68.魔王と7人のユニーク職
アイちゃん、いや、『魔王』が腰に差している2本の剣を引き抜く。
右手には水属性の水鳳の剣を、左手にはスノウメイデンのドロップで手に入れたインフィニティアイスブレードを携える。
インフィニティアイスブレードは文字通り無限に氷の剣を生み出すことの出来る武器だ。
俺達はすぐさま戦闘態勢を整え隊列を組み、『魔王』へ向かって行く。
まずは切り込み隊長の疾風が瞬動で接敵し『魔王』へ一撃をお見舞いする。
だが『魔王』は疾風の攻撃を予測していて、左右の剣を十字に構え二刀流スキル戦技・十字受けで疾風の瞬動の攻撃を防ぐ。
疾風に続く形でマリーが巨大な大盾を掲げながら『魔王』へと接近する。
マリーを挟む形で美刃さんとヴァイが並走し、美刃さんは剣をヴァイは拳を構える。
俺はその後方で会心の反魂弓を構えて、さらにその後方で鳴沢とアッシュが魔法の準備を整える。
『魔王』は接近するマリー達に向かって左手のアイスブレードを振り抜き、十数生み出した氷剣を散弾の様に打ち出す。
本来盾を持たない戦乙女の職業であるが、マリーは巧みに大盾を操り氷剣の散弾を防ぐ。
美刃さんとヴァイもそれぞれ自分に向かって来る氷剣を叩き落とす。
そのまま接敵したマリーは盾を構えたまま剣を掲げ剣スキル戦技を放つ。
「はぁぁっ! ダブルピアッシング!」
マリーの二連続による突きは『魔王』の左右の剣で弾かれ、お返しとばかりに二刀流スキル戦技・剣舞六連がマリーを襲う。
『魔王』は宙に身を投げ出し回転しながらマリーに剣戟をお見舞いするが、マリーは宙に浮いたその隙を狙い盾スキル戦技による体当たりをぶちかます。
「シールドバッシュ!」
マリーは剣舞六連を大盾で防ぎながら、そのまま大盾で『魔王』に体当たりをしながら背後にある王の石碑に叩きつけようとする。
大盾と石碑で挟んで身動きを封じようとしていることを悟った『魔王』はすぐさま呪文を唱える。
「くっ! ゲヘナストーン!」
『魔王』は足もとから斜め上に向かって巨大な六角柱をマリーに向かって解き放つ。
流石に足下からの攻撃は予測できなかったみたいで、マリーは後方に押し戻される形で吹き飛ばされた。
そのまま続けざまに呪文を唱えようとしたが、俺の放った矢が『魔王』の呪文詠唱を阻害する。
その隙をついて美刃さんとヴァイが左右から『魔王』に襲い掛かった。
美刃さんは刀を上段に構えて刀スキル戦技・五月雨を放つ。
ヴァイは既に鬼神化をしていて、両拳を腰に構えて拳スキル戦技・崩拳と螺旋拳を放つ。
「ん! 五月雨!」
「オラァッ! 崩拳! 螺旋拳!」
『魔王』の右側から美刃さんの振り下した刀に合わせて4本の剣閃が襲う。
反対側ではヴァイが器用にも右拳で崩拳を、続けざまに左拳で螺旋拳を『魔王』に向かって叩きつける。
だが『魔王』は左右からの攻撃もものともせず、美刃さんの刀を弾き上げることによって五月雨の効果を打消し、ヴァイの拳スキル戦技は左手のアイスブレードでいなしながら氷剣を放つと言う離れ業を行い、逆にヴァイにダメージを与える。
そして2人の攻撃を防ぐと同時にいつの間にか唱えていた魔法を解き放つ。
「ロックブレイカー!」
『魔王』を中心に放射状に地面が隆起し2人を弾き飛ばす。
『魔王』が魔法を放った直後を狙い、鳴沢の無属性魔法の自動追尾弾とアッシュの放つ火属性魔法の空間一点発動型魔法が襲い掛かる。
「ホーミングボルト!」
「バーストフレア!」
前後左右から襲掛かるエネルギー弾により逃げ場を奪いつつ、射線を持たない空間一点発動型開放式で『魔王』の居た空間そのものを爆破させる。
ズガァァァァァァァァァァァァァンッ!!
