69.裏王都と四大天使
「かはっ!!」
俺の放った八千矛神は見事に『魔王』の体を貫いた。
だがこの一撃で仕留めようとしたのだが、『魔王』のHPはまだ3割ほども残っていた。
よく見ると『魔王』の体を貫いたと言っても致命傷ではなく、脇腹をえぐるようなダメージでしかなかった。
八千矛神が突き刺さる直前に、強引に束縛魔法から逃れて急所を避けたのだろう。
流石にダメージが大きかったのか、『魔王』はバックステップで俺達から大きく距離を取り王の石碑の前に立った。
「こほっ、流石にお姉ちゃんね。本来の力が発揮できないとは言えここまでダメージを与えるとは・・・
ここは本来の力を取り戻すのに時間を費やした方が良さそうね」
『魔王』のその言葉と同時に、王の石碑の前に光の渦が現れた。
やばい、このパターンだと『魔王』は本来の力を取り戻すためにここは一時撤退をしてしまう。
「みんな! 『魔王』を逃がさないで!」
「続きは魔王城でやりましょう。
あたしもこんな中途半端な力じゃなく、本当の力を見せてあげたいから」
俺の合図とともに前衛の4人が一斉に『魔王』へと向かうも、それよりも早く『魔王』は光の渦の中に消えて行ってしまった。
ちぃ、逃がしてしまったか。
出来る事なら本来の力を取り戻す前にこの場で倒してしまいたかったのだがな。
「ち、後もうちょっとだったんだがな。
今からでもこの光の渦に入れば追いつかないか?」
「多分無理ね。
予想だけど、この光の渦の先ってラスボス用のダンジョンになっていると思うわ」
ヴァイの言う通り今すぐ追いかければ『魔王』を捕まえられると思われるが、この先は多分ラスボス決戦用のダンジョンだろう。
そこには今までと比較にならないほどのモンスターがひしめいているはず。
本来であれば『魔王』はこの場で戦うのではなく、この光の渦の先の魔王城で迎え撃つはずだったのだろう。
この場での戦闘は普通のAIでない『魔王』だからこそ起こりえたことだと思われる。
「すると、これからこの光の渦に入って、ダンジョンを攻略して『魔王』を倒すって訳か。
うーむ、これからダンジョンの攻略か~ 面倒くさいな」
「先ほどまで『魔王』と相対していたのですもの、気持ちは分かりますわ。
『魔王』を倒せば全てが終わると思っていたのに、逃げられたうえでダンジョンの攻略をしなければならないなんて、確かに気分が乗りませんわね」
「・・・・・・ん、面倒くさい」
ヴァイ、マリー、美刃さん達は、この後のダンジョン攻略に難色を示す。
マリーの言う通り気持ちは分からないわけではないんだがな。
だがここはどうやってもこの先へ進まなければならない。
「けど、いつまでもここで燻ってるわけにもいかないだろう。
ここに来れるのはオレ達しか居ないし、この先に進むのもオレ達しか居ないんだ。
それにAI-On中のAIはすべて停止している。今オレ達がこの世界で生きていくのに残された時間は少ないと思うよ」
アッシュの指摘しているAI停止は、今はそれほど影響は無いがこの後はどうなるか分からないのだ。
暫くはプレイヤーの生産品等で市場は回るが、NPC店での素材等の補充が効かなくなるし、モンスターもPOPしないので素材を集めれない。
それらの影響により次第にアイテム等も枯渇してくるはずだ。
アイテムだけではない。
NPCの施設も全て使えないと言う事は宿に泊まることも出来ないし、食堂を利用することも不可能なのだ。
食堂を経営しているプレイヤーは少ないながらも居るが、宿を経営しているプレイヤーはアーデリカを含めごく少数だ。
そんな状況の中で時間がどんどん経過すれば、この後プレイヤー同士でのパニックや暴行が横行するのは目に見えている。
