64.妖かしの城と勇気ある王
「雷鳴一閃牙!」
唯ちゃんの槍スキル戦技が玉藻前に襲い掛かる。
玉藻前は9本の尾を巧みに操り、4本の尾で唯ちゃんの攻撃を弾き返し5本の尾で攻撃を仕掛ける。
「ライトニング!」
続けざまに玉藻前は雷属性魔法で唯ちゃんに雷の閃光を浴びせる。
5本の尾の攻撃を躱すのに必死でバランスを崩したところに雷属性魔法を放たれたため、唯ちゃんはまともに雷の閃光を受けてしまう。
そう思っていたが、気が付いた瞬間には疾風が唯ちゃんをお姫様抱っこして玉藻前の雷の閃光を躱していた。
位置的にも助けることが不可能だったため、多分アクセレーションノヴァかクロノスウォーカーを使ったのだろう。
「大丈夫か?」
「あ、ありがと、はーくん。でもちょっとこの体勢は・・・」
流石に唯ちゃんもお姫様抱っこは恥ずかしかったのか、早々に疾風から離れて玉藻前に向かって槍を構える。
だが玉藻前はその場で固まっていた。
玉藻前の顔には大きな傷跡が出来ていたのだ。
疾風が唯ちゃんを助けるついでに玉藻前にも攻撃を仕掛けていたのだ。
玉藻前は血の出ている頬に手をやり、血にまみれた手を見て怒りを露わにする。
そこで俺はその玉藻前の顔の傷を見て疑問を覚えた。
ここはゲームの世界だ。いくら攻撃を仕掛けようと俺達やモンスターには傷一つ付かないはずだ。
だが現に玉藻前の顔には大きな傷跡が出来ている。するとこれはイベントの一種なんだろうか。
「あ・・・ああ・・・あああああああああああああああああああっ!!
わらわの美しい顔が!! 許さぬ! 許さぬぞっ!!!」
俺はふと思い出す。
玉藻前のこの姿は仮の姿だという事を。
と言う事は、これはよくあるお約束のボスの第2段階への変身イベントだという事に。
多分ある一定のダメージを与えるとこのイベントが起こるのだろう。
「みんな、気を付けて! 多分これからが本番よ!」
俺はみんなに注意を促す。みんなも玉藻前のそれに気が付いており、警戒しながら様子を見守っていた。
玉藻前は光に包まれその姿は見えなくなる。
次第に光は大きくなっていき、辺り一面を光で覆い尽くす。
そして光が収まった時には、そこには遂に本性を現した銀髪のたてがみを持った巨大な金毛の九尾の狐が存在していた。
『くおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!』
白面金毛の雄叫びにより身が竦み、俺達は一瞬その場に縛り付けられる。
その一瞬で白面金毛には事足りた。
白面金毛は大きく息を吸い込むと疾風に向かってブレスを吐きだす。
吐き出されたのは黄龍と同じように極太の閃光のブレスだった。
疾風は直撃の瞬間辛うじて瞬動で避けるも完全には躱しきれず、いきなりHPの1/3が大きく削られた。
すかさず鳴沢から治癒魔法が飛ぶ。
白面金毛は再び息を大きく吸い込み、今度はヴァイに向かって火炎ブレスを放つ。
どうやら白面金毛は魔法や9本の尾と同様、9属性のブレスを使えるようだ。
火炎ブレスを向けられたヴァイは、敢えて躱さずに火炎ブレスに突っ込んでいく。
そしてそのまま火炎ブレスを突き抜け最小限のダメージに抑えて白面金毛に肉薄する。
「――エクストラヒール!
