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Angel In Online  作者: 一狼
第13章 Hell
58/84

54.死神と闇の魔女

「アルゼ=ブエノス・・・!」


 俺達に話しかけてきたPTのリーダーとらしき男は魔術師風の装備を身に纏い、2mはあろうかという杖を掲げていた。

 顔は整ってはいて笑顔を絶やさず当りの良さそうな人物に見えるが、その眼は笑ってはおらず他人を見下したように見えた。

 俺の印象は甘い言葉で巧みにすり寄ってくるインテリヤクザに見えた。特に眼鏡がその雰囲気を醸しだしていた。


 気配探知・魔力探知で警戒していたのだが、新しいダンジョンで高Lvモンスターとの戦闘直後だったので油断していた。

 突如現れたPTを見た天夜が睨むようにしてそのリーダーと思わしき男の名前を言う。


「アルゼ=ブエノスって・・・あの死神の?」


「ああ、PKをしながらもAI-On(アイオン)のトッププレイヤーの5人に入っている死神だ。

 奴の後ろにいるのは奴が創りあげたPKギルド『死神の鎌』のメンバーだろう。俺達も・・・と言うより舞子の奴が一度奴のギルドの勧誘を受けてな。

 舞子は言葉巧みにギルドへ加入させられそうになったが、当然俺がそれを断ったよ。

 多分舞姫親衛隊と同様、いいように使われてたかもしれないしな」


 ああ、舞子の事だからありそうな感じがするな。

 アルゼにしてみれば舞子は良い駒になりそうだったのだろう。舞姫親衛隊の件があるからそれに目を付けたのかもしれない。

 そうなると天夜が舞子のお目付け役として一緒に居たのは決して間違いじゃなかったのだろう。それがリア充として結びつくかは別として。


「それで? わざわざついさっき解放された未踏破ダンジョンに進入してまでわたし達に何の用?」


「それはさっきも言いましたよ。剣の舞姫(ソードダンサー)、貴女達はここでリタイヤしてもらいます。

 ああ、ここで俺とフレンドになってもらえば見逃してもいいですよ。友達を手にかけるのは忍びないですからね」


 アルゼはどの口がほざくのかいやしゃあしゃあと言う。

 ここでリタイヤさせに来たというより、奴の目的は同じトッププレイヤーの俺・・・もしくは疾風をフレンドリストに登録させて始末する事だろう。

 ついさっき開けられた地獄門のダンジョンで俺達を狙ったのは他のプレイヤーに邪魔をされないようにするためか。


「あのな、お前のその手口はばれてんだよ。

 と言うか、このメンツに喧嘩売って勝てると思ってるのかよ」


 俺達は7人のフルPTで向こうはアルゼを入れて5人PTだ。

 ヴァイの言う通り俺達のPTにはただでさえユニーク職が2人もいるし、トッププレイヤーと言われている疾風だっている。

 普通に考えれば無謀の一言に尽きるだろう。

 だがアルゼの手法を考えれば一概にもそうとは言い切れない。


「さて、それはやってみなければわからない事。まぁその答えの代償は貴方方の命ですがね」


「ああ、そうかい。だったら力ずくでも分からせてやるよ」


 ヴァイはそう言いながら戦闘態勢を取る。

 狙われたのが戦闘直後というのが痛いな。

 碌にHPの回復もしてないし、ヴァイに至っては鬼神化でMPの消費が激しかったはず。


「残念ですがそれは叶わぬ願いですよ。

 フレンド召喚、バルテロ、プラチナハート、オメガハンター、汐崎、カーニバルフェスティバル、八十八九十九、レディージジ」


 アルゼの召喚に応じて7人のプレイヤーが魔法陣より現れる。

 死霊術師(ネクロマンサー)であるアルゼは死霊召喚魔法にあるフレンド召喚により、アルゼのフレンドリストにあるプレイヤーアバターを召喚させて闘うことが出来る。

 だがその顔には表情が無く、動きも機械的に過ぎない。

 何故ならフレンド召喚で呼び出すことの出来るのはログアウトをしているプレイヤーのみだからだ。

 今のデスゲームのAI-On(アイオン)においてログアウト状態とはすなわち死亡を意味している。

 フレンドリストにある大量の死者を蘇らせ操るトッププレイヤー、それが死神アルゼ=ブエノスだ。


 これで俺達の数の有利が無くなった。

 召喚された死者プレイヤーの実力も未知数だ。もしかしたら表に名前が出ていないだけで俺達に匹敵するプレイヤーなのかもしれない。


 だがそこへまた新たなPTが現れた。


「フフフ・・・アーハッハッハッハッ! ここで会ったが百年目! 死神アルゼ=ブエノス! 貴様の野望もここまでだ!

