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Angel In Online  作者: 一狼
第14章 World
64/84

60.黄龍と世界を総べる王

 世界の中心の扉を潜ると、そこには何もない真っ白の空間が広がっていた。

 そして扉から50m程離れたところに、純白の椅子に腰かけ同じく純白の丸テーブルでお茶をしている男が居た。

 多分あの男が『世界を総べる王』だろう。

 だが居るのは『世界を総べる王』だけではない。

 『世界を総べる王』の隣には青龍と同じくヘビ型の巨体な竜が寝そべっていた。


 居たよ・・・マジでユニークボスが居たよ・・・


 こういう時に限って嫌な予感は当たるんだよな。


「あ・・・思い出した。そう言えば四神って4匹だけじゃなくて中央の5匹目――黄龍が居るって聞いたことあるわ」


 鳴沢が『世界を総べる王』と一緒に居る竜を見て苦みを潰した顔して呟いた。

 鳴沢さーん、そう言う情報はもう少し早く思い出してください。


 つーか、マジでまんまあのヒントの「東西南北の中心」なんだな。

 ちゃんとユニークボスが5匹だって明記されてるよ。


 俺達の侵入に気が付いた『世界を総べる王』が立ち上がり挨拶をしてくる。


「ようこそ。私が26の王の1人の『世界を総べる王・World』だ。

 四神を倒した君たちはこの世界の中心に足を踏み入れる資格がある。中途半端な力を持つ者は四神すら倒すことが出来ないからね」


 そう言いながら『世界を総べる王』は微笑みかけてくる。

 確かに俺達は四神を倒して来たけど、別に四神を倒した俺達だけじゃなくても鍵が開いた世界の中心の扉は誰でも潜れるんじゃないのか?

