70.最終決戦とグランドクエスト
俺は目の前の光景が信じられなかった。
美刃さんは両手両足を切り取られ、昆虫の標本の様に氷の剣で壁に縫い付けられていた。
アッシュは喉を氷の剣で貫かれ、更には全身を氷の剣で地面に張り付けられていた。
マリーは更に酷い状態で体が上下に分かれて床に転がっている。マリーが構えていた大盾も上下に切り取られていて、耐久力が無くなったのでその場で消滅した。
マリーはどう見ても死亡しているが、蘇生魔法のプリザベイションが効いているので辛うじて死亡の一歩手前の状態だ。
ヴァイも鬼神化しているが、それでもなお両腕を切り落とされ床に無造作に捨て置かれていた。
唯一疾風だけが時空魔法を駆使して辛うじて『魔王』と相対していた。
「フェル、気が付いて良かった。蘇生魔法を掛けても目を覚まさないから死んじゃったのかと思ったよ」
隣に居た鳴沢を見れば太腿から下の両足が無かった。
ゲームなので血は出てはいないが、這いつくばって俺の傍まで来たのが見て取れた。
「蘇生魔法って・・・わたし死んでたの!?」
「・・・そうよ。あっという間にね」
ちょっと待て! 俺が死亡してたって・・・いったい何があったんだ!?
確か俺達は準備を整えてこの謁見の間の扉を開けて・・・
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
熾天使を倒した俺達は『魔王』が居るであろうと思われる謁見の間を目指していた。
城の構造は表の王城と変わらないので、『王の中の王』を倒したときに使ったルートで進んでいく。
道中には天使中位の能天使、力天使、主天使と、天使上位の座天使、智天使などが行く手を阻んだ。
熾天使ほどではないがそれなりに手ごわかったが、ここでも鳴沢の魔属性魔法が活躍した。
行く手を阻む天使を蹴散らしながら俺達は謁見の間の扉の前に着く。
・・・そう言えば『王の中の王』の時は扉に仕掛けられた転移トラップに引っかかったことがあったっけ。
一応、罠スキルを持つ疾風に扉をチェックしてもらおう。
「さて、この先には『魔王』が控えていると思われるわ。各自準備はいい?」
扉に罠が無いことを確認して、俺はみんなに突入の準備を確認する。
みんなはこれからの戦いに思いを馳せ神妙に頷く。
罠を確認している間にお互いBuffを掛け合い決戦の準備を整えているので問題は無いようだ。
俺もボス戦でお馴染みとなった六芒星の盾と四重加体強化を唱えている。
後は『魔王』を倒すのみ。
「それじゃあ開けるわよ」
俺が先頭になって謁見の間へと進んでいく。
広い謁見の間、赤い絨毯の先の玉座には『魔王』が座っていた。
衣装は終わりと始まりの広場で戦った時のアイちゃんの衣装ではなく、ノースリーブの漆黒のゴスロリ風のドレスに身を包んでいた。
ただし武器装備についてはアイちゃんが愛用していた水鳳の剣とインフィニティアイスブレードだったが。
そして、玉座の隣には1人のイケメン天使が控えていた。
但しその背中の翼は12枚、明らかに四大天使の熾天使よりも各上なのが見て取れる。
「げ・・・光り輝く12枚の翼・・・ルシファーじゃないか・・・」
「ベル・・・お約束通りフラグが立っちゃったわよ・・・」
疾風の呟きにも合った通り、俺達の目の前に居るのは主神に反逆したと言われるゲームや漫画などでもお馴染みの堕天使ルシファーだ。
はっきり言ってルシファーと比べたら、先の4人の熾天使は天と地ほどの差があると言われてる。
「よく来たね、お姉ちゃん。
だけど、ここがお姉ちゃん達の墓場になるのよ。悪いけどお姉ちゃん達はあたしに碌なダメージも与えられないで負けることになるからね」
そう言いながら『魔王』は玉座から立ち上がり2本の剣を抜き、こちらへと歩みを進めてくる。
『『魔王』様、何も貴女自ら手を下さなくても・・・私が彼らに裁きを下します』
「ルシファー、貴方はそこで控えてなさい。まずはあたしが最初にお姉ちゃん達の相手をするわ。闇の衣の具合も確かめたいしね」
どうやら『魔王』1人で俺達の相手をするようだ。
こっちとしては『魔王』を倒せばそれで終わりなんだ。ただでさえ厄介なルシファーが手を出さないと言うのであれば、こっちとしてもありがたいことだ。
いや、それよりも『魔王』から気になる言葉が出たな。闇の衣だと・・・?