そうなる前にも、今すぐ動くのがベストなのだ。
「このままだと状況は悪くなる一方だしね。わたしも直ぐに動いた方がいいと思うわ。
まぁ、ただアイテムの補充やらダンジョンに突入する準備は必要よ。
一旦、広場の結界の外に出て準備をしましょう」
俺の提案により広場の結界の外へ出て一度ギルドメンバー達と合流する。
その時に『魔王・A.I.』の事を伝えたのだが、やはりアイちゃんと一番仲の良かったリムがショックを受けていた。
「フェンリルさん、どうにもならないんですか?」
「・・・うん、ゴメン。アイちゃんも言っていたけど、これは確定事項だからどうにもならないって」
「そう・・・ですか。分かりました。アイちゃんのためにも早く『魔王』から解放してあげてください」
そうだよな。アイちゃんを『魔王』・・・いや、Angel In Onlineという呪縛から解放してあげないとな。
準備を終えた俺達は最後の決戦の為に、ラストダンジョンへの入り口の光の渦に飛び込んだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「え!? ここって・・・王都!?」
今俺達の目の前に広がる光景は先程まで居た王都そのものだった。
降り立った場所も初心者広場――いや、始まりと終わりの広場の中央にある王の石碑の前だ。
但し唯一違う点は、今までいた王都とは違って空の景色は青空ではなく、血に塗られたような赤い空だった。
「さしずめ裏王都と言ったところね。
―――っ! 気を付けて! 辺りから複数のモンスターの気配があるわ!」
誰もいない見通しのいい広場には、先ほどまでいなかったモンスターが次々POPしていく。
現れたモンスターは今までの禍々しいモンスターとは違い、白い翼の生えた天の使いと称される天使だった。
「おいおい、全てのAIは停止してるんじゃなかったのかよ」
「多分、ここが裏王都だからかもね。
もしくは先の戦闘の時の様に、停止できるAIを選別していると思うわ。
ベルのアインとツヴァイは最初は動いていたけど『魔王』の合図で留められたし、『魔王』は『魔王』で自分の呼び出した26の王たちは普通に動いてたしね」
『魔王』は全てのAIを止めることが出来ると言ってたが、全部が一斉に止まるとは言ってなかったしな。
「言われてみればそうですわね。わざわざ自分に不利になるような制限を設けるわけありませんから。
それにしても・・・随分とまぁ、この場に相応しくないモンスターですわね」
「同感だ。相変わらずここの開発者は頭がどっかイカれているぜ」
確かにこのゲームのタイトルはAngelが付くから天使は出てきてもおかしくは無いが、まさか今になってこの場で出てこようとは。
『魔王』に魔王城、そして血の空の裏王都。そこへ聖なる天使ときたもんだ。
流石にこの状況はマリーとヴァイの2人の言う通りだろう。
「フォーメーションは『魔王』と戦った時と同様に。
行き先はまっすぐ北の方向の王城――いいえ、魔王城よ。最短距離で突っ切るわよ!」
俺の合図とともに俺達は天使の群れを蹴散らしながら北へと突き進む。
流石は聖なる存在と言ったところか、天使たちには聖属性魔法が効かなかった。
そして魔法耐性が高いのか、他の属性魔法もあまり効果が殆んど無い。
だがそんな天使たちにも唯一効果がある魔法属性が存在した。
それは鳴沢がデモンブラッドスキルで使えるようになっていた魔属性魔法だった。
鳴沢が己のHPを削りながら魔属性魔法を次々放っていく。
「デモンブリット! エビルウィップ! デモントライデント!」
鳴沢から放たれた黒の弾丸が天使の体を貫き、ほぼ一撃で絶命させる。
別の天使には黒色の鞭が絡め取られ地に叩きつけられる。