 もしかしたら四神を倒したプレイヤーが居なければ世界の中心の扉を潜れないのかもしれないな。


「さて、君たちの望みはわたしの持つ王の証だろう。君たちが望むのならこの王の証を授けてもいいのだが、そう簡単に渡せるものでもない。

 何せこのWの王の証は他の王の証と違って危険極まりないものだ。それ相応の力の持ち主にしか渡すことは出来ない。

 よって、私を倒したらこのWの王の証を渡そう。」


 一瞬、戦闘なしに王の証を手に入れることが出来るのか?と思ったがやはりそう簡単に物事は進まない。

 まぁ、もともとこちらは『世界を総べる王』を倒しに来たのだ。やることは変わらない。


「私も長い間、君たちの様な者が来るのを待ち続けた。

 もう待ち続けるのは飽きてしまってね。いい加減楽になりたいのだよ。

 まぁ、だからと言ってそう簡単に倒されるわけにもいかない。

 先ほども言ったように、この王の証は危険だからね。力ある者にしか譲れないのだよ。

 さぁ! 私を倒す者達よ! いざ尋常に勝負です!」


 ああ、この何もない空間でAI-On(アイオン)が開始されてからずっと待っていたのか。そりゃあ飽きるわ。

 でも半年そこそこで長い間ってのも・・・

 もしかしたらこの空間そのものの時間の流れが違うのかもしれないな。


 にしても『世界を総べる王』が言うほどWの王の証は危険なのか・・・

 俺にはNの王の証が結構やばいとは思うけど、それ以上の効果があるのだろう。

 Wの王の証を手に入れるのは、唯1人ユニーク職に転職していない鳴沢だ。

 鳴沢にはWの王の証の特殊スキルは使用しないように言っておかなければならないかもしれないな。

 って、まだ手に入れてもいないアイテムについて考えるなんて気が焦りすぎだ。

 今は目の前の『世界を総べる王』に集中しなければ。


 『世界を総べる王』は手をサッと振ると、テーブルと椅子が空間に溶けるようにして消える。

 そしてその隣にいた黄龍が起き上がり俺達に目を向ける。


 結論から言えば、『世界を総べる王』との戦いはものの十数分で決着が付いた。むしろ黄龍との戦いの方が激戦だったと言えるだろう。


「フェンリル! あの黄龍は俺達が相手をする! お前たちは『世界を総べる王』に集中してくれ!」


 ロックベルが火属性魔法の炎の槍を黄龍に放ち、自分たちのPTに敵愾心(ヘイト)を向けて黄龍を引き付ける。

 ロックベル達は上手い具合に距離を保ちながら黄龍を『世界を総べる王』から引き剥がす。


 まず『世界を総べる王』に攻撃するのは俺達の1班からで、舞子達2班は取り敢えず控えてもらう。

 これはファーストアタックが1班でなければ俺達のPTにアイテムがドロップしないからだ。

 その為にまずは先制攻撃として、クリスに遠距離攻撃をぶちかましてもらう。


「ダイヤモンドミスト!」


 まずは俺の氷属性魔法の氷結の霧で目くらましを仕掛ける。

 辺り一面に氷結の霧で覆われ真っ白になる。


「トリプルショット!」


 クリスの放つ三条の矢が『世界を総べる王』に襲い掛かるが、いつの間にか手にした剣により全て弾かれる。

 だが弾かれるのは想定内で、クリスは三連射を放った直後に移動して続けざまに弓スキル戦技を放つ。


「ボルテクスアロー!」


 氷結の霧を吹き飛ばしながら暴風を纏った矢が『世界を総べる王』を襲うが、多少暴風による衝撃があったがこの攻撃も簡単に弾かれてしまう。

 何せ目くらましの霧を吹き飛ばしながらの攻撃なので、こちらの位置が丸分かりになってしまったからだ。


 だが、今の攻撃はクリスに目を向けるためのものだ。

 クリスの三連射の間に俺達は霧に紛れて移動をしている。


 疾風がクリスの放つ暴風の矢を防がれた直後を狙って、瞬動による攻撃を仕掛ける。

 攻撃を防いだ直後を狙ったにも拘らず、疾風の攻撃は読まれていて簡単に躱されてしまった。


「なかなか良い手ですが、彼が姿を現した時点で囮になっているのが丸分かりですよ」


 だが疾風はニヤリと意味ありげに笑いながら瞬動でその場を離れる。

 直後、『世界を総べる王』に向かって巨大な獣の咢をかたどる魔力を纏った光の矢が飛んでくる。


 クリスが暴風の矢を放った直後に続けざま弓スキル戦技・ファングショットを放ったのだ。


 クリスが一度注意を引き付け疾風が攻撃し、クリスへの注意が外れたところを攻撃するという三段構えの攻撃だ。

 ついでに閃弓士(ライトニング)の特殊アビリティで作られた光の矢なので攻撃速度もあり、百発百中の二つ名を持つクリスの攻撃は当たったかのように見えた。


「まさか最初の攻撃は私から意識を外させるためのものでしたとは。中々やりますね」


 しかし今の攻撃ですら『世界を総べる王』に直撃はしなかった。

 僅かに肩にかする程度で僅かにHPが削れるくらいだった。


 おいおい、今の攻撃を躱すのかよ。どんだけ反応速度が速いんだよ。

 まぁ、一応ファーストアタックは成功したので、この後は2班の舞子達も攻撃に参加しても大丈夫だ。


「そうですね、こちらも出し惜しみはしないようにしましょう。

 私は『世界を総べる王』。大地を支配し、空を支配し、空間を支配し、時間を支配する。

 ――クロノスワールド」


 『世界を総べる王』が何かの特殊能力を発動した瞬間、疾風を除く全員が吹き飛ばされていた。

 攻撃に参加しようと近づいていた舞子達も同様にだ。


 何時攻撃を受けたのか全くと言っていいほど分からなかった。

 たった一瞬の間に13人も同時に吹き飛ばすなんてありえない。

 そこで俺はふと自分で思った疑問に引っ掛かりを覚えた。


「まさか今の攻撃を防ぐ人が居ようとは・・・驚きましたよ」


「こっちもまさかこんなところで()を使うことになるとは思いもしなかったよ」


 どっかの側に立つ超能力を使う漫画で出てきた同時(・・)と言うセリフがある。

 それはある能力を髣髴させる。


 そして今の疾風の会話に出てきた眼とは時空蛇(ウロボロス)の特殊アビリティの時空眼の事だ。

 この時空眼と言うのは全ての空間と時間の流れを見ることが出来るアビリティだ。

 はっきり言ってこのアビリティは時空蛇(ウロボロス)の持つ時空魔法のテレポートにしか使えないとしか思っていた。

 時空眼で行き先を確認してテレポートで移動する為だけだと。

 だが疾風はこの時空眼を使うことによって『世界を総べる王』の特殊攻撃を防いだと言った。


 これらの事から推測するに、『世界を総べる王』の特殊攻撃は時間停止の特殊能力を持っている結論が導き出される。


 ・・・って、まんまJ○J○じゃねぇか!!!