2つの魔法の着弾により『魔王』の居た空間は大爆炎と大量の煙に包まれる。
今日初めてPTを組むにも拘らず鳴沢とアッシュの2人は上手い具合に連係を取っているな。
それにしてもアッシュの魔法は流石ユニーク職の魔法のスペシャリストだけあって威力がハンパない。
俺と同じく極限魔力のスキルを持っているのだが、本職になるとこうも違うものなのか。
俺達は迂闊に近寄らずに油断なく構えて煙の中から『魔王』が現れるのを待つ。
流石に無傷ではいられないだろうと、どれ位ダメージがあったのか『魔王』のHPを確認すると、驚いたことに戦闘開始の時と変わらず1ドットも削れてはいなかった。
「うそ!? 今の攻撃でも全くのノーダメージ!?」
煙が晴れた中から『魔王』が悠然と姿を現す。
「ふぅ、流石にユニーク職の攻撃力はハンパないわね。
まだ力が本調子でないとは言え一瞬あの力を使っちゃったじゃない。お蔭で『魔王』の本当の力を取り戻すのに時間が掛かりそうだわ」
げ、まさかとは思っていたが、ラスボス宜しく『魔王』も二段変形タイプかよ。
下手をすれば三段変形と言う事もありうる。
これは出来れば『魔王』が力を取り戻す前に倒しきりたいところだ。
と言うか、『あの力』とは何なんだよ!?
如何にも思わせぶりな言葉を漂わせるなよ。必要以上に警戒してしまうじゃないか。
「ん、『魔王』もなかなかやる。あたしも本気を出す」
そう言いながら美刃さんが再び『魔王』に向かって走り出す。
美刃さんが本気を出すと言う事は、二つ名の月狂化の姿が現れると言う事か?
狂化と言うくらいだから見境が無くなるのだろうか?
俺は一応みんなにその場に留まる指示を出し、いつでも動けるように美刃さんと『魔王』の動きを見る。
「剣速三日月!」
美刃さんの刀が戦技を使わないにも拘わらず、剣速が上昇する。
だが『魔王』は見事なステップで美刃さんの刀を全て躱していた。
「・・・あは♪ これを躱すんだ♪ それならこれはどう? 剣速半月!!」
美刃さんの剣速がさらに上がる。
・・・なんか美刃さんの口調が変わったようなのは気のせいじゃないよな・・・?
『魔王』の方はというと、あれだけの剣速にもものともせず俺の剣舞ばりのステップで殆ど躱していた。
流石に学習して経験する『人間』と言う事か。
アイちゃんは『Angel Out』で俺達と共に行動をしていた。その間に俺達メンバーから色んなことを学んできたのだ。
剣舞もそのうちの一つだ。
俺はアイちゃんに教えを請われそれなりのコツを教えていた。
だからと言ってそう簡単に出来るものでもないのだが、『魔王』になったせいかかなりの完成度を見せていた。
そう考えると、最初に突撃した疾風の瞬動が防がれたのも頷ける。
アイちゃんは使うことが出来なかったが、それなりに疾風の瞬動の動きを覚えてきたのだ。
・・・あれ? これって、俺達自分の首を絞めてないか?
『魔王』であるアイちゃんを俺達は知らない間に鍛えまくっていたことになる。
まさかとは思うが、アイちゃんも俺達を倒すために近づいてきたという事か・・・?
いやいや、そこはアイちゃんを信じよう。
彼女は純粋に俺達と一緒に遊ぶためにギルドに入って来たんだ。
出なければ『魔王』として覚醒する瞬間の寂しげな表情は嘘になる。
攻撃を繰り出す美刃さんの刀を躱し続ける『魔王』に対し、美刃さんは更に剣速を上げる。
「あは♪ あははははははははははははははははっ♪ すごい♪ すごぉい♪ これも躱すんだ♪
大抵のモンスターはこれで片が付くんだけどね♪ ここまで躱し続けた26の王も居ないよ♪
それじゃあ、取って置き♪ ――剣速満月!!!」
シュパパパパパパパパパパパパパパッッ!!
