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Angel In Online  作者: 一狼
第14章 World
63/84

59.神狼と狼御前

 突然現れた銀毛の狼――神狼フェンリルは再び玄武に向かって行く。

 弾き飛ばされた玄武は上手い具合に着地して神狼に向かって土属性魔法を放つ。


「玄武はわたし達が押さえておくわ。貴女はまずは仲間の回復を」


 神狼と共に現れたのは銀髪の巫女だった。

 神狼と同じ流れるような銀の髪をポニーテールにしていて、巫女でありながら何故か左の腰には2本の刀を差していた。

 多分、俺と同じような刀で闘う戦巫女なのだろう。


 俺は取り敢えず現状の確認は後にして幽霊状態のリムを最優先に蘇生魔法の呪文を唱える。


「リザレクション!」


 蘇生魔法を受けたリムはすぐさま立ち上がり、死亡したことにより解けてしまったBuffを再度掛け直す。

 もちろんプリザベイションを掛け直すことも忘れない。


「フェンリルさんありがとうございます」


「いえいえ。それよりもみんなの呪いの解呪を手分けしましょ」


 呪いの解除には聖属性魔法のリムーブカースしか効果が無い。

 聖属性魔法を使えるのは俺とリムと聖騎士(パラディン)のジャスティ、そしてサブスキルに聖属性魔法を持っているフリーダだが、ジャスティは今は金縛り状態で、フリーダはスキル封じで魔法が唱えられない。


 唯ちゃんとるるぶるさんはステータスダウン状態で、アイちゃんは攻撃すると自分にダメージが返ってくるカウンターの呪いを受けてるため玄武にはなかなか攻撃できず助っ人に現れた巫女に任せて呪いの解呪を待っていた。


 俺とリムとでジャスティ達の呪いを解呪していく。


「ありがと。貴女のお蔭で助かったわ」


 神狼に指示を出している巫女に近づいてお礼を言う。


「気にしないでいいわよ。わたしもこっちの都合で玄武を倒しに来ただけだから。

 わたしは狼御前。あの銀毛の狼はユニークボスのフェンリルよ。敵ではないから心配しないでいいわ」


「わたしはフェンリルよ。

 神狼はユニークボスだったのね。冬華都市で神狼と玄武の事を聞いていたから神狼は味方のつもりでいたけど、言われてみれば敵になりうるモンスターでもあるのよね。

 狼御前に従っているみたいだけどどういう事?」


 狼御前は俺の名前を聞いて驚きの表情をするが、詳しい話は玄武を倒してからと言う事で俺達は共闘を開始する。


「フェンリル! あなたは背後から尻尾の蛇を牽制して!

 フェンリルは・・・ってこっちもフェンリルね。ええっと、剣の舞姫(ソードダンサー)はわたしと一緒に玄武の前面をお願いするわ」


「了解。

 ジャスティとるるぶるさんは右側から、唯ちゃんとアイちゃんは左側から玄武の足を狙って。

 リムとフリーダは後方支援をお願い」


 俺はプチ瞬動で玄武の頭まで近づき二刀流スキル戦技・閃牙剣舞を放つ。

 刀の突きと回転切りを受けた玄武はそれをものともせずに土属性魔法を放ってくる。

 だがその呪文の詠唱を狼御前が刀スキル戦技で邪魔をする。


「はぁぁぁっ!!」


 狼御前は腰に差した刀を右手で刀スキル戦技・居合一閃で攻撃し、続けざまに左手で逆手で刀を抜き刀スキル戦技・桜花乱舞を放つ。


 しかしそれでも玄武は呪文詠唱を止めず土属性魔法の岩石波を再びは放ってくる。

 離れていたリムとフリーダには攻撃範囲外で影響は無かったが、俺と狼御前はもとより、玄武は岩石波の扇状の効果範囲を広げていたので左右で攻撃をしていたジャスティ達にも岩石波の攻撃が襲い掛かった。


『チェーンバインド!』


 玄武の後方に居た神狼は効果範囲外だったが、尻尾の蛇による束縛魔法により地面より現れた鎖に絡められて神狼は3分間その場に動きを封じられていた。


 おおおい! 仮にも俺と同じ名前の神獣が簡単に封じられるなよ!?


