53.地獄門と地獄の鬼
12月19日 ――140日目――
「いや・・・こないで・・・」
右手に剣、左手に銃を持った海賊の装備をした男――カンザキが鳴沢に向かって来る。
ただその表情は虚ろで人間味を感じられず、機械的に動く様子はまるで人形のようだった。
カンザキは左手の銃を構え銃スキル戦技・トリプルバレットを放つ。
鳴沢は躱すそぶりも見せずにカンザキの放つ銃弾をまともに受ける。
「あぐっ! あぁぁ・・・いやぁ・・・」
カンザキは銃スキル戦技を放つと同時に右手の剣を振り上げ鳴沢の頭上に振り下す。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ガキンッ!
鳴沢に振り下されようとした剣は、かろうじて間に合った俺の二刀流スキル戦技・十字受けに阻まれる。
「ベル! しっかりして! あれはカンザキじゃないわ! あれはカンザキの形をしたモンスターよ!」
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
俺の言葉が聞こえていないのか、鳴沢は頭を抱えその場にへたり込んでしまう。
くっ、これは拙い。
鳴沢程ではないが死霊のごとく現れたプレイヤーの中に見知った顔があったのか、他のメンバーにも動揺が見られていた。
「ただでさえ厄介なのに何なのよ、この大人数は!」
「え? やっぱり俺の所為ですかね」
「あんた以外にだれがいるって言うのよ! この馬鹿!」
俺はこの大量発生した死霊プレイヤーの原因相手に思わず怒鳴りこむ。
「馬鹿は酷いですよ、姐さん」
アルゼは俺の発言に少し悲しげな表情で反論する。
「いいからとっとと退路を確保して!」
「了解です!」
比較的冷静を保っているアルゼを先頭に殿を俺が務め俺達3PT――ギルド『Angel Out』、ギルド『死神の鎌』、ギルド『9人の女魔術師』――は地獄門のダンジョンを撤退する。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
26の王の攻略は順調に進んだ。
『幻影の王・Mirage』はギルド『月下美人』が攻略した。
進入を阻んでいた霧の谷は進入方法が判明したのだが、その方法が問題だった。
誰にでも出来る方法なのだが、やるには覚悟がいる方法なのだ。
今までの情報から「生まれいずる清らかな心を持ちし体」と文章があったのだが、これを解読するには困難を極めた為、霧の谷に進入することの出来たプレイヤーを探すことにしたのだ。
その結果判明した進入方法が、装備を一切身に着けないで霧の谷に入る事――すなわち全裸で進入することだった。
唯一霧の谷に侵入することが出来たプレイヤーは女性だったが、何故侵入することが出来たのかと言えば露出狂だったからとしか言いようがない。
彼女は霧で周りが隠れてるのをいいことに、趣味の露出を霧の谷で行っていたのだとか。
この話を聞いた時、俺はゲームの世界にまで変態っているんだなぁと思ったよ。
それらの情報を加味したところ、「生まれいずる清らかな心を持ちし体」とは生まれたての赤ん坊の事を指していて、生まれたての赤ん坊は裸だから同じように装備を身に着けずに霧の谷に入らなければならないと言う事だった。
この設定を考えた奴って絶対『恋愛の女王』と『婚約の王』の設定を考えた奴と同じだろう。
結果、『幻影の王』の攻略は荒れに荒れた。
まずは全裸と言う事で武闘士系の職業か、魔法を使える職業に限定されてきてしまうからだ。
そして一番の問題なのが男女別々のPTを組まなければならないという事だ。
いくら仮初めの身体とは言え、流石に全裸で男女一緒という訳にはいかない。
当然女性プレイヤーは『幻影の王』の攻略を拒否してしまい、嫌々ながらも男性プレイヤーのPTで霧の谷を攻略していくことになった。
だが『恋愛の女王』と『婚約の王』の設定を考えた奴だ。『幻影の王』の攻略も一筋縄ではいかなかった。
霧の谷は誰でも構わなかったのだが、『幻影の王』に対峙するには女性プレイヤーのみと言う設定が存在した。