先ほどまでの剣速が遅いと感じるほどの斬撃が『魔王』に襲い掛かる。
と言うか、なんじゃありゃあ。
とてもじゃないが、俺の剣舞でも躱すことが難しいぞ。
『魔王』も流石にステップだけでは躱しきれずにステップと2本の剣を使っての回避を見せていた。
だが、流石に全てを防ぎきることは出来なかったのか、少しずつHPも削れていた。
それにしても美刃さんの性格変わりすぎ。
確かに今までの無表情の時と打って変わって表情が悦びに満ちていた。
月狂化と呼ばれても何ら不思議ではない。
『魔王』は美刃さんの斬撃を躱しながらも呪文を唱えてたらしく、無属性魔法の自動追尾弾を放つ。
「ホーミングボルト!」
だが無数に襲い掛かってくる自動追尾弾を美刃さんは平気で無視して、ダメージを受けながらもそのまま斬撃を『魔王』にお見舞いし続けた。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ♪」
うお、怖ぇ! 傍から見るとこれマジ怖ぇ!
狂化が掛かっているかのようにダメージ無視で突っ込んでいく姿は相対者には恐怖そのものだ。
流石にこのままじゃダメージを受けすぎるので俺と鳴沢とで治癒魔法を唱えた。
「リジェネーションヒール!」
「エクストラヒール!」
『魔王』もこの終わりの無いような攻撃には負担を強いられるのか、動きに精彩が無くなってきた。
「っく、調子に・・・乗るなぁぁ!!
トリプル・ゲヘナストーン!!」
マリーの時と同じように足下から3つの土属性魔法の六角柱が迫り出し、美刃さんを後方へと突き飛ばす。
と言うか、アイちゃん何時の間に輪唱呪文まで使えるようになってたんだ?
俺が覚えている限りじゃ使えてなかったんだがな。
後方へ飛ばされた美刃さんは上手く態勢を整えて着地するも、その場へとへたり込んでしまう。
治癒魔法で回復してたとは言え、ダメージ無視で突っ込んでいたので何らかの障害があったのかと心配して俺は美刃さんに近寄る。
「・・・ん、疲れた。おやすみ」
美刃さんは一瞬にして性格が戻ったと思ったら、今度は急にその場で寝てしまった。
何だその変わり様は!? と言うかこの場で寝るなよっ!?
どうも剣速満月はかなりの神経と運動量を使うみたいで、使用後は少しの間強制的に身動きが取れなくなるようだ。
まぁ、『魔王』のHPを少し削ったので良しとしよう。
致命的なダメージは無いみたいなので俺は美刃さんをさらに後方へ引きずって下がらせておく。
『魔王』の方は、美刃さんが飛ばされた直後にマリーが大盾を構えて接敵する。
大盾で『魔王』の剣戟を防ぎつつ、剣で『魔王』の動きを牽制する。
マリーが『魔王』の動きを抑えている間に、ヴィオのオリジナルスキルが爆発する。
ええ、爆発しましたとも。
「俺の拳が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ! 爆炎螺旋拳!!」
拳スキル戦技の爆裂寸勁に火属性魔法のエクスプロージョンを合わせたオリジナルスキルが、マリーとの攻防の隙をついた『魔王』の脇腹にヒットする。
ドゴンッ!!
ヴァイの攻撃を受けた『魔王』はそのまま横っ飛びに吹っ飛ばされた。
ヴァイはヴァイで自分の魔法なのでダメージは無いものの、あまりの衝撃で自分の手を抱え込んで蹲っていた。
や、あの姿を見ているとヴィオのいつもの苦労が分かる気がするなぁ。
吹っ飛ばされた『魔王』が着地すると同時に、後方から鳴沢とアッシュの魔法が乱舞する。
「メテオストライク!
シャイニングフェザー!
サイクロトロン!
アポカリプスブラスト!
メギド!」
「インフェルノ!
アクエリアスファング!
サンダーストーム!
ダイヤモンドダスト!
リアクターブラスト!」
ズドガゴドゴガドドガズバガドバガガドンッッ!!!
幾重にも重なった大爆音が辺りを支配する。
うーむ、流石に詠唱破棄による大魔法の連続攻撃の威力はハンパないなぁ。
しかも片方は極大魔力スキルによる10倍威力なのだ。
爆音と煙が晴れるころには『魔王』は少し離れた後方へと移動していた。
流石に直撃はあり得なかったが、『魔王』の言っていた『あの力』は使用できなかったようで、広範囲による大量魔法により『魔王』のHPはかなり削られていた。
「・・・定石通り後方から片づけておくべきだったかな?