 そもそもチェーンバインドは成功率が低い魔法にも拘らずいとも簡単に動きを封じられた神狼に思わず内心叫んでしまう。


 尻尾の蛇は神狼を封じたことによって自由に動けることになったので、岩石波の影響で足下が覚束ないジャスティ達に向かって牙を剥く。


 これまでの攻撃によりジャスティ達のHPがかなり減っていたので俺は自分(・・)に治癒魔法を掛ける。


「エクストラヒール!」


 自分に掛けた治癒魔法でHPが回復すると同時に、ジャスティ達PTメンバーのHPも回復していく。

 これが神降しをしたオオクニヌシの特性の一つだ。

 医療の神と称されるだけあって、自分に掛けた治癒魔法がPTメンバー全員に同じように治癒魔法の効果が現れるのだ。


 隣では狼御前が自前のポーションでHPを回復していて、後方からはリムが完全に回復しきれていないPTメンバーのHPを回復している。


 再び俺達は玄武に向かって攻撃を仕掛ける。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 俺達と玄武はお互いに繰り返しながら攻撃と回復を続けるが、玄武の真骨頂はこれからだった。


『パラライズブレス!』


『ポイズンニードル!』


 亀の頭からは麻痺のブレスが吐き出され、尻尾の蛇からは毒の針が飛んでくる。

 麻痺のブレスによりアイちゃん麻痺2――全身麻痺、ジャスティが麻痺1――部分麻痺により両手が、るるぶるさんが麻痺5――心臓麻痺の状態に陥る。


 幸い他のメンバーは麻痺耐性のアクセサリーを付けていたりするので麻痺に掛からずにいた。

 俺も麻痺無効化の無麻痺のネックレスのアクセサリーを付けていたので麻痺の影響は無かったんだが、毒の針が俺に向かって飛んできて毒2――麻痺毒を受けてしまう。


 麻痺毒は全身麻痺と同じ効果があるため、俺は呪文も唱えられずその場に崩れ落ちる。

 戦場で無防備の状態を晒すのは危険だが、るるぶるさんの心臓麻痺もヤバい。


 ゲームデータである身体(アバター)に心臓があるのかは疑問だが、今のるるぶるさんの状態は即死とまではいかないが呼吸が出来ずに死へのカウントダウンが始まっている。

 そう言う意味では麻痺5は呪5のカウントデスよりもたちが悪い。


「「キュアパラライズ!」」


 後方からリムがるるぶるさんへ麻痺解除の治癒魔法を唱え、ジャスティは自前で麻痺1の解除を行う。

 フリーダが後方から牽制を行い、その間に狼御前が俺にキュアポイズンポーションを飲ませてくれる。

 うむむ、これでは鎖に縛られてる神狼を非難できないな。


「けほっ、ありがとう、助かったわ。

 まさか呪い以外にも他の異常状態攻撃を行ってくるとは。この調子じゃ石化や魅了の異常状態まで使ってきそうね」


「あり得そうね。

 でも少なくともこの場には3人の治癒魔法使いが居るからよほどのことが無い限り全滅はあり得ないと思うわ」


 ん? 3人?

 神薙の俺と武装法師(アーマービショップ)のリム、聖騎士(パラディン)のジャスティ、戦巫女だと思われる狼御前の4人じゃないのか?