ヴァイのバカ! 何無茶なことしてるのよ!」
ヴィオは小言を言いながらもしっかりとヴァイを援護する。
白面金毛はその後も雷ブレスやら氷雪ブレス等の9種のブレスや、9属性魔法、9本の尾の槍のような突きや薙ぎ払いなど、物理・魔法ともに多種多様な攻撃をしてきた。
その様は正に暴風と言っていいほどだった。
勿論鳴沢達も負けてはいない。
ヴァイは鬼神化、唯ちゃんは竜人化して迎撃に当たり、疾風は時折時空魔法を混ぜながらの瞬動で重い一撃を与えている。
遠距離からはクリスのピンポイントの矢が白面金毛にクリティカルでヒットし、ヴィオの治癒魔法がみんなを随時癒す。
白面金毛は最初は前衛のヴァイや唯ちゃんを狙っていたが、攻撃の要が鳴沢であることが分かると次第に鳴沢を狙うようになってきた。
鳴沢がみんなに指示を出しながら賢者スキルで白面金毛に劣らずユニーク職以外の全魔法を使い、詠唱破棄スキルで白面金毛の攻撃を迎撃したり、防御を崩すために古式魔法等の範囲魔法を使ったり、みんなの攻撃の起点になっていたのだ。
白面金毛はそれに気が付いたのだ。
白面金毛はヴァイ達前衛を無視して鳴沢に迫り9本の尾を槍と化して突き立てる。
鳴沢は一応前衛も可能なようにLEGENDARY ITMEの武器とサブスキルを備えている。
だがそれはいざという時の為であって、常に剣を奮う訳ではない。
あくまでも鳴沢は魔法で戦闘を行う術師だ。
そして鳴沢は自分の魔法を十全に使うための戦闘手段を創り上げたのだ。
「顕現召喚! アイン! ツヴァイ!」
鳴沢の眼前に2体の鎧の騎士が召喚される。
顕現召喚魔法、それはオリジナルモンスターを作成して召喚することが出来る魔法だ。
魔獣召喚魔法や幻獣召喚魔法の普通のモンスターの召喚と違い、顕現召喚魔法のLvに応じた規定内であれば召喚モンスターを強く設定し召喚する事が出来るのだ。
例えば100のポイントを全てSTRのステータスにつぎ込んだり、LUCに特化した召喚モンスターを創ったりという具合にだ。
そこで鳴沢が創りあげたのが生きた鎧をベースに、防御力――VITとSRTに特化した大盾を装備したアイン、攻撃力――SRTとAGIに特化した大剣を装備したツヴァイだ。
鳴沢の前に立ったアインは大盾を構えて白面金毛の9本の尾を6本受け止める。
防ぎ洩らした残り3本の尾をツヴァイが大剣で全て弾き飛ばす。
鳴沢は2体の顕現モンスターに防御を任せて、ショートカットポーチからMP全回復薬のネクタルを取出しMPを回復させる。
顕現召喚は魔獣召喚や幻獣召喚と違い召喚中は常にMPが消費し続けるのだ。
「バインド!」
MPを回復した鳴沢はすぐさま土属性魔法の蔦による拘束魔法を使い、白面金毛の動きを少しの間封じる。
地面より生えた蔦に体を縛られた白面金毛に左右からヴァイと唯ちゃんが、今度は機動力を奪うために足を狙う。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」
「竜滅槍!!」
ヴァイは戦技を使わずにただ両の拳でひたすら白面金毛の足を殴り続ける。
戦技を使わずとも鬼神化したヴァイの攻撃は並みのモンスターなら一撃で屠るほどの威力だ。
一方唯ちゃんの方は、竜人化した力を使い槍スキル戦技・四連閃をひたすら連続で使用する。
その槍捌きで出来た槍の弾幕を白面金毛の足に撃ち続ける。
『ガァァァァァァァァ!』
白面金毛は蔦の束縛の効果が切れるとその場から離れるため跳躍するが、足のダメージが思ったより大きかったせいか飛距離はそれほど稼げなかった。
そこへ今度は疾風の瞬極殺が炸裂する。
それは俺達が疾風のオリジナルスキルを見て付けた名前だ。
名前の由来はアクセレーションノヴァ、又はクロノスウォーカーで相手の動きを止めた状態で、疾風の瞬動を数十回も連続でぶち当てると言った、はっきり言って防ぎようが無く、尚且つほぼ一瞬で一撃死をも与えることの出来るほどの極悪から来ている。
ただその欠点は、使っている疾風以外一瞬で物事が進むので外野は何が起きたのかも分からないという事だったりする。
実際、今跳躍で逃げた白面金毛がいきなり地面に転がされたりしていて、疾風がいつの間にか白面金毛の背後に移動してたりするからだ。
状況から推測するに疾風が瞬極殺を使ったという事は分かるが、これほどギャラリーを置いてけぼりのオリジナルスキルも珍しいだろう。
転がされた白面金毛を狙って、クリスのオリジナルスキルの彗星が飛ぶ。
弓スキル戦技・ボルテクスアローに風属性魔法のソニックタービュランスと無属性魔法のリアクターブラストを掛け合わせた魔法矢だ。
白面金毛は9本の尾を盾にして防ごうとしたが、クリスの放った彗星は2本の尾をぶち破って白面金毛に突き刺さる。
『グァァアッァァァァァァッァァァァァァァッ!?