何か嫌な予感しかしないんだが。
「随分と俺達を舐めてくれてるじゃねぇか。広場での事を忘れたのか?
確かに7対1で卑怯だったのかもしれないが、こっちは外に出るためのみんなの希望を背負っているんだ。卑怯でもなんでもやってやるよ!」
ヴァイが啖呵を決めて拳を構える。
「さっきも言ったけど、貴方達は何もできずにここで負けるのよ。
――何故なら、今のあたしの強さはあの時とは比べ物にならないから」
そう言いながら『魔王』は一瞬で俺の懐へと入り込んだ。
――なっ!?
『魔王』はそのまま両手の剣を振るい俺を切り刻む。
そこで俺の意識は途切れた。
そして次に目を覚まして俺の前に飛び込んできた光景がこれだった。
俺はあの一瞬でHPを全損させられた・・・?
そしてあまりの衝撃でHPだけではなく、気を失っていたのか・・・?
「ベル! わたしどのくらい気を失っていたの!?」
「1分くらいよ。
あたしがフェルの蘇生と斬られた両腕を再生している間に、みんなに『魔王』を引き付けてもらっていたんだけど・・・それでも『魔王』は止まらなくて、隙を突かれてあたしも両足をやられたわ」
ちょ・・・!? たった1分!?
たった1分でユニーク職7人相手にここまでの事をしたっていうのか!?
広場で戦った時の『魔王』との違いに俺は戦慄を覚えた。
いや、今はそんなことを考えてる暇はない。
瀕死のみんなは兎も角、マリーはこのままじゃプリザベイションの時間切れで本当に死んでしまう。
「ベルはマリーとアッシュをお願い。マリーもヤバいけど、アッシュもこのままじゃヤバいわ」
俺との会話の間にも自分の両足を再生している鳴沢に指示を出す。
アッシュの喉を貫かれているのは呪文詠唱を封じているのだろうが、人体の急所であるクリティカルポイントをやられているのは非常にやばい。
今の状態でも持続ダメージでHPがどんどん減っている。
「わたしは美刃さんとヴァイを回復させるから」
そう言って俺は美刃さんの下へとプチ瞬動で移動して、壁に縫い付けられている氷の剣を砕いて美刃さんを地面に降ろす。
「あれ、お姉ちゃん復活したんだ。んーしょうがないなぁ、ルシファー、お姉ちゃんを抑えておいて」
『了解しました』
俺が美刃さんを助け出しているのを見た『魔王』はそれまで控えていたルシファーに指示を出す。
くそ、美刃さんを降ろしたばかりで治癒魔法もまだ掛けていないんだよ。
こういう時は詠唱破棄スキルを持っていないのが惜しまれるな。
ルシファーは腰に差していたレイピアを抜き放ち俺に接敵してきた。
仕方なしに俺は神降しスキルでオオクニヌシをその身に宿しながら、左右の刀を抜き放ちルシファーを迎撃する。
「エクストラヒール!」
俺は自分に治癒魔法を掛けてオオクニヌシの特性を生かしPTメンバーのHPを回復させる。
但し四肢の再生まではオオクニヌシの特性でも出来ないので後の事は鳴沢に任せるしかない。
「ベル、ゴメン! 美刃さんとヴァイもお願い!」
美刃さんを巻き込まないようルシファーと剣を交えながらその場から引き離す。
ルシファーは剣を振るいながら呪文を唱え、至近距離からの魔法を解き放った。
『シャイニングフェザー!』
流石天使軍団の大ボスだけあって同じ魔法でも規模が桁違いだった。
この光属性魔法は無数の光の羽を飛ばす魔法なのだが、ルシファーの放つ光の羽は普通のシャイニングフェザーの10倍もの数があった。
ちょっ!? まさか天使の羽の数だけ数が増すのかよっ!?
俺は左右の刀で光の羽を弾きながら後退していく。
だが、攻撃は光の羽だけではなくルシファーのレイピアも継続中だ。
当然全てを捌き斬れるわけでもなく、いくつかの光の羽は俺HPを削っていき、その隙をついて容赦なくルシファーのレイピアは俺の右肩を貫く。
「―――っ!」
『あれだけのシャイニングフェザーを捌ききるとは、流石は『魔王』様に目を付けられているだけの事はありますね』
余裕をぶっこいているのか、ルシファーはレイピアで俺の肩を貫きながら言ってくる。
俺に攻撃が届いているという事は、逆に俺からの攻撃も届く距離にいると言う事だ。
俺は左手の月読の太刀から手を放し、右肩を貫いているレイピアごとルシファーの右手を掴む。
「ファイヤージャベリン!
