は再び木刀を振りかざし連続攻撃を仕掛けてくる。

 俺はステップと特殊警棒を駆使して捌き続けるが、気が付くと壁に背を付けていた。


 ――しまったっ! 誘われた!


 止めとばかりに六男は木刀を上段に振り上げ俺に向かって叩きつけようとした瞬間――


 ガシャンッ!


「ぐぁっ!?」


 窓ガラスが割れる音と共に六男の手に何かが当り、六男は木刀を取りこぼした。


 俺はその隙を見逃さず、左右の連撃を食らわせるとと同時に二刀流スキル戦技・剣舞六連を叩き込む。


「がぁっ・・・!」


 六男はそのまま白目をむいて地面に崩れ落ちた。


「ふぅ・・・流石に今のはやばかったわね」


 割れた窓ガラスの向こうを見ると、スリングショットを構えたクリスが居た。

 あの攻撃しようとした瞬間の武器の持ち手に弾を当てられるクリスの腕は流石としか言いようがない。

 ただ――


「出来ればもう少し早い援護をお願いしたかったんだけどね・・・」


 倉庫の入り口の方からガチャガチャする音と疾風と天夜の声が聞こえてきた。

 殆んど片付いてから来ても遅いんだよ。


 幾らなんでも俺1人で偽物達の所には赴かない。

 俺には小型の発信機と盗聴器が付けられていて、居場所と状況が判断次第るるぶるさんの指示のもと疾風、クリス、天夜の3人が突入する手はずだったのだ。


 なのに、殆んど俺1人で片づけちゃったじゃねぇか。


 俺は盗聴器を通じてるるぶるさんに女性メンバーの派遣も要請する。

 ここに転がっている偽物達は疾風達に任せて、凌辱された女性たちの保護もしなければならないしな。


 そうこうしているうちにヴァイが警察を引き連れて来て、今回の偽物事件は『Angel Out』の団結力で解決された。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「おーい、フェンリル。こっちの方で事情聴取したいからちょっと署の方まで来て欲しいってさ」


「え? 今すぐ? わたし着替えたいんだけど・・・」


「ああ、今すぐそのまま(・・・・)の格好で来て欲しいって」


 ヴァイはそう言いながらニヤニヤしている。

 俺は事件が解決したから未だに女装をしている格好からさっさと着替えようとしたのだが、どうやら警察の方で今回の事件についての詳細を聞きたいと言う事で任意同行を願い出たらしい。

 そう、出来るだけ現場の状況のままの状態で。


「ねぇ! ヴァイ、ワザとでしょ!? ワザとこの恰好のままで任意同行するように指示したでしょ!?」


「はいはい、俺も一緒に同行するから心配ないよ。と言うか、俺に周りに指示できるほどの権限は無いよ」


 ヴァイに引きつられ俺とヴァイ、そして情報を集めていたるるぶるさんがパトカーに乗って署まで連行されていった。




~~ 某警察署内 ~~


「その格好は趣味なのかな?」


「・・・いえ、相手にナンパさせるための変装です」


「ナンパされるためとは言え、随分堂に入った立ち振る舞いだね」


「・・・とある事情で長い間女装(・・)していましたので、癖でそうなってます」


 隣ではヴァイがニヤニヤしながら俺の事情聴取の姿を見ていた。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「はぁ~、昨日は酷い目に遭った・・・」