放たれた黒の三又の矛は天使の体を串刺しにして、さらにはその後方に居た複数の天使をも巻き込んでいく。
「リジェネーションヒール!」
俺は鳴沢に微量ながらも一定時間ごとに回復する治癒魔法を掛ける。
「ベル、天使に魔属性魔法が一番効果があるからって使い過ぎよ。
魔属性魔法は自分のHPを削って放つんだから気を付けないと」
「フェル、ありがと。
分かってはいるんだけど、つい・・・ね。弱点属性だけあっていつもよりも効きがいいのよ」
鳴沢がデモンブラッドのスキルを持っていたのは幸運と言えよう。
AI-Onの鬼畜差を考えれば、この裏王都にて聖属性の天使を相手するには多分骨が折れたはずだ。
それが天使の弱点属性である魔属性魔法を持つプレイヤーが裏王都に来ようとはAI-Onの開発者も予想外だっただろう。
・・・いや、AI-Onの開発者のことだ。
敢えて天使に対抗する手段をエンジェルクエストの報酬として分かるように用意して、実はあれは天使の対抗手段だったんだと思わせるのが狙いだったのかもしれない。
考えてみれば今まで聖属性のモンスターって存在しなかったよな。
聖属性モンスターに対抗手段の考えを今まで悟らせなかったという訳か。
後衛を狙っての攻撃で一時鳴沢のHPがやばかったりもしたが、俺達は何とか裏王城の正門まで来ていた。
「さて・・・と、ここからが本番ね」
「ああ、多分城の中は今までの雑魚天使とは違い上位階級の天使が相手になるだろうな」
「上位天使?」
ゲームや漫画等ではよく使われていて、天使には九階位が存在する。
今まで倒してきた天使は下位に存在する天使や大天使の類だろう。
そして魔王城には中位天使や上位天使がひしめいているはず。
マリーがVRMMOと言ったゲームを知らなかった初心者なので、こういったゲーム的な天使についても知らなかったのだろう。
疾風はそれなりに詳しいようでマリーにそのことを説明する。
「まぁ、有名どころで言えばミカエルとかガブリエルだろうな」
「それなら聞いたことがありますわね。大天使なのでしょう?」
「大天使でも間違ってはいないが、正確には九階位の最上位に存在する熾天使の存在だな。
・・・AI-Onの事だ、絶対どっかで出てきそうだな」
「ちょっと、そんなこと言わないでよ。フラグになっちゃうじゃない」
疾風の言う通りあり得そうなので思わず突っ込みを入れる。
そこら辺の雑魚天使でさえ魔法が効きづらく面倒なのに、この上最上位の熾天使まで相手って・・・
「どのみち『魔王』までは、行く道全部蹴散らしていかなきゃならないんだ。
ここでうだうだしててもしょうがないぜ」
そう言いながらヴァイは城門を潜り扉を開けて王城へと入って行く。
うーむ、こういう時は物怖じしないヴァイの性格がありがたいな。
言い換えれば何も考えてないとも言うが。
表の王城であれば大広間のロビーにはいつも怪しげな道化が居たのだが、裏の王城――魔王城には4人の天使が待ち構えていた。
「・・・疾風、いきなりフラグ立てちゃったみたいね・・・」
「・・・これは俺の所為なのか・・・?」
4人の天使の背中には3対6枚の翼が生えていた。
そう、さっき疾風が言っていた熾天使の4人だ。
『私の名は火の熾天使ミカエル』
『私は風の熾天使ラファエルです』
『水の熾天使ウリエルだ』
『わたしは~地の熾天使のガブリエルだよ~』
4人の熾天使がそれぞれ名乗りを上げる。
ミカエルは女性型の天使で、燃える様なウエーブのかかった赤い髪をしていた。そしてなぜか巨乳。
ラファエルは薄緑色の長髪の優男の天使なのだが、佇まいが貴族のように様になっていて一つ一つの仕草が優雅に見える。先ほどの挨拶も見とれてしまうほどだった。