わらわの尾が! わらわの尾がぁぁぁっ!』
鳴沢は体に突き刺さった彗星と2本の尾をちぎり飛ばしたダメージでのたうち回っている白面金毛に止めを刺すべく追撃の魔法を放つ。
「チェーンバインド!」
まずは無属性魔法の鎖の束縛で動きを封じる。
ダメージでのたうち回っている状態だったせいか、確率の低い鎖の束縛は見事白面金毛を3分間動きを抑え込む。
「アビスブラスト!!」
そして鳴沢の放った魔属性魔法の奈落の砲撃が白面金毛を直撃する。
『ガァァァッ!?
馬鹿なっ!? 魔属性魔法じゃと!? 何故人間がこの魔法を使えるっ!!?』
鳴沢の放った奈落の砲撃は白面金毛のHPを大きく削る。
同時に鳴沢のHPも魔属性魔法の効果により大幅に減少する。
白面金毛の残りのHPは僅か――
「これで―――止めだ!! 爆炎螺旋拳!!!」
ヴァイが大きく跳ね上がり、白面金毛の頭上から拳スキル戦技・螺旋拳と火属性魔法の炎の槍を合わせたオリジナルスキルを叩き込む。
『ガァァァァァァァッァァァァァァッァ!!!
そんな・・・馬鹿な・・・わらわがこんなところで・・・主殿・・・』
ヴァイによって地面に叩き付けられた白面金毛は遂にHPが0になって光の粒子となって消え去った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
流石に九尾の狐は強敵だったけど、最後は殆んどこっちが一方的にボコる形になったのはちょっと可哀相だったかなぁ。
まぁ、ただでさえユニーク職2人相手の他に、ドラゴンブラッドスキル持ちもいたりするからこの結果は当然と言えば当然なのかもしれない。
「さて、みんなここからが本番よ。
これから九尾の城に乗り込むけど、あたし達の目標はフェルを無事に『勇気ある王』まで送り届けること。
そして、フェルと『勇気ある王』との戦いでいざとなったら介入する事。いいわね?」
鳴沢の確認にみんなは黙って頷く。
まずは先にヴァイと疾風が殺生石の前の光の渦に入り込む。
中の安全を確認してから鳴沢、唯ちゃん、クリス、ヴィオ、そして最後に俺が光の渦に入る。
マップ上では先ほどまで居た深緑の森とは異なり、今は九尾の城のフィールドに居ることになる。
九尾の城は一言でいえば日本の城だった。
あらゆる所が和風の造りになっており、GGが居ると思われる居城は安土城を思わせるほどの豪華な6階建ての城だった。
と言うか、九尾の狐って平安時代の人物なんだから、この城って時代が違いまくってるんじゃないか?