 俺のその疑問の眼差しを受け取ったのだろう。


「残念だけどこの恰好は好きだからしてるだけで、わたしは戦巫女じゃないわ。剣豪よ」


 なんとまぁ。確かに侍職だからと言って巫女の格好をしてはいけないということは無い。

 これが対人戦であれば油断を誘うことが出来るので彼女を咎めることは出来ないが、何とも紛らわしい。


 だが狼御前の言う通り3人の治癒魔法使いが居るので玄武の異常状態攻撃も際どいながらも対応できている。

 特に俺のオオクニヌシの範囲治癒が大いに役に立った。

 時には混乱、時には魅了、時には石化など様々な異常状態をブレスによる広範囲攻撃や、針による単体攻撃もあったりしたのだが、幸いと言うか全員が同時に行動不能になる事態には陥らず何とか凌ぎきり玄武に攻撃を仕掛け続ける。

 もっともヴァンパイアブラッドの覚醒しているジャスティには魅了は通じず、竜人化した唯ちゃんには石化の効果は効かなかったのでそれだけでも大助かりだった。


 神狼の方も束縛魔法から解放された後、尻尾の蛇を妨害すべく果敢に挑むが、神獣であるのかも疑わしくことく如く異常状態に掛かっていた。

 なんかかつてアルテミ様と一緒に玄武を追い払った神獣とは思えなくなってきたよ。




 そんな中、玄武の防御力に手間取っていた俺達は大技の一撃を決めるべく俺は前線より少し後方で準備を開始する。

 このオリジナルスキルの鍵となるのは投擲スキル。

 少し前にある理由により遅延魔法スキルは疾風に譲ってある。

 その代わりに俺は2つの理由によりサブスキルに入れたのがこの投擲スキルだ。


 投擲スキルは手裏剣や飛苦無、チャクラム、ボールなどといった手で投げることが出来る武器を扱うためのスキルだ。

 しかしながらその中には普通の武器も含まれるのだ。

 手に持って扱う時にはそれぞれの武器スキルが必要だが、投げた瞬間に例外的にその武器は投擲武器に変わるのだ。

 その為、剣や斧や槍など投げて最良の効果が発揮されるには投擲スキルが必要になる。


 俺はその説明を聞いてある小説で読んだ射刀術が使えるのではないかと考えたのだ。

 そして出来たのがこのオリジナルスキル。


「ファイヤージャベリン!

 アクアランス!

 ウインドランス!

 ストーンジャベリン!

 サンダージャベリン!

 アイシクルランス!

 ホーリーランス!

 エネルギージャベリン!」


 使うのは伝説級の武器・妖刀村正、輪唱呪文による8属性魔法の槍、投擲スキル戦技・一点投射、刀スキル戦技・閃牙咆哮、そして神降しスキルによるオオクニヌシの力――


「――八千矛神(やちほこ)!!!」


 8種の魔法の槍を宿した妖刀村正は、俺の刀スキルと投擲スキルの戦技の影響を受けてオオクニヌシの力を纏いながら玄武に向かって一条の閃光となって飛んでいく。


――ボゴン!!


 俺の放った妖刀村正が玄武の甲羅をぶち抜き体に大穴を開ける。

 普通であればゲームのデータであるためどんなに斬りつけようがモンスターの体には傷が一つもつかない。

 だが今目の前にいる玄武の体には大穴が消えることなく表示されている。

 よく見れば玄武には欠損Buffが付いていた。

 と言うか、大穴も欠損Buff扱いかよ。


 投げた妖刀村正は玄武を突き破り遥か彼方まで飛んで行ったが、俺が念じることによって再び右手に妖刀村正が現れる。

 これが投擲スキルをサブスキルに入れた2つ目の理由だ。


 普通、武器は装備していても相手に取られて使われることが可能だ。

 ただし、あくまで使われることが可能であって奪われるわけではない。

 実際には装備している人の武器であるからだ。使われるにしても十全にその武器の効果が発揮されるわけでもない。

 相手の装備している武器を奪う方法はただ1つ。

 相手の武器を持っている状態で相手が死亡した時だけだ。


 話が少しそれたが、俺の妖刀村正は相手に取られることは無い。

 何故なら念ずれば再び俺の手に戻ってくるからだ。

 これが呪われてる武器の所為なのか妖刀村正が意思(AI)でも持っているのかは分からないが、離れたところに置いていたはずの妖刀村正が俺の手に戻ってきたときはビックリしたのは記憶に新しい。

