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Angel In Online  作者: 一狼
第16章 A.I.
72/84

66.息抜きとデート

主人公、雪女を倒す

主人公、玄武を倒す

主人公、『世界を総べる王』を倒す

主人公、『勇気ある王』の正体を知る

主人公の仲間、九尾を倒す

主人公、『勇気ある王』を倒す

                       ・・・now loading


1月29日 ――182日目――


「お姉ちゃん、デートしよ!」


 『勇気ある王』を倒してから10日が過ぎた。

 『勇気ある王』であるGGの死亡に伴い復活した3人の王は既に1週間前に倒して、今現在残りの王はAの王、唯1人となっている。


 そのAの王は未だに名前すら出てこずに、俺達『Angel Out』のみならず『9人の女魔術師(ソーサレスナイン)』や『大自然の風』、『Noble』、『桜花伝』、『神聖十字団』、『黒猫』等の攻略ギルドたちが全力を挙げて情報集めに奔走している。


 Aの王以外の25人の王を倒せば何かしらのイベントが起こるであろうと思われていたが、未だにイベントの起こる気配もなく、他の要素も必要なのではないかと別班で検証をも行われていた。


 そんな忙しい中、今日もAの王に対抗するためのLv上げや情報収集などのスケジュールを頭の中で確認しながら朝起きてくると、ギルドホームのリビングで待ち構えていたアイちゃんが唐突にデートをしようと言ってきたのだ。


「ええっと、アイちゃん、もう一回言ってくれる?」


「うん! デートしよう! お姉ちゃん!」


 むう・・・デートって男女でするものじゃなかったっけ・・・?