 うわー、『世界を総べる王』の名前からしてまさかとは思ってはいたが・・・

 AI-On(アイオン)開発者も随分思い切ったことしたな。


「さて、それでは尚更遠慮はいりませんね。どこまで私に付いてこれるか楽しみですよ」


「ちぃ! みんなは離れてろ!」


 疾風は俺達に『世界を総べる王』から距離を取れと指示を出す。

 時間停止中に繰り出した『世界を総べる王』の攻撃は時空眼で見ることが出来たので、辛うじて攻撃を防ぐことが出来たのだ。

 そしてこの事実は『世界を総べる王』を相手にできるのは時空蛇(ウロボロス)の疾風しかいないということに他ならない。

 時空蛇(ウロボロス)は対『世界を総べる王』の職業だと言っても過言ではない。

 まぁ、一応俺にも『世界を総べる王』への対抗手段があるのだが・・・


「2班はロックベルの応援に行って! ここはわたし達1班で対応するわ!」


「で、でもお姉様! ここはみんなで一斉に攻撃すれば!」


 俺はこのままでは『世界を総べる王』のいい的になるので2班を下がらせることにする。

 だが舞子は状況が見えていないのか食い下がってくる。


「舞子、ここはフェンリルに従うんだ。さっきの攻撃を見ただろ? 一斉に攻撃しても全員が返り討ちに遭うだけなんだよ。

 『世界を総べる王』は時を止める攻撃を使う。今の俺達では邪魔でしかないんだ」


「・・・分かった」


 舞子は天夜の説得で渋々指示に従い、援護の為にロックベル達に向かって行く。


「疾風とヴァイを残してみんなは『世界を総べる王』の射程外に出て!

 ヴァイは鬼神化で耐久力を上げて『世界を総べる王』に食らいついて疾風の援護をお願い」


「了解!」


 ヴァイは鬼神化を使い鬼神に変化して『世界を総べる王』に向かって行く。


「ヴィオはヴァイの、ベルは疾風の回復に専念して! 特に時間停止中に受けた攻撃は一気にHPが減るから注意が必要よ!

 わたしとクリスは『世界を総べる王』の射程外から遠距離攻撃を」


 俺はメニューウインドウを開いて背中に大弓と矢筒を装備する。

 すぐさま大弓を左手に持ち替え、30本の矢が入った矢筒から矢を抜き取り構えを取る。

 この大弓は玄武からドロップしたUNIQUE ITEMだ。


 玄武からドロップしたUNIQUE ITEMは5つ。

 LEGENDARY ITEMに匹敵する攻撃力を持ちながら呪1――ステータス呪によりその攻撃力を発揮できない天麟牙剣。

 一撃を与える毎にそのダメージに応じて呪2――金縛りが掛かる爆殺の斧。

 必ずクリティカルになるが呪3――カウンター呪により自分も死んでしまうかもしれない会心の反魂弓。

 低確率で即死攻撃が可能だが呪4――スキル呪により一切スキルが使用不可能になってしまう小悪魔の短剣。

 魔法攻撃力が5倍になる代わり5秒以内に呪文を唱えきらなければ呪5――カウントデス(5秒)で死亡してしまう骸牢の杖。

 そう、全てに呪いのアビリティが付いている全く使えない武器だったりする。


 だが例外として月読の太刀を持っている俺には呪いの効果は及ばない。

 その内の1つの大弓は、神薙の(ジョブ)スキルにも弓スキルがあるので使うことが可能のなのだ。

 何せ呪いを無効化すればこの大弓はクリティカルし放題なので使わない手は無い。

 因みに他の呪いの武器は誰も持ちたがらないので、仕方なしに俺が管理することになっている。


 とは言え、今まで弓を扱ったことが無いので弓スキルがあっても完全には使いこなせない。

 疾風と切り結んでいる『世界を総べる王』に向かって矢を射るが、クリスのように思ったところに飛ばずに外れまくっている。

 元々1発でも当たればクリティカルが発生するので俺の弓は数撃ちゃ当たる作戦だ。


 会心の反魂弓で矢を射ながら『世界を総べる王』の時間停止の能力について考える。

 俺達13人を一度に吹き飛ばしたところを見ると、時間停止は10秒くらいか?