まぁ、今からでも遅くは無いよね。
顕現召喚、オークキング、リザードキング、トロールキング」
戦闘ではまずは回復役、次いで火力役を潰すのが定石だ。
『魔王』はその定石に従って俺、鳴沢、アッシュを仕留めるべく、顕現召喚魔法でオークの王、リザードの王、トロールの王を召喚した。
『魔王』の足下の3つの魔法陣から現れたのは、かつて倒したことのある26の王の三王の姿だった。
『オークの王』、いや『オークの女王』である鞭を持ったボンテージ姿の豚。
意識の外側に姿を隠し目の前から消え去る『リザードの王』のリザードマン。
コロコロ太ったような丸い姿であるにも拘らず意外と機敏な動きをする『トロールの王』のトト○。
って、26の王を顕現召喚するなんてありかよ!?
「行け、3王。あの3人を倒して来い」
『魔王』の指示により、「オーホホホ」言いながら鞭を振り回し近づいてくる『オークの女王』。
『リザードの王』は俺達に近づきながら早速その姿を消す。
『トロールの王』はその巨体を屈め、次の瞬間大ジャンプをしながら俺達後方目がけて飛んでくる。
俺は会心の反魂弓を背中に戻し、左右の刀を抜き放って『オークの女王』と対峙しその場に剣舞で食い止める。
鳴沢は腰のレーヴァテインを構えながら顕現召喚でアインとツヴァイを呼び出す。
「顕現召喚! アイン! ツヴァイ!」
呼び出された生きた鎧の2体は、落下してくる『トロールの王』を迎撃する。
まずは大剣を持った攻撃用のツヴァイが落下してくる『トロールの王』目がけてジャンヌして攻撃しバランスを崩す。
そして大盾を持った防御用のアインが『トロールの王』のスタンプを防ぐ。
アッシュは対『リザードの王』用に氷属性魔法の氷の霧を発生させた。
「ダイヤモンドミスト!」
精霊術師のアビリティである精霊の目が無いので、意識の外側に姿を隠した『リザードの王』は見つけるのが困難だ。
その対応の一環としてアッシュは周りの動きを氷の霧で察知しようと言うのだ。
もっとも『リザードの王』は精神的効果で姿を隠しているので、氷の霧は気休め程度でしかない。
一番効果的なのは自分を中心とした広範囲魔法なのだ。
「ああ、そう言えば簡易AIの動きを止めるのも忘れていたわね」
『魔王』はそう言いながらパチンと指を鳴らす。
それを合図に鳴沢の召喚したアインとツヴァイが動きを止めた。
「なっ!?」
ちょっ、簡易AIも『魔王』の思うがままかよ!?
と言うか『魔王』が召喚した26の王は効果範囲外なのか!? それちとズルいぞ!
2体の生きる鎧は彫刻の様にその場に佇む。
『トロールの王』は動かなくなった生きる鎧を無視して鳴沢に向かって己の両爪を振るう。
『トロールの王』の攻撃と同時に『リザードの王』がアッシュの背後に現れ掲げていた剣を振り下す。
俺はというとプレイヤーの武器には存在しない『オークの女王』の振り回す鞭に手間取っていて2人の援護に歯向かえなかった。
だが俺は何の心配もしていない。
何故なら例え復活した26の王だろうと、今のユニーク職の2人には何の問題もないからだ。
ついでに言えば大抵復活したボスと言うのは雑魚扱いになりがちというお約束があったりする。
「アイスコフィン!」
アッシュの背後に現れた『リザードの王』は一瞬で氷の塊に閉じ込められた。
「ブレイク!」
アッシュの合図とともに氷の棺は砕け、中に居た『リザードの王』もダメージを受ける。
おお~、どうやら最初の氷の霧はこの魔法を行使するための前準備だったって訳か。
氷属性魔法のアイスコフィンは対象物を氷に閉じ込めることが出来るが、閉じ込める条件は対象物に触れてなければならないと言う意外と厳しいものだったりする。
俺も今知ったのだが、アッシュが使ったみたいに事前に氷の霧を張り巡らすことによって対象物に触れずに氷の棺に閉じ込めることが出来るみたいだ。
後は閉じ込めた氷を合図とともに砕けば大抵のモンスターは一撃で粉々になる。