 まぁ、別に女の子同士でするのも構わないんだけどな。


「あー・・・あのね、アイちゃん。わたしもアイちゃんとはデートしたいけど、今はちょっと忙しいから・・・」


 何か休みの日に子供に遊びに連れて行ってって駄々をこねてる子供に言い訳する父親見たいだな。


「えー、だめ?」


 アイちゃんは首をコテンと傾げながらアピールをしてくる。

 うっ! 可愛いじゃないか。


「あのね、お姉ちゃんが忙しいのは分かるよ。

 けどね、なんていうか・・・『勇気ある王』を倒した時からお姉ちゃんピリピリしてる気がするの。

 力が入り過ぎているというか、気持ちが張り詰めているというか・・・

 こういう時ってちゃんと息抜きをしないと危ないと思うのよ」


 アイちゃんの指摘に俺は言葉に詰まる。

 確かにアイちゃんの言う通りどこか無理をしている感じはする。

 いつまでも落ち込んではいけないと思いながら半ば無理やり動いて気持ちを奮い立たせていたのを、アイちゃんはちゃんとしっかり見ていたのだ。


 アイちゃんだけではない。みんなも俺の気持ちを察して気を使ってくれている。


「それにね、今度のAの王を倒してグランドクエストクリアをすればAngel In Onlineは終わってあたし達バラバラじゃない。

 今のうちにね、思い出を作っておきたいの」


「バラバラって・・・外に出ても会おうと思えば・・・」


 そこで俺は思い出す。

 リムから聞いたのだが、アイちゃんの家庭事情は特殊らしく、極度の箱入り娘で外に出る事が無いと言う事に。

 Angel In Onlineは特別に許可を貰ったらしく、初めての『外』に大はしゃぎだったのはゲーム初日に出会った俺が一番よく知っている。


 そんなアイちゃんが無事に現実世界(リアル)に戻ったとしても、デスゲームのようなことが起きないよう多分二度と外へは出してもらえないだろう。


 それを考えればアイちゃんが俺達と居る今のうちに思い出を作ろうとしているのは、当然の行動だろう。


「あー・・・結局はわたしの為じゃなくて自分のためじゃないの」


 俺は敢えておどけてアイちゃんの頭を小突きながら言う。


「むぅ、あたしのはついでだもん。一番の目的はお姉ちゃんの気分をリフレッシュさせること!」


 そこで俺達のやり取りを見ていた鳴沢達がアイちゃんの援護をしてくる。


「フェル、行ってきなさい。

 アイちゃんの言う通り、あなた少し気を張り詰め過ぎよ。ここらで一息を入れて来たらどうかしら。

 一日くらいならギルドの業務もあたし達で対応できるし」


「そうだな。いざという時、張りつめていた緊張が切れて戦闘に影響が出てくると問題だしな」


「うん、そうね。マスターは今やあたし達だけでなく、全AI-On(アイオン)プレイヤーの期待を背負っているんだから、いざという時倒れたら困るしね」


「唯ちゃん、それかえってプレッシャーを掛けてるよ・・・」


 鳴沢に続いてクリスや唯ちゃんが俺に1日の休みを提案してくる。

 ジャスティの言う通り唯ちゃんのは逆にプレッシャーだったりするけどな。


「みんな・・・もう、しょうがないわね。お言葉に甘えさせてもらうわ」


「やった! 今日は一日お姉ちゃんとデートだ!」


 はしゃぐアイちゃんに早速リムが注意をしてくる。


「アイちゃん、いくらデートだからと言って、突拍子もないことしてフェンリルさんに迷惑を掛けないでね」


「ええ~、突拍子もない事なんてしないよ~」


「アイちゃん! 自覚を持って~! アイちゃんの普段の行動が既に突拍子もない事なのよ~!」


 浮かれて既に周りが見えてないアイちゃんにリムが口を酸っぱくして注意をするも、どうやら何の効果もないようだ。


 あらら、これは俺のリフレッシュと言うよりも、アイちゃんのお守りになりそうな一日の予感・・・




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「まず最初はウインドウショッピングよ!」


 そう言ってアイちゃんが張り切って目指したのは、ついこの間、鳴沢達で解放された火山都市メタルハーツだった。


「ここには沢山の新アイテムが揃っているから悩みどころだよ、お姉ちゃん」


 王都の北門付近に冬華都市への転移門があるように、南門付近に火山都市への転移門があった。

 俺達は火山都市の中央に転移され、鍛冶を振るうドワーフで賑わう町を目にする。

 火山都市のほとんどが武器防具の店で、髭もじゃのおっさんドワーフやら見た目はまんまロリドワーフなどが店番をしていたりする。


「うわ~、ほんとにドワーフの町なんだね」


「ここなら攻略に役に立つアイテムが見つかるかも、でしょ?

