EX5.正月の過ごし方
本日は2話連続投稿です
最新からの方はご注意願います
1月1日 ――154日目――
「みんな、明けましておめでとう」
「明けましておめでとう」
「おう、今年もよろしくな!」
「ゲームの中で年を越すなんて・・・考えてもみなかったわね」
俺の年越しの挨拶にみんなが思い思いに挨拶を返してくる。
「それで早速だけど、初詣に行こうと思うんだけど・・・みんな、行く?」
「初詣って、このゲームの中でどこに行こうって言うんだ?」
ヴァイの言う通り、この西洋感あふれるゲームの中で初詣に行こうと言っても行けるのはせいぜい教会くらいなものだろう。
だが、このAI-Onは何故か和の要素も含んだゲームだったりする。
「ああ、東和都市の縁神社か。確かにあそこなら初詣には持って来いだな」
「クリス、正解。
あそこは縁結びの神社だけど、日本風の新年を迎えるには丁度いい場所だからね」
「そうですね。今、東和都市では新年行事で賑わっています。
中には出店も出ていますので美味しいものがたくさん食べられるかもしれませんね」
そう言ってくるのは『Angel Out』の新メンバーのるるぶるさんだ。
流石は情報屋らしく、既に東和都市でのイベントを把握しているみたいだ。
「そうだ、丁度いいから向こうで新人の歓迎会でも開こうかしら」
「いいね。折角だからみんなで行ってぱぁっと騒ごうよ」
「そういやジャスティ達の歓迎会はまだだったな。うむ、俺は賛成だ。今日ぐらいは攻略を休んでも罰は当たらないからな」
俺の思い付きに鳴沢やヴァイが賛成してくれる。
るるぶるさんの他に新規加入したジャスティとフリーダの歓迎会をまだしていなかったのだ。
「そうと決まれば早速東和都市に行くわよ・・・って、そうそうこれを忘れてたわ。
わたしから女性陣のみんなにプレゼントよ」
そう言いながら俺はトレードウインドウを開いて女性陣にある衣装を渡す。
「ちょっと、フェル。これって振袖じゃない」
「うん、流石マスターだね。このプレゼントはあたしも嬉しいよ」
「わぁ! いいんですか? お姉様、こんな素敵なものを頂いて」
「え? これって高かったんじゃないんですか?
確か今AI-Onで着物はもの凄く手に入りにくくて高くなっているはずですよ」
「フェンリルちゃん気が利くじゃない」
「あたしこんなの初めて! ありがとうお姉ちゃん!」
「え!? 入ったばかりのボク達にも!? フェンリルさんありがとう!」
「振袖を着て初詣だなんてゲームならではの贅沢ですね」
「うむむ、私は情報屋としての動きやすさを取るか、女としての着飾るのを取るか・・・悩みどころですね」
鳴沢、唯ちゃん、舞子、リム、ヴィオ、アイちゃん、ジャスティ、フリーダ、るるぶるさんの順で言ってくる。
因みにみんなに渡した振袖は、朝霧さん経由で服を専門に作っているプレイヤーにお願いして購入したのだ。
普通であればサプライズでプレゼントしようもののサイズが合わなければ意味が無いのだが、この世界はゲーム仕様で出来ているため服のサイズは何の問題もないのだ。
みんなはいつもの厳つい鎧等の防具を外して、早速振袖に装備を交換する。
デザインは俺のイメージでみんなに合うようにそれぞれ渡したが、みんなは不満もなく喜んでくれていた。
ただ1人を覗いては。
「ええーー! ちょっと! なんで着れないのよ!」
「あれ? どうしたんですかヴィオレッタさん?」
リムがメニューウインドウに向かって文句を言っているヴィオに話しかける。
だが当のヴィオは余程怒っているのかリムの声が聞こえていないみたいだ。
「フェンリルちゃん! これ不良品! あたしには着れませんって出てる!」
「あれ~? おかしいわね。みんなに配ったのはデザインが違うだけで性能は全部同じなんだけど」