ウリエルは如何にも俺様主義な感じの青色の髪をした男性型の天使で、俺達を下等な存在として見下しているように見える。これぞ天使って感じだな。
最後のガブリエルは茶髪のショートで見た目は幼女なのだが、これまたミカエルに負けず劣らずの巨乳だ。
『ここから先は私達が相手をしよう。『魔王』様の下へ行きたければ私達を下していくがよい』
そう言いながらミカエルは剣を構えて俺達に向かって来る。
天使が魔王に使えるなんて、相変わらず設定がチグハグだなAI-On。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『ガトリングエアバースト!』
ラファエルの放つ風の圧縮散弾が前衛の4人に降り注ぐ。
「フルラージシールド!」
すかさずマリーが前に出て盾スキル戦技で巨大な光の盾をだしラファエルの攻撃を防ぐ。
その隙にミカエルとウリエルが盾の左右から挟撃を仕掛けてくる。
『螺旋槍!』
「螺旋拳!」
ウリエルの放つ槍スキル戦技をヴァイが同じ螺旋の拳スキル戦技で迎え撃つ。
螺旋状の槍の先端に螺旋させた拳がぶつかり合いそのままお互いが弾き飛ばされる。
刃物の武器に対して拳で迎え撃つなんてヴァイの奴相変わらず無茶するな。
『ファイヤーブラスト! スラッシュストライク!』
「・・・ん! 桜花乱舞! 居合一文字!」
反対側では美刃さんがミカエルの攻撃を迎撃する。
火属性魔法の炎の散弾を刀スキル戦技の乱撃で撃ち落とし、続けて放たれたミカエルの刀スキル戦技を美刃さんは素早く鞘に納めた刀で居合の戦技で弾き飛ばす。
疾風はミカエルとウリエルの間をすり抜けラファエルに迫るも、隣に控えていたガブリエルの土属性の魔法で行く手を阻まれる。
『え~い、ストーンウォール~!』
突然目の前に現れた土の壁に瞬動で突っ込んでいた疾風は辛うじて目の前で止まるが、追撃で放たれたラファエルの風属性魔法をまともに受けてしまう。
『トルネード!』
「エクストラヒール!」
疾風が竜巻に呑まれた瞬間、鳴沢から治癒魔法が飛ぶ。
「アクエリアスファング!」
「サンダーストーム!」
そしてアッシュの放つ咢を模した2本の水の槍が竜巻を食いちぎり、ラファエルとガブリエルの2人を狙った俺の雷の嵐が乱れ落ちる。
どうやらミカエルとウリエルが前衛、ラファエルとガブリエルが後衛みたいだな。
よし、このまま前衛と後衛を分断して連携を取れないようにした方がいいだろう。
「美刃さんとマリーとヴァイはそのままミカエルとウリエルをお願い!
ベルは3人のサポートを。
アッシュはわたしと一緒に疾風の援護をするわよ!」
そう言いながら俺はプチ瞬動でガブリエルとラファエルに接敵する。
ガブリエルとラファエルが雷の嵐から抜け出したところへ、俺と疾風の戦技を放つ。
「桜花四連撃!」
「クロノス!」
俺の刀スキル戦技・桜花一閃と二刀流スキル戦技・四連撃を合わせたオリジナルスキルがガブリエルを襲い、疾風の時空魔法のクロノスワールドを使ったオリジナルスキルの瞬極殺がラファエルを瞬時に切り刻む。
『いった~い! もう怒った~!』
『くぅ! まさか一瞬でここまでダメージを受けるとは』
ガブリエルはダメージがあるんだか無いんだか分からないようなセリフを吐きながらも怒りを露わにする。
ラファエルは疾風の瞬極殺を受けて一気にHPが減少する。
流石にあのチートすぎるスキルは熾天使でも防げないか。
「マグナギガ!」
2人の天使への追撃とばかりにアッシュの古式魔法の溶岩石が降り注ぐ。
『残念ですがそう簡単に何度も攻撃を受けるわけにはいきません。
――抱擁の疾風!』
『思いっきりやっちゃうもんね~!
――無限の大地~!』
何だ? 熾天使固有の魔法か? 今までに聞いたことない呪文だぞ!?