 そのことにより妖刀村正は投擲スキルとは相性がいいのだ。


 再び右手に戻ってきた妖刀村正を構え玄武のHPを見るとまだ1割弱ほど残っていた。

 流石に防御力に長けた亀だけはある。

 あの一撃はそこら辺のユニークボスでもほぼ一撃で葬れるほどの威力があったはず。

 何せオオクニヌシの別名の八千矛神は伊達ではない。


 そんな玄武に止めを刺すべく、名誉挽回とばかりに神狼が大きく跳ね上がる。


「フェンリル、神狼抜刀牙!」


『オオォォン!』


 狼御前の掛け声とともに神狼は高々と跳ね上がった上空から縦に高速回転をし、玄武に己の牙を叩き込む。


 ズガァァァン!!!


 狼御前さん、それって流れ星の異名を持つ銀の犬の必殺技じゃないですか。

 つーか、神狼。お前、狼の癖に犬の必殺技使うなよ。や、必殺技の名前に狼は入っているけどね。


 今の一撃が止めとなり玄武のHPは0となり光の粒子となって消える。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「はぁー、何とか勝つことが出来たぁ。

 まさか異常状態の攻撃はこんなにも厄介だなんて・・・もうこりごりよ」


 玄武に勝てたのは正に運が良かったからとしか言いようがない。

 それほどまでに異常状態は厄介だったのだ。

 全員が同時に麻痺又は石化、混乱、魅了に掛かってしまえば全滅もあり得たのだ。


「お疲れ様。確かにこれほどまでの攻撃は無いわね。

 でもこんな攻撃をしてくるのは玄武くらいのものだからそんなに心配する必要もないと思うわよ」


 狼御前が共闘の苦労をねぎらいに俺の傍へとやってくる。

 彼女の助っ人は大いに助かった。

 神狼フェンリルはもちろん、その戦闘力や様々なポーションで援護してくれたのは感謝の一言に尽きる。

 実際、俺達だけでは異常状態の回復に間に合わないこともあったからだ。


「改めてありがとうね。お蔭でだいぶ助かったわ。

 まぁ、いろいろ聞きたいこともあるけど取り敢えず冬華都市に行ってからにしましょう。

 もちろん狼御前も来るわよね?」


「あら? あの都市、氷のドームから解放されたの? と言う事は、フェンリルが力を取り戻したのはあの氷の樹の影響・・・かな?」


「詳しいことは都市に行ってからね」


 俺達が玄武洞の外へ出るころにはすでに辺りは日が落ちて真っ暗だった。

 このままここで夜を明かしても良かったのだが、流石にこれ以上の戦闘は精神的にも負担だったので少し無理をして騎獣で冬華都市まで突っ走った。


 転移門を開放した影響で冬華都市には何人かのプレイヤーの姿が見えたが、宿の方はそれほど埋まっておらず遅い時間にも拘らず直ぐに取ることが出来た。

 俺達はそこで狼御前を含めた慰労会を開く。


「知らなかった・・・ユニークボスってテイム出来たんだ・・・」


 そこで狼御前から神狼の関係とこれまでの経緯を聞いたのだが、なんと神狼は狼御前が調教スキルでテイムしたモンスターだった。

 狼御前は冬華都市の北東にある小山を住処にしている神狼と戦闘になり、数時間に及ぶ戦闘で弱らせたところ偶然にも調教スキルを発揮して仲間にすることが出来たのだとか。


「26の王以外のモンスターは全てテイムすることが出来るって聞いたことがあるわ。

 もっとも強力なモンスター程テイムする確率は低いし、ユニークボスに至っては何かしらの特殊な条件も必要みたいだけどね。

 わたしは運よくフェンリルのテイム条件を満たしてたみたいだからテイムすることが出来たみたい。ついでに言えばフェンリルも玄武の呪いの効果で弱体化していたのが大きいわ」