俺が疑問を持ちながらヴィオのメニューウインドウを覗く。
「「あ」」
ヴィオのメニューウインドウに出ているある一文を見つけた俺の声と、その事実に気が付いた鳴沢の声がハモる。
「ええっと、ヴィオって確かAI-Onでヴァイと結婚してたよね?」
「・・・あ」
その事実に気が付いたヴィオはがっくりと床に項垂れる。
ヴィオのメニューウインドウにも表示されていたのは『既婚者は装備できません』だった。
落ち込んでいるヴィオをヴァイが何とかなだめて俺達は東和都市へと向かう事にする。
「そう言えばお姉様は振袖は着ないんですか?」
「・・・着れるものなら着たいんだけどね」
萌えスキルの影響で俺には装備のデザインはまるで意味をなさないからな!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
東和都市の縁神社に行くとそこには大勢のプレイヤーで溢れていた。
「わぁ! 凄い! 人がいっぱいいる!」
アイちゃんは初詣は初めてらしく、大いにはしゃいでいた。
「それにしてもみんな考えることは同じね。まさかこんなに大勢の人が居るとは思わなかったわ」
「そうだね。
MMORPGなんだから初詣より自分たちで企画したイベントに参加してるかと思ったけど、意外とみんなお約束を実行しているみたいだね。こういう律儀なところは流石日本人って感じ」
ゲームの中で年を越すというのはゲーマーにとっては最早当たり前だ。
鳴沢の言う通り、それぞれのギルドは新年のイベントとして特定のモンスターを狩りに行ったり、年越しのカウントダウン前にどこかのダンジョンの奥までのアタックを敢行したりと自分たちなりの年越しを楽しむのがほとんどだ。
ところが実際はゲームの中と言えど、初詣をして新年を迎えたいらしい。
「そう言えばフェンリルさんは神社の中に居ても違和感ないですねー
寧ろその豪華な巫女衣装がハマり過ぎて神様扱いされたりして?」
そうなんだよなぁ。俺の今の姿は萌えスキルにより、ユニーク職の神薙の萌え姿と言う事で半透明な羽織千早をコートの様に羽織っていて、赤のニーハイブーツに赤のミニスカのコスプレ巫女となっている。
金の髪飾りや金のかんざしなどの要所要所に豪華な飾りが付けられていて、ミニスカの端には金の刺繍まで施されている。
縁神社に集まった大勢のプレイヤー達は俺の姿を見るなり「舞姫様だ!」「舞姫神が現れた!」などと騒ぎはじめたりもしていた。
関わると碌なことが無いと思われるので、見ないふり気づかないふりをしているが。
「なぁ、それよりあそこ・・・あれって『恋愛の女王』じゃないか?」
疾風がある一角を苦い顔をしながら指を指す。
そこには縁神社の巫女たちと一緒に初詣客の相手をしている『恋愛の女王』が居た。
「げ」
俺は思わず呻き声をあげると、それに気が付いた『恋愛の女王』が即座に俺達に駆け寄ってくる。
「あら、久しぶりじゃない。元気してた?」
「さっきまで元気だったけど、あんたの顔を見たら元気じゃなくなったわ」
「ひっどーい。なによーそんなこと言わなくてもいいじゃない。ぶーぶー」
「そんなことより、あんた外に出ても大丈夫なの?」
「え? 何が? 別にずっと試練の間に居なければならないってことは無いわよ」
まぁ、一応エンジェルクエストはクリアしているからその後ことは自由なんだろう。
試練の間に居るのは試練を受けにきたプレイヤーを相手する時だけでいいと言う事か。
「ねぇ、それより女体書初めやっていかない? 裸になった女性の体に書初めするの」
「・・・却下」
「えー、じゃあ女体凧揚げは? 裸になった女性を大っきな凧に縛り付けて凧揚げするの」
「・・・却下」
「つまんなーい。あ、じゃあ女体回しは? 女が男に跨って繋がった状態でくるくる回るの! これならいいでしょ!」
「・・・却下!