ラファエルの体に風を纏ったと思ったら一瞬で疾風の懐へと潜り込んだ。
まるで疾風の瞬動の様な動きだ。
それだけではない。ラファエルに降り注ぐ溶岩石も疾風の攻撃もラファエルが纏っている風に阻害されてまともにダメージが与えられない。
そしてラファエルの動きも風にアシストされてラファエルの持つレイピアはキレのある攻撃を見せていた。
ガブリエルは手を振り上げると、土属性魔法のストーンウォールの様に呪文なしで土壁が出来て溶岩石を防ぐ。
『君は~取り敢えず大人しくしていてね~』
ガブリエルは振り上げた手を今度は振り下すと、それに伴いアッシュが地面に押しつぶされる。
「なっ!?」
見えない何かに押しつぶされるようにアッシュは身動き一つとれないでいた。
重力魔法か!? いや、それだとさっきの呪文なしでの土壁が説明つかない。
『じゃあ、今度は君だね~ どっか~ん!』
ガブリエルが素手で俺に向かって拳を放ってくる。
俺はそれを二刀流スキル戦技・十字受けで軌道をずらしてやるが、逆に弾き飛ばされてしまった。
ちょっ!? メチャクチャ重い!?
「がはっ!」
まともにガブリエルの拳を食らった俺は、拳スキル戦技を使ったわけでもないのに思いっきり吹き飛ばされてしまう。
そこへ疾風もラファエルの暴風を受けて吹き飛ばされていた。
『は~い、大人しくしていてね~』
ガブリエルが両手を振り下すと俺と疾風に重圧が加えられて起き上がることが出来なかった。
そしてそこへ美刃さん達の攻撃の合間を縫って、ミカエルがまた聞いたことのない魔法を解き放ってくる。
俺達の目の前に現れた炎は、太陽そのものの様に俺と疾風を飲み込んでいく。
『天空の劫火!』
ゴオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
「うぉ!? なんだありゃ!?」
「フェンリルさん! 疾風さん!」
「・・・ん!」
だがヴァイ達の心配をよそに、全てを燃やし尽くすような炎の中から俺達は辛うじて脱出に成功する。
「けほっ」
「っちち」
『ほう、天空の劫火を受けてそれほどダメージが無いとは・・・』
うん、今のは流石に俺もヤバかったよ。
ミカエルの魔法が着弾したと同時にガブリエルの重力の拘束が解けたので、その一瞬の間に俺はプチ瞬動で、疾風は時空魔法のアクセレーションノヴァを使って脱出したのだ。
一応、氷属性魔法の氷の霧を使い微弱ながら炎の勢いを弱めたのもダメージ軽減に一役を買っている。
「流石にシャレにならないわね。
聞いたことない魔法だけど、熾天使固有の魔法だったりするのかしら?」
『いや、我々が使ったのは普通の属性魔法の最高位の魔法だ。お前らの言い回しを借りればLv110の魔法と言ったところだな』
ミカエルはそう言いながら一度美刃さん達から距離を取る。
ウリエルもそれに倣い槍を構えたまま後ろに下がった。
と言うか属性魔法の最高位か。
サブスキルでは限界突破スキルが無ければ覚えるのは無理だし、職スキルに至っては俺の累計Lv101がAI-Onのプレイヤーの中で最高Lvのはずだ。
今の時点ではLv110の魔法はとてもじゃないが無理だ。
そして言い換えればこの熾天使たちはLv110クラスのモンスターと言う事なのだろう。
Lvに10も差があるのか・・・流石にやばいな・・・
だがここで泣き言も言ってられない。それにLv10の差ならまだ何とかなる範囲内だ。
「熾天使の名の通り一筋縄じゃいかないようね。
でも、悪いけどここで手こずってるわけにはいかないのよ。この後に『魔王』が控えているんでね。