 ・・・とは言っても、お姉ちゃんは伝説武器を持ってるから防具がメインになるかな?」


「そうなるかな。まぁ防具の方も英霊の聖鎧があるからこれ以上の防具となると難しいかもだけどね」


「うっ、そう言えばそうだった。

 萌えスキルの影響で鎧着ているように見えないから忘れてた・・・

 うう・・・これはチョイス間違えたかな」


「あはは、アイちゃん気にしないでいいわよ。

 もともとこれ以上のものが見つかれば儲けものだし、気晴らしで回っていくんだから見て楽しむのもウインドウショッピングの醍醐味の一つよ」


「・・・うん! そうだね! いこう、お姉ちゃん!」


 ちょっと落ち込んでいたアイちゃんは俺の一言で元気を取り戻し、早速俺の手を取って引っ張りまわしはじめた。




 俺達は色々な店を見て回ったが、流石に鍛冶の都市だけあって期待以上のものが出てきたりもした。


「いらっしゃい~、ドワル&ルフの店へようこそ~

 何をお求めですか~?」


 出迎えてくれたのは黒髪のロリドワーフのルフさんだ。

 この店は黒髪でまだ髭もない若いドワーフのドワルさんと、同じく若いルフさんの夫婦で経営する武器防具店だ。


 店の奥には鍛冶場があり、そこでドワルさんが武器防具の作製を行っている。

 ドワーフであるルフさんも鍛冶をするのだが、普段はこうして店番をしているという事だ。


 俺は英霊の聖鎧を見せて、これより性能のいい防具を探していることをルフさんに告げる。


「う~ん、これより良いのとなるとヒヒイロカネの鎧しかないわね~

 けどそれだと重くなっちゃうから、うちの店だとこの鎧以上となるとちょっとないわ~

 ごめんね~」


 俺が装備している英霊の聖鎧は魔法使い系でも装備できるほど軽く出来ている。

 前衛もこなす俺にとっては動きも阻害されない軽くて丈夫な英霊の聖鎧はかなり重宝しているのだ。


 ルフさんの言う通りヒヒイロカネだと英霊の聖鎧よりも丈夫にできるが、その分重量も増してしまう。

 もっとも英霊の聖鎧はオリハルコンを素材としているが、オリハルコンよりも軽く出来ている。

 素材の1つとなっている英霊の遺骨がオリハルコンの性質を変化させていて軽く丈夫にしているのだ。

 伊達に26の王のドロップレシピじゃないという事だ。


「まぁ仕方がないわね。これ以上となくオリハルコンを使いこなしている防具だもの。

 もしあればって事だから、ルフさんも気にしなくてもいいですよ」


 ところがルフさんはここぞとばかりに別のアイテムを取り出して来た。


「んふふ~、そんな貴女にはこれはどうかな~?

 オリハルコン神糸を用いて作った巫女さんセット。これだと鎧の下にも着れるから更なる防御力のアップが見込めるよ~

 そして今の貴女にはぴったりだ~」


 ちょっ、オリハルコン神糸って・・・

 オリハルコン鋼糸よりも軽くて丈夫、尚且つ魔法防御に優れた裁縫アイテムだ。

 そのレシピも生産プレイヤーの間ではそれほど出まわってなく、かなり市場でも貴重なアイテムとなっている。

 それをふんだんに使った巫女さんセットだと・・・


「うわ~、すご~い! オリハルコン神糸だなんて初めて見た!

 お姉ちゃん、これ凄いよ! これだと鎧よりも性能がいいんじゃない?」


 アイちゃんがルフさんが取り出した巫女さんセットを見て興奮する。


「や、確かに凄いんだけど、これ以上とないくらいに性能はいいんだけど・・・

 因みに、これって幾らくらい・・・するの?」


 只でさえ品数が少ないオリハルコン神糸を使った防具なのだ。

 布製品が何で武器防具店にあるのかと言うのは置いとくとして、値段の方もはっきりって想像がつかないほど高いに違いない。


「ん~、そうね~、お客さんかなりの実力者でしょ~? そんな人に使ってもらうんだからかなりお安くしておくよ~

 そうね~2千ってところでどうかな~?」


 ぶっ!! 20M(20,000,000)ゴルド!?

 高っ! ものっ凄い高っ!! これで安いの!?


「ふえぇぇぇ!? これで安いの?」


 アイちゃんもその値段に驚愕して目を見張る。


「うん、普通だったら4千は堅いところだね~」


 ちょっ! 半額!?

 こうして聞くと確かにかなり安くなってるように感じるけど・・・

 決して買えない額ではないけど、流石に全財産のほとんどが無くなってしまうのはかなりキツイ。

 ・・・いや、後はAの王のみだという事を考えるとここで散財する勢いで買うのもありか?