 神狼はかつての玄武との戦闘で玄武に呪いを掛けられて弱体化していたらしい。

 そんな体でありながら小山で玄武の動向を見張りながら玄武を倒す機会を虎視眈々と伺っていたのだとか。

 そして狼御前が神狼を仲間にした後謎の光によって玄武の呪いが解け、再び玄武と決着を付けるべく玄武洞へと向かったのだと。


「あ~、あの時の冬華樹の光って神狼の呪いを解くための光だったって訳ね」


「そうね、剣の舞姫(ソードダンサー)の話を聞く限りじゃその時の状況とフェンリルの呪いが解けるのが一致するわ。

 それにしてもここまで流れが一つになるのも珍しいわね」


 まぁ、確かに月神ルナムーン関係や神狼フェンリル関係が一堂にそろっての玄武討伐だ。狙ったわけじゃないけどこれもまた運がいいとしか言いようがない。

 使ったわけじゃないけど月神様関係でSの王の証のLUC上昇の効果かもと疑いたくもなる。


「因みに神狼のテイム条件って何なの?」


「う~ん、ハッキリとは断言できないけど、まずはLvが80以上でプレイヤー名に狼関係の名前が付いてることが条件だと思う」


 ・・・なんだその条件は。

 はっきり言って普通のプレイヤーがテイムするのはほぼ不可能じゃないのか。

 あ、もともとユニークボスであることを考えれば初めから不可能に近いのだが。

 そう言う意味では狼御前は運がいいとしか言いようがないな。


 その肝心の神狼だが、召喚獣や顕現獣とは違うので狼御前のサブプレイヤー扱いとなるので常に引き連れて歩かなければならない。

 その為、神狼は今冬華都市の中央の冬華樹の根元で休んでいる。

 そして冬華都市の住民は神狼フェンリルの来訪に夜中であるにも拘らずお祭り騒ぎになっていた。


 当然俺達が止まることになった宿もこのお祭り状況に乗っかり、遅めの夕食にも拘らず大盤振る舞いだった。

 俺達は神狼フェンリルを引き連れて玄武を倒したという事で、アルテミ様の再来と言われ大層な歓迎を受けたりもした。おまけに俺が月神様の加護を受けて月読の太刀を持っていることで更に歓迎に拍車をかけた。


 いつの間にか都市全体を巻き込んでの宴会状態になり、俺達はそれなりにどんちゃん騒ぎをしながら一夜を明かした。




1月6日 ――159日目――


「それじゃ、ベルちゃんとクリスによろしく言っておいてね」


 翌朝、狼御前はそう言って朝一番で冬華都市を去って行った。

 って、え? 狼御前って鳴沢とクリスの知りあいなのか?