高Lvだったりボスだったりのモンスターは砕くことが出来ないが、それなりに高ダメージを与えることが可能だ。
アッシュはそのまま連続で氷の棺を『リザードの王』へと放ち、透明化の隙を与えずに身動きを封じながらダメージを与え続ける。
鳴沢の方は『トロールの王』の両爪の攻撃をステップで躱しながら次々と火属性魔法と古式魔法を唱える。
「エクスプロージョン! バーニングフレア! インフェルノ! プロミネンス!」
そしてその数々の炎をレーヴァテインで一つの巨大な炎の槍に変えて『トロールの王』へと放つ。
「ブレイズストライク!」
『グオオオオオオオオッ!』
巨大な炎の槍を受けて『トロールの王』は炎に包まれる。
そこへ鳴沢の追撃の魔属性魔法が放たれる。
「ケイオススパイラル!」
螺旋状に放たれた黒いエネルギー弾は『トロールの王』を吹き飛ばす。
すかさず反対側へ切り替えして鳴沢は『リザードの王』へ剣スキル戦技・バスターブレイーカーで止めを刺す。
「はぁぁぁぁっ!」
『グァァァァァア!!』
鳴沢の一撃を受けた『リザードの王』は光の粒子となって消える。
そして俺は吹き飛ばされて来た『トロールの王』へ向かって刀スキル戦技・神威一閃と二刀流スキル戦技・十字斬りと氷属性魔法のダイヤモンドダストを合わせたオリジナルスキルを放つ。
「神威氷華十字閃!!」
『グオオオオオオオオンッ!』
俺の一撃を受けた『トロールの王』は光の粒子となって消えた。
そして俺の背後ではアッシュの放つ光属性魔法で『オークの女王』止めを刺される。
「レイジングバニッシャー!」
『ギャァァアァァァァァァアァ!!』
大光量の巨大な光弾に押しつぶされ『オークの女王』は光の粒子となって消滅した。
後衛に向かってきた3王を片づけて『魔王』の方を見るとマリー達が奮戦していた。
マリーは大盾で『魔王』の攻撃を防ぎつつ動きを牽制し、その合間を縫ってヴァイが拳スキル戦技を繰り出す。
そして疾風はオリジナルスキルの瞬極殺――遅延魔法スキルでキーワードを設定した時空魔法のクロノスウォーカーで『魔王』を切り刻む。
「ウラノス!」
2つ目のキーワードを唱えて一瞬で『魔王』の背後に出現し、HPを大幅に削る。
流石に『魔王』もこの時空魔法を防ぐことが出来ずに簡単にダメージを通すことが出来た。
こうして改めて見ると時空魔法ってチート中のチートだな。
「ちぃ! 時空魔法か、厄介だね。ならば――
顕現召喚、ワールドキング!」
『魔王』は疾風の時空魔法に対し、同じ時間攻撃を持つ『世界を総べる王』で対抗する。
「行け! あの男を倒して来い」
召喚された『世界を総べる王』は疾風に向かって剣を構え、早速時間停止攻撃を仕掛けてきた。
疾風もそれに対しクロノスウォーカーとアクセレーションノヴァで反撃する。
もはやあそこは人外の戦闘区域だな。
「・・・ん、ごめん、お待たせ」
そこへ先ほどまで寝ていた美刃さんが起きてきた。
「美刃さん、丁度いいところに。
今疾風が抑えられているからマリーとヴァイで決定打に欠けているのよ」
2人の攻撃は決して弱くは無いが、『魔王』の回避力が異常な所為か悉く躱されているのだ。
今まで『魔王』に確実にダメージを与えたのは美刃さんの月狂化と疾風の時空魔法だけだ。
「今度は月狂化を使わないで、マリーとヴァイとで『魔王』の動きを牽制して。
わたし達が後方から魔法を撃ち込むから」
「ん、了解。・・・牽制じゃなくダメージを与えてもいい?」
美刃さんは首をコテンと傾げながら聞いてくる。
「出来るんならそれはそれで構わないけど・・・月狂化は駄目よ?」
あれなら確実にダメージは与えられるが、そのたびに寝てしまったんじゃ攻撃に穴が開き過ぎてしまう。
「ん、大丈夫。切り札を使う」
切り札って・・・月狂化の他にも何か奥の手があるのか?
うーむ、流石にここまで来るとみんな何かしらの奥の手を持っているのだな。
美刃さんは刀を構えて『魔王』に向かって駆け出し特殊スキルを唱えた。
「ん、スキル発動、Mirage! 絶対剣気全開!