「う~ん・・・」


「お姉ちゃん、悩むくらいなら買っちゃったら? 買って損する者でもないし、お金ならすぐ貯まるよ」


 俺が悩んでいるところにアイちゃんが巫女さんセットを勧めてくる。


 それもそうだな。

 この後のAの王攻略のためにも少しでも出来ることをしておかなければな。


 俺はルフさんにお金を払い、巫女さんセットを購入して早速装備をする。

 もっとも萌えスキルの影響で外見には全く変化は無かったが。

 ルフさんに安くしてくれたお礼を言って店を後にする。


 その後も他の店を覗いて歩いていたが、途中で朝霧さんの店も見つけた。

 王都の店は革装備をメインに売っていてが、こっちの火山都市の2号店の店は金属鎧をメインに販売していた。

 因みに王都の1号店は雇ったNPC店員に店を任せているらしい。


「いや~、オリハルコンやらヒヒイロカネやら夢のような金属が比較的簡単に手に入るから、面白いように装備がどんどん出来て来ちゃって」


 朝霧さんは余程最上級の金属が扱えるのが嬉しいのか、いつも以上に装備を作ってはどんどん店先に並べていた。


「簡単に手に入るとは言っても、これだけの量を作るのに大分費用が掛かったでしょ?」


「あら、その点なら大丈夫よ。冒険者ギルドで人を雇って火山に直接行って掘ってきたから」


 おおう、これまた随分アグレッシブな。

 朝霧さんらしいと言えばらしいのだが。


「う~ん、でも流石にオリハルコン神糸までは手を出せていないのよね~

 フェンリルちゃん良く手に入れられたわね。今オリハルコン神糸の装備を買おうとしたら最低でも60Mは掛かっちゃうわよ」


「え”!? ろ・ろくじゅうめが・・・!?」


「お姉ちゃん20Mで買ったよね?」


 俺が朝霧さんの聞いた値段に驚愕し、朝霧さんは朝霧さんでアイちゃんの言った値段に驚愕していた。

 もしかしてメチャクチャ運が良かった・・・?


「フェンリルちゃんに色々サービスをしているあたしが言うのもなんだけど、フェンリルちゃんってもしかして物凄い買い物上手・・・?」


 そんなことは無いんだが・・・

 その後朝霧さんに半ば呆れ気味、半ば尊敬気味に見られてちょっと擽ったい感じがした。


 他にも店を回り、アイちゃんに似合いそうな髪飾りがあったので買ってあげる。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


 アイちゃんは嬉しそうに髪飾りを頭に装備していた。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「お昼は冬華樹でお弁当ターイム!」


 時刻が昼を回った頃、アイちゃんの希望で冬華都市の中心、冬華樹の袂でお昼を食べることにした。


 冬華樹に咲き乱れる花びらが落ちるたびに砕け散り、氷の破片となって舞い散る様はいつ見ても幻想的で美しい光景だ。

 俺とアイちゃんはその冬華樹の下でシートを広げ、幻想的な景色を眺めながらアイちゃんの用意したお弁当を食べている。

 アイちゃんの用意したお弁当は五段重ねの重箱で中身は色取り取りの食材で埋め尽くされていた。


「これアイちゃんが作ったの?」


 これだけの種類の料理を作るとなれば、かなりの料理レシピが必要であり料理スキルLvも高くなければならないだろう。

 確かにアイちゃんは面白いからと言って色々な生産職に手を出していたので、料理スキルがあるのは分かってはいるが、流石にこれだけの種類となるとちょっと疑問を感じる。


「えっへん! あたしが作ったんだよ! ・・・って言いたいところだけど、実はアーデリカさんから作ってもらったんだ。アーデリカさんのご飯は美味しいからね」


 なるほどね。アーデリカの作品ならこれだけの種類は頷ける。


「そっか。でも次来た時はアイちゃんのお弁当が食べたいな。

 アーデリカも何も特別な事をしてるんじゃなく、ただ愛情を注いでるだけなんだよ。

 アイちゃんも愛情を注いで作ればとてもおいしくなると思うな」


「・・・うん、次来た時はそうするね」


 