アクアランス!
ウインドランス!
ストーンジャベリン!
サンダージャベリン!
アイシクルランス!
ホーリーランス!
エネルギージャベリン!」
俺が輪唱呪文による8種の属性魔法を唱えるとルシファーは慌てて離れようとするが、俺の左手がそれを許さない。
食らえっ! ゼロ距離射程かららの―――
「――八千矛神!!!」
『がはっ!!』
直撃を受けたルシファーは妖刀村正に貫かれながら後方へと吹き飛んでいく。
俺は月読の太刀を拾い上げ妖刀村正を右手に呼び戻し追撃を掛けようとするが、復活したヴァイとマリーがルシファーに追撃を掛ける。
「流星拳!」
「スクエア!」
『く、邪魔です。そこをどきなさい。私は『魔王』様の命により、あの少女を押さえておかなければならないのです』
ルシファーが12枚の翼を広げ威嚇しながらヴァイとマリーを蹴散らそうとするが、2人とも執念でルシファーをその場に抑え込んでいた。
「ルシファーは俺達が抑える! フェンリルは疾風の援護に向かってくれ! 流石にそろそろヤバい!」
疾風は時空魔法で辛うじて対応できているだけなので、遅延魔法スキルでストックしていた時空魔法が無くなれば『魔王』を抑えておくのは困難だ。
『魔王』を相手取っている疾風の方を見てみれば、『魔王』の放つ氷の剣の散弾が疾風を貫いているところだった。
ヤバい! あのままじゃ連続してくる氷の剣の散弾にHPが削りきられてしまう。
「スキル発動! Lovers「転移」!」
俺は疾風のLの王の証と対になっている、対の証の特殊スキルを使って疾風の傍に転移した。
そして転移したと同時にプチ瞬動で疾風を掻っ攫って氷の剣の散弾からその場を後にする。
その場を離れると同時に『魔王』へ一撃を入れるのも忘れない。
だがその一撃はまるで雲を斬るように手ごたえが無かった。
「あ、いつの間に!?」
『魔王』にしてみればいきなり目の前から疾風が消えたように見えただろう。
俺の動きに気が付いてこちらに気が向いた隙に、復活した美刃さんが『魔王』の背後から刀スキル戦技を解き放つ。
「ん! 閃牙咆哮!」
美刃さんの放つ刀スキル戦技の突きをまともに受けるが、『魔王』は一向に気にした様子もなく美刃さんに二刀流スキル戦技で反撃をしてくる。
俺は疾風を鳴沢に任せて美刃さんと一緒に反撃を与える暇もなく連続で攻撃を仕掛けるも、『魔王』は防御を一切無視して平気で反撃を仕掛けてきた。
おかしい。俺と美刃さんの攻撃が何度も当たっているのに手ごたえがまるで無い。時々斬っている感触もあるが、どこかすり抜ける様な浅い手ごたえしかないのだ。
あれだけ攻撃が当たっているにも拘らず、『魔王』のHPを見てもほとんど減っていない。
『不死者の王』の時みたいに攻撃と回復が逆転しているのか・・・?
いや、あの時は『不死者の王』はHPこそ減りはしなかったが、斬った時の手ごたえはあった。
『魔王』のこれは手ごたえすら感じない、まるで全ての攻撃を無効化されている感じだ。
待てよ、そう言えば最初の時『魔王』は闇の衣の具合を確かめたいと言っていたはずだ。
よく見れば『魔王』の体の周りには薄黒い靄のようなものを纏っていた。
「闇の衣・・・?」
「あ、やっと気が付いた?
そう、これは闇の衣。すべての攻撃を無効化、又は威力を半減以下にしてしまう『魔王』専用の防御膜よ。
これを纏っている限りあたしは負けることはありえないの」
ちょっ!? ラスボスに攻撃無効化ってありえないだろっ!?
そんなの使われたらこっちはなす術もないじゃないか!