まぁ、AI-Onにその正確さを求めるのは今さらだな。
「今のところ周りにはモンスターは居ないな」
「そうね、NPCっぽいキャラクターは居るけど襲い掛かってくる気配はないわね」
クリスが気配探知で周りを探り安全性を確認する。
俺も気配探知と魔力探知で探るが、モンスターでないNPCと思われる動きがあちこちで見られた。
「周りを警戒しながらあの城の最上階を目指すわよ。
先頭はヴァイと疾風、中央にフェル、フェルの左右にクリスとあたし、一番後ろが唯ちゃんとヴィオの隊列で行きましょ」
鳴沢の指示に従って隊列を組み九尾の城の中へと入っていく。
だが城の中に入って進んでいくが、一向にモンスターが現れる気配が無かった。
「・・・どういう事だ? 何かの罠か?」
先頭を歩くヴァイが不審に思いながらも慎重に歩を進めていく。
「確かに変ね。仮にも九尾の狐が住まう城でモンスターが1匹も居ないなんてね」
俺もその疑問を口にするが、答えられる人物は居ない。
いや、1人だけいた。
『ようこそ、妖かしの城へ。
もう少し後で来るかと思ったが、思ったよりも早く来たなぁ。流石はフェンリルの判断ってところか?
俺は最上階の天守閣にいるから早く上がってきな。但しこの城はさっきも言ったように妖かしの城だから惑わされると進むのは困難だぜ。
因みにこの城にはモンスターは一切いない。居るのは生活のためのNPCの妖狐が居るだけだ。彼女達には間違っても襲い掛かるなよ。
それではお前らが上がってくるのを楽しみに待ってるぜ』
なるほどな。この城はあくまで九尾が生活する為だけの城だったって訳か。
たった1匹の妖狐の為に無駄に広すぎるじゃねぇか!
ああ、今はGGがこの城の主だから1人だけの城か。無駄に広すぎて寂しくならないのか、あいつ。
「ふぅん、妖かしの城ね・・・ わざわざ忠告してくるなんてどういうつもりかしら?」
隣で鳴沢がGGの言葉の真意を考え始める。
いや、ただ単に1人じゃ寂しかったから構ってほしくて話しかけたかもしれないぞ?
「少なくとも『勇気ある王』の今の言葉には悪意はないと思うわよ」
そう言いながら隣にいる鳴沢に振り向くと、そこには誰もいなかった。
慌てて周りを見てみると誰もおらず俺1人で城の廊下に佇んでいた。
あれ? 誰もいない・・・? ・・・いきなり惑わされたぁっ!!?
俺は慌ててマップ表示、気配探知で周りを確認するが、周りには誰1人として表示されなかった。
そもそもマップはさっきまでとは違い、城の内部表示が無くなり真っ黒になっていた。
俺はすぐさま携帯念話を起動させて鳴沢に連絡を取る。
「ベル! 今どこ!?」
『分からないわ。マップは真っ黒。みんなともはぐれたみたい。
どうも幻覚とかで傍にいるのにお互いを認識できないとかじゃなく、空間湾曲みたいなので別々のエリアに飛ばされたみたいね』
「どうやらそのようね。惑わされるって、空間の繋がりが狂ってるって事みたい」
『ええ、多分この城はワープを繰り返しながら最上階に進むジャンプ式マップエリアみたいね。
こうなるとお互いに合流するのが難しいとは思うわ。だからそれぞれで最上階を目指しましょ。
『勇気ある王』の居る天守閣なら間違いなく合流できるからね』
確かに最終到着地点はGGの所だから間違いなく全員は揃うからな。
「分かったわ。幸いなことにこの城にはモンスターが居ないから苦労するのは移動だけだからね」
『・・・ごめん、フェル。あたし達が貴女を護るって言っておきながら・・・
この城にはモンスターが居なかったからよかったものの、これが取り返しのつかない事態だったと思うと・・・』
「気にしなくていいわよ。そもそも元々はわたし1人でここに来るつもりでいたんだから変に気を遣わなくてもいいわよ」
『あのね、気を使うに決まっているでしょ!