 おや? てっきり「うん! 愛情をいっぱい注いであげるね!」みたいなことを言ってくるのかと思ったが、思いのほかアイちゃんはちょっと寂しげな表情で返事を返してくる。


「それにしても考えることはみんな一緒だね」


「そうね、こんな景色現実世界(リアル)じゃなかなかお目にかかれないからね」


 冬華樹の下で昼食を取っているのは俺達だけではなく、この都市の住人たちや他のプレイヤーもたくさん居た。

 まぁ、ほとんどが男女のカップルでいちゃつきながらと言うのが少し悔しいが。


 他愛もない会話をしながら昼食を取っていると、巨大な生物を連れた人物が近づいてきた。


「あれ? 誰かと思ったら剣の舞姫(ソードダンサー)じゃない。貴女達もここで昼食しにきたの?」


「ええ、ここでの景色の眺めは素晴らしいからね。狼御前、貴女もここでお昼?」


「あ、御前さんこんにちは」


 どうやら神狼フェンリルがこの場所がお気に入りらしく、2・3日に1度は冬華樹を訪れるらしい。

 俺達は狼御前を交えて昼食を進めた。


「そう言えばベルとクリスが会いたがってたわよ」


「あ~、そうね~、避けてたわけじゃないけど会おうともしてなかったからね。

 ほら、会おうと思えば会えるわけだし、会わないのは今は会う縁が無いからだよ」


「何その理屈。そりゃあ縁が無ければ会いたいと思っても会えない人は居るだろうけど」


「お姉ちゃん、どういう事? 会おうと思えば会えるんじゃないの?」


 半ば言葉遊びみたいな感じになってしまい、よく分からなくなってしまったアイちゃんは聞いてくる。


「ええとね、どんなに会いたいと思って行っても会えないことがあるの。タイミングが悪かったり色々ね。

 それが縁が無いと言うの。

 逆に何でもない時に会おうと思ったわけじゃないけど何度も会ったりすることがあってね、これは縁があるって言われているのよ」


「ほら、今のわたしみたいに会おうと思ってきた訳じゃないけど、偶然ここで剣の舞姫(ソードダンサー)に会ったでしょ」


「そっか! あたし達と御前さんに縁があったから玄武の時には助けに来てくれたし、ここでも会うことが出来たんだ」


 そう言われてみれば狼御前は鳴沢とクリスの縁があったから俺達の助けに来てくれたんだよな。

 いつだったかマリーが縁の繋がりが「見えない奇跡」を起こすって言ってたっけ。

 確かに人と人との繋がりが奇跡を生んでいるよ。


「縁があれば奇跡だって起こせるわよ。

 もしかしたら外の世界でも会うことが出来るかもね」


「・・・うん、そうだね」


 俺はアイちゃんに現実世界(リアル)でも会えるかもと希望を持たせようとしたが、余ほどの箱入りらしく流石にそれは難しいのか、アイちゃんは少しさびしげに答える。


 俺達はその後も狼御前と他愛もない会話をしながら昼食をとった。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「今日のメインイベント! STOPと聖魔LOVE GIRLの合同コンサートに行くよー!」


 は!? コンサート!?


 アイちゃんに連れてこられたのは王都の露店広場の一角に設置されたコンサート会場だった。


「えへへ~、残念ながら夜の第2部のチケットは手に入れられなかったけど、何とか午後の第1部のチケット2枚ゲットしたんだ~

 これ手に入れるのに苦労したけど、お姉ちゃんと一緒に来れるように何とか頑張ったんだよ!」


 アイちゃんは嬉しそうに2枚のコンサートチケットをスタッフに見せて、俺達はコンサート会場に入っていく。

 コンサート会場には大勢のファンが居て、今か今かとアイドルの登場を待っていた。


「あの~、アイちゃん? AI-On(アイオン)にアイドルが居るの・・・?」


 流されるままにアイちゃんに付いて来てこの場に居るのだが、俺は目の前の光景にイマイチ実感が湧かなかった。

 だって、ここだけまるで現実世界(リアル)とほぼ同じ雰囲気を醸しだしているんだよ。

 どこの世界もアイドルを追っかけるファンは同じなのか、会場はヴァーチャルを吹き飛ばすほどの熱気であふれかえっている。


「もー、お姉ちゃん遅れているよー。

 彼らは職業に偶像者(アイドル)に転職していて、このAI-On(アイオン)を盛り上げてくれてるんだよ。

 サン・ヴァレル、トラヴィス、オーリン、プリンスの男性4人組アイドルグループ・STOPは今アイドルグループの中で一番人気があるんだよ。

 聖魔LOVE GIRLは3人組の女性アイドルグループで、こっちは男性だけでなく女性にも大人気なんだ。

 メンバーはハーロニィ、クリスティー、バレンティナ。3人とも物凄く可愛いんだね~」


「そ、そうなんだ・・・」


 アイドルグループの事を話しているアイちゃんはもの凄い興奮していた。

 特に男性アイドルグループのSTOPを話している時のアイちゃんは、まるで熱狂的なファンと同じく既にテンションがMAXだった。

 ・・・まるでと言うよりもう既に大ファンなんだろう。


 しかし、アイドルグループか。

 まさか職業の偶像者(アイドル)をこんな風に使うとは思いもよらなかったなぁ。

 いや、アイドルなんだからこれが本当の使い道なのかもしれないが。


 偶像者(アイドル)の職業システムを使えば音楽なんかもそれほど手間がかからずに済むし、このステージもそれなりのマジックアイテムを使えば現実世界(リアル)の様なコンサートが可能だろう。