「因みにこの闇の衣を解除させる方法は、勇者の後光だけよ。
魔王と言ったら勇者は定番だもんね」
「なっ・・・!」
『魔王』の言葉に俺達は絶句する。
『魔王』と対峙するまでに26の王の『魔王』を除いた25人を倒さなければならない。
その中には『勇気ある王』である勇者も含まれている。
つまり『魔王』と対峙する時には既に勇者は存在しないのだ。
初めから|Angel In Onlineはクリア不可能のデスゲームだったということになる。
「ふざけんなっ! こんなの無理ゲーじゃねぇか!」
「鬼畜仕様にも限度ってものがあるだろ・・・!」
ヴァイと疾風が怒りの声を上げる。
だがどんなに怒声を上げようとも『魔王』の闇の衣は消え去りはしない。
それが分かっているのか、みんなは悔しさに顔を歪めながらも何もできないでいた。
「まぁ、完全に攻撃が通じないわけじゃないからね。運が良ければ半分の威力はダメージとして通るんだし。
玉砕覚悟で我武者羅に攻撃してみる?
もっとも闇の衣が無くても『魔王』としての力が完全に復活したから、そう簡単には倒せないと思うけど」
勢いをなくしてしまった俺達に『魔王』はからかう様に俺達を挑発してくる。
「ああ、ルシファー、もうそっちはいいよ。あたし1人でも十分だからあんたは後ろであたしの回復だけに専念していてね」
そうか、ルシファーの主な役割は回復役としてってことでここに居るのか。
くそっ! これでほぼ完全に詰んだ。俺達に出来ることは何も無い。
いや、ルシファーを倒せば『魔王』の回復役は居なくなるから、闇の衣の半分のダメージを通る攻撃だけで何とか倒せないか?
・・・無理だな。ルシファーはただの回復役じゃない。普通にラスボスクラスの強さを誇っている。
第一、ルシファーを相手取っている間に、攻撃の通じない『魔王』が黙っているわけが無い。
みんなもそれが分かったのか、最早武器を構えるそぶりすら見えない。
「あらら、心が折れちゃったね。まぁ、仕方がないか。あたしだってこんなの理不尽だと思うもの。
せめてもの情けで苦しまないように仕留めてあげる」
そう言いながら『魔王』は左右の剣を構えて近づいてくる。
こんなところで終わるのか・・・?
ここまで来て、何もできずに終わってしまうのか・・・?
考えろ、考えるんだ。何か抜け道は無いのか?
・・・そうだ、これがクリア不可能のゲームであるならデスゲームにする必要は無いはずだ。
最初からログアウト不可能にした後HPを0にすればそれで終わりのはずなのになぜそれをしない・・・?
そう、これがゲームである以上何か攻略方法が存在するはずなんだ!
俺の傍まで来た『魔王』は止めを刺すべく剣を振り下す。
キィン!
だが俺は『魔王』が振り下した剣を二刀流スキル戦技・十字受けで弾き返した。
『魔王』はそれを驚きの表情で見る。
「スキル発動! Brave!
わたしは諦めない! 最後の最後まで抵抗してやる! だからみんなも諦めないで!
わたしが絶対攻略方法を見つけるから、みんな、わたしに時間を頂戴!」
Bの王の特殊スキルの効果もあってか、俺の鼓舞にみんなの目に再び火が灯るのが分かった。
「・・・あたしはフェルを信じる。フェルならきっとこの状況を突破してくれるって!」
「・・・ん、わたしも諦めない!」
「そう・・・ですわね。ここで諦めるのはわたくしの美学に反しますわ」
「は・・・ははっ! そうだよ。俺は、俺達はここから生きて出てやるんだ! こんなところで諦めるなんて俺らしくなかったな」
「・・・そうさ、諦めるのはまだ早い。クリアできないゲーム何てゲームじゃないからな」
「・・・やれ! フェンリル! お前ならきっとこの状況を打破してくれるはずだ。
だからそれまで俺達が『魔王』を食い止めてやる!」
みんなは俺に応えて『魔王』とルシファーへ向かって行く。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
みんなが時間を稼いでくれている間に何としても『魔王』の闇の衣の攻略方法を見つけなければ。
まず、『魔王』が言った通り闇の衣を解除出来るのは勇者の後光の特殊アビリティのみと言う事だ。
つまり勇者じゃなくても後光のアビリティがあればいいわけだが、残念ながら後光のアビリティは勇者専用だ。
勇者と後光はワンセット。ここに勇者を呼ばなければ闇の衣は払えないと言うことになる。
だが勇者はもう居ない。居ない者をどうやって呼べと言うんだよ・・・
いや待てよ、あるじゃないか! 居なくても身体だけを呼び寄せる魔法が!