はぁ、もう・・・あたし達も急いで天守閣に向かうから、フェルも無茶だけはしないでよね!』
そりゃあ、無茶はするよ。鳴沢を出来るだけ危険な目に遭わせたくないからな。
鳴沢には取りあえず了解と答えて携帯念話を切る。
GGの言葉通りならモンスターは出ないが、一応警戒をしながら九尾の城を――妖かしの城を1人で進んでいく。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
階段を上ったり下りたり、生活用NPCの妖狐の居る部屋を突き進んだり、突然空間が歪み居場所が変わったり、マップが機能していないせいか何処をどう進んでいるのか分からない状態だったが、何とか最上階のGGの居る天守閣へと到着したようだ。
襖を開けると玉座と思わしき場所にGGが座っていた。
どこかの殿様宜しく肘をついて頬を支えて俺が入ってくるのを待っていた。
「よう。最初にここに来たのはやはりフェンリルだったか」
「もしかして空間を操ってわたしだけここに来るように仕向けた?」
「おいおい、元々この城は九尾の狐のもだぜ。俺にはそこまで操ることは出来ねぇよ。
お前が一番最初にここに来たのは偶然だ」
ふむ、てっきりGGがみんなをばらして俺だけをここに導いたかと思ったが、どうやら違ったようだ。
「そもそも『勇気ある王』の能力はユニーク職の勇者の強化版でしかないよ。
勇者の特殊アビリティ後光はPT内の勇気を奮い立たせ恐れをなくすアビリティだが、『勇気ある王』の影響でAI-On内のシステムにある程度融通を利かせるだけの能力の後光・神に変化しただけだからな」
おい、システムに干渉できるだなんて、それだけでも結構凄い能力だぞ。
「もしかして冒険者ギルドに美琴達にギルド脱退を出来なくしたのは・・・」
「ああ、この能力のお蔭だ。もっともある程度でしかないから、この九尾の城に関しては操作は出来なかったけどな」
なるほどね。多分勇者と言う事で人々――NPCとかにある程度干渉出来てモンスター関連には出来なかったというところか。
「さて、他の邪魔者が入らないうちに始めるか。強化魔法などの準備時間は与えてやるぜ」
「それはありがたいわね」
そう言いながら俺はいつもの六芒星の盾、四重加体強化などのBuffを掛けていく。
そして神降しスキルで三貴神の1人である破壊神スサノオをその身に宿す。
『月読の加護を持ちし者よ。我が破壊の力をそなたに授けよう』
アマテラスやツクヨミの時同様、スサノオからも神託を頂きいつも以上の神降しの力を得る。
そして当然向こうではGGも自分に強化魔法を掛けている。
「ああ、そうそう、もう一つ言い忘れていたが、『勇気ある王』の特性として相対する人数が多ければ多いほどステータス等が強化されるからな。
2人で俺に立ち向かえば2倍、7人で立ち向かえば7倍って具合にな」
え? それって7人PTで立ち向かえば7倍の攻撃能力を持ったGGが襲い掛かってくるってことか?