 闇を総べる盟主、闇の魔女シャドウプリンセス様が貴様に葬られた我が同朋の苦しみをこの場にて晴らしてくれよう!」


 今度現れたPTは皆が皆、魔術師の姿をしていて、先頭に立つ人物はいかにも魔女の姿をしていた。

 黒のとんがり帽子に黒のマントと黒のワンピース、黒のグローブに黒のニーハイブーツ、おまけに杖まで黒色ときたもんだ。

 おまけにセリフからみるに邪気眼系厨二病のようだ。


「また貴女ですか・・・こんなところまで追いかけて来るとはしつこいですね・・・」


 アルゼは心底呆れたように新しく現れたPTのリーダーのシャドウプリンセスを見る。


「フン、貴様が『Angel Out』を狙っているという情報を掴んだのでな。我が闇の同朋に貴様と地獄門を見張らせていたのだ。

 今日という今日こそ貴様に引導を渡してくれる!」


 どうやらアルゼとシャドウプリンセスの間には何やら因縁があるらしいが、今この場において俺達にとっては混乱の種でしかない。

 図らずして三つ巴の争いになったのだが、これどうすりゃいいのさ。

 あ、三つ巴とは違うか。シャドウプリンセスはアルゼを倒しに来たのであって俺達に用があったわけではない・・・はず。

 ここは共闘してアルゼを倒すべきか・・・?


剣の舞姫(ソードダンサー)、我は『9人の女魔術師(ソーサレスナイン)』の幹部にして闇を総べる盟主・闇の魔女シャドウプリンセスだ。

 虫のいい話ではあるが我と協力してはくれまいか?」


「あ、ルージュさんとこの幹部の人だったんだ。

 こちらとしては結構ピンチの状況だったから共闘してくれるのはありがたいわ」


「うむ、ありがたい。

 フフフ・・・さぁ! 闇の同朋達よ! あの愚かな死神に闇の鉄槌を下すのだ!」


 シャドウプリンセスの合図とともにシャドウプリンセスの背後に控えていた魔術師たち6人が一斉に動き出す。

 それに呼応して俺達もアルゼたちに攻撃に出る。

 『死神の鎌』のメンバーたちは迎撃の態勢を取り、アルゼは呼び出した死者プレイヤーに指示を飛ばす。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 フレンド召喚魔法はフレンドリストに登録されてるLvで召喚されるので、デスゲームになっている今のAI-On(アイオン)では死亡した時点でLvが上がることは無い。

 つまりアルゼにとっては初期に手に入れた死者プレイヤーはそれほどLvが高くないので役には立たず、高Lvプレイヤーのフレンドリストを手に入れるにはエンジェルクエスト攻略の終盤の今の攻略プレイヤーを倒すしかない。

 だからこそ、今俺達を倒しに来たのだろう。

 当然フレンド登録は拒否するのでどうやってフレンドリストを手に入れるのかは不明だが。


 そんな訳で今召喚している死者プレイヤーの強さは左程ではない。

 だが死者プレイヤーが減っているのかと言えばそうではなく、むしろ増えつつある。

 召喚魔法自体、一度対象者を召喚すると召喚された対象者は倒されても暫くの間再召喚は出来ない。

 アルゼの行っているフレンド召喚も同じことが言えるのだが、死者プレイヤーが倒されてもお構いなしに別の死者プレイヤーを次々召喚しているのだ。


「ちょっ!? 何これ!? 明らかに数が多いでしょ!?」


 ヴィオがそう叫ぶが無理もない。

 今や召喚された死者プレイヤーの数は軽く50は超えている。

 例え中身のない身体(アバター)だけとは言えど目の前の死者プレイヤーを葬ることに嫌悪を覚えながら召喚者であるアルゼを目指すが、大量の死者プレイヤーに阻まれ俺達は防戦一方になりつつあった。