死霊召喚魔法のフレンド召喚。
フレンドリストに登録しているログアウト状態のフレンドを、簡易AIを組み込んで召喚する魔法だ。
これなら後光を持った勇者をこの場に呼べる。
例え『魔王』に簡易AIを止められても、この場に勇者が居て後光を放ってくれていればそれで十分なんだ。
と、そこで俺は肝心の死霊召喚魔法とフレンドリストが一致していないことに気が付く。
死霊召喚魔法は鳴沢の大賢者の賢者スキルで全ての魔法が使えるから問題は無い。
だが、鳴沢のフレンドリストにはGGの登録がされていない。
GGのフレンドリスト登録がされているのは、この中で俺だけだ。
くそっ、折角光明が見えたのに!
多分、死霊召喚魔法で勇者を呼び出すのが闇の衣の攻略法なんだろう。
つまり闇の衣攻略には、ユニーク職勇者に転職するプレイヤーから死霊召喚魔法を使うプレイヤーでフレンド登録をする流れまでの先を見据えた準備が必要だったと言う事だ。
そんなの分かるわけないだろうが!
ああもう! この場にアルゼが居たらそんな心配もいらなかったのか?
いや、アルゼはもうフレンドリストを真っ新にしてたんだっけ。
そこで俺はふと思い出す。
そう言えばあの時、アルゼの死霊召喚を返したことがあったっけ。
待てよ、だったら逆の事も可能じゃないか?
俺は一縷の望みを携え叫んだ。
「神降し! イザナミ!
―――黄泉帰り! GG!!」
俺の叫びと共に目の前の魔法陣から最後に見た時のままのGGが現れた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」
召喚されたGGが後光を放ち、『魔王』に纏っていた薄黒い靄が消え去っていく。
GGはすぐさま『魔王』が疑似AIを停止させたのでその場で動かなくなってしまったが、後光の効果には何ら影響は無い。
闇の衣が無くなったのが分かると、ここぞとばかりにヴァイがオリジナルスキルを解き放つ。
「三連螺旋拳!」
闇の衣に頼りっきりだったため、『魔王』は突如無くなった闇の衣に慌てた隙をついてヴァイの拳スキル戦技・三連拳と螺旋拳のオリジナルスキルが叩き込まれる。
まともにヴァイの拳を受けた『魔王』は、今度は間違いなくHPにダメージを与えたのが見て取れた。
「ブラックホール!」
「ん! 神威一閃!」
アッシュが闇属性魔法で『魔王』の傍に重力球を生み出して『魔王』を重力で押しつぶそうとする。
そうはさせまいとインフィニティアイスブレードで無数の氷の剣を生み出し重力球を破壊するも、その隙をついて美刃さんが刀スキル戦技を叩き込んだ。
疾風はここが勝負どころと感じたのか、切り札である王の証の特殊スキルを発動した。
「スキル発動! Lovers「同期」!
神降し! イザナギ!
スキル発動! Night!
スキル発動! Hell! 鬼獣化!」
Lovers「同期」により、対の証を持っている俺の所持しているスキルを使用することが可能だ。
それにより神薙専用スキルであるはずの神降しスキルが疾風でも使用可能となる。
疾風はイザナミと同様に日本神話の始祖神であるイザナギを神降しした。
そして続けざまに特殊スキルのNightを発動する。
これは特殊スキル使用後に太陽の光を浴びると死んでしまうデメリットがあるが、使用中は全てのステータスが5倍になるスキルだ。
しかも夜に使用すると更に2倍、すなわち10倍ものステータス上昇となる。
昼過ぎの広場での『魔王』決戦に始まり、裏王都での天使たちとの戦い、そして裏王城での熾天使との激戦。今の時刻はもう既に夜の領域に突入している。
3つ目の王の証の特殊スキル、Hellにより鬼獣化して更にステータスの上昇、特にSTR、AGT、VITの上昇は著しい。
疾風は3つの王の証の特殊スキルを全て発動して24分以内に決めるつもりだ。
と言うか、これ、『魔王』も目じゃない程出鱈目な強さじゃないのか?
何せ疾風には更に凶悪なオリジナルスキル――瞬極殺が存在する。
「ウロボロス!」
3つ目の遅延魔法のキーワードを唱え、時空魔法のクロノスウォーカーによる時間停止で『魔王』の動きを止め連続瞬動による斬撃を叩き込む。
疾風の瞬極殺が決まると、『魔王』のHPは3割ほど減っていた。
それを見たルシファーが流石に看過できなかったのか慌てて疾風に割り込んでくる。
『これ以上はさせません!』
丁度いい。超サ○ヤ人状態の疾風は『魔王』相手の切り札でもあるのだが、回復役のルシファーがちと厄介だ。
疾風1人をルシファーに当てて、残り6人で『魔王』を相手にすることにしよう。
「疾風、悪いけど1人でルシファーをお願い」
「了解した。何、こいつを倒して直ぐにでもフェンリル達の援護に駆けつけるさ」
疾風は何とも頼もしい事まで言ってきた。
まぁ、今の疾風の状態ならルシファーも目じゃないだろうよ。
「ははっ! 俺も疾風には負けてられねぇな! 行くぜ!