また当然攻略は荒れた。
いろんな話し合いの末、王の証を持つトップギルド――『Angel Out』に全部ぶん投げられた。
俺達を中心に、足りないメンバーを他の攻略ギルドから助っ人に来てもらう案も出たんだが、鳴沢が思いっきり反対する。
そりゃそうだ。女性身体とは言え、中身が男の俺をPTに入れるなんて出来るわけが無い。
だからと言って俺抜きでPTを組むのは意味が無いのでまた揉めに揉めた。
丁度そこへずっと地下迷宮の攻略にかかりきりだったギルド『月下美人』が『幻影の王』の攻略に名乗り出てくれたのだ。
美刃さん曰く、地下迷宮は飽きて『幻影の王』の方が面白そうだったとか。
ギルド『月下美人』は女性のみのギルドだったので、今回の『幻影の王』の攻略をすんなりお願いすることが出来た。
そんな経緯で『幻影の王・Mirage』はギルド『月下美人』が攻略した。
そしてもう1の王も攻略された。
攻略された王の名は『サポートの王・Yell』
これも荒れたと言えば荒れたなぁ。
プレイヤーがピンチになっている時に現れ様々なBuffを掛けてくれるお助けNPCと思われていたのが、実は『サポートの王』だったのだ。
彼――この場合は彼女か?――はチアガールの姿をしていて一部の掲示板で有名だったのだが、『サポートの王』と判明した時は「26の王だから倒さねば」、「彼女は癒しだから倒すな」とかで賛否両論の嵐だったとか。
そして『サポートの王』の戦闘方法も独特だ。
『サポートの王』として攻撃されたと判断すると、プレイヤーに掛けられていたBuffは解除され、『サポートの王』は常に周囲のモンスターを10匹ほど呼び寄せ自分のサポート能力で強化してくるという方法を取るのだ。
モンスターの数は常に一定で、モンスターが倒されるとすぐに補充され常時10匹になるようになっている。
そして一番最初に戦っているモンスター――『サポートの王』を呼び寄せるために戦っていたモンスター――が倒されてしまうとすぐに撤退してしまうと言う、倒すのに厄介な仕様になっていた。
この頃になると王の証の所持数の調整を取らなければならず、『世界を総べる王・World』と『地獄の王・Hell』の王の証は鳴沢と疾風に、地下迷宮を攻略している美刃さんは『謎の王・X』の王の証を持つために、『サポートの王』の王の証はマリーが持つことになる。
その為、『サポートの王』攻略にはギルド『Noble』が当たることとなった。
マリー達は他のギルドの協力を得て何とか『サポートの王』を攻略したのだ。
これで残った26の王は未だ名前も分からないAの王、Bの王と『世界を総べる王・World』、地獄門のダンジョンにいる『地獄の王・Hell』、地下迷宮にいる『謎の王・X』
だけとなった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
12月18日 ――139日目――
「明日から地獄門のダンジョンの攻略を開始するわ」
俺の言葉にみんなは頷く。
「はぁ~、やっとこの穴倉生活からおさらばだな」
「何言ってるの。最初来た時は「地下迷宮サイコー!」とか言ってたじゃない」
ヴァイは待っていましたとばかりに大きく伸びをする。
そこに最早お約束とばかりにヴィオの突っ込みが入る。
「流石に毎日籠ってれば飽きて来るよ。つーか、美刃さんはよく籠り続けてられるなぁ」
まぁその点は俺も同意だ。
今『Angel Out』では残りの王の証が2つ、『世界を総べる王』と『地獄の王』を倒すのみとなっている。
『地獄の王』の居る地獄門はユニーク職の鬼神でなければ開かないためヴァイの転職が必要なのだが、既に王の証を3つ手に入れたとはいえ転職に必要なLvが不足していた。
なので俺達は地下迷宮でLv上げをしていた。
地下迷宮はLv60~80までのモンスターが出現する為、ユニーク職まで経験値稼ぎとして最適な狩場となっていた。
もちろん俺達だけではなく、他の複数のギルドも地下迷宮でLv上げをしている。