「疾風!」


 俺の意を組んだ疾風が死者プレイヤーの間を縫って瞬動で一側にアルゼへと攻撃を仕掛ける。


「くっ! っと、危ない危ない。瞬動の一瞬の移動による攻撃は要注意でしたね。

 ガーガイン、永遠の夢幻花、Stuart、荒川亜羅華、その男を押さえておきなさい」


 アルゼは咄嗟に杖スキル戦技・杖受けで疾風の瞬動による攻撃を受け流し、すぐさま死者プレイヤーに指示を出して動きを封じる。

 疾風を押さえてる死者プレイヤーはそれなりにLvが高いのか、疾風は思うように動けずにいた。


 ヴァイをヴィオと鳴沢の護衛として3人で死者プレイヤーに対応しているものの、接近戦の出来ないヴィオをかばう形でヴァイと鳴沢が拳と剣を奮う。

 天夜と舞子はお互い背中を合わせながら死者プレイヤーを蹴散らしていく。


 俺はシャドウプリンセスと共にアルゼの下を目指すが、みんなと同じように大量の死者プレイヤーに阻まれてしまう。

 シャドウプリンセスのPTメンバーも同様で、後方から魔法を放つ人も居れば魔術師の姿でありながら剣を奮う人も居たのだが、大量の死者プレイヤーに阻まれていた。


「闇の魔女、貴女も愚かですね。

 確かに『Angel Out』の方々と共闘するのはいい案に見えましょう。ですがそれでは貴女の戦い方を制限してることに気が付かないとは」


 その言葉に俺はハッとする。

 彼女は闇属性魔法を操る魔術師なのだろう。だが今の状況はアルゼの言う通り彼女の戦い方を制限している。

 AI-On(アイオン)にはPT同士でPTを組む連隊(レイド)PTと言うのは存在しない。

 なのでシャドウプリンセスが広範囲の闇属性魔法を放つと俺達PTにまでダメージを与えてしまうのだ。

 そのためシャドウプリンセスは単体の闇属性魔法で攻撃することしかできず魔術師としての能力を封じられているとも言える。


「ククク、その程度の制限などハンデにもなりはしないわ。剣の舞姫(ソードダンサー)が我が軍勢に居る。それだけで貴様を屠るのに十分だ。

 その証拠に貴様こそ何だ? その大量の死霊召喚は?

 今まで我が闇の軍勢を退けてきた数よりも多いではないか。それほどまでに貴様は剣の舞姫(ソードダンサー)の力を恐れているのだろう?」


 って、おい! なんだその無茶振りは!?