・・・これは1人で来て良かったのかもしれないな。
「今はフェンリル1人だから素のままの俺が相手ってことになる。
丁度いいからここでAI-On最強プレイヤーを決めるとしようぜ!」
「最強プレイヤー決定戦って・・・そうね、どうせだからここで最強プレイヤーを決めてGGに引導を渡してあげるわ」
「ハッ! いいね! まさか乗ってきてくれるとは思わなかったよ。
それじゃあ・・・行くぜ!!」
GGは背中にマウントしてある巨大なハンマーを掲げ、俺にダッシュで近づいてくる。
大きくハンマーを振りかぶり、俺に狙いを定めて振り下す。
「ハンマーヘル!!」
俺は僅かなステップで横に躱すも、すぐさまGGの返しの攻撃が向かって来る。
「ハンマーヘブン!!」
振り下し直後からの掬い上げによってGGの体は浮き上がり前面をさらけ出す。
俺はその隙をついて左右の刀を振るおうとするが、流れるように三度GGの攻撃が襲い掛かる。
「光になれぇぇぇぇっ!!」
最初の打ち下ろしよりも威力もスピードも乗った攻撃が、そのまま天守閣の畳を打ち抜く。
打ち下ろしの隙を狙おうと思ったが、畳をぶち抜いた衝撃で床の破片が周りに飛び散り俺の追撃を封じていた。
一見、大振りで隙だらけの3連発のように見えるが、意外と隙が無く辛うじて反撃できたのは2発目と3発目の間に二刀流スキル戦技・二連撃を叩き込むのが精いっぱいだった。
「やるなぁ。まさか反撃を食らうとは思わなかったぜ」
「隙だらけのように見えて意外と隙が無いのね。こっちも二連撃を叩き込むのが精々だったわ」
巨大なハンマーから繰り出される攻撃はそこら辺のプレイヤーなら怖気づいてしまうほどの迫力だ。
鈍重なイメージに囚われがちなハンマーの攻撃だが、GGの繰り出すスピードは剣や刀の攻撃スピードと大差ないので避けるのもかなり困難だ。
そして3連続で繰り出される攻撃は、同じ技を何度も繰り返した結果だろう。その滑らかな動きは洗礼されていて一撃の隙をつくのが精いっぱいだった。
「なら、今度は反撃の隙も与えない程のスピードで行くぜ!」
再びGGは3連続攻撃を繰り出す。
よく見れば3連撃にはそれぞれ槌スキル戦技を乗せて撃ってきていた。
多分1撃目が攻撃と共に炸裂する炸裂槌、2撃目が振り下しの切り返しを補うためのスピード重視の疾槌、最後の3撃目が威力を周りにも響かせる破衝槌だろう。
俺はそれをステップで躱しつつも辛うじて刀スキル戦技・桜花一閃で反撃出来ただけだ。
GGの3連撃、俺の隙をついての反撃、代わり映えしないそれを何度か繰り返した後にGGは痺れを切らした。
「ちっ、埒が明かねぇな。これなら――どうだっ!
ブロウクンマグナム!!」
あろうことかGGは持っていたハンマーを振りかぶって俺目がけてぶん投げる。
ちょっ!? 前のブロウクンマグナムと違うじゃん!?
って言うか、武器投げてどうするの!?
投擲スキルをサブスキルに持っているのか、投げられたハンマーは正確に俺に向かって回転しながら飛んでくる。
だからと言ってそう簡単に当たるものではない。
サイドステップで最小限に躱し、GGに向かってプチ瞬動で一瞬で間合いを詰める。
何を企んでいるのかは知らないが、武器を手放した今がチャンス。
GGは背中に装備していたハンマー以外に武器装備はしていない。
GGの懐に入ってオリジナルスキルを放とうとした瞬間、GGの右手にはあるはずのない、ぶん投げたはずのハンマーが握られていた。
―――しまった! 誘われた!?
「プロテクトウォール!!」
GGの放った掬い上げの槌スキル戦技を何とか二刀流スキル戦技・十字受けで受け止めるも、ダメージを僅かしか防ぎきれず俺の体は宙に浮かされる。
そしてその隙をついてGGは追撃の槌スキル戦技を放つ。
「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
巨大なハンマーはそのまま床をぶち抜きながら俺を叩きつける。
「がはっ!!」
HPを7割を失うほどの攻撃を食らいながらもなんとか起き上がり、バックステップでGGから距離を取る。
その瞬間、目の前をGGの追撃のハンマーが通り過ぎる。
あのまま寝ていたら確実に追加の攻撃を食らっていた。
「参ったわね。まさかGGのそのハンマーも意思を持ったLEGENDARY ITEMだったとはね」
「ああ、このハンマーはLEGENDARY ITEMのミョルニルだ。別名トールハンマー。
察しの通り、こいつは俺が呼べばどこからでも手に戻ってくる」
ミョルニルと言えば雷を落とす大槌として有名な武器だ。
しかも意思を持っているとはこれまた厄介だな。
俺の妖刀村正も今では呼べば戻ってくるほどの意思を持っているが、最初のころはそうでもなかった。ずっと所持していることによってその意思が芽生えたのだと考えられる。
GGもかなり長い間、そのハンマーを愛用していたから意思が芽生えたのだろう。
俺はショートカットポーチからHP全快薬の神丹を取出し食べてHPを全快にする。
GGも治癒魔法の呪文を唱えて自分のHPを回復していく。
「さぁ、どんどん行くぜ!」
お互いがHPの回復手段を幾つも持っているので長期戦になりそうだが、俺は輪唱呪文による魔法剣、片やGGはミョルニルから繰り出される一撃、お互いが相手のHPを全損出来るほどの攻撃を持っているので一瞬でも気が抜けない。
こりゃあ、相当締めて掛からないといけないな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「光になれぇぇぇぇっ!」
俺がバックステップで躱し、GGのミョルニルが俺の目の前に振り下される。
「ちぃ! また躱されたか!