 後は次の時間停止の再使用までの時間を考慮して『世界を総べる王』に攻撃を仕掛けなければならない。

 もし連続で時間停止が使用可能ならばはっきりって俺達にはなす術もない。だがそれはゲームバランス的にあり得ないはずだ。


 今辛うじて対抗できている疾風も実は偶然の賜物にしか過ぎない。


 時空魔法には決定的に優位に立てる魔法が2つある。

 超加速により周りの動きが超スローモーションになるアクセレーションノヴァ。

 仮面ラ○ダーカ○トのクロックアップだと思っていただければ分かりやすいかと。

 もう一つは時間停止の効果をもたらすクロノスウォーカー。


 チートとも言える魔法だが、魔法であるが故に呪文(・・)を唱えなければならないのだ。

 瞬間的に使用が求められるこの魔法にとっては呪文詠唱は致命的タイムロスになる。


 だが疾風はそれを補う方法を手に入れた。

 それは俺が譲渡した遅延魔法スキルだ。


 遅延魔法はキーワードを設定しながら詠唱し、その後で使用する魔法の呪文を唱えキーワードを唱えることによって任意のタイミングで魔法を放つことが出来るのだ。

 そしてスキルLvが上がると、キーワードを唱えなくても思考入力だけで魔法を使用することが出来る。

 それにより疾風は時空魔法の即時発動を可能にした。


 世界の中心の扉に突入する前の準備段階で疾風が行った遅延魔法の数はアクセレーションノヴァが2つ、クロノスウォーカーが3つ。

 遅延魔法の効果は30分しか持たず、30分を過ぎてしまうと魔法が消失して住まうので効率よく運用するには遅延魔法のストックが5つくらいがベストなのだ。


 最初の『世界を総べる王』の時間停止攻撃にクロノスウォーカーを1回使用したので、クロノスウォーカーの残弾は2つ。

 残弾が尽きれば再び遅延魔法を唱えなければならないが、『世界を総べる王』が悠長に待っててくれるわけではない。


「はぁぁぁっ! 剣舞六連!」


「爆裂螺旋寸勁!」


 疾風はミスティルテインと聖剣グラムを二刀流で装備して二刀流スキル戦技を放つ。

 ヴァイも防御を考えずに鬼神化の耐久力任せで拳スキルの螺旋拳と爆裂寸勁を合わせたオリジナルスキルを放つ。


「クロノスワールド」


 その瞬間、ヴァイが吹き飛び疾風と『世界を総べる王』は10m離れたところに現れる。


 ・・・うん、薄々思っていたけど、これって通常の時間の流れに居る外野には何が起こっているかさっぱり分からず盛り上がりに欠けるな。


 疾風と『世界を総べる王』を見比べてみると、やはり疾風の方がダメージが大きい。

 今の疾風の時空魔法スキルLvではクロノスウォーカーは5秒ほどしか時間を止められない。

 それに対して『世界を総べる王』の時間停止は10秒ほどだ。

 当然攻撃に差が出てくる。


 くっ、致命的なダメージを負う前にこちらの切り札を使うか?


 『世界を総べる王』の時間停止の再使用までの時間を計ったが、大体1分30秒ほどだ。

 まだ確定ではないが、再使用までの1分半ならまだ十分にチャンスはあるはず。


 疾風もそれを計算して『世界を総べる王』の時間停止を使った直後に、超加速のアクセレーションノヴァを使う。


「クロックアップ!」


 疾風は遅延魔法のキーワードを発して超加速状態に突入して『世界を総べる王』に攻撃を仕掛ける。

 もちろん俺達には知覚できないほどのスピードで攻撃しているので、ほぼ一瞬にして『世界を総べる王』に大ダメージを与える。


「・・・くっ!」


 流石に今の攻撃は『世界を総べる王』にも防げなかったらしく、苦痛の表情を滲ませる。

 ヴァイも時間停止の再使用までの間を攻撃のチャンスとみなし、ステップで一気に接敵しオリジナルスキルを放つ。


「三連爆裂寸勁!」


「舐めないで下さい! クロノスワールドを使わなくてもこれしきの攻撃防げないとでも!」


 ヴァイの放つ三連続の拳を『世界を総べる王』は剣を上手く使い見事に捌ききる。


 クリスの時もだけど、ヴァイの今の攻撃も躱すのかよ! スペックが高すぎる!

 流石はラスボスクラスの26の王か!