数日前にヴァイの累計Lvが80を超えてユニーク職の鬼神へと転職をしている。
地獄門はユニーク職で開けるため、地獄門のダンジョンはLv80以上のモンスターが居ると予測される。
そのため直ぐには地獄門へと向かわずにヴァイの鬼神への馴らしも兼ねて地下迷宮での戦闘を継続していたのだ。
「それでPT編成はどうするの?」
鳴沢はそう言いながら11人まで増えたギルドメンバーを見渡す。
今の『Angel Out』のメンバーは俺、鳴沢、ヴァイ、ヴィオ、疾風、クリス、唯ちゃん、舞子、天夜、アイちゃん、リムの11人。
そう、舞子たち4人が『Angel Out』の新規メンバーとして加入してくれたのだ。
舞子は相変わらずだったが、天夜の舞子へ見方が微妙に変わっていたのはビックリした。
あの時は冗談で『次会う時は付き合ってるとか言わないわよね?』と言っていたのだが、まさか本当にそれっぽい雰囲気になって戻ってくるとは・・・
アイちゃんとリムに関してはドヤ顔で「役に立つよ!」って来た時は微笑ましかったな。
俺達のギルドに加入するために必死でLvを上げてきたのだろう。
その甲斐あってかアイちゃんたちのLvは70半ばまで上げてきていた。
「そうね、『地獄の王』の攻略メンバーは疾風、ヴァイ、舞子、唯ちゃん、ベル、ヴィオ、そしてわたしの7人のフルPTで行きましょ」
「ちょっと待った。舞子の奴が攻略メンバーなのに俺は留守番なのか?」
俺のメンバー選定に天夜が待ったをかける。
「ええ、悪いけど天夜は留守番組ね」
「舞子を連れて行くくらいなら俺も攻略メンバーでもいいじゃないか」
「あ~、舞子は盾役だもの。余程のことが無い限りPTには必要でしょ?
疾風は『地獄の王』の王の証を取らなきゃいけないし、ヴァイは地獄門を開けるのに必要だしユニーク職だから門の中のダンジョンでも頑張ってもらわなきゃ。
そうすると前衛の残りは唯ちゃんと天夜とアイちゃんだけど、今回は槍を使うという点でリーチに優れてる唯ちゃんを選んだの」
「うぐぐ・・・なぁ、何とかならないか? 舞子だけには先を越されたくはないんだ・・・!」
天夜は尚もしつこく食い下がる。
大体この時点で天夜が何を言いたいのかが理解できた。
要するに舞子と一緒に居たいという事だ。
天夜の気持ちは舞子本人と恋愛に疎い疾風とアイちゃん以外にはみんなにバレバレだ。
その当の本人はというと、あまり深く物事を考えないせいか天夜の言ったことを額面通りに受け取っていた。
「あら~なぁに~? そんなに舞子に先を越されるのが悔しいの~? 残念だけど天夜はここで御留守番なのよ。ここで足踏みをしてなさい。オホホホホホ。
その間にあたしはお姉様に付いて行って天夜よりも1歩も2歩も先に行ってるんだから」
「お前そんなこと言っちゃうわけ!? 言っちゃうわけ!?」
なんて俺達を余所にイチャコラし始める始末だ。
「あ~分かった、分かったから。連れて行くから。
唯ちゃん、悪いんだけど留守番組の方に回ってもらえるかしら?」
「あはは、しょうがないね。いいわよ」
唯ちゃんは天夜の気持ちを組んでくれて快く留守番組に回ってくれた。
「よし! ふふふ、俺を置いてこうなんて10年早いんだよ」
「あ~! ずる~い! お姉様、なんで天夜なんかを連れて行くのよ~こいつは留守番で十分なのに」
「はいはい、痴話喧嘩はそのくらいにして。他に何かない?」
俺の言葉に天夜と舞子は思わず黙り込む。
天夜は天夜であまり突っ込みすぎたんじゃないかと焦りだし、舞子は舞子でやっと自分の今のイチャコラしてる状況に気が付いた。
「それじゃあ留守番組はまだ地下迷宮でLv上げをしていればいいの?」
アイちゃんは小柄な人型の柴犬を抱え込んだまま聞いてくる。
「そうね、アイちゃんたちは引き続き地下迷宮でLv上げをしておいてね。
クリス、悪いけどアイちゃんたちをお願いね。人数も少ないから決して無茶はしないでね」
「了解した。まぁ、留守番組のPTも丁度いい具合にバランスが取れてるから大丈夫だよ」
確かに旨い具合に残ったメンバーのバランスが取れてるからな。