「マスター、御前さんがベルの知り合いだって知ってたの?」


「・・・いえ、今知ったわ。意外と世の中って狭いのかもね」


 唯ちゃんの疑問に俺は呆然としながら答える。

 狼御前は神狼のお願いを聞いて玄武を倒しに来たと言っていたが、もしかして鳴沢のギルドメンバーである俺達を助けるために助太刀に現れたのかもしれない。

 折角だから鳴沢達に再開の挨拶くらいしていけばいいのにと思ったが、狼御前にもいろいろ理由があるのだろう。


 俺達は北の玄武を攻略したので西の白虎を攻略する為、王都の転移門経由でウエストシティに向かう事となる。

 南の朱雀の方も攻略したと連絡があり、俺達よりも少し先の昨日の夜にウエストシティに到着したそうだ。


 鳴沢達は南の火山都市メタルハーツの門番でユニークボスでもある特殊ゴーレムを撃破して、プレイヤーの火山都市への行き来を出来るようにした。

 そして冬華都市と同じく火山都市の転移門を開放して王都からも簡単に行けるようになったそうだ。


 新たな都市の解放にプレイヤー達は大いに賑わった。

 特に火山都市はドワーフの都市として有名でオリハルコンやヒヒイロカネ等の最上級の鉱石を扱っており、生産プレイヤーにとっては夢のような都市だ。

 後で聞いた話によると朝霧さんも我一番と火山都市に工房を構えて新たなレシピとアイテム作成に向かって行ったそうだ。


 そのまま火山都市を拠点として火山火口に住まう朱雀を苦労の末倒したのが昨日の昼頃という訳だ。


 俺達はそのまま鳴沢達と合流し、お互いの北と南の情報を交換する。

 そこで狼御前の事を放すと鳴沢とクリスは驚いていた。


「相変わらずギルドには所属していなんだな。御前らしい。

 それにしてもユニークボスをテイムするとは・・・フェンリルに劣らず彼女もいろいろ規格外だな。」


「もう、御前ったら・・・折角だから挨拶くらいしてもいいのに。

 彼女の事だから多分フェルの言う通りわざわざ助っ人に来てくれたと思うよ」


 狼御前は鳴沢がギルド『ELYSION』に加入する前に一時期PTを組んでいたらしい。

 何でも狼御前はギルドにいい思いが無いから『ELYSION』には加入しなかったのでそこで別れたそうだ。

 ギルド嫌いなのに助太刀に現れたのはやはり鳴沢との繋がりがあったのからだろう。

 ・・・本当にただの偶然だという事もあり得るかもしれないな。それはそれで物凄い運命じみた感があるが。


 無事合流を果たした俺達は水の砂漠に住まう白虎を攻略するために準備を開始する。

 手始めにアイテム等補給係と情報収集係に班を分けて行動を開始するが、意外な事に情報班からもたらされたのは白虎が既に攻略されているという事だった。


「え!? 白虎はもう攻略されているの!?」


「はい、とあるギルドが水の砂漠でユニークボスである巨大大砂虫と共に、白虎を撃破したという情報が上がってきています。

 時期的には私が四神を攻略に向かったのと一致します」


 情報班の班長であるるるぶるさんの報告に俺は驚きの声を上げる。

 確かに俺達が四神を倒さなければならないということは無い。別に俺達じゃなくとも他のPTやギルドが倒してくれれば俺達にとってもありがたいことだ。

 だが攻略された時期が俺達と一緒というのが少し気になる。


「るるぶるさん、その白虎を攻略したギルドって何処だかわかる?」


「四神・白虎を攻略したのは俺達だよ」


 突然会話に入ってきたのはギルド『大自然の風』のギルドマスター・ロックベルだった。

 ロックベルの後ろには『大自然の風』のギルドメンバーが控えていた。


「ロックベル! え? 貴方達が白虎を倒したの?」


「ああ、俺達が白虎を倒した。

 水臭いじゃないか、フェンリル。少しくらいは俺達にも協力させろよ。何でも自分たちのギルドで解決しないでさ。

 フェンリルたちが『世界を総べる王』を倒すために四神を倒しに向かったという情報を得てな。

 お節介とは思いつつも俺達も『世界を総べる王』攻略に協力しようということになってな。それで後回しにされていた西の白虎に向かったってわけだ」


 ロックベルの言葉に俺は呆然とする。

 確かに王会議や掲示板等で26の王の攻略には他のギルド等の協力は惜しみませんって言っていたけど、実際協力するとなると撃破PTでもなければメリットが無いので協力するギルド等は殆んど皆無だった。

 確かに今回の白虎はロックベル達にもそれなりにメリットはあっただろうが、まさか協力を申し出て来るとは思わなかった。


「ロックベル、ありがとう。助かるわ」


「なぁに、良いって事よ。俺とフェンリルの仲じゃねぇか」


 確かにロックベルとの付き合いはAI-On(アイオン)が開始当初からのものだ。

 なんだかんだと言いながら長い付き合いだ。

 意外と縁の力と言うのも馬鹿に出来ないな。


「それじゃあ少し予定が変わったけど、準備が出来次第王都のセントラル城へ向かいましょう」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 セントラル城のロビーにてセンタが呼び出した『世界を総べる王』へ続く扉を目の前にする。