 だがヴァイもそれでは終わらずに駒のように回転する蹴りスキル戦技・二連旋風脚、続けざまに左右で無数の拳撃を放つ拳スキル戦技・流星拳を叩き込む。


 しかしそれでも『世界を総べる王』は上手く捌き、与えれたダメージは僅かなものだった。

 そして再使用時間が経過した為、三度『世界を総べる王』の時間停止攻撃が発動する。


「クロノスワールド」


 再び時間が動き始めるとヴァイが吹き飛び、疾風と『世界を総べる王』は別の場所に移動している。

 疾風もこれで遅延魔法でストックしていたクロノスウォーカーをすべて使い切ってしまった。

 任意のタイミングでクロノスウォーカーを使うためには遅延魔法で2・3個ストックしなければならない。


 だがその前に、世界を総べる王』の時間停止直後を狙って超加速状態に入る。


「クロックオーバー!」


 アクセレーションノヴァの2つ目のキーワードを唱えて超加速状態で大ダメージを与える。

 今の疾風の攻撃で『世界を総べる王』のHPは3割を切った。

 よし、この調子でいけば『世界を総べる王』を倒しきることは出来そうだ。

 疾風もヴァイも鳴沢とヴィオの治癒魔法の援護があるから辛うじてHPは0になることは無い。

 そして時間停止直後を狙って超加速に入れば大ダメージを与えることが出来る。

 そのためにも再び疾風に遅延魔法を唱える時間を稼がなければ。


「疾風、下がって! ヴァイ、足止めお願い!」


 疾風は瞬動で『世界を総べる王』の射程外に移動して遅延魔法と時空魔法を唱える。

 ヴァイは連続攻撃で『世界を総べる王』の足止めをする。


「うおおおおおおおおおおっ!!」


 『世界を総べる王』の時間停止の再使用が可能になるタイミングを見計らって、ヴァイは『世界を総べる王』にベアバックを仕掛けた。

 『世界を総べる王』の両腕をもがっちりホールドして締め上げる。


 ヴァイは時間停止してもこれで身動きが封じられると思ってしたのだろうが、明らかにこれは失策だ。

 むしろ密着していた分、『世界を総べる王』には確実にヴァイに攻撃を与えることが出来る。


「甘いですね。クロノスワールド」


 四度目の時間停止が起こる。

 そして時間が動き出した瞬間に俺が見たものは、ヴァイが両腕が断ち切られ剣で胸を貫かれ地面に縫い付けられている姿だった。


「がはっ・・・!?」


 時間が動き出したことによって、ヴァイのHPバーが減っていき一気に0になる。


 バカなっ!? いくら時間停止とは言え鬼神化したヴァイの耐久力をこうも簡単に上回るのかよ!?


 『世界を総べる王』の攻撃はそれだけでなかった。

 突然、鳴沢とヴィオの目の前に火属性魔法の獄炎の火球と雷属性魔法の雷の閃光が現れる。

  時間停止中に放って動きを止めていた魔法が、時間停止解除と共に一気に襲い掛かってきたのだ。


「マジックシールド!」


 鳴沢は詠唱破棄スキルにより魔法の盾を瞬時に出せたので防げたが、ヴィオは当然呪文の詠唱が唱えられずいきなり目の前に現れた雷の閃光に巻き込まれる。


 くそっ! まさか疾風のクロノスウォーカーで対抗できないだけでこうも攻撃に差があるのか!?