スキル発動! Undead!」
ヴァイもここぞとばかりにUの王の証の特殊スキルを発動させた。
これは使用後仮死状態になるほどのデメリットがあるが、特殊スキルの効果中はダメージが回復に回復がダメージになると言う不死属性が付くスキルだ。
この特殊スキルにより防御を必要としないヴァイは『魔王』に向かってノーガードで殴り掛かっていく。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」
「くぅ! 調子に乗って! これならどう!?」
流石は『魔王』。ヴァイにダメージを与えることが出来ないと言っても戦い方はある。
『魔王』は剣を振り抜きヴァイの目を攻撃することによって一瞬視界を奪う。
その隙をついて足払いを仕掛けヴァイを地面に転がし、アイスブレードで生み出した複数の氷の剣でヴァイを地面に縫い付ける。
ダメージは無いが、これでヴァイは一時的動きを封じられた。
「ヴァイさん、特殊スキルを発動したからって油断しすぎですわよ。
スキル発動! Vortex!」
疾風、ヴァイに引き続きマリーまでも王の証の特殊スキルを発動させた。
もう後の事は考えずにこの24分で決着を付けるつもりだ。
「――深淵の水王!」
Vの王の証の特殊スキルは全ての水属性魔法が使えるので、マリーは熾天使ウリエルも使っていた水属性魔法の最高位である深淵の水王を呼び出した。
水龍を模していた大瀑布はマリーの操作により無数の水槍となりヴァイを抑えつけていた『魔王』へと飛来する。
『魔王』が水槍を避けヴァイから離れた隙に、俺はヴァイに近づき刺さっていた氷の剣を砕く。
「すまん、助かった」
「マリーの言う通りダメージが無いからって油断し過ぎよ。
時間も20分そこそこしかないから一気に決めるわよ」
深淵の水王の水槍に加え美刃さんの攻撃が加わるも、闇の衣が無くても『魔王』の身体能力が凄まじく決定打に欠けていた。
「スキル発動! Kingdom!
我が軍勢よ、進撃の力をもって突き進め。――怒涛の攻陣!
我が軍勢よ、翼包囲をもって迎え撃て。――鶴翼の守陣!
我が軍勢よ、瞬速の翼をもって羽ばたけ。――飛燕の速陣!」
「スキル発動! Yell!
Yell Strength! Yell Dexterity! Yell Agility!」
鳴沢、マリーから特殊スキルによる支援Buffが掛けられた。
これにより、俺達の攻撃力、防御力、STR、DEX、AGIが大幅に上昇される。
王の証の特殊スキルのオンパレードに流石に『魔王』もジリジリと押され始めてきた。
「ん! スキル発動! X!」
この勢いに乗ってきた美刃さんがXの王の証の特殊スキルを発動させた。
Xの王の証の特殊スキルは『謎の王』を表しているかのように、24分間の間に3回使用可能で使用後は何が起こるか分からないスキルだ。
ドラ○エで言えばパルプ○テに当たるだろう。
ガガガン!
突如どこからもなく現れた金ダライが『魔王』とルシファーを含めた俺達全員の頭にヒットした。
って、コントかよ!?