余程無茶をしない限り大丈夫だろう。
「それとアイちゃん。いい加減にニコ君を開放してあげなさい」
「えーーー! こんなにフサフサしてるのに放すなんてとんでもないよ!」
「お姉ちゃん、いい加減放して欲しいです・・・」
アイちゃんの腕に抱かれた人型の柴犬――ニコ君は諦めながらも懸命にも主張をする。
ニコ君はコボルトだ。とは言ってもそこら辺に居るモンスターではない。
言い忘れていたが俺達は今地下都市に居る。
地下迷宮にいくつか存在する地下都市の1つだ。
深緑の森の下にある地下都市エメラルドグリーンがダークエルフの都市だとすれば、俺達が居る地下都市コバルトブルーはコボルトの住まう都市だ。
地下都市コバルトブルーは王都セントラルの南にある始まりの森の下に存在していた。
そして地下都市コバルトブルーに住まうコボルトは野良コボルト――モンスターをとは違い、れっきとしたNPCだったりする。
野良コボルトはいかにもモンスターといった野犬のような薄汚れた風貌をしているが、コバルトブルーのコボルトは毛並みがフサフサした立派な種族としてその地位を確立している。
因みに地下都市に住んでいるだけあって地上の雑魚コボルトとは違い、その強さもLv60以上クラスの強さだったりする。
始まりの森の下に地下都市があるという事はそれだけ地下迷宮が広大だということを示している。いくらなんでも広すぎだろうと突っ込みたい気持ちでいっぱいなのだが。
ヴァイの言う事ももっともで、美刃さん達はかなり前から地下迷宮に籠っているのによく続くなぁと感心したりしている。
俺達は人族も対応している宿を拠点としていて、そこで今日の狩りを終え夕食を取っていた。
アイちゃんに抱かれているニコ君はこの宿のマスコットキャラ――もとい看板息子で宿のお手伝いをしているのだが、ごらんの通り女性陣におもちゃにされていたりする。
まぁ、あのフサフサしたワンコを見ればその気持ちも分からないでなないのだが。
「ねぇ、アイちゃん。いい加減、次あたしにも抱かせてよ」
「あ、ちょっと! 次はあたしの番でしょ。リムちゃんは明日もここに居るんだから次はあたしに譲りなさいよ」
「そうよ、あたし達は明日から外に出るんだから今日はアイちゃんたちは我慢しなさいよ」
「うーん、唯は今日は我慢するから明日存分にモフモフさせてもらうね」
「誰か~、助けてくださいよ~。いい加減僕に仕事をさせてください~」
うむ、ニコ君すまん。どうやら俺の力じゃ今の女性陣には太刀打ちできん。
と言うか俺もモフモフしたいんだがなぁ・・・
12月19日 ――140日目――
「よし、じゃあ開けるぜ」
ヴァイが3mほどの高さのある鬼のレリーフが描かれた地獄門の扉に触れるとシステムメッセージが流れる。
『鍵である鬼神が扉に触れたため、封印を解除します』
地獄門は左右に内側に扉が開き『地獄の王』へと続く道が開ける。
「それじゃ行くわよ。
先頭に舞子、左右に疾風とヴァイ、わたしを挟んで後方にはベルとヴィオ、バックアタック警戒に天夜のフォーメーションで行くわよ」
俺の指示に従ってみんなはその隊列で地獄門のダンジョンへと進んでいく。
天夜だけはやや不満そうにしながらも後方の警戒に努める。
と言うか、天夜、お前どんだけ舞子にぞっこんになってるんだ。
最初に会ったときはそうでもなかったのに、今では舞子に首ったけじゃねぇか。
地獄門のダンジョンはまんま地獄の風景そのものだった。
対になっている冥界門のダンジョンは薄暗い冷たい感じがする冷めた青の風景だとすると、地獄門のダンジョンは遠くに見える山からは溶岩が流れ出ていて荒廃した殺風景な赤の風景だった。
出てくるモンスターも地獄に相応しく、見た目はゴブリンだが強さも段違いの小鬼、こちらも見た目がオーガだが地獄に相応しく大鬼、そして地獄に付きものの牛頭鬼や馬頭鬼、何故か地獄をうろついている落ち武者などが居た。
「舞子! 大鬼を引き付けておいて! ヴァイはそのまま落ち武者を足止め! まずは先にわたしと疾風と天夜で小鬼を片づけるわよ!