「ヴィオ! ヴァイの蘇生と回復を!」


 だがヴィオは雷の閃光を受けた衝撃とヴァイが倒れたことで混乱していた。


「ぁ・・・ヴァイ・・・? うそ、でしょ・・・?」


「ベル!」


「リザレクション! プリザベイション! リジェネレーション! エクストラエリアヒール!」


 鳴沢は俺の意を組んですぐさまヴァイに蘇生と再生魔法と回復を施す。

 こういう時には詠唱破棄の即効性は助かる。


 だがこれは拙い。

 疾風はまだ遅延魔法と時空魔法の詠唱に時間が掛かるし、ヴァイは一度死亡したことにより鬼神化が解けてしまっている。

 ヴィオは混乱しているので、鳴沢に治癒魔法での援護が集中してしまう。


 切り札を使うとすれば、時間停止使用直後の今しかない。


「神降し! ツクヨミ!!」


 神降しでツクヨミをその身に宿すとアマテラスの時と同様月読の声が聞こえてくる。


『私の加護を持ちし者よ。そなたに大いなる月の魔力の祝福を』


「スキル発動! Start!!」


 そして神降しでツクヨミを宿すと同時にSの王の証を発動し、会心の反魂弓を放り投げながらプチ瞬動で一気に『世界を総べる王』へ接敵する。


 太陽神・天照大神と破壊神・素戔嗚の有名な2神と違って、月読は謎に包まれた能力を持つ神様だ。

 マンガやゲームなどでは取り扱いは様々で、場合によっては悪役として登場する事もある。

 そんな月読もAngel In Onlineでは月女神として扱われ、ある特殊能力を持っている。

 場合によっては窮地を逆転できるほどの切り札にもなりえる能力だ。


 プチ瞬動で『世界を総べる王』の懐に入ると、そのまま『世界を総べる王』の体に手を当てる。


「月鏡!」


 ツクヨミの能力の発動と同時に俺は『世界を総べる王』の時間停止能力を理解する。

 クロノスワールドの時間停止効果は9秒。再使用時間は81秒。

 そして俺はすぐさま『世界を総べる王』の時間停止能力を発動する。


「クロノスワールド!」


 能力の発動と共にまわりの空間が凍結したように動きを止める。

 俺の時間停止能力を目の当りにして『世界を総べる王』は驚愕の表情を見せた。


 そう、ツクヨミの特殊能力・月鏡は敵モンスターの能力の1つを写し取る能力だ。

 特殊能力の使用条件は、敵モンスターの能力を目で確認することと敵モンスターに触れながら月鏡の能力を発動することだ。


 『世界を総べる王』は時間停止能力を使用直後なので、俺の時間停止中には動くことが出来ない。

 ここが最初で最後の最大のチャンスだ。


 攻撃手段は剣舞(ソードダンス)

 時間停止中なので避けるためのステップでなく、戦技の繋ぎのためのステップを刻む。


 ―――桜花十字閃! 桜花流星連牙! 流星龍桜閃! 天牙十字閃! 天牙流星連牙! 流星龍天閃! 神威十字閃! 神威流星連牙! 流星龍神閃!!――――


 繰り出せる限りのオリジナルスキルを剣舞(ソードダンス)で『世界を総べる王』に叩き込む。


剣舞(ソードダンス)双刃破斬(ブレイドブレイク)!!!」


 左右の刀を叩き込み終えて俺はバックステップで『世界を総べる王』から距離を取る。


 ―――そして時は動き出す。


 時間停止の効果が切れ、時が動き出すと同時に、残り3割あった『世界を総べる王』のHPバーが一気に減少する。


「・・・お見事です。貴女方は見事に己の力を示しました。

 これで私もやっと眠れる―――」


 HPが0になると同時に『世界を総べる王』は光の粒子となって消え去った。




 ――エンジェルクエスト・Worldがクリアされました――




 後はロックベル達が対応している黄龍を倒すだけだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「アックスファング!」


 ブラッシュの上下の二段攻撃による斧スキル戦技が黄龍の尻尾にヒットする。

 狩猟者(モンスターハンター)の特殊アビリティの大狩猟により大型モンスターに対して攻撃力が上昇する為、ブラッシュの攻撃は黄龍の尻尾を切断するまで至る。


「メギド!」


 七海の指向性を持った古式魔法により聖と闇の混成炎が黄龍を襲う。

 だが黄龍は口から極太の閃光のブレスを放ちメギドの炎を消し飛ばす。


 青龍が水属性、玄武が土属性を主に扱ってたように、朱雀は火属性、白虎は風属性を扱っていたそうだ。

 そして東西南北の中心である黄龍はというと、光属性を主に扱っている。

 本来の四神であれば五行(火土金水木)の属性が当てはまるのだが、AI-On(アイオン)は独自の設定と言うことになる。


 閃光のブレスはメギドの炎を消し飛ばしながら後衛の七海やおーちゃんに迫りくる。


「「フルラージシールド!」」


 そこへ舞子とジャスティが七海とおーちゃんの2人の前に立ち、盾スキル戦技を発動して閃光のブレスを防ぐ。


 俺はプチ瞬動を使い黄龍に接敵してツクヨミの月鏡を使う。

 『世界を総べる王』が倒れてしまい月鏡で写し取っていたクロノスワールドの能力は消え去ってしまったので、新たに黄龍から能力を写し取る。

 写し取った能力は今しがた黄龍が放った閃光のブレス。

 光属性魔法でも良かったのだが、今は手数が沢山いるので一撃が大きい閃光のブレスを選んだのだ。


 俺はプチ瞬動で距離を取り、大きく息を吸い込んで吐き出す。

 放たれた閃光のブレスは黄龍の頭を直撃してHPを大きく削る。

 自分の能力を使われたからなのか頭を狙われたからなのか、黄龍は怒りを露わにしてターゲットを俺に定めて襲い掛かる。


「クロノス!」


 遅延魔法のキーワードを唱えた疾風が、時間停止を仕掛けて黄龍に攻撃する。

 時間が動き出すと同時に黄龍は襲い掛かってきた方向と逆に吹き飛ばされていた。


『ぐるぁぁぁぁっ!!