思わぬ出来事に全員の動きが一瞬止まってしまう。
多分みんな同じことを考えているんだろうな。
いや、全員ではなかった。1人だけ金ダライから逃れた人物が居た。
「スキル発動! Zodiac! スコーピオン・ヒートセイバー!」
Iの王の証の特殊スキル・Invisibleで姿を消していたアッシュがXの効果からも逃れて密かに『魔王』に接近していたのだ。
金ダライで動きが止まった一瞬の隙をついて、Zの王の証の特殊スキルで蠍座の防御力無視の炎剣を使い『魔王』に確実にダメージを与えた。
魔法職であるアッシュが接近戦なんてなんて無茶をする。
「いつの間に!? くっ!」
すかさず反撃をする『魔王』。
『魔王』の二刀流スキル戦技・流星連牙がアッシュを襲うと思いきや、アッシュはZodiacの星座を切り替える。
「ライブラ・カウンター!」
アッシュの持っていた炎剣が円盾に切り替わり、『魔王』の攻撃を受けきると同時に同等のエネルギーが『魔王』に向かって放たれた。
自分の攻撃を受けた『魔王』は確実にHPが削られていく。
「こうも纏わりつかれると厄介ね。これならどうかしら。鬼には鬼。
顕現召喚、ヘルキング!」
「させるかぁ! レオ・ハウリング!」
『魔王』の前に『地獄の王』が呼び出された。
だがアッシュがZodiacを獅子座の咆哮で『魔王』、『地獄の王』を麻痺させる。
運がいいことに『魔王』は両足、『地獄の王』は全身麻痺にかかった。
これはチャンスだ。
「スキル発動! Start!」
俺もSの王の証を発動させ、続けて輪唱呪文を唱える。
その間に身動きの取れない『地獄の王』をヴァイがタコ殴りにし、『魔王』を美刃さんとアッシュ、深淵の水王『を操るマリーが押さえつける。
ここまで来ると流石に『魔王』も蓄積されたダメージを看過できずになりふり構わず反撃に出ていた。
アイスブレードによる氷の剣の散弾を何度も放ち、氷属性魔法の広範囲魔法を解き放つ。
「ダイヤモンドダスト!」
『魔王』を中心に周囲の空気が連続で凍り弾け、俺達にダメージを与えていく。
だが既に俺の準備は終わっている。
『魔王』が魔法を解き放った直後を狙い、俺はダイヤモンドダストのダメージを無視して、刀スキル戦技・神威一閃、五月雨、二刀流スキル戦技・十字斬り、8属性魔法のトリプルブーストを合わせたオリジナルスキルを解き放つ。
「インフェルノ!
タイタルウェイブ!
ソニックタービュランス!
アースシェイカー!
ダイヤモンドダスト!
サイクロトロン!
アポカリプスブラスト!
リアクターブラスト!
――神威五月雨十字・八閃!!」
プチ瞬動で一足で『魔王』の懐に潜り込みこの一撃が決まれば『魔王』のHPが0になると思われた瞬間、そこにルシファーが割り込んできた。
『させません!』
ズガァァァァァァァン!!
俺の一撃を受けたルシファーは疾風を相手にHPを大きく削られたこともあり、あっけなくHPが0となり光の粒子となって消え去った。
俺は止めとして放った決め技がルシファーに防がれてしまい、技後硬直――ただでさえこの神威五月雨十字・八閃は複雑すぎて頭痛がする――により『魔王』の目の前で動きを止めてしまう。
「悪く思わないでね、お姉ちゃん」
ヤバい。さっきの『魔王』の氷属性魔法のダメージを無視して突っ込んだからHPがヤバい。
『魔王』が左右の剣を振り上げ二刀流スキル戦技を放とうとする。
「ん! スキル発動! X!」
「スキル発動! Pandora!」
そこへ美刃さんとアッシュの特殊スキルが発動する。
Xの王の証はさっきも言った通り何が起こるか分からないスキルだ。
そしてそれ以上に意味不明なのがPの王の証の特殊スキルだ。
Pの王の証の特殊スキルは絶望を希望に変えることが出来るスキルだ。
はっきりって意味が分からない。
いや、意味は分かるんだが、使いどころが分からないと言った方がいいのかもしれない。
絶望というとピンチなのか? ピンチがチャンスになるスキルと言えばいいのか。
アッシュも以前に試したことがあるらしいが、効果のほどはイマイチだったらしい。
だが、特殊スキルXとPandoraが合わさった為なのか、奇跡が起こった。
「ハンマーヘル!!」
動かないはずのGGが動いたのだ。
しかも疑似AIでは発揮できないGGのプレイヤースキルを伴ってだ。
「なっ!!? そんなっ!? 動くはずなんてないのに!?」
『魔王』の一撃を遮り、GGのハンマーが『魔王』に叩き付けられる。
そしてそのまま動揺している『魔王』に振り下したハンマーを掬い上げて追撃する。
「ハンマーヘブン!!」
GGの培ってきたプレイヤースキルにより、流れるような攻撃が『魔王』を襲う。
そして最後の一撃が振り下される。
「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
明らかに疑似AIが使わない鎚スキル戦技によって『魔王』はGGの最後の一撃で吹き飛ばされた。
―――決めちまえ! フェンリル!