大抵の奴ならこの3発目で終わっているんだがな。こうも当たらないとは。
剣の舞姫の名前は伊達ではないな」
「そっちも豪鬼の名に相応しい攻撃っぷりじゃない。もっとも当たればただじゃすまないから当たるつもりはないけどね」
「いい加減決着を付けないとな。そろそろ他の奴も上がってきそうだし。
・・・いいぜ、取って置きを見せてやるよ」
GGはそう言いながらメニューを開いてアイテムストレージから剣と棍を取り出す。
「スキル発動、Junk。ジャンク・ジャンクション!」
Jの王の証の特殊スキル!?
俺は身構えるが、Jの王の証の特殊スキルは攻撃系ではないらしい。
GGは取り出した武器を繋ぎ合わせる。
「クラッシャーコネクト!!」
ミョルニルの柄に沿って槌の先端に剣の握り部分を突き刺し、ミョルニルの柄の方は延長するかのように棍を継ぎ足す。
俺は目を疑った。まるで粘土細工のように3つの武器が1つの面長のハンマーになったのだ。
棍を継ぎ足したせいか、ハンマーの柄の長さは5mと言った感じでとてもじゃないけど攻撃を当てるのが難しい武器になっていた。
だがGGはそれでもお構いなしに武器を掲げ呪文を唱える。
「サイクロトロン!
プラズマエンチャント!
リアクターブラスト!
―――ゴルディオンクラッシャー!!!!」
GGの掲げたハンマーの槌の部分に雷の格子で形成された超巨大な雷のハンマーが出来上がる。
やりやがった! こいつ某勇者王の必殺技を再現させやがった!
おまけに『イメージ効果理論』による魔法剣と輪唱呪文も使いこなしてるし!
「さぁ、覚悟はいいか? 流石にこの一撃はハンパないぜ」
「・・・流石にそれはやり過ぎだと思うんだけどなぁ~。今からでも別の技にしない?」
流石にあれはやばい。
まともに食らえばHP全損もありうる。
出来るだけあの超巨大な雷のハンマーを食らわないように振り下した瞬間にプチ瞬動で攻撃範囲内から離脱しないと。
「残念だがそれは却下だ。大人しく『勇気ある王』の必殺技を食らいな」
そう言いながらGGはショートカットポーチからアイテムを取出し俺に向かって呪文を唱える。
「バインド!」
床から生えた蔦によって俺の動きが封じられる。
GGの取り出したアイテムは魔法を1つ封じ込めて好きな時に合言葉1つで使えるチャージアイテムだった。
―――やばいっ! 身動きを封じられた!
「行くぜ! 光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
GGの振り下した超巨大な雷のハンマー――ゴルディオンクラッシャーは俺に直撃し床をぶち抜く勢いで天守閣に衝撃が走る。
ゴルディオンクラッシャーの衝撃で辺り一面に煙が舞い上がる。
GGは数秒間、その煙を見ていたが俺の反応が無いことを確認して息を吐く。
「はぁ、流石に無理だった・・・か?」
GGは繋げた武器を構えてたのを下し、落胆したかのように天井を仰ぎ見る。
――神鳴り落とし!!