 シャイニングフェザー!!』


 更に怒りを増した黄龍は光属性魔法の閃光の羽刃を繰り出す。

 光属性魔法により生み出された無数の閃光の羽刃は広範囲にわたり俺達に降り注ぐ。


 さながら雨のように降り注ぐ閃光の羽刃により俺達のHPはがりがり削られていく。

 だが閃光の羽刃が終わると同時に俺達の周りに光のエリアが現れる。


「「「「「「「エクストラエリアヒール!!!」」」」」」」


 俺、鳴沢、ヴィオ、ジャスティ、リム、ロックベル、おーちゃんの治癒魔法により俺達のHPは瞬時に回復する。


 そしてプラモの召喚したレッドドラゴンが黄龍をファイアブレスで攻撃する。




 『世界を総べる王』を倒した1班はそのままロックベル達と合流し、3PTで黄龍を相手取る。

 流石に3PTもとなると攻撃手段・回復手段も豊富で、黄龍のブレスや光属性魔法も脅威ではあるがそれほど苦労もなくHPを削っていく。


 その途中で俺はSの王の証の特殊スキルの効果が切れた為、戦線から離脱して後方から指示を飛ばす。

 まぁ、ここまで来ると俺1人抜けたくらいじゃ戦況にはそれほど影響は無い。


 多少時間はかかったものの、黄龍は倒され光の粒子となって消え去った。


 俺達はお互い労いながら『世界を総べる王』と黄龍との戦闘を称えあう。


「フェンリル、やったな。

 これで26の王は後2人だ。ついにここまで来たんだな」


「ええ、ありがとう。

 そうね、後2人・・・後2人でゲームクリア。やっと外に出れる希望が見えて来たわ」


 俺はロックベルに言われてエンジェルクエストのクリア――現実世界帰還への希望の実感が湧いてきた。


「そう言えばドロップ品はどうなっているんだ?

 『世界を総べる王』曰く、Wの王の証は途轍もなく危険だって話だが」


 そう言えばそうだ。

 クリスに言われるがまま、俺達はPT用ストレージにドロップしているWの王の証を確認する。


 Wの王の証

 『世界を総べる王』を倒した、または認めてもらった証。

 ※QUEST ITEM

 ※譲渡不可/売却不可/破棄不可

 ※王の証を所有した状態で死亡した場合、王は復活します。

 ※特殊スキル「World」を使用することが出来る。

 効果:24分間、天地創造を使うことが出来る。

    天地創造:Angel In Onlineの世界を全て破壊し、創りかえることが出来る。

    特殊スキル効果終了後、24時間「World」のスキルが使用不可能になる。

               24時間、全てのステータスが1になる。


 なんじゃこりゃ・・・

 世界を創りかえるって・・・神様レベルのスキルじゃん。


「これはまた・・・随分と過激な能力ね」


 鳴沢はため息交じりに呟く。

 鳴沢だけではない、みんながみんな思わず息を呑んでいた。

 否、1人だけよく分かってない人物が居た。


「お姉様、これってもしかすればあたし達外に出られるんじゃないんですか?

 天地創造でログアウト不能を解除した世界を創り上げれば」


 舞子の言いたいことはよく分かる。

 だが、Wの王の証にはこう書かれている。全てを破壊し(・・・・・・)と。


「はぁ、舞子。文章をよく読め。天地創造が使われたら俺達プレイヤーも(・・・・・・・・)消えて――死亡してしまうんだぞ」


「・・・あ」


 天夜の言葉に舞子もようやく気が付いた。

 この特殊スキルを使えば残るのは使用者のみ。他の全プレイヤーを大量虐殺してしまうある意味極悪スキルだ。


「ベル、分かってると思うけど、これは絶対使わないでね」


「言われなくても」


 AI-On(アイオン)の開発者も何を考えてこんな特殊スキルを作ったんだか・・・

 デスゲームじゃなくてもこれって使い道が無いスキルのように感じるんだがな。


「ところでロックベル、そっちの黄龍のドロップ品はどうだったの?」


「ああ、黄龍のドロップアイテムは光の刃が形成される光剣だな。いわゆるライトセーバーだ」


 ライトセイバーと言えば映画・星戦争に出てくるアレを思い浮かべてしまうが、ロックベルに見せてもらったところどちらかというと普通のバスターソードの刃の部分が光になっている剣だった。