ベルとヴィオは後方から援護をよろしく!」
俺達が遭遇したのは小鬼6、大鬼1、落ち武者1のモンスター群れだった。
まずは切り込み隊長の疾風が後方の落ち武者に一太刀入れて、後に続いたヴァイが落ち武者に突撃する。
盾役である舞子に大鬼を押さえてもらって、その間に小鬼を掃討する作戦に出る。
「オラァッ! 旋風脚!」
ヴァイの蹴りスキル戦技・旋風脚の回し蹴りを落ち武者に蹴りつける。
狙いったのは落ち武者が振り下した刀を持っている手。
思わぬ攻撃を受けた落ち武者は攻撃の手を止めてしまうが、弾かれた勢いをそのまま今度は下段からの掬い上げの攻撃に切り替える。
ヴァイは落ち武者の攻撃もお構いなしにそのまま懐に入って攻撃を最小限のダメージで躱し拳スキル戦技を放つ。
「爆裂寸勁!」
ゼロ距離からの拳スキル戦技を受けて落ち武者はそのまま後方へと吹き飛ぶ。
「おらおら! どんどんいくぜぇ!」
舞子は必死になって大鬼の攻撃をいなす。
実は舞子はこのPTの中では一番Lvが低い。俺達の累計Lvが全員80を超えているが、舞子だけはまだ79なのだ。
だが、彼女は最初俺と出会ったときに盾役としての戦い方を覚えてからずっと防御を中心とした戦い方をしてきて聖戦士まで成長していた。
おまけに舞子には『不死者の王』で手に入れたLEGENDARY ITEMのアイギスを渡している。
はっきり言って防御力に関しては『Angel Out』一となっているのだ。
「ハイタウント!」
舞子は盾スキル戦技で大鬼の敵愾心を自分に向けつつ剣を奮う。
「スラッシュストライク!」
舞子の剣スキル戦技が大鬼の脇腹を斬り裂く。
大鬼は反撃とばかりに舞子に持っている金棒を叩き付ける。
「シールドバッシュ! スイングシールド!!」
大鬼の金棒がかざした盾に叩き付けられる瞬間、舞子は盾スキル戦技のシールドバッシュによる体当たりを掛ける。
攻撃のタイミングをずらされバランスを崩した隙を狙ってすかさず盾を振り回しダメージを与えるスイングシールドを放つ。
そして再び反撃に備えて盾スキル戦技で防御力を強化する。
「グラスシールド!」
小鬼は見た目がゴブリンではあるが仮にも地獄門のダンジョンに居るモンスターだ。
強さはLv80以上はある上に、普通のゴブリンとは違い連携する知能まで携えている。
小鬼たちはプレイヤーPTよろしく前衛4後衛2と隊列を組んで俺達に襲い掛かってくる。
疾風が瞬動で前衛の1匹を斬り裂いて隊列に穴を作るが、すぐさま後衛が前に出て隊列を維持する。
疾風の攻撃を受けた前衛は後衛に回り、瞬動で後ろまで抜けた疾風を合流させまいと2匹がかりで足止めをする。
「五月雨十字!」
俺の刀スキル戦技・五月雨と二刀流スキル戦技・十字斬りを合わせたオリジナルスキル五月雨十字が小鬼たちを切り刻む。
小鬼たちは俺が敵愾心を稼いだせいもあるが脅威と見なしたのか3匹が俺のところに集中する。
「あ、この! 舐めやがって! 居合一閃・桜花!」
天夜は自分には1匹だけで十分と言われたのがプライドに障ったのか、惜しみなく自分の刀スキル戦技・居合一文字と桜花一閃を合わせたオリジナルスキルを叩き付ける。
「フレイムストライク!」
特殊職の武将に転職したことによって使えるようになった火属性魔法の炎の槍と、剣スキル戦技・スラッシュストライクを合わせたオリジナルスキルで怒涛の攻撃を放ち続ける。
後方ではヴィオが防御も考えなしに突っ込むヴァイに随時治癒魔法を唱え、鳴沢が詠唱破棄スキルで要所要所で攻撃魔法、治癒魔法を放ち続ける。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「いい加減くたばりやがれぇ! 鬼神化!」
「あ! ちょっと待ちなさい!」
俺がとめるのも聞かずヴァイは鬼神化スキルを発動する。
するとヴァイの額には二本の角が生え瞳孔は窄み、歯は犬歯が伸び顔にも模様が浮き出て鬼の顔そのものになる。又髪は腰まで伸びて筋肉が膨れ上がり体躯が一回り大きくなる。
「ふうぅぅぅぅ・・・! しゃぁっ!」