その瞬間、天井を突き破って雷撃がGGに直撃する。
「なぁっ!?」
そして俺は煙の中から飛び出し、神鳴り落としを食らって驚愕しているGGに向かってオリジナルスキルを叩き込む。
「サンダーストーム!
―――神威六連・雷霆!!」
刀スキル戦技・神威一閃と二刀流スキル戦技・剣舞六連と雷属性魔法の雷の嵐、さらにはタケミカヅチの雷を纏わせた一撃(六撃?)はGGのHPを残り1割までのダメージを与えた。
「がはっ!」
攻撃を食らったGGはその場に膝をつく。
一時的に雷の攻撃で麻痺1に陥ったGGは手足が麻痺に陥ったので身動きが取れなくなっていた。
「・・・どうやって、ゴルディオンクラッシャーから逃れた?」
俺に反撃を食らったのが信じられないのか、GGは俺を見上げて聞いてくる。
「とてもじゃないけど避けきれなかったわ。直撃。流石にわたしも覚悟したわね」
俺のHPもGGとそんなに変わらず残り1割弱と言った感じだった。
「なっ・・・! あれに耐えたのかっ!? 信じられん・・・」
「ゴルディオンクラッシャーを構成しているのが雷属性だったから耐えれたのよ。
雷を司る神様・タケミカヅチの神降しでね」
俺はゴルディオンクラッシャーが直撃する瞬間、スサノオからタケミカヅチへと神降しして雷属性部分をタケミカヅチで軽減したのだ。
だがそれでもGGの一撃は強力で、HPも大幅に削られてしまったのだ。
「あれに耐えられたら俺にはもうお手上げだな。勇者の必殺技を耐えられたらもう打つ手なし、だな。
・・・いいぜ、やりな。止めを刺せよ」
GGは床にうずくまりながら最後の一撃を要求してくる。
麻痺状態で動けない今が最大のチャンスだ。
「そうね。これで終わりよ」
俺は右手の妖刀村正を掲げる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
雑談スレ39
214:はぐれてないメタル
なぁ、エンジェルクエストのクリアってあとどれくらいかかると思う?
215:アイザック
ん? どうだろうなぁ
残りの王ってBの王とAの王だろ?
216:justice
今までの傾向からみると後1か月くらいかな?
217:スクランブルエッグ
それもBの王とAの王の情報がはっきりしていれば、だね
218:はぐれてないメタル
う~ん・・・後一ヶ月くらいかぁ~
219:キャノンボール
それがどうかしたのか?
220:ハルシフォム
デスゲーム始まってから約7か月で外に出られるのってある意味凄くないかな?
221:フレグランス
よくあるネット小説とかでは1年2年はざらだからね
222:はぐれてないメタル
いや、ねぇ、2月14日までAI-On続けられるのかなぁ~って思ってさ
223:スクランブルエッグ
ガタッ
224:justice
ガタッ
225:小悪魔
ガタッ
226:キャノンボール
バ・・・バ・・・バレンタインデーかっ!!!
227:はぐれてないメタル
クリスマスイベントがあったからさ、バレンタインイベントもあるんじゃないかと
228:ハルシフォム
いや、間違いなくあるだろう
229:キリアム
クリスマスの時のサンタモンスターが出たみたいに
バレンタインにもチョコレートモンスターでも出るのか?
230:フレグランス
出そうだなぁ~^^;
231:小悪魔
でもチョコレートモンスターってどんなんだろ?
無理やり食べられに来るとか?w
232:キャノンボール
クリスマスの時を考えると素直に歓迎できるイベントじゃないなぁ
233:justice
だなぁ
内容によっては歓迎されるか嫌悪されるかのどちらかだな
234:はぐれてないメタル
クリスマスの時みたいのだったらカップルには嫌悪されるだろうしね
235:アイザック
いろいろ期待しておいて実際は2月前でエンジェルクエストクリアされたりして
236:はぐれてないメタル
>>235 ありそうな落ちだなww