 ただ、その光の刃の部分が自在に長さ大きさを変えることが可能になっているので、かなり使い勝手がいい武器だ。


 因みに、朱雀のドロップアイテムは炎を纏い火属性攻撃を一切無効化する炎の羽衣、白虎のドロップアイテムは風神鬼と雷神鬼を召喚する召喚アイテムだったそうだ。


「ロックベルには色々助かったわ。改めてお礼を言わせてもらうわ」


「よせよ。俺達とフェンリルの仲じゃねぇか。

 こっちとしても白虎と黄龍で美味しい思いもしてるからな。まるっきりの無償奉仕って訳でもないんだ。気にするな」


 ロックベルは照れながらぶっきら棒に言い、あさっての方を向く。

 それでも俺達はロックベル達に感謝をしていた。

 彼らが居たからこそ、黄龍を引き受けてもらい『世界を総べる王』に集中することが出来たのだ。



 まぁ、何はともあれこれでAの王とBの王の2人のみ。

 エンジェルクエストの全クリアは確実に近づいている。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エンジェルクエスト攻略に関するスレ20


812:光の王子

 うおおおお!

 ついに『世界を総べる王』がクリアされた!


813:アルフレット

 これで残るはAの王とBの王だけだね


814:ダードリック

 と言うか、未だにAとBの王の正体が分からないのはどういうことなんだろ?


815:ハイブリッジ

 いや、Aの王はAngelで決まりでしょう

 何せエンジェルクエストなんだもの

 Aの王がAngelでなくてなんだというんだ


816:天使な小悪魔

 いあいあいあ

 もしかしたらAccessかもしれないよ?


817:ヴァルハラ

 そして登場するのはAccess社の社長とかww


818:光の王子

 だったら尚の事Aの王討伐に力が入るね


819:ハルシフォム

 その時は『Angel Out』たち攻略ギルドに思いっきりやってもらおうよw


820:ダードリック

 >>819 いいねそれwww


821:AVENGERS

 うーん、それだと自分たちの手で倒せないのはちょっと不完全燃焼になるな

 まーそれで外に出れるならいいけどw


822: シンドバット

 Aの王はいいけど、いい加減Bの王もはっきりして欲しいよね


823:光の王子

 ああ、そうだね

 今まで出てたBの王の候補としてBeast、Bomber、Barn、Bigとかだっけ?


824:とろろてん

 あとBastardってのも出てたよ


825:アルフレット

 うーん、その中じゃBastardが一番の有力候補かな?

 『粗悪の王・Bastard』とか


826:プリンちゃん

 いえいえ、それだったらまだBeastの方がましですよ

 『全ての獣の王・Beast』の方がかっこいいです><


827:ハルシフォム

 ちょっと待った! Barnに決まってるだろ! 何てったってDQダイ○大冒険のラスボスだよ!

 老人体系から若者体系へ変身し、カイザ○フェニックス、フェニックスウイ○グ、カラミティウォ○ルを使いこなす『魔界を照らす王・Barn』しかないだろ!


828:光の王子

 >>827 それだとAの王を超えるラスボスだよ^^;


829:ライジングサン

 だけど今まで名前すら出てこないのも考えるとどれも違うような気がするなぁ


830:天使な小悪魔

 そうなんですよねぇ

 もし上記の名前がBの王だとしても未だに名前すら出てこないのは何ででしょうね

 Aの王は最後の王だから何となく分かるんですが


831:AVENGERS

 あーもしかしてBuildがBの王の名前だったりして

 『創りあげる王・Build』

 全プレイヤーが今まで行ってきた行動により姿・能力・性格が決まる王・・・とか?


832:シンドバット

 ・・・なんかそれありそうな気がしてきた


833:光の王子

 うん、Access社ならやりそうだ


834:嵐を呼ぶ旋風児

 そういやこのゲームのキャッチコピーが『作るのではない、創りあげるVRMMO-RPG』だったっけ・・・






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