もう既に中身は居ないはずなのに、俺にはGGのそんな声が聞こえた。
俺は再び『魔王』にプチ瞬動で近づき、今度こそ止めの攻撃を放つ。
「剣舞・双刃破斬!!!」
回避しながらの剣舞ではなく、回避を考えずに全て攻撃のためのステップを刻む剣舞でオリジナルスキルを連続で放つ。
―――桜花十字閃! 桜花流星連牙! 流星龍桜閃! 天牙十字閃! 天牙流星連牙! 流星龍天閃! 神威十字閃! 神威流星連牙! 流星龍神閃!!――――
―――斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る!!―――
目の前が真っ白になりながらも永遠とも思える時間を攻撃に費やす。
そして、気がついた時には『魔王』のHPは0となっていた。
目の前には跪いた『魔王』が居た。
「―――ありがとう。お姉ちゃん―――」
そして光の粒子となりながら消え去っていく『魔王』が――いや、アイちゃんが最後の言葉で俺にお別れを告げた。
――チリン
小さな音と共にその場に残ったのは、装備品として一緒に消え去るはずだった俺が最後のデートで買ってあげた髪飾りだった。
――エンジェルクエスト・A.I.がクリアされました――
――エンジェルクエスト・A.I.がクリアされたことにより、全てのエンジェルクエストがクリアしました――
――全てのエンジェルクエストがクリアされたことにより連続クエスト・神へ至る道が発生しました――
――連続クエスト・神へ至る道が発生したことにより、グランドクエストは連続クエスト・神へ至る道へ移行します――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
エンジェルクエスト攻略に関するスレ24
123:justice
ふざけんなっ!!
エンジェルクエストをクリアすれば外に出られるんじゃなかったのかよ!
124:Dインパクト
これはもう殺意しか湧いてこないな・・・
125:西村ちなみ
あああ、連続クエストって何よ・・・
まだこのデスゲーム続くの・・・? もうお家にかえりたいよぉ
126:光の王子
確かにエンジェルクエストには神へ至る道を探すと言う名目があったけどね・・・
流石にこれは無いな
127:闇の王子
あー、確かに神に会って願い事を叶えるってクエストだったな
128:justice
みんな必死になって今まで生き延びて来たって言うのに、その希望すらぶち壊しやがって
129:メイプル
この連続クエストの神へ至る道って神様に会って願いを叶えてもらうんでしょ?
だったらあたし達がゲームの外へ出られるようにお願いできないのかな?
130:素晴らしき世界
無理だな
この鬼畜仕様のAI-Onだぞ?
131:究極の遊び人
無理だね
そんな簡単なクエストじゃないと思うよ?
132:華麗なる管理人
無理ですね
大方、神を倒さなきゃ願いがかなわないとかそう言うのでしょう
133:光の王子
だよね~
そう簡単に願いが叶うんだったらここまで苦労はしないか
134:Dインパクト
と言うか、そもそもこの連続クエストどこから手を付けたらいいんだよ
まずそこからだろ
135:ミノ・タン・ロース
神様へ会うための道を探し出さなきゃならないってことか
またどんだけ時間が掛かるんだよ・・・
136:独眼竜
あ、その点なら心配ない
攻略ギルド経由で聞いたんだけど、ユニーク職PTが突入したAの王とのフィールドで天上へ伸びる光の階段が出現したんだって
137:闇の王子
ほう、その光の階段が神へ至る道って訳か
138:西村ちなみ
え? ってことはまたソードダンサー達頼みってこと?
139:光の王子
そう・・・なるなぁ
初心者広場の結界は解除されたみたいだけど、王の石碑の前のAの王へ向かう光のゲートは俺達には通れないみたいだからな
140:究極の遊び人
現在ソードダンサー達の状況はどうなんだろ?
流石にAの王の後に今すぐ神様んとこへ突入って訳にもいかないけど
141:独眼竜
どうも王の証の特殊スキルを乱発したからほぼ24時間その場から動けないみたいだな
142:メイプル
と言う事は神様との決戦は24時間後ですね
143:ミノ・タン・ロース
あれ? 待てよ? Aの王が倒されたという事はNPCだけじゃなくMobも復活したってことか
・・・デスゲームクリアまで暇だからMob狩りでもしに行くかー
144:XYZ
そしてそれが143の死亡フラグだった・・・
145:ミノ・タン・ロース
やめて! それマジでシャレにならねぇ!
146:闇の王子
・・・・・・いや、マジで俺もそれシャレにならねぇ
「俺生きてここを出たら結婚するんだ」フラグ立てちまってるよ・・・
147:光の王子
なんにしてもソードダンサー達には頑張ってもらいたいね
次回更新は4月28日になります。
・・・now saving