一気に行かせてもらうわよ!」
『それはこちらのセリフだ。『魔王』様への下へ行かせるわけにはいかない!』
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
伊達に熾天使を名乗っているだけあって、4人の天使との激戦は長時間にも及んだ。
お互いにダメージを与えるも、天使だけあって回復手段もしっかり持っていてダメージを与えては回復の繰り返しで、状況はこう着状態に陥っていた。
だが物事には終わりがあり、この戦闘にも決着が訪れる。
最初はミカエルとウリエルが前衛、ガブリエルとラファエルが後衛と思っていたが、4人の熾天使は状況に応じて前衛と後衛を上手く切り替えていた。
特に抱擁の疾風と無限の大地を使った2人が前衛の時には、対抗できる人物がほとんどいなかった。
『やあぁ~!』
「はぁぁぁぁぁ!」
無限の大地の魔法を纏った(?)ガブリエルの拳を、俺は神降しスキルでタヂカラオを身に宿し二刀で上手く捌いていく。
そしてすかさず舞の神のアメノウズメに切り替えて剣舞をお見舞いする。
「流水剣舞!」
ガブリエルの動きを読み、最小限の動きで剣戟を振るう。
その向こうでは美刃さんとミカエルがお互い剣を躱していた。
「あははははははははははは♪」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
美刃さんは月狂化状態でミカエルに刀スキルを連続で放つ。
対するミカエルは至近距離からの火属性魔法と剣スキルで美刃さんを翻弄する。
そして更にその向こうでは抱擁の疾風状態のラファエルをマリーが盾スキルで捌きながら、疾風がその隙をついて攻撃していた。
だが流石に抱擁の疾風状態のラファエルにまともに命中させるのは難しく、ダメージも微々たるものだった。
熾天使の残り1人であるウリエルはというと、後衛に居てヴァイを相手取っているにも拘らず、前衛3人の援護をするべく水属性魔法の魔法を解き放つ。
『深淵の水王!』
ウリエルより現れた龍の形を模した水撃は俺達に襲い掛かるべく牙を剥く。
「ちっ! 俺を無視してんじゃねぇ!」
ヴァイは放たれた龍水撃を俺達に襲い掛かる前に叩き潰そうと空高く飛び上がり、そのまま龍水撃に拳を叩きつける。
まともに食らった龍水撃は弾け飛び辺りに一面に水を撒き散らす。
だがその飛び散った水滴は再び集まりだし、今度は無数の水の刃と化しヴァイに襲い掛かる。
それ以外の水滴もそのまま水の弾丸と化し俺達を貫く。
どうやら水属性魔法の最高位は龍の水撃を召喚するのではなく、呼び出した大瀑布を水滴1つ1つ自在に操ることの出来る魔法のようだ。
水の散弾を受けてダメージを負った俺達に鳴沢から治癒魔法が飛ぶ。
「エリアエクストラヒール!」
呪文を唱えた直後の隙を狙っていたのか、ミカエルが火属性魔法の最高位で鳴沢の目の前に劫火を召喚する。
『天空の劫火!』
詠唱破棄スキルで即時回復を行える鳴沢は敵にしてみれば厄介な存在だ。
故に鳴沢を狙うのは戦術としては間違ってはいない。
だが、ミカエルの唱えた魔法は鳴沢に対しては失策だ。
鳴沢はすかさず腰のレーヴァテインを抜き放ち、目の前に現れた劫火を纏め上げ後衛に居たウリエルへと弾き返す。
『なっ!?』
流石に属性魔法の最高位を跳ね返されるとは思わなかったのか、ウリエルは驚きの声を上げた。
慌てたウリエルは散らばった深淵の水王を呼び戻し、弾き返された天空の劫火を迎撃する。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!