因みにその女体のモデルは誰になるの?」
「え? それはもちろんフェンリル、貴女よ?」
「却下に決まっているだろう! このセクハラ女王!!」
ワザとやっているのか本気で言っているのか・・・相変わらずの『恋愛の女王』の言動に俺は思わず頭を抱え込んでしまう。
「ハッハッハッ 相変わらずの節操のなさだな、Lovers」
そう言いながら現れたのは僧侶のおっさんだった。
但し姿は大司教や大僧正と言った位の高い者が着るような衣装だった。
「「げ」」
そのおっさんの姿を見るなりヴァイとヴィオが揃って言葉を発する。
何やら知った顔らしく、俺は2人に小声で尋ねる。
「なに? 知りあい?」
「・・・あのおっさんが『婚約の王・Engage』だよ」
・・・なるほど、納得した。
確か『恋愛の女王』と同じくセクハラまがいの試練を行う王だったって話だ。
「あら、誰かと思ったらEngageじゃない。新年早々こんなところに来るなんて暇なの?
ああ、暇よね。教会に新年の挨拶に来る人なんて少ないのよね」
「ふん、ぬかせ。
ここに来たのは私の教会の素晴らしさを教えに来たのだ。つまりお前の所の客を奪いに来たのだ!」
「素晴らしさを教える? 笑わせないでよ。どうやって素晴らしさを教えるというのよ」
あんまり仲良くないのか、この2人?
『恋愛の女王』は客を奪いに来たという『婚約の王』に向かって挑発する。
と言うか、やな予感しかしないんだが・・・
「ふふふ、決まっているだろう!
まずは教会に訪れた女性にスリーサイズを聞いてそれにぴったり合うエロティックな下着をプレゼントする!
そして男女の最愛の営みである性生活の指導を行う! 基本の48手から応用の52手まで手取り足取りマンツーマンで付きっきりでだ!」
「な・なんですって! ・・・なかなかやるわね・・・!」
うわぁ~、納得しちゃってるよ『恋愛の女王』。
流石、東のセクハラ女王、西のセクハラキングと称されるだけあって変態度がハンパない。と言うか近づきがたい。
うん、2人が言い合っている今のうちに初詣を済ませて、とっととそこら辺の店に入って歓迎会を開こう。
みんなも2人の26の王にドン引きしながら俺の案に賛同してさっさと初詣を済まして縁神社を後にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いらっしゃいませ。
あら、お久しぶりですね。前の時よりも姿が豪華になってません?」
「あはは、まぁあれからまた色々あってね。
大勢いるけど、席開いているかな?」
「大丈夫ですよ。は~い、新規16名様ご案内いたします」
俺達が入ったのはかつて転職時に訪れたことのある白竜の宿木亭だ。
流石に縁神社に初もうでに訪れる客が溢れかえっていて、そこら辺の店は既に満杯状態だった。
流石に見通しが甘かったかなと思いながら何件か回って見つけたのが白竜の宿木亭だった。
俺達は席に案内されて注文を取りながらジャスティ、フリーダ、るるぶるさんの3人の歓迎会を開いたのだが・・・
「何であんた達がここに居るわけ?」
「え? だってあたしの加護を与えた貴方達と親睦を図ろうかと思って」
「うむ、私も同じくその加護を与えた2人とのコミュニケーションを図ろうと思ってな」
何故か図々しくも『恋愛の女王』と『婚約の王』がいつの間にか一緒の席についていたりするのだ。
と言うか加護ってなんだよ。初めて聞くぞ。
「最初に試練をクリアした人たちには王の証の他にあたしの恋愛の加護を与えているのよ。
この場合は疾風とフェンリルの2人にね」
「私の与えた加護は相愛の加護だな。ヴァイオレットとヴィオレッタ、お前達2人に与えている」
それを聞いた俺達4人は思いっきり顔をしかめる。
加護と言うより呪いと言った方が正しいんじゃないか?
「と言うか、呼んでもいないのに勝手に入ってこないでよ!」
「えー、いいじゃない。あたしだってたまにはパーッと騒ぎたいわよ」
「たまには教会の外に出て羽目を外したくなる時もあるんだよ。少しくらい大目に見てもらいたいものだな」
そこからはもう考えるのも馬鹿らしくなるくらいのどんちゃん騒ぎが始まった。
そうして当然のことながらそれだけでは済まずに別の騒動が起こったのは言うまでもない。
こうして俺達の正月は2人の26の王の騒動に巻き込まれて散々な目に遭ったままで終わってしまった。
因みにこの2人は実は夫婦だという事が判明した時は驚愕したと同時に納得したことを追記しておく。
落ちは特にありません
と言うかよくわからない話になってしまった・・・orz