「あはは、大河君にとって偽物の出現より女装の方がダメージが大きかったね」


「ノリノリで女装させてた本人が何を言っているんだよ」


 月曜の朝、昨日の騒動で疲れが完全に取れていない俺は机に突っ伏しながら鈴に恨みの眼差しを送る。


「あはは・・・やだなぁ、ノリノリだったのはあたしだけじゃないじゃない」


「なお悪いわ!」


「それにしてもとんだオフ会になってしまったなぁ。まぁ、これもまたいい思い出なんだろうけどさ」


 クラスは違うがホームルームまでの朝の時間、天夜――小金井冬至は俺達の教室に訪れてきて昨日のオフ会の事を話していた。


「まぁね。みんなも楽しんでいたから有りと言えば有なんだろうね」


「・・・俺には黒い思い出だよ!」


 そんな風に話しているとリック――北島陸が俺達に話しかけてくる。


「よぅ、昨日は随分と活躍したらしいじゃないか」


「なんだよ。陸までそんなことを・・・ちょっと待て。何でお前が昨日の事を知っている?」


 昨日の事は俺達『Angel Out』のメンバーと警察、後は被害に遭った女性たちぐらいしか知らないはずだ。

 出来るだけ大げさにならないよう取り計らってもらい、新聞にもテレビにも報道されていなかったはず。


「ん? そんなの逢音学校のホームページに載ってるじゃないか」


 陸はそう言いながらiPadを取出し逢音学校のホームページを見せてくる。


 いろいろカテゴリーのある中で、ニセモノ注意!のタイトルがでかでかと載っていた。

 そこには被害に遭った女性に配慮して詳しくは書いていないが、逆に俺達が偽物を捕り物にするまでの経緯が掛かれている。

 しかも俺が偽物達を叩きのめす動画が添付されていた。


 いつの間にこんな動画撮ったんだ!!?


 当然動画の中での俺は、ポニーテールにミニスカート姿の女装の姿での立ち振る舞いを演じている。

 ミニスカート姿での激しい動きのため中の下着までバッチリ映っていた。


 これがネットで流れているだと・・・!!?


 俺はこれが全世界に流れていることに戦慄を覚えた。


 そう言えばと、あの場には被害女性たちの凌辱撮影用にビデオカメラが設置されていた事を思い出す。

 確かにあの状況なら俺の活躍(?)もビデオに映っていても不思議ではない。


 だが、あのビデオカメラは警察に証拠品として押収されていたはずだ。

 俺は慌ててヴァイに電話を掛けた。


「おい! あの動画は一体なんだよ!? 警察では証拠品の管理も出来ないのかよ!」


『ああ、あの逢音学校のホームページの動画な。

 あれは某財閥のお嬢様の強い要望で、財閥関係者がホームページに載せるためと言って一部をコピーして持っていったんだよ。当然被害者に配慮して持って行ったのはお前が映っている部分だけどな』


 って、舞子の仕業かよ!!

 と言うか、警察も警察だよ! 幾ら被害女性が映ってない映像の一部だと言っても簡単に持ち出ししてもいいものじゃないだろ!?

 いや、それだけ財閥の力が凄いのか!?


 そして後で気が付くことになるのだが、逢音学校は政府運営で行われているが、学校運営のための多額の寄付金が四ツ葉財閥から出ている。

 考えてみれば当たり前だ。財閥令嬢の舞子本人がその学校に通っているんだからな。


 そして学校運営に関してのあれこれに四ツ葉財閥が関係しているのだ。

 逢音学校ホームページもその内の1つ。

 当然舞子の鶴の一声でホームページの内容を簡単に変えることも出来る。

 舞子の事だ。昨日の俺の活躍をみんなに教えたくて我慢できずこんなことをしたに違いない。


「これ、少し調べれば強姦(レイプ)事件があったことまで分かるからヤバいんじゃないのか?

 被害女性にもう少し配慮してだな」


『そのことに関してなんだが、何故か警察に押収されている証拠品以外、ネット上に拡散したあらゆる映像が削除されているんだよ。

 個人でコピーした画像・動画までもがな』


 は!? ネット上の映像が消されてる?

 しかもコピーを掛けて拡散した映像まで?


『なので被害女性たちに関しては何の心配もいらないよ。おまけにあの時のお前の活躍を直に見て勇気づけられたとか是非みんなにも知ってもらいたいとか言ってるぜ。

 つーことで、あのホームページの動画は何の問題もないよ』


 ちょっ!? 被害女性の人たちよ、それでいいのかよっ!?


『あーそうそう。警察署内では昨日の取り調べでフェンリルは女だって認識が広まっているぜ。

 なんせあそこまで完璧に女を演じていればなぁ』


「そこまで完璧に女を演じているわけじゃないぞ!?」


 あれはAI-On(アイオン)での生活が長かったから自然に滲み出たものであって、AI-On(アイオン)でも完璧な女をしてたわけじゃない。


 そう思って鈴、冬至、陸に聞いてみると、『え? 完璧な女だったよ?』との事。


『ぶははははっ!! 動画でもフェンリルは女って公表してしまっているんだ。いっそのことずっと女装で生活したらどうだ?』


「ん・な・こ・と・で・き・る・か――――――――――――――!!!!!」




 こうして舞姫伝説に新たな――俺にとっては黒歴史――の1ページが刻まれた。





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