 アルゼのフレンド召喚魔法はこれが普通だと思っていたが、シャドウプリンセスの言葉を聞く限りじゃどうも俺を警戒しての大量召喚のようだ。


「分かってないですね、闇の魔女。

 この大量召喚は彼女たちの隙を作るためのものですよ。

 例えば・・・神速の癒し手、今貴女が斬り殺したのは生きたプレイヤーですよ」


 アルゼの言葉に鳴沢の動きが一時硬直する。それは俺達の動きも同様だった。

 大量の死者プレイヤーに紛れて襲い掛かってきた『死神の鎌』のプレイヤーをPKしまったのかと思ったからだ。

 だがその言葉こそが俺達の動きを鈍らせ隙を作るための罠だった。


「ベル! 惑わされないで!」


 俺の忠告も虚しく、動きの鈍った鳴沢の胸から剣が生えてくる。

 鳴沢の背後から襲いかかった死霊プレイヤーが剣を突き刺したのだ。

 鳴沢のHPバーが一気に半分以下まで減ってしまう。


「このっ!」


 ヴァイが鳴沢に剣を突き刺した死霊プレイヤーを蹴り飛ばし、鳴沢から剣を引き抜く。


「エ・エクストラヒール!」


 鳴沢は自分で治癒魔法を唱えるも、その動きは完全に止まってしまった。

 もしかしたら生きているプレイヤーをPKしてしまったかもしれないという事と、自分の体に突き刺さった剣を見たショックで精神ダメージが大きかったからだ。

 今はヴァイとシャドウプリンセスの人たちがカバーに回っているが、このままでは大量の死霊プレイヤーに嬲り殺しにされてしまう。


 その事実が俺の頭に血を上らせる。

 それがアルゼの仕組んだ罠であるとも知らずに。


「この・・・! アルゼ=ブエノス!!」


 俺は死霊プレイヤーを踏み台にして宙を舞いアルゼに襲い掛かる。


「センスエンチャント」


 アルゼが俺に向かって魔法を掛けてくる。

 エンチャントと言う事は付与属性魔法であるが、敵である俺に掛ける意味が分からなかった。

 俺は付与属性魔法が掛かった瞬間、感覚が鋭敏になるのを感じた。

 そこへ宙に居る俺に向かって矢が突き刺さる。


「ぐがっ!?」


 肩に刺さった矢から鋭い痛みが俺を襲う。

 今まで感じたことのない痛みにより俺はバランスを崩しアルゼの前で転げ落ちる。


「ハイヒール!」


 慌てて唱えた治癒魔法で傷が消える当時に痛みも消えるが、アルゼが腰から抜き放ったショートソードの攻撃により再び鋭い痛みが走る。


「俺がどうやってフレンドリストを増やしているか不思議だったでしょう? その答えがこれですよ。

 身体強化魔法にはセンスブーストと呼ばれる身体感覚を強化する魔法があります。

 AI-On(アイオン)では感覚が鈍く設定されていますからそれを補う魔法ですね。

 今の状態でも特に問題があるわけではないのであまり使われない魔法です。欠点もありますしね。そう、痛みも増幅してしまうんですよ。

 センスエンチャントはセンスブーストを他人に掛ける付与魔法です。ここ前言えばもうお分かりでしょう。

 後はひたすら痛みつけて回復、痛みつけて回復その繰り返しです。

 そうすれば最後には痛みに耐えられなくなって「フレンド契約するから殺してくれ」と言ってくるわけですよ」


 なるほどね。魔法が使えるならではだな。

 どっかのネット小説でもあったが回復を掛けることによって永遠に痛みを与え続ける拷問方法だ。

 今のセンスエンチャントによって感覚が増幅されたこの痛みでは、確かに気が狂って最後には相手に屈服してしまうだろう。


「外道が・・・」


「それは褒め言葉として受け取っておきますよ。

 さて、拷問を始める前に剣の舞姫(ソードダンサー)にはフレンド登録をしてもらえれば余計な手間が省けて助かるんですが」


 そう言いながらアルゼは手に持ったショートソードを掲げる。


「残念だけど、返事はNOよ! あんたはわたしを怒らせた!!」


 たまたま目についたのが鳴沢だったのかもしれない。

 だがその言葉が切っ掛けで鳴沢に被害が被ったことが一番許せなかった。


「神降し! イザナミ!」


 イザナミは日本神話でヒノカグツチを生んでせいで火に焼かれ死んでしまった神だ。

 そしてそのまま黄泉の国の神として君臨することになる。