――幻剣月牙!!」
確かMの王の証の特殊スキルって、名前の如く幻を作り出すことが出来る特殊スキルだったはずだ。
この特殊スキルはホログラフを作るだけで、実質攻撃力は皆無だ。
そのくせ24時間のデメリットは魔法スキルの使用不可という意外と使い勝手が無い特殊スキルだったりする。
それに剣聖の職スキルの絶対剣気スキルを掛け合わせた?
絶対剣気スキルはどんなモンスターだろうと必ず敵愾心を集めるスキルだ。
多分これは天魔の極大魔力スキルと対になっていて、天魔がどんなに高い火力で敵愾心を稼いでも剣聖の絶対剣気スキルで敵愾心を自分に向けさせ、モンスターを天魔に行かせないようにするためだろう。
ユニーク職内でPTを組む想定をして設定したと思われる。
だが、今回の『魔王』は『人間』であるため、剣聖の絶対剣気スキルは効果は無いはずだ。
ゲーム内であるにも拘らず、まるで漫画の様に美刃さんの持つ刀にオーラのようなものが集まり淡い光で包まれた。
「――ん!」
マリーが盾スキル戦技・フルラージシールドで『魔王』の視界を一瞬奪い、その隙に美刃さんが『魔王』に向かって刀を振るう。
だが『魔王』はそれすらも簡単に躱してしまう。
と思った矢先、何故か巻き戻しでもあったかのように『魔王』に美刃さんの刀が迫っていた。
「――っ!?」
『魔王』は慌てて再び回避するも、その回避先に何故か美刃さんが居て『魔王』を斬りつけた。
美刃さんは返す刀で再び攻撃する。
『魔王』は今度は躱すではなく剣で受けようと二刀流スキル戦技・十字受けを発動するが、美刃さんの刀は『魔王』の剣を素通りしてダメージを与える。
慌てた『魔王』はバックステップで距離を取り、インフィニティアイスブレードで氷の剣を生成して美刃さんに向けて解き放つ。
だが、氷の剣の散弾を受けた美刃さんは幻の如く消えて、いつの間にか『魔王』の横に居り刀スキル戦技・桜花乱舞をお見舞いする。
「くぅぅぅぅっ!?」
今までほとんどの攻撃を回避してきた『魔王』が美刃さんの攻撃で確実にダメージを与えていた。
これは凄い。
Mの王の証の特殊スキルで自分の攻撃に合わせて幻影を上手く重ねているのだろう。
攻撃だと思ったのが幻で、幻だと思ったのが攻撃と言った具合に虚実を織り交ぜての攻撃だ。
そしてそこへ絶対剣気スキルにより刀にその気(?)を集中させて、特殊スキルの効果を高めて実態があるかの如く見せているのだろ。
この攻撃は『人間』である『魔王』には効果がてきめんだ。
これが普通のモンスターや26の王だったらあまり惑わされないのだろうが、なまじ思考を持つ『人間』であるが故に『魔王』にはどれが本当の攻撃だかわからずに混乱しているだろう。
美刃さん達が確実に『魔王』に攻撃を与えて翻弄している間に俺は俺の攻撃の準備をする。
美刃さんの攻撃の合間を縫って鳴沢とアッシュも魔法による攻撃を仕掛ける。
先ほどまでとは違い、混乱している『魔王』は鳴沢達の魔法攻撃を確実には躱しきれずにダメージを負っていく。
そして決定的瞬間が訪れたのは疾風が『世界を総べる王』を撃破した時だった。
「はぁぁぁぁぁ!」
アクセレーションノヴァで『世界を総べる王』を撃破したついでだろう。
急に現れた疾風と、ダメージを負ってぐらつく『魔王』。
そこへ美刃さんの幻剣月牙による虚実の攻撃。
「ブラックホール!」
鳴沢の闇属性魔法の重力の攻撃により、『魔王』の横に突如現れた黒い塊が『魔王』を重力で押しつぶそうと吸い寄せる。
『魔王』は呪文を唱え同じ魔法でブラックホールを相殺するが、その瞬間を狙いアッシュが地属性魔法の束縛魔法で『魔王』を縛り上げた。
「バインド!」
タイミングよく狙った時に魔法をぶつけられるのは詠唱破棄スキルの強みだろう。
普通に詠唱していたら放つタイミングを待たなければならないからな。
そして本来であれば魔力抵抗の高い『魔王』には束縛魔法は効きづらいが、ブラックホールの魔法の迎撃に意識を割いてたので動きを封じることに成功する。
「くっ! こんなもの!」
一瞬、地面から伸びた蔦が『魔王』を縛り付けるも、『魔王』はそれに抗い自分を縛り付けていた蔦を引きちぎる。
本来であれば5秒身動きを封じる束縛魔法は、たった1秒ほどしか効果が無かった。
たった1秒間。
縛り付ける時間はそれだけだが、その1秒間、一瞬だけでも動きを止めていれば狙いを定めるのには十分だ。
既に神降しスキルでオオクニヌシをその身に宿し、呪文も8属性魔法の槍の魔法を唱え終わっている。
後は妖刀村正を投擲スキル戦技・一点投射と刀スキル戦技・閃牙咆哮で解き放つ!