 後でアイちゃんに聞いたのだが、SA内では攻撃的魔法やアイテムの使用は出来ないが、使用目的などがはっきりしていた場合冒険者ギルドで一部エリア内で使用が許可されるらしい。


 そうこう考えているうちにコンサート開始時間になりステージには爆発と共に煙が巻き上がり、煙が晴れると同時に7人のアイドルがステージに現れていた。

 男性グループの方は日本の国民アイドルジ○ニーズの様な派手な衣装で。

 女性グループの方は48人組の様な赤のチェック柄の衣装で。


『みんな――――! 今日は来てくれてありがと――――!』


『全力で楽しんでね――――!』


『よっしゃ―――! STOP&聖魔LOVE GIRL合同コンサート、開始するぜ――――!!』


『まずはオープニングはSTOPのデビュー曲・STARTDASH、いっくぜ―――――――!!』


 STOPの4人が前に出て歌を歌いだす。

 そしてそのバックでは聖魔LOVE GIRLの3人がバックダンスを始める。


「キャ―――――――――!! トラヴィス――――――――!!」


「キャ―――! キャ――――! プリンス――――――――!!」


「ヴァレル様――――――――!!」


「オーレン、最高―――――――!!」


 歌が始まると同時に会場はファンの興奮の渦と化した。

 イマイチノリに乗れない俺は置いてきぼりにされている感じがする。

 隣ではアイちゃんが周りのファンと一緒にキャーキャー興奮しているのが見て取れる。


 しかし、アイちゃんにこんな一面があったとはなぁ。

 いや、ゲーム初日に会った時の事を考えるとこれは必然だったのか?


 STOPと聖魔LOVE GIRLが交互に何曲か歌った後に、聖魔LOVE GIRLのメンバーの一人がこちらを見てくる。


『あ――――――! 剣の舞姫(ソードダンサー)のフェンリルさんだ――――!!』


『え? あ! ほんとだ!』


『きゃ――! 本物だ! 凄い凄い!

 あ、そうだ! フェンリルさんも一緒に歌おうよ!』


 聖魔LOVE GIRLのバレンティナがあろうことか俺をステージに上がらせようとする。


 ちょっ!? 冗談じゃないよ!


 当然拒否をしようとしたが、その前に他のメンバーやSTOPの奴らもここぞとばかりに俺を担ぎ上げてくる。


『それいいね! フェンリルさんの剣舞(ソードダンス)見せてくださいよ!』


『うおお! 舞姫様の御降臨だ! 皆の者、道を開けぇい!』


『ささ、フェンリルさん! ここは一つその素晴らしいステップと歌をご披露願います!』


 いや、ステップは兎も角歌は凄くないんだよ!?


 あれよあれよと言ううちに俺はファンに連れられてステージに立たされマイクを渡されていた。


『フェンリルさんに合わせて衣装チェーンジ! ヴァージョン巫女!』


 聖魔LOVE GIRLたちの衣装が巫女装束に変わる。

 これは多分偶像者(アイドル)の役者スキルで巫女系に変わったのを萌えスキルが感知して見た目を変えたのだろう。

 ものの見事にスキルを使いこなしているよ。


『それじゃ次行くよ――――! 聖魔LOVE GIRL with SwordDancerで大ヒット曲・剣の舞!!』


 ちょっと待て―――! 俺はその曲知らないんだよ―――! てかお前らの曲1つも知らないんだってば!


 しかし問答無用で曲が始まり出す。

 俺は取り敢えずダンスは3人に合わせて踊り、歌は適当に合わせる。


 嫌なら立つなって? 無理無理無理!

 この興奮度MAXのファンに逆らおうなんてとてもじゃないけど無理!

 おまけに場が出来上がっているせいでとてもじゃないが断れる雰囲気じゃないんだよ!