 そう、これは賭けだ。イザナミは死者を操ることが出来るかもしれないので、死霊召喚魔法には有効なはず。


 イザナミをその身に宿したことによりステータスが大幅に上昇する。

 そして宿した神そのもののイザナミの力を振るう。


「黄泉返し!」


 俺はその力を地面に向けて放つ。

 黄泉返しの力は地面を波紋として広がり、大量の死者プレイヤーを光の粒子へと変える。

 後に残ったのは俺達『Angel Out』とシャドウプリンセスのPTと大量の死霊プレイヤーに紛れて散らばっていた『死神の鎌』だった。


「なっ!?」


 どうやら賭けには勝ったようだ。もうこれでフレンド召喚魔法は使えない。

 再召喚には時間が掛かるし、新たにフレンド召喚しても再び黄泉返しの力で光へと返してしまう。


 驚くアルゼに一足で接近し、蹴りスキル戦技・旋風脚でこめかみに蹴りを入れて地面に転がす。

 イザナミの力を宿した攻撃だ。今の一撃で魔法職であるアルゼのHPは大分削られたはずだ。

 すぐさま右手の妖刀村正を突きつけアルゼの動きを封じる。


「動かないでね。出来れば無駄な抵抗もやめて欲しんだけど」


 その間にも『死神の鎌』のメンバーも疾風たちに組み伏せられる。

 その様子にアルゼは地面に座り込んだまま両手を上げて降参の意思表示をする。


「ええ、抵抗はしませんよ。俺の手駒を封じられては為すすべもありませんからね」


「ククク、いい様だな、死神」


 シャドウプリンセスが悠然と歩きながらこちらへ向かって来る。


「勘違いしないでもらいたい。俺が負けたのは剣の舞姫(ソードダンサー)であって、貴女ではない」


「ふん、減らず口もそこまでにしておくんだな。

 貴様には今から闇の鉄槌を受けてもらう。我が同朋の無念を晴らすためにもな」


 そう言いながらシャドウプリンセスは黒の杖を掲げ杖スキル戦技・杖突きを放とうとする。


 ちょっ! いきなり何をしてるんだこの人!


 俺は思わず2人の間に入り二刀流スキル戦技・十字受けでシャドウプリンセスの杖を受け流す。

 これまでのやり取りからシャドウプリンセスはアルゼに仲間をPKされた恨みがあるみたいだが、流石にPKはやり過ぎだろう。

 杖スキルの攻撃はそれほど高くはないが、今の一撃は明らかに殺意を持っていた。


「何故邪魔をする。こやつは生かしておいても数多くのPKの犠牲者を生むだけだぞ」


「あー、ありきたりなセリフだけど、PK(それ)をしたら貴女もアルゼと同じよ? 自分の欲望の為に力を振るうんだもの。

 ここは黙って『軍』に引き渡した方がいいわよ」


 俺の言葉にシャドウプリンセスは怒りを露わにする。


「違う! 我は闇の同朋の恨みを晴らすのだ! 決してこやつと同じ欲望の為では無い!」


「そりゃあ、アルゼをPKすれば仲間が生き返るんであればわたしも止めないわよ。

 けどPKしたところで仲間は帰ってこない。それどころか貴女はアルゼをPKしても決して心は晴れないわよ。

 人を呪わば穴二つって諺知ってる? 人を呪っても自分にも返ってくるから墓穴が2つ必要だって意味だけど、確かに呪詛は一番最初に自分の耳に入ってくるからそりゃ自分も呪われるわよね。

 わたしは自分の仲間がPKされたことないから偉そうなこと言えないけど、人を恨んでばかりじゃ仲間は救われないわよ。貴女が人を恨み続けてる限りね」


「それじゃああたしはどうすればよかったのよ! こんなあたしを慕ってきた仲間をPKされて出来る事と言ったら敵を討つことしかないじゃないの!

 復讐もだめ、恨むのもだめ、あたし何もできないじゃないの・・・」


 彼女は厨二病のキャラをかなぐり捨てて自分の思いをぶち撒けて項垂れる。

 復讐に走った人は目標そのものが無くなった途端抜け殻になるって言うからなぁ。

 まぁ、今回は復讐を成し遂げたわけじゃなく止められたからなんだけど。


「忘れろとは言わないけど、いつもの貴女らしく笑って生きていけばいいと思うわよ。

 もっとも貴女の事は厨二病ってことくらいしか知らないけど」


「厨二病って言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺の言葉にシャドウプリンセスは思わず突っ込みを入れる。