「――八千矛神!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
雑談スレ42
108:闇の王子
もう少しでAI-Onの外に出られるんだな・・・
俺、外の世界に戻れたら結婚するんだ
109:マグナム77
>>108 ちょwww それ死亡フラグwww
110:アトラ・ランダ・ダムド
惜しい人を亡くしました・・・。・゜・(*ノД`*)・゜・。
111:独眼竜
いや、今はソードダンサー達がAの王を倒しに行ってるから実質俺達は戦闘をする必要が無い
言い換えれば死ぬ要素がないから死亡フラグとは言いづらいな
112:光の王子
いやぁ、そろそろ今まで目をそらして来た現実世界とも向き合わなきゃならないな
113:AVENGERS
だな。最初のころは現実世界に戻れる気が全然しなかったから考えるだけで鬱になってたもんなぁ
114:シェリー
ですね~
あたしは現実に戻ったら学校がどうなったのか気になります
そして今年の受験はムリですね・・・ゥワァ───ヽ(゜`Д´゜)ノ───ァァン!!
115:ブックストア
それは・・・ご愁傷様です
116:フルメタルジャック
あわわ・・・俺も他人事じゃないな
来年受験の予定だったけど・・・半年分の学力をどうやって取り戻そう?
と言うか、半年過ぎた状態で来年の事を気にすること自体が間違っているのか?
117:闇の王子
そして俺は冗談ではなく本当に結婚します
・・・嫁さんが待っててくれたらな
118:みくみん
>>117 どういう事?
119:クリムゾン
待っててくれたらって・・・待ってるようなものなのか・・・?
120:シェリー
>>117 待っててくれたらいいですね。・゜・(*ノД`*)・゜・。
121:AVENGERS
普通なら待っているだろうけど、いつ俺達の目が覚めるのが分からないからな
もしかしたら他の人と・・・
122:闇の王子
>>121 言うな! すっごく気にしているんだから!
123:みくみん
ああ、婚約状態で117さんはデスゲームに突入という事ですか
・・・それはちょっと可哀相ですね
124:闇の王子
因みに結婚式はデスゲーム開始から1か月後の8月30日
もう5か月もブッチしています
125:ミノ・タン・ロース
>>124 ちょwww
それメチャクチャやばいじゃん!w
126:AVENGERS
あー、それは婚約者が逃げちゃってる可能性高いな
結婚式場とかのキャンセル料とかもいろいろあるだろうし、婚約者はとてもじゃないが待ってられないだろうよ
127:光の王子
イキロ・・・(´;ω;`)ウッ・・
128:闇の王子
ちきしょ―――――!! お星さまなんか大っ嫌いだ――――――!!!
129:クリムゾン
128は可哀相だが置いておくとして、学生さんは兎も角社会人の人は現実世界に戻ったら大変だな
130:AVENGERS
大変どころじゃないよ
・・・多分、クビ、だろうなぁ・・・
131:光の王子
まぁ良心的な会社の所だったら席を置いておいてもらえそうだけどね
132:みくみん
でもその場合は半年も仕事を放置していたんだから、追いつくのにも大変でしょうね
133:闇の王子
クククッ みんなで地獄に落ちればいいんだ・・・
134:シェリー
ああw 闇の王子様が更に黒くなってしまったわ!ww
135:独眼竜
学生さんもだけど、社会人の人たちも俺達が現実世界でちゃんと生活できるよう国で保障してもらえないかな
136:光の王子
多分何かしらの保証はしてくれると思うよ
外の世界ではそれなりに大騒ぎになってたと思うから国も動いてくれていると・・・思う
137:AVENGERS
現実世界に戻れるのは喜ばしい事なのに、何でこんなにも憂鬱になるんだろうw