 しかも1曲だけならまだしも、結局最後まで一緒に歌って踊る羽目になってしまっていた。

 アイちゃんは俺がステージに上がると、もう何て言うか、倒れるんじゃないかと言うくらい大はしゃぎしていたのが上から見て取れた。


 まぁ、アイちゃんが楽しんでもらえればこれもまたいい思い出話になるからいいか。

 あれ? 今日は俺の息抜きのためだったような気がするが、いつの間にかアイちゃんの思い出づくりがメインになっているような気が。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「あー! 楽しかったー! 今日はもう最高の一日だったよ!」


「楽しんでもらえれば何より。・・・わたしは最後のはちょっと勘弁して欲しかったけどね」


「そんなこと言って、お姉ちゃんもノリノリで歌ってたじゃない」


「・・・それは気のせいです」


 まぁ最後の方は俺も熱気に当てられ、それなりにテンションが高くはなっていたけどね。


「お姉ちゃん、今日はありがとうね。あたし最高の思い出を貰ったよ」


「どう致しまして。

 さぁ、今日は思う存分リフレッシュしたから、また明日からAの王の攻略に向けて頑張ろうね」


「は~い」


 アイちゃんはそう言いながら微笑んで俺と手を繋いでギルドホームへと帰ってくる。




 そして次の日、アイちゃんは俺達の前から姿を消した。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ソードダンサーに関するスレ14


402:ジャッジメント

 祝! 舞姫様アイドルデビュー!!


403:Dインパクト

 は!?


404:S・T・M

 402は何を言っているんだ・・・?


405:ジエンド

 夢見るのはいいけど周りに迷惑かけちゃいけないよー


406:ジャンハワード

 ちょ! 402詳しく!!


407:ザ・フォース

 mjk!


408:フュージョンマスター

 うおおおおおおおお! まさかの舞姫様アイドルデビュー!!


409:ジエンド

 あれ? みんな信じちゃってる?

 てかマジもんなの?


410:S・T・M

 え? 402の戯言じゃないの?


411:ジャッジメント

 ふっふっふ、聞いて驚け!

 今日の昼にSTOPとラブガの合同コンサートがあったんだが、そこに舞姫様が飛び入りでステージに上がったのだ!!


412:ジャンハワード

 うおお! マジか!

 じゃあ何か? 舞姫様がラブガ達と一緒に歌って踊ったのか!?


413:Dインパクト

 なんだと・・・飛び入り参加でステージに上がっただと・・・!

 くそっ! 何で俺はその場に居なかったんだ!


414:ザ・フォース

 なっ!? 昼のコンサートだと!?

 夜のコンサートを見に行ったのに、昼のコンサートの方がプレミアムが付いちまってるじゃねぇか!


415:ジャッジメント

 あー、ラブガ達に夜のコンサートも出てくれって頼まれてたみたいだけど、流石に夜の部までは恥ずかしかった見たいだな

 ステージに上がった舞姫様の恥ずかしながらも一生懸命歌って踊る姿は良かったなぁ~


416:ザ・フォース

 ちくせう! 羨ましいぞ!


417:S・T・M

 あー、本当にソードダンサーがラブガ達と一緒に歌って踊ったんだ

 それはちょっと見たかったかも^^


418:みくみん

 舞姫様のアイドルデビューと聞いて!

 あたしも見てたよ! まさかSTOP達と一緒に踊ってる姿が拝めるなんて・・・><ノ


419:究極の遊び人

 ああ、あの初々しい感じがまた堪らないねぇ


420:ジエンド

 マジもんなのか・・・

 てかソードダンサーはラス1の王を放って置いて何をやっているんだw


421:ジャッジメント

 >>420 硬いこと言うなよw

 たまには息抜きも必要だぜ><b


422:究極の遊び人

 こういう時ほどカメラみたいなのが欲しいね


423:ジエンド

 >>421 いやw 息抜きが必要なのは分かるが、トッププレイヤーがそんなところに居たというのが何ともね・・・ww


424:S・T・M

 あー、AI-Onって映像を撮ることが出来ないからなぁ


425:フュージョンマスター

 普通のMMOならSSが取れたりするんだけどな


426:ジャンハワード

 マナカメラみたいなのありそうなんだけどな

 そうすれば舞姫様を取りまくるのに!


427:S・T・M

 426みたいなストーカーが居るからSS機能が無いと思うw


428:ジャンハワード

 ちょ! ストーカーじゃねぇよ!!w







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