 こっちの方がさっきより魂が込められてる感じがするんだが。


「闇の魔女様、ここ最近塞ぎ込んでる闇の魔女様を見ているのは痛ましかったです。今の叫びの方が闇の魔女様らしくて俺はそっちの方が好きですよ」


「死んでしまった闇の同朋もいつもの闇の魔女様を見たいはずです」


「そうですよ! 復讐と言えば闇に属する感情ですが、闇の魔女様には似合いませんよ!」


 いつの間にか傍に来ていたシャドウプリンセスのPTの人たちが彼女を慰める。


「貴様ら・・・ふん! 貴様らがそう言うのであれば復讐など止めだ! 闇の同朋には申し訳ないが、我は笑って前に進もうぞ!」


 シャドウプリンセスの仲間たちは「それでこそ闇の魔女様!」「ああ、いつもの闇の魔女様が戻ってきた!」などと喝さいを浴びせていた。


「・・・何の茶番ですか、これは?」


 今まで黙って座っていたアルゼが呟く。

 その気になれば逃げられたものの、よくまぁ黙って座って見てたもんだ。


「その原因を作ったのが貴方でしょ」


「ごもっとも」


 アルゼは笑いながら答える。

 こうして見ると普通のプレイヤーにしか見えないんだがなぁ。

 人を見下した目は相変わらずだが。


「そもそも何でPKなんかするのよ。貴方もデスゲームなんて信じていない口?」


「いえいえ、世の中は弱肉強食。それはゲームでも同じ、俺はその理に従ったまでですよ。

 世の中には弱者が多すぎますよ。俺はそれを食らっているにすぎません。

 フレンド召喚魔法やセンスエンチャントはその手段でしかないですね」


 俺は呆れてものも言えなかった。

 完全に自分より弱いプレイヤーを蔑ろにしてる発言だ。

 ゲームと言えど必ずしも誰もが強くなれるとは限らないのに。


「その理屈でいくと、こうして大人しく捕まってるのは・・・」


「ええ、俺は敗者ですからね。勝者の剣の舞姫(ソードダンサー)の言葉には従いますよ」


 分かりやすいっちゃあ分かりやすい性格なのかもしれないな。

 さて、こいつらをどうしようかと悩んでいると、気配探知と魔力探知にモンスターが引っかかる。


「フェンリル、モンスターだ! 牛頭鬼と馬頭鬼、それに大鬼7、落ち武者10だ! さっきより数が多いぞ!」


 疾風達の方でも確認したのか、抑えてた『死神の鎌』を放り出し戦闘態勢を取る。

 大鬼や落ち武者も厄介だが、牛頭鬼と馬頭鬼が居るのは尚更厄介だ。


「各自戦闘準備! シャドウプリンセス、貴女達も迎撃に協力して!」


「フフ、よかろう! 新生した我が闇の軍勢の力を見せてくれようぞ!」


 彼女のセリフと共に闇の軍勢?PTも戦闘準備にかかる。


「フェル、『死神の鎌』はどうするの?」


 この戦闘は苦戦が予想される。当然『死神の鎌』なんかには構ってられない。致し方が無いがこいつ等はここで開放するしかない。

 鳴沢が心配しているのはここで逃がせばまた襲い掛かってくるかもしれないという事だ。


「俺達も迎撃のお手伝いをしますよ。

 なに、このまま逃げて背後からモンスターに襲われるより、貴女方と一緒に迎え撃った方が生き残れますからね」


 俺としてはここで開放してモンスターに襲われれば・・・なんて黒い考えもしたのだが、そこまで読んだのか分からないがアルゼは俺達と協力体制を取る。


「・・・出来れば隅っこで大人しくしてほしいんだけどね。背後から攻撃されたらたまったもんじゃないし」


「そんなことしませんよ。さっきも言った通り勝者には従いますからね」


「分かったわ。アルゼ達には大鬼と落ち武者の露払いをお願いするわ」


「了解しました」


 なし崩し的に『Angel Out』、闇の軍勢、『死神の鎌』の3PT合同の戦闘が開始された。


 不安要素もあることだし、牛頭鬼と馬頭鬼の強力なモンスター相手だ。

 ここは流水剣舞ラーニングソードダンスで一気に片を付ける!




◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「惚れました! (あね)さん、俺を子分にしてください」


 戦闘が終わってのアルゼの開口1番がそれだった。


「はぁ? えっと、いきなり何?」


 戦闘しかしていないのにどこに惚れる要素があったんだよ。


「あの流れるような剣の舞。無駄のない動き。美しいの一言に尽きますよ。

 流石は剣の舞姫(ソードダンサー)。二つ名は伊達ではありませんね。

 是非、俺を子分にしてください」


 いやいやいや! 無いから! プレイヤーキラーを子分になんてありえないから。


「ちょっと! お姉様の子分ってPKが図々しいのよ! あたしだってお姉様の傍にいるためにどれだけ努力したと思ってるのよ!