二つの魔法がぶつかり合い、水蒸気爆発が辺り一面に巻き起こった。
ただでさえ2つの属性の最高位魔法がぶつかったんだ。響き渡る衝撃はハンパじゃない。
特に間近にいたウリエルはその衝撃に体勢を崩していた。
俺はその隙を狙いガブリエルの脇を抜けて、ウリエルにプチ瞬動で接敵する。
その間にも呪文を唱え、神降ろしをヒノカグヅチへと変えておく。
使うのは刀スキル戦技・天牙一閃と二刀流スキル戦技・十字斬り、そしてヒノカグヅチの炎を纏った二刀に四重に重ね掛けた火属性魔法。
「バーニングフレア・クアドラプルブースト!
――天牙十字閃・火鎚!!」
『がはぁっ!?』
再び深淵の水王の呪文を唱える暇もなく、ウリエルは俺の一撃をまともに受けて吹き飛ばされる。
魔法が効きづらい天使ではあったが、流石に魔法剣に対する耐性までは持ち合わせていなかったらしく、水の熾天使であるウリエルは俺の火属性の魔法剣によりHPは0となり光の粒子となって消え去った。
『なっ!? まさかウリエルが倒されるだと!?』
動揺しているミカエルへ鳴沢が止めを刺すチャンスとばかりに魔法を放つ。
勿論解き放つのは天使に有効な魔属性魔法。
「アビスブラスト! アビスブラスト! アビスブラスト!―――」
鳴沢はHPのギリギリまで削りながら連続で複数の奈落の暗黒球をミカエルに向かって解き放つ。
ミカエルも聖属性魔法で迎撃しようとするも、放たれた暗黒球はお互い相乗効果を生み出しながら聖属性魔法をものともせずミカエルのHPを容赦なく削り上げる。
『馬鹿な・・・! この私が・・・!』
まるで奈落に落ちるかのようにミカエルはそのまま暗黒球の群れに呑まれ、遂にはHPが0となりそのまま暗黒球の中で消え去ってしまった。
そして俺がウリエルへ向かって行ったと同時に、お互いが入れ替わるかのようにヴァイが鬼神化しながらガブリエルへと向かって行く。
ガブリエルが迎撃の為に地面から土の槍を無数生やしてヴァイにぶつけるも、鬼神化したヴァイはお構いなしに土の槍を砕きながらガブリエルに殴りかかる。
お互い徒手空拳のためその場で殴り合いが始まるも、無限の大地の名の示す通りガブリエルには力が無限に湧き出てくるので明らかにヴァイには分の悪い殴り合いだ。
その為ヴァイは隙をついて鬼神化の持てる力を振り絞ってガブリエルを後ろから羽交い絞めにする。
「アッシュ! 今だ! やれ!」
攻撃の隙を伺っていたアッシュが古式魔法を解き放つ。
「ディメンジョンソード!」
突如ガブリエルの目の間の空間から防御力無視の次元刀が現れ、ガブリエルの胸に突き刺さる。
そして続けざまに放つのは――
「ポジトロンキャノン!」
古式魔法の陽電子砲により、ガブリエルの胸に突き刺さった次元刀を避雷針代わりにして中と外から電撃を浴びせる。
『あああああああああああああああああっ!』
それでも尚も動こうとするガブリエルに、止めとばかりにヴァイが拳スキル戦技・螺旋拳と爆裂寸勁を合わせたオリジナルスキルを放つ。
「爆裂螺旋寸勁!」
陽電子砲を受けながらヴァイの一撃を受けたガブリエルはそのままHPが0となり光の粒子となって消え去った。
残るラファエルも、マリーと疾風、そしてミカエルが倒された瞬間にラファエルに向かって行った月狂化状態の美刃さんの3人に襲われてなす術もなく倒された。
流石に攻撃を集中して向けられると攻撃を逸らす抱擁の疾風もほぼ効果が無く、一方的な展開だった。
そりゃあ、疾風の瞬極殺に美刃さんの月狂化じゃあなす術もないわな。
『私もここまでですか・・・ですが私達の上には・・・』
ラファエルは意味深な言葉を残しながら光の粒子となって消え去っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅ、流石にきつかったですわね」
盾役としてかなり負担が大きかったマリーが熾天使4人を倒して安堵の表情を見せる。