 最初見た時の中央に集まっていた3つのレリーフは見事に上下左右の端に寄っていた。


「見事四神を倒したことにより、この世界の中心の扉の鍵は開きました。

 この扉を潜れば直ぐに『世界を総べる王』との対面となります。準備はよろしいですか?」


 センタの言葉に俺達は頷く。

 どうやら扉の向こうにはダンジョンが広がっているのではなく、26の王『世界を総べる王・World』の戦闘フィールドになっているらしい。

 俺達は各自強化Buffを掛け、『世界を総べる王』への戦闘準備を整える。


 突入PTは、『Angel Out』の俺、疾風、ヴァイ、唯ちゃん、クリス、鳴沢、ヴィオの第1班と、ジャスティ、舞子、天夜、アイちゃん、るるぶるさん、リム、フリーダの第2班、そして『大自然の風』のロックベル、リック、ブラッシュ、景虎、七海、おーちゃん、プラモの総勢21名の3PTとなった。


 複数PTでの戦闘となると広範囲魔法が制限されてしまうが、今までの経験から『世界を総べる王』の他にもユニークボスが居る可能性が高い。

 それに備えての3PTだ。

 もしユニークボスが居なくても相手は『世界を総べる王』、26の王の中でも最強ランクと思われる王だ。

 織田信長の鉄砲の三段撃ちじゃないが、3PTを入れ替えしながら『世界を総べる王』と戦うことが可能になるので手数が多いに越したことは無い。


 全ての準備が終えたのを確認して、センタに世界の中心の扉を開けてもらう。


「それでは皆様方、御武運をお祈りしております」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ギルド間情報交換スレ9


111:朝比奈さん

 そう言えば冒険者ギルドにギルド用のクエストがあるってホント?


112:華麗なる管理人

 ありますね

 ただそれほど大したクエストでもないですよ?


113:番台

 あるけど仲を深めるためのコミュニケーションクエって感じかな?


114:朝比奈さん

 そうなんだ・・・何か特別なイベントでも起こるのかと期待してたんだけどなぁ


115:マグナム77

 あー、でもギルドクエストをこなしていくとレアクエストが出てくる可能性があるかも


116:華麗なる管理人

 その可能性はありますね

 普通のクエストでも依頼者と仲良くなると特殊なクエストが発行されますからね


117:朝比奈さん

 もしそうだとしたらちょっと期待大^^


118:ジャックランタン

 ギルド同士で協力して攻略するクエストもあるよね


119:一福神

 その場合は攻略ギルドと仲良くなっていると楽が出来るw


120:番台

 >>119 寄生はよくないよ~


121:一福神

 寄生ちゃうよ

 お互いの協力によってボスモンスターも楽々撃破~


122:天然夢想流

 や、119の言い方だと寄生っぽく聞こえるぞw


123:華麗なる管理人

 ですね


124:一福神

 ちょw ひどw


125:マグナム77

 まぁ確かに『Angel Out』とか『月下美人』と協力クエをやったらこっちが楽してるみたいになってしまうよなw


126:番台

 確かにw


127:アイザック

 でも実際、攻略ギルドは凄いからなぁ

 俺らにしてみれば天上の人だし


128:朝比奈さん

 だね、『Angel Out』をAQ攻略筆頭に『月下美人』『GGG』『桜花伝』『Noble』

 王の証を持っていないけど『神聖十字団』『黒猫』『大自然の風』『9人の女魔術師』『エイトドラゴン』なんかも凄いよね


129:ジャックランタン

 あ、でも『GGG』は最近あまりいい噂聞かないな


130:華麗なる管理人

 そう言えばそうですね

 ギルドメンバーの素行の悪さが目立ってるみたいです


131:マグナム77

 あれ? そうなんだ?

 俺最近『GGG』の人と会ったけどそんな感じしなかったけどな~


132:一福神

 それよりも『Angel Out』と仲良くなる方法はないのか!?

 是非ともギルマスのフェンリルちゃんと仲良くなりたい!


133:朝比奈さん

 ちょw ここにも舞姫信者がww


134:華麗なる管理人

 >>133 簡単です。『Angel Out』に入ればいいんですよ

 そうすればギルマスのソードダンサーとも仲良くなれます


135:一福神

 ちょwww 俺に死ねと言うのか!?www


136:天然夢想流

 あー、でもこれから攻略に専念するからメンバー募集はもう締め切ったみたいだよ?

 人数もある程度揃ったみたいだし


137:一福神

 ・・・ほっとしたような、残念なような・・・







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