 それをぽっと出のPKが? 駄目に決まってるでしょ!」


「貴女には聞いてませんよ。それに決定権を持ってるのは姐さんですよ」


 俺を余所に舞子とアルゼが口論を始めてしまう。

 それにしても舞子、駄目な理由にお前の私情も入ってるじゃねぇか。


「はぁ~、はいはい、ストップ。

 アルゼ、流石にPKを仲間にすることは出来ないわ。貴方には地獄門を出た後『軍』に引き渡すから。『死神の鎌』の人達もね」


「そう・・・ですか。

 ならばせめてこの地獄門のダンジョンの攻略をお手伝いさせて下さい。その後で必ず『軍』に出頭します。お願いします!」


 そう言いながらアルゼは俺に頭を下げる。

 今までの人を見下した態度が嘘のようだった。まぁ、それは俺だけなのかもしれないが。


「フン、よかろう、ならば我が貴様を監視してやろうではないか。精々人生最後の自由を謳歌するがよい。

 それでよいか、剣の舞姫(ソードダンサー)


 それでよいも何も、勝手に決めちゃってるじゃないか・・・

 曲がりなりにもそいつらPKだぞ。普通なら拒否するとこなんだけどなぁ。

 まぁ、アルゼの様子からもう何もしないんだろと思うけど。


 こうして何故かこのまま奇妙な3PTで地獄門のダンジョンを攻略することになった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アビリティについて考察するスレ7


891:トライデント

 そういや武器防具以外にも特殊職にもアビリティってあるけどどんなのあるの?


892:フレッシュプリティ

 有名なところで光輝魔術師にシャイニングウィザードってアビリティがあるね


893:ウラシマ

 >>892 確かに有名と言えば有名だwww


894::リングラット

 どんなアビリティだっけ?


895:西村ちなみ

 >>894 ただの膝蹴りww


896:キャノンボール

 魔法系職業に接近戦用のアビリティがあるのはある意味納得といえば納得


897:ウラシマ

 だからと言ってただの膝蹴りはないだろうwww


898:クリスタル

 使えるアビリティは大宮司/神楽巫女の神楽舞でしょう

 但し3分間の踊りが必要になるけど


899:西村ちなみ

 ああ、神楽舞のアビリティは使えるね

 何と言ってもPT単位でMPが毎秒回復するから戦技・魔法使いたい放題だもんね


900:トライデント

 おお! なんだそのアビリティ

 メチャクチャ使えるじゃねぇか!


901:鏡子

 後は魔想闘士の魔法の効果を拳に宿す魔拳のアビリティもあるね


902:アイドルリマスター

 あれ? それってソードダンサーの魔法剣と同じじゃないの?


903:鏡子

 >>902 う~ん、ちょっと違う

 ソードダンサーのは魔法そのものを剣に掛けるから1回こっきりだけど魔拳のアビリティは効果が持続するの


904:リングラット

 そう聞くと魔拳のアビリティの方が優秀な気がするね


905:ソル

 >>904 いや、実際のところはそうでもないよ

 魔拳で掛けられた魔法の効果は半分もあればいい方

 しかも10発程度で効果が切れてしまうからね


906:フレッシュプリティ

 一概にどちらがいいとは言えないね


907:トライデント

 つーか、未だに魔法剣を使える人が少ないんだから比べる意味もないよw


908:ウラシマ

 確かにww


909:西村ちなみ

 >>907 同意しますw


910:フレッシュマン

 そういや特殊職全部にアビリティってついてるのか?


911:鏡子

 一部の特殊職だけみたいだね


912:西村ちなみ

 あー、でも特殊職には隠しアビリティがあるって聞くよ?

 条件を満たせば使えるようになるとか


913:アイドルリマスター

 隠しアビリティ! それは素晴らしい事を聞いた!

 早速検証開始だ!


914:キャノンボール

 そして光輝魔術師のようなアビリティが見つかるとw






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