「だね。まぁ流石にこれ以上のモンスターは現れないと思うから、後は『魔王』まではかなり楽だと思うよ」
魔王城の外よりは強い上位天使が居るだろうが、熾天使よりは格段に強さは下がるだろう。
「あれ? でもさっきの天使が言っていた上にって・・・」
「ヴァイ! それ以上言ってはいけない! それはフラグよ」
ヴァイが言ってはいけない言葉を口にしようとしたので俺は慌てて止める。
俺の脳裏にも更に上位の天使の存在が過ぎるが、ここに居るのはあくまで4人の熾天使しか居ない。うん、そうに決まっているんだ。
「・・・もう既に遅い気がするけどね。それを否定してる時点でフラグが立ってる気がするよ」
「言わないで! フラグなんてへし折るためにあるようなものなのよ! だから熾天使の上なんて存在しないのよ!」
鳴沢の言う通りもう既にフラグが立ってる気がするけど、ここは気にしたら負けだ。
「・・・なぁ、それより美刃さんどうするんだよ?」
そう言う疾風の視線の先には月狂化の反動で熟睡している美刃さんが居た。
「・・・美刃さんが起きるまで小休止ね。わたしとマリーで一応辺りを警戒しておくけどいざという時に直ぐに動けるようにしておいてね」
俺達は美刃さんが起きるまで少しの間休憩を取ってから『魔王』の下へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Aの王について考察するスレ4
441:シャドウプリンセス
ふむ、つまりAの王とは高性能のAIと言う事か?
442:justice
あー厳密に言えば違うんだがなぁ
443:ウラシマ
いや、だって今までの王だってAIだったんだろ? どこかどう違うんだよ
444:沙羅諏訪帝
今までプレイヤーとして一緒に行動していたって言われても・・・
AIなんだから普通の事じゃないかって思うよ?
445:究極の遊び人
まぁ普通の人にとってはその感覚になっちゃうんだろうねぇ
446:justice
今Aの王を攻略しているユニーク職PT達の言う通りだとすれば、Aの王は今まで俺達と同様にプレイヤーとして参加していたことになるんだけど・・・
この凄さが何でわからないんだろう
447:センスマジック
今やAIは当たり前な事だからねー
小説や漫画等でさも当然のように扱ってるし、凄さを分かれって言うのもちと無理があるのかも
448:究極の遊び人
AIというと自分で何でも考えて動いているように見えるけど、実際は限られた中でしか受け答えが出来ないんだよ
449:シャドウプリンセス
そうなのか? 我はたくさんのNPCと会話してきたが何の問題もなかったぞ?
450:究極の遊び人
それはAI-Onの中だからだな。
そのNPCたちをAI-Onの外に連れ出せるとしたら、その途端にフリーズしてしまうぞ
451:justice
ちょっと分かりにくい例えかもしれないが、よく人間対コンピュータでチェスをするAIが居るだろ
そのAIの出来ることはチェスだけであって会話とか他の作業は無理なわけ
452:フリーザー
ああ、何となく分かった
453:ウラシマ
ああ、なるほど
ここのNPCたちも外の世界には対応していないと言う事か
454:沙羅諏訪帝
そう考えると外からプレイヤーとしてINしてきたAの王は、外の世界にも対応しているってこと?
455:センスマジック
そうなるな
つまりそれだけ人間の思考と同等の回路を持っているってことだよ
456:まほろば
それって・・・つまりAccess社は1人の『人間』を作り上げたってことか!?
457:シャドウプリンセス
つまりAの王とはただのAIではなく、我々と同等の思考を持った『人間』が相手と言う事か
458:justice
そういう事
人間はAIと違って柔軟な思考が出来るからね
今回の相手はAIでありながら人間同様な思考で襲い掛かってくるって訳
まぁ、『人間』な分つけ入る隙もありそうだけど