その向上した身体能力で一気に落ち武者の懐に入り戦技無しで一撃を見舞う。
その一撃を受けた落ち武者は鎧兜ごと頭が吹き飛びそのまま光の粒子となって消え去る。
「へへーん、この地獄で鬼神様に逆らおうってのが間違ってんだよ。ってあ痛」
戦闘が終わってドヤ顔をしているヴァイに向かって俺とヴィオが頭をどつく
「この馬鹿! 何調子に乗って鬼神化までしてるのよ」
「ヴァイ、調子に乗りすぎ。鬼神化はMPの消費が激しいんでしょ。こんな序盤で使い過ぎよ」
「あー、うん、テンションが上がっちゃって、つい・・・」
ヴァイも分かってはいるのだが、性分を抑えきれないのか何時もと同じように突っ走ってしまっている。
今のところ問題はないが、ヴァイはそのモチベーションによって戦闘能力の発揮の仕方が違うので強く言えないところもある。
「まぁいいわ。
向こうに見えるのが多分有名な三途の川だと思うから、そこから先今より激しい戦闘が予想されるから気を付けていきましょ」
まだ暫くは歩かなければならないが、向こうには川が見えている。
あれが有名な三途の川だろう。
本来であれば地獄には八大地獄など細かいエリアに分かれてはいるが、AI-Onではそこまでは再現されてはいないみたいだ。
ここまではまだ地獄の入り口にすぎず、三途の川から向こうが地獄の本番だろう。
俺達がそう気合いを入れていると、そこへ別PTの声が割り込んできた。
「うん、三途の川の向こうの事は気にしなくていいですよ。残念だけど貴女達PTはここでリタイヤしてもらいますからね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【重要】チアちゃんがやばい件について【緊急】
1:ファイト1発
なんてこった・・・信じられない事実が発覚した
2:S・T・M
うん? それってチアちゃんが男の娘だってことだろ?
3:まほろば
俺はチアちゃんが男の娘だってかまわないぜ!
4:アスピレオス
>>3 同意! 可愛ければ正義!
5:XYZ
>>3 激しく同意! 可愛ければ正義!
6:東京四郎
>>1 わざわざこんなレス立ててまでそんなこと言いに来たのか?
7:ファイト1発
・・・残念だがそんなことではないんだ
チアちゃんが26の王だって判明した・・・orz
8:DOGS
はぁっ!?
9:サザーランド
はぁっ!?
10:アスピレオス
ちょっ!? マジか!?
11:リリック
はぁぁぁ!?
12:ヴァルハラ
え? は? え?
13:XYZ
・・・マジか?
14:天使な小悪魔
>>7 詳細を詳しく
15:ファイト1発
チアちゃんの正体は26の王の1人の『サポートの王・Yell』
彼女に攻撃を与えると『サポートの王』としての戦闘が開始される
彼女は常に10体のモンスターを呼び寄せ『サポートの王』の力でモンスター達を強化する
16:アスピレオス
おおおお、この世に神はいないのか・・・!
17:ヴァルハラ
俺達への応援は『サポートの王』の力だったのか・・・
18:リリック
・・・で、どうするよ?
19:XYZ
>>18 どうするとは?
20:リリック
・・・チアちゃんを倒すのか?
21:天使な小悪魔
>>20 え? 26の王何だから倒すんでしょ?
22:リリック
・・・くっ! それは分かってはいるんだが・・・!
俺達の癒しのチアちゃんを倒すなんて・・・!
23:アスピレオス
>>22 激しく同意
チアちゃんを倒すなんてとんでもない!
24:サザーランド
そ、そうだそうだ! 例え全プレイヤーを敵に回そうとも俺達はチアちゃんの味方だ!
25:天使な小悪魔
それじゃあAI-Onの全プレイヤーを敵に回しなさい
26:アスピレオス
((((;゜;Д;゜;))))カタカタカタカタカタカタカタカタカタ
27:リリック
ガクガクブルブル((;゜Д゜))
28:サザーランド
ガタガタ(((゜Д゜)))ガタガタ
29:ファイト1発
それにしても折角チアちゃんが男の娘だって受け入れたのに・・・
上げて落とすなんてAccess社なんて嫌いだ・・・
掲示板は時系列的に第13章前